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スペイン語発音ピンポイントレッスン

第1回 l と r と rr

 スペイン語には、日本語の「ラ、リ、ル、レ、ロ」に似た子音に3種類あり、これらを区別して発音する必要があります。それぞれの発音のしかたとその違いを説明します。


1.1 側音(そくおん)(※1)の l   1.1 の音声
 (※1) 現在の音声学では正式には「側面接近音」と呼ぶことになっていますが、ここでは簡単のため「側音」という古い呼び名を使います。
 
 l を発音するときは、図 1-1のように舌先を歯茎(※2)につけます。
 (※2)音声学で「歯茎(「はぐき」または「しけい」)」というときには、「上の前歯の内側の歯茎」を意味します。ちょうど図1-1で舌先が接触している部分のことです。
 
 さて、このとき舌先は歯茎についているのですが、舌の両脇は上の奥歯から離れているため(図1-2)舌の両脇には空間があり(の矢印)、そこを通って息を出し入れすることができます(※3)。図中、赤の斜線で示されている部分は舌の裏面です。この状態で息を吐きながら声を出すと l の音ができます。ですからこの音は、息が続く限りいくらでも長く伸ばせる音です。

図 1-1 l の発音図 図 1-2 l の発音を正面から見た図


 (※3) じつは 図 1-2にはフィクションが2つ含まれています。実際に鏡の前でやってみると気づくことですが、本物の舌は図にあるような細いものではなく、もっと左右の幅があります。ですから鏡の前で図をまねてみると、口の中にはほとんど舌の裏面しか見えず、息が出てくるすき間は見えません。しかし現実にそこから息が出ている以上、舌の両側にすき間があいているはずです。もう一つのフィクションは口のあけ方です。本当にこの図をまねしようとすると、口をかなり縦に大きくあけなければなりません。しかし、l を発音するときにこれほど口をあける必要はありません。口の開き方の程度は前後の音によって大きく異なってきます。 la の発音の際には、かなりこの図に近い形になりますが、le, li のときには口の開きはずっと小さくなります。また、 lo, lu のときには l の発音のときからすでに唇が丸まっています。

 実際に練習してみましょう。まず、単独の l だけを長く発音してみます。「ルーーー(luuuuuu)」とならないように、舌先を歯茎から離さずに声を出し続けてください。

(1) l(長く)

 次に、この l を発音した後に母音に移行する練習です。もちろん、母音の発音の際には舌先は歯茎から離れます。

(2) la le li lo lu

 今度は l で始まる単語をいくつか練習します。最初はわざと l を長く発音し、次第に普通の発音に近づけていきます。

(3) lago lejos Lima lobo lucha

 次は途中に l が出てくる単語です。同じように最初はわざと l を長く発音してみます。

(4) ala pelea hola lila saludo

 次に、l で終わる単語です。これらの単語は特に salu, elu のように最後に余計な母音がついてしまいがちになりますので、そうならないように、ちゃんと l の構え(舌先が歯茎についた形)でフィニッシュしてください。

(5) sal él mil col azul

 最後に、 l の次に t, d が続くパターンを練習しましょう。スペイン語の t, d を発音するときは舌先は歯茎ではなく前歯の裏につきます(ちなみに英語の t, d では舌先は歯茎につきます。ですから、t, d の直前の l を発音するときは例外的に舌先を普段の l よりも少し前、前歯の裏につけて l を発音し、そのまま舌先を前歯から離さずに t, d に移行します。l から t, d に移るときにいったん舌先を前歯から離してしまうと、áluto, fáluda のように余計な母音がはいって聞こえます。これは避けなければなりません。

(6) alto falta falda aldea

番外編:英語の hotel とスペイン語の hotel


1.2 はじき音の r     1.2 の音声

 
歯茎のやや後ろの部分を舌先でポンと1回はじく音なので「はじき音」と呼ばれています。舌先が、図 1-3 の赤い点線の近くの位置(ただしこの時点では舌先はどこにもついていない)から点線の位置を一瞬経由して、実線の位置に動きます。この音は本質的に瞬間的であり、側音の l とは対照的に、絶対に長く伸ばすことができない音です。


        図 1-3 r の発音図

 ときどき「スペイン語の r は日本語の『ラ行』の子音と同じだ」などと言われることがありますが、そうとは限りません。日本語の「ラ行」の子音自体にいろいろな種類があり、個人差も大きいのです。ただ、あまり力まずに「かだ、てんぷ、サッポ」などと言ってみると、下線部にスペイン語の r と同じ音が現れる人が多いようです。また、軽く「あらっ? あれっ?」などと言ったときにも、はじき音が出やすいと言われています。

 実際の単語で練習してみましょう。この音は決して単語の最初に来ることはありませんから(単語の最初に r の文字がある場合、それは次項で見る「ふるえ音」で発音されます)、途中にこの音を含む単語で練習します。なお、単語の最後に r がある場合については、次項で扱います。

(6) cara mire harina toro orujo


1.3 ふるえ音の rr     1.3 の音声



       図 1-4 rr の発音図

 この音は俗に「巻き舌」と呼ばれることが多いですが、実際には舌を巻いているわけではなく、舌先を急速に震わせることによって発音する音です。音声学では「ふるえ音」と呼んでいます。

