らくご?落語?
超初級編
お友達と一緒に勉強しましょう

 じっくり聞いていると、まるで江戸の街へ迷いこんだかのように錯覚する―。これが落語の醍醐味、その一つかもしれない。
 
 とは言え、落語は話芸のため、派手な演出もなく、大きな音が発せられことは少ない。同じお笑いでも、コントや漫才などと比べると、やはり地味かもしれない。また「芸術」としての落語という側面から見ると、いかにも高尚で、小難しい印象があり、寄席に行っても「今日は笑って楽しむぞ」などと力んで構えるか、あるいは寝てしまう人も多いのではないか。
 
 寄席で寝てしまう理由は、レアなケースを除き、噺家の力量不足につきるとは思うのだが、落語の基本的なことがわかると少しは楽しみ方に広がりが出て、不覚にも寝てしまうという状況を減少させることができるようだ。

 というわけで、かなりの初心者に向けた非常に簡単でやさしい解説をここにお届け!

落語界はどうなっているのか?

 東京の落語家団体は「落語協会」(注1)、「落語芸術協会」(注2)、「円楽党」「立川流」(注3)の4つがあり、約400人の落語家が所属し、関西の「上方落語協会」(注4)には約160人が所属している。

 落語家の派閥は、明治時代から離合集散を激しく繰り返し、現在に至っている。こうした流れから、組織が弱体化したとされる。これが落語の人気低迷を招いた原因の一つではないかとみられている。
 
 円楽党は、三遊亭円楽が師匠の円生と共に落語協会を脱退して、1978年に創設した「落語三遊協会」が前身。その後、円生師匠の死去を機に、「大日本すみれ会」へ名称を変更し、1985年に現在の「落語円楽党」になった。

 三遊亭円楽は、7代目立川談志、3代目古今亭志ん朝、5代目春風亭柳朝(死後、八代目円蔵)と共に『四天王』と呼ばれている。

 三遊亭好作の師匠、三遊亭好楽(前座名・林家九蔵)は、1966年に林家彦六に入門、1983年に師匠の死去により三遊亭円楽門下に移り、三遊亭好楽に改名した。三遊亭好二郎は「円楽党」の二つ目である。

噺家はどうしたら昇進できるの?

 東京の落語家の序列には「前座見習い」、「前座」、「二つ目」、「真打ち」の4段階にわかれている。

 前座見習いは、芸名が与えられていない付き人をさす。前座は芸名を持ち、師匠の身の回りの世話や車の運転などをするかたわら、寄席の太鼓(注5)や開口一番(注6)、高座返し(注7)などを行なう。師匠の世話といっても着物のたたみ方など、流派によって、こと細かく決まっており、噺を覚える以上にハードな仕事が山積。気難しい師匠のお弟子さんともなると、その気遣いが細部まで行き届いている必要があるらしい。

 三遊亭好二郎も、どんなハプニングが起きても対応できるように、いつも大きな荷物を持ち、パンパンに膨れたウェストポーチを身につけていた。強靭な精神力と体力をもちあわせていないと務まらないようだ。

 そうした徒弟制度が敬遠される傾向にあるのか、落語家に入門する若者は少なくなっているという。

 前座を数年務めたのち、二つ目に昇進。ようやく師匠の世話から解放され、一人前の落語家となり、さらに能力が認められると真打ちへと昇進。真打ちになると寄席のトリをとることができる。

 とは言え、昇進の決め手や基準は、各流派によって異なり、不明瞭ではある。一定の年数を経ると真打ちになれるとも言われ、実際、落語家の7割以上は真打ち、前座は十数人程度らしい。年功か、あるいは実力による昇進かは、もっぱら観衆の判断によることになり、こうしたあいまいさが、真打ち昇進の注目度を低下させていると指摘するむきもある。マスコミ報道も少なくなっているようだ。

 円楽党には「年功8年」という基準があったようだが、今もそうした基準が存在するかは不明。

 上方落語には、真打ち制度はないが、内部には序列が存在する。

「〇〇亭」っていつ頃の人?

 落語は、江戸時代の中ごろに芸として確立されたと言われている。京都の露の五郎兵衛、大阪の米澤彦八、江戸の鹿野武左衛門らが盛り場や祭などで自作の噺を披露してお金を稼いだ「辻咄」が、落語の起源とされている。

 その後、大阪出身の岡本万作が1798年頃、日本橋橘町の寄席場で、木戸銭をとって落語を聞かせたことから、のちの「寄席」が誕生。現代につながる落語家が続々と現れていった。岡本万作のライバルとして寄席を始めた山生亭花楽(のちに三笑亭可楽に改名)の門下からは三遊亭、古今亭、春風亭などの系統が、上方では初代桂文治が、京都では笑福亭一派が生まれ、幕末頃には今にいたる名人が登場した。

噺の数はどのくらい?

 噺には、江戸時代から大正時代に作られた古典落語と近年に作られた新作落語があり、詳しい数は不明だが、およそ300から400はあるようだ。真打ちともなると100席は演じられるらしい。

 江戸の街を舞台にした古典落語は代々継承されているため、同じストーリーを聞くことになるわけだが、演出の方法は噺家によって異なり、伝統を保存継承することとは違うようだ。逆に継承されることで、噺に磨きがかかって円熟味が増しているとも言えるだろう。

 新作落語は、現代を舞台とし、新鮮味が魅力だが、なかなか継承されることはなく、一人の噺家だけの芸になりがちらしい。上方には桂三枝の「創作落語の会」もある。

東京落語と上方落語

 東京と上方落語の違いは大雑把に言うと、効果音と小道具にある。上方落語には、見台(小さな机)・小拍子(小さな拍子木)・膝隠し(低い衝立)があり、場面転換に用いられ、「はめもの」という囃子の効果音が噺の途中に入り、盛り上げる。
一方、東京は高座に座布団と湯呑みが置かれるだけである。
 
 落語の発祥はもともと大阪・京都であるため、噺は上方から江戸に流入したことが歴史的な事実と言える。そのため、上方でしか演じられない噺や、逆に江戸の風俗や江戸っ子気質を前面に打ち出した噺など江戸落語もある。とは言え、古くから東西の交流があったため、多くの共通点も一方ではある。

上下とさげで噺がわかる!?

