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スペイン語発音ピンポイントレッスン

第2回 ch と ñ と y (ll)



 今回は、ch, ñ, y の3つの子音について説明します。また、ll というつづりの読み方は現在ではスペイン語圏のほとんどの地域で y と同じ発音になっていますが、保守的な ll の発音(つまり、y とは異なる発音)についても最後に触れます。
 この4つの子音には共通点があります。それは、4つとも「硬口蓋音(こうこうがいおん)」と呼ばれる子音だということです。まずは、その説明から始めましょう。

2.1 ch   2.1 の音声
 「硬口蓋音」とは、硬口蓋前舌面(まえじためん)を使って発音する子音のことです。
 まず、硬口蓋と前舌面の位置を確認しましょう。

 くわしくは、たとえば東京外国語大学の「国際音声字母 (International Phonetic Alphabet)」のページ
       http://www.coelang.tufs.ac.jp/ipa/index.htm
に行き、そこの「音声器官」というタブをクリックすると、主な音声器官の名前と位置がわかります。

 
 図 2-1 をご覧ください。緑の矢印のところで舌面が口の天井にベッタリとくっついていますね。これが ch の音を発音している様子なのですが、ベッタリくっついている舌面のほうを「前舌面」、ベッタリくっついている天井のほうを「硬口蓋」と呼びます。
 つばを「ごっくん」と飲み込んでみてください。そうすると普通、図 2-1 のように前舌面と硬口蓋が密着します。

         図 2-1 ch の発音図

 「前舌面」という名前から誤解しやすいのですが、前舌面は決して舌のいちばん前の方ではありません
いちばん前は「舌先(したさき)」と言います。
 で、この ch (およびその他の硬口蓋音)を発音する際、舌先は何をやっているかと言うと、じつは何もしていません。舌先は働いていないのです。
 働いていないのだからどこにいてもよいのですが、通常は(図 2-1 の中で青い点で示してあるように)下の前歯の裏あたりに位置していることが多いようです。
 ch の発音をするときに、つい舌先を上にあげてしまうクセがある人は、慣れるまでは意識的に舌先を下の前歯の裏にくっつけたまま ch の発音をするようにするとよいでしょう。

(1) chato cheque chica chocolate churro

(2) hacha noche hechizo muchacho anchura

2.2 ñ   2.2 の音声

 この音も ch と同じ硬口蓋音ですから、 ch と同じ構えで「ニャ行」を発音すれば、正しく発音できます。

         図 2-2 ñ の発音図

 図 2-2 がさきほどの図 2-1 と異なる点はただ一つ、緑の矢印で示したように空気が鼻腔に抜ける道があいているという点だけです。ただし、そのことを意識する必要はありません。と言うより、鼻に抜ける通り道を意識的に開けたり閉めたりなど、普通できるものではありません。「ニャ行」を発音しようと思っただけで鼻腔への通り道は自然に開きますので、ご安心ください。
 ここでも、舌先が上がるクセのある人は、舌先を下の前歯の裏につけて(図ではちょっと離れていますが)舌先が上がってしまうのを避けてください。

(1) mañana meñique señora

 ちょっと細かい話になりますが、ni と ñi の違いについて。n は ñ と違って、舌先を使う音です。n の発音の際には舌先が上がって歯茎(※1)につきます。
 (※1)音声学で「歯茎」というときには、「上の前歯の内側の歯茎」を意味するのでしたね。覚えていますか。
 na, ne, no, nu と言うとき、毎回 n の瞬間に舌先は上がって歯茎につきます。ですから、ni のときも同じように舌先を歯茎につけて n を発音するのです。
 それに対して、ñ のときには舌先は上がらず、前舌面と硬口蓋がくっついた発音になります。違いを聞き分けるのはたいへん難しいですが、よく聴くとやはり違う音がします。(とは言え、これが聞き分けられなくても事実上リスニングで困ることはありません。)

(2) tenido teñido niñito


2.3 y (ll)   2.3 の音声

 y の音もやはり硬口蓋音、つまり硬口蓋と前舌面を使って発音する子音です。ただし、ch や ñ と違って、硬口蓋と前舌面は密着しません。図 2-3 のように、密着せずに接近するのです。
 この接近して狭くなった道(図では緑の点々)を空気が通ろうとするときに、y の音が出ます。