 この音を発音する上で絶対に必要なことは、舌先に力がはいっていないことです。言うまでもないことですが、この音は舌を一回一回動かして「ルルルルルルルル・・・」と言って出すのではありません。舌それ自体からは力が抜けた状態で舌先を歯茎のやや後ろの部分に当て、そこを通ろうとする呼気(※4)と舌の弾力とによって舌先が自然に振動するのです。
 (※4)「こき」と読みます。吐く息のことです。反対に、吸う息のことは「吸気(きゅうき)」と言います。ほとんどの言語音は肺からの呼気によって作られます。

 日本人(※5)でもともとこの音が発音できる人は少数です。(できる人は恵まれています!)ですから、スペイン語を身につけたい人は練習によってこの発音ができるようにならなければなりません。
 (※5)以下、簡単のため「日本語のネイティブスピーカー」のことを「日本人」と書きます。

 ふるえ音の練習法として、私は今までに次の4つの方法を聞いたことがあります。適した練習法は人によって異なるようです。
 (1) 舌先を歯茎に当てて勢いよく d, d, ... と発音し、次第に drrr, drrr, ... と言えるように練習する
 (2) 唇を閉じてから勢いよく開いて p, p, ... と発音し、次第に prrr, prrr, ... と言えるように練習する
 (3) スペイン語風に ar と発音し、次第に arrr, arrr, ... と言えるように練習する
 (4) 早口で「サッポロラーメン」、「とろろいも」と発音し、「ロラ」「ろろ」の部分をふるえ音で発音できるように練習する

 いずれにせよ、これには時間がかかることを覚悟し、短時間でよいので毎日練習してください。ほとんどの人は3か月以内にできるようになります。

 では、この音も練習しましょう。まず、語頭のふるえ音から、語頭ではこの音は rr ではなく、r とつづられます。

(1) ramo rey rico rosa ruso

 どうでしょうか。この音は a, o と隣り合っているときは比較的簡単ですが、e, i, u と隣り合っているときは難しいとされています。理由は、a, o に比べて e, i, u は口の中の開きが小さいので、狭い空間の中で舌先を震わせなければならないからです。

 次は、この音が母音間にある場合です。

(2) barra ocurre arriba arroz arruga

 つづり字の規則により、l, n, s の直後の r は(はじき音ではなく)ふるえ音で読むことになっています。

(3) alrededor honra Israel

 難しいですね。alrededor では l と(ふるえ音の)r の間に母音を入れないように気をつけてください。honra はネイティブにとっても難しいらしく、途中に d の音がはいって hondrra のようになることがよくあります。

 しかし何と言ってもいちばん難しいのは Israel のように s の直後に(ふるえ音の)r が続く場合で、非常にしばしばこの s が脱落し、その代わりに(ふるえ音の) r がやや長めに発音されます。単語の内部に sr の連続がある例は Israel など非常に少数ですが、estas rosas とか las relaciones のように「s で終わる単語」+「r で始まる単語」というパターンは頻繁に出現し、これらのケースでも s が聞こえない発音がかなり一般的です。私たちがこれをまねて s を消す必要はありませんが、こういう場合に s が消えることがあると知っていると、リスニングの助けになります。

 最後に、r が音節末にある場合についてです。音節についてくわしくは第4回で扱いますが、ここでは「音節末」とは「語末」または「他の子音の直前」という意味に理解すれば十分です。さて、この音節末という位置では、はじき音とふるえ音の区別がなくなります。言い換えると、この位置にある r ははじき音で発音してもふるえ音で発音してもかまわないということです。はじき音で発音されるほうが普通ですが、はずみでふるえ音になってしまうこともあります。

(5) amar comer vivir señor sur carne árbol



1.4 発音練習     1.4 の音声

 次の各組の単語を区別して発音する練習をしましょう。

(1) ahora ahorra
(2) colección corrección
(3) calidad caridad
(4) celo cero cerro
(5) pelo pero perro
(6) caro carro
(7) abril abrir
(8) alma arma
(9) alto harto

 次の3つの単語の中にはそれぞれ異なる「ラ行」音が含まれているため、発音が難しいです。最初はゆっくり、それぞれの音を正しく発音していることを確かめながら練習し、次第に普通の速さで言えるように練習しましょう。

(10) raro relación lírico



1.5 聴き取り練習     1.5 の音声

 今度は聴き分ける練習です。(1)から(5)まで、それぞれ5回ずつの発音をします。その5回の中で、それぞれのペアの単語をどのような順番で発音しているか当ててください。例題として、(1)だけは正解が書いてあります。(2)〜(5)の正解はドラッグして文字を反転させると現れます。

(1) pelo / pero   正解:pero pelo pero pelo pero
(2) celo / cero   正解:celo celo cero cero celo
(3) hola / hora   正解:hola hora hola hola hora
(4) abril / abrir   正解:abrir abril abril abrir abril
(5) alto / harto   正解:harto alto harto alto alt


(第1回おわり)

第2回 ch と ñ と y (ll)