 落語には、文字通り「落ち」がある。「落ち」は「さげ」とも言われ、いくとおりかのパターンがある(注8)。出囃子(注9)にのって登場した噺家は、このさげを言うために、マクラ(注10)からはじまる長いストーリーを語ると言っていい。そのなかで、複数の人物を演じ分ける「上下(かみしも)」(注11)などのテクニックを駆使するわけだ。

 三遊亭好作も「聞くなら登場人物が多い噺、やるなら登場人物が少ない話」と冗談っぽく話しているように、この上下は、噺家の力量が問われる重要な見せ場である。

 上下は舞台の上手・下手など歌舞伎芝居にも通じる手法。目下の人が目上の人に話し掛けることを表現する「上」は左斜め上を見上げ、その反対が右斜め下を見おろす「下」。噺家がこれを明確に演じ分けないと噺の展開がわかりにくくなる。

 さらに登場人物が増えてくると、声色や態度、調子の変化で分けていくことになり、噺家はさらにその技術が試される。話芸としての落語の真髄がここにあるとも言えそうだ。

寄席で眠らないために

 これで超初級編は、おしまい。結論としては、落語に行って、笑って楽しむことができればいいわけですが、ほんの少しでも歴史や用語、さらに噺家の振る舞いの意味がわかると、楽しみの度合いが増すのは事実です。江戸時代の通貨や尺度など、当時の生活様式の知識があれば、もっと噺を楽しめるはずです。

 長い歴史のなかで培われた落語には、さらに奥深い楽しさが、まだこの先にも広がっていることが感じ取れたことでしょう。

 一人の噺家を徹底的にマークして、噺家の成長と自分の理解の深まりを実感することも落語を楽しむ手法の一つ。演者と客がお互いに円熟味を増していく喜びを感じてみてはいかがでしょうか。

 その点で、三遊亭好二郎は、完全マークする噺家として格好の人物です。さっそくお友達同士でお誘い合わせのうえ、落語会に出かけられることをお奨めいたします。贔屓の噺家がいれば、その出番の前には少なからず緊張しますから、きっと眠ることはないでしょう。
注1 社団法人落語協会

注2 社団法人落語芸術協会 愛称「げいきょう」

注3 立川流 1983年、立川談志が落語協会を脱退、
「立川流」を創設し、家元になった。

注4 上方落語協会 1957年4月、関西在住の落語家18人で発足。親睦団体。

注5 寄席の太鼓 前座の仕事の一つ。「入れ込み太鼓」、「着到」、「ハネ太鼓」などがあり、バチの持ち方、バチさばき、リズム……、その全てに意味がある。かなり難しそうだ。

注6 開口一番 一番最初の出番に話すこと。「さら」「さらくち」とも言う。また休憩時間である「仲入り」のすぐ後の出番を「くいつき」という。客が飲食するざわついた様子から、そう呼ばれている。ここに音曲、漫才、マジックなど(=色物)が入る場合もある。トリの前の出番を「膝替り」といい、控えめながら、トリを盛り立てる噺をする。

注7 高座返し 寄席の舞台を「高座」と言い、かつての寺院の説教師による「講座」が語源とされている。聴衆のいる平座より高いことから「高座」と呼ばれるようになった。話芸としての落語は、噺家の演技の全体が見て取れないとわかりにくいため、聴衆の目線より高い位置にあることがのぞましく、舞台式の高座は江戸末期に定着したとされている。高座返しは、前の演者が終わり、次の演者が上がる前に、座布団をひっくり返
し、羽織や湯飲みを片付け、演者のめくり(=演者の名前を書いた札)を返すこと。単純な仕事に見えるが、ここにも周到な気遣いと客への礼儀作法などこまかな決まりがある。よく観察してみると前座のこまやかな気遣いがわかる。

注8 落ち=さげ いくつかの種類

逆さオチ 物事の立場が入れ替わること。

仕草オチ 仕草がオチになること。

地口オチ 地口(=シャレ)がオチになること。

仕込みオチ 前もって伏線を仕込むオチ。

途端オチ 最後の一言で結末のつくオチ。

とんとんオチ とんとんと調子よ進んで落ちること。

梯子オチ 梯子のようにあがってから落ちること。

ぶつけオチ 相手の言う意味を取り違えるオチ。

間抜けオチ 間抜けなことで落とすこと。

回りオチ 回りまわって元に戻るオチ。

見立てオチ 意表をつく物に見立てたオチ。

注9 出囃子 噺家が登場するときに演奏される囃子。
噺家のテーマソングのようなもの。

注10 マクラ 本題の噺に入る前に客を噺の世界へ導入する前ふり。時事や身辺雑記など、世相を話題にすることが多い。噺によっては、マクラが決まっているものもあ
る。マクラを聞けば、噺家のセンスがわかるが、マクラだけが面白いという噺家もいるようだ。

注11 上下 「上下を切る」、「上下をふる」、「上下をつける」などと言う。客席から向かって右が上手、左を下手。話中の人物の位置は、下手を向ければ上位の人、逆は下位の人を表す。上下関係は、階級、年齢、性別、貧富で決まる。とは言え、うまい噺家であれば、気にしなくて情景をイメージすることは容易にできる。

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