 接近の度合いが大きく、道が非常に狭くなると、日本人の耳には「ジャ行」のように聞こえる音が出ます。一方、接近の度合いがわりあい小さく、道がある程度広いと、日本人の耳には「ヤ行」のように聞こえる音になります。大事なことは、「どちらも正しい y の音だ」ということです。(※2)
 (※2)「ヤとジャを区別しないなんて信じられない」と思われるかもしれません。でも、同じようにスペイン語ネイティブが日本語を勉強するときには「 l と r を区別しないなんて信じられない」と思うかもしれませんね。このように「何と何を区別するか、何と何を同一視するかが言語によって異なる」という点が、外国語習得の難しさのひとつなのです。


         図 2-3 y (ll) の発音図

 最初にも書いたように、現在スペイン語圏のほとんどの地域では y と ll を同じように発音しますので、実用上は ll というつづり字も y と全く同じように発音すればよろしいです。
 また、頻度はずっと下がりますが、語頭の hia, hie はそれぞれ ya, ye と同じように発音します。(※3)
 (※3)hii, hiu というつづりは存在しません。また hio もきわめてまれです。

(1) ya  llave  hiato
(2) yema  lleno  hielo
(3) yo  llorar
(4) yuca  lluvia

(5) vaya  calla
(6) ayer  calle
(7) cayó  pollo
(8) ayuda  vellutero

lli というつづりもまれに存在します。

(9) allí  gallina

 ただし、語末の y は i と全く同じ発音、つまり母音の「イ」です。普通に「イ」と発音してください。(※4)
 (※4)より正確に言うと、スペイン語のつづり字の規則で「語末の ai, ei, oi, ui の中の i の音は文字 y を使って書く」という決まりになっているのです。)

(10) hay  rey  hoy  muy


2.4 n + y + 母音  2.4 の音声

 ここからは上級編です。2.1 〜 2.3 で説明した基本的な ch, ñ, y (ll) の発音ができるようになり、さらに細かい所まで正確を期したい方向けです。
 「n + y + 母音」という連続( n の直後に単語の境界があってもよい。また、y の代わりに ll でもよいし、「語頭の hi 」でもよい。)があると、次のような発音になります。

 (1) まず、n はまるで ñ のような硬口蓋音の発音になります。
 (2) 続いて、前舌面と硬口蓋を密着させたまま、息が鼻腔に抜ける道が閉じます。一瞬、息はせき止められて口の外に出られなくなります。
 (3) その後、前舌面と硬口蓋の密着が解かれ、母音が発音されます。

 このうち (2) の瞬間が、この場合の y の発音になります。ですから、このパターンのときには(2.3 での説明と異なって)例外的に前舌面と硬口蓋が密着して y を発音することになります。

inyección  cien yenes  con hielo  en lluvia


2.5 保守的な ll の発音  2.5 の音声

 スペインのうち、Madrid 以北の一部には、ll を y と区別して発音する保守的な地域があります。特に Salamanca, Valladolid などが有名です。それらの地域では ll を次のようなしかたで発音します。

 前回の l の発音の説明を思い出してください。l の発音の際には、舌先の中央は歯茎に密着し、舌の左右にはすき間があいていて、そのすき間から息が外に出ていたのでしたね。
 保守的な ll は、それと同じことを「舌先と歯茎」ではなく「前舌面と硬口蓋」でおこなうのです。保守的な ll を発音する際、前舌面の中央(※5)は硬口蓋に密着し、しかし前舌面のうち左右の側は下がっていて硬口蓋(および上の奥歯)との間にすき間があり、そのすき間から息が外に出ます。
 (※5)ここで「中央」とは「左右でなく中央」という意味です。「前後でなく中央」という意味ではありません。
 というわけで、保守的な ll は硬口蓋音であり、かつ側音でもある、という子音です。
 横から見た図は ch の図 2-1 と同じになります。この図では前舌面の左右の側がどうなっているかは表現できませんので。

 l と同じように、この ll も息が続く限り長く延ばすことができる音です。
 もちろん、ll の後の母音を発音するときには前舌面(の中央)と硬口蓋は離れます。これも l のときと同じです。

(1) llave  lleno   llorar   lluvia
(2) calla   calle   allí   pollo


2.6 l + y + 母音   2.6 の音声

 一単語の中に「l + y + 母音」という連続が現れることはありません。ここで扱うのは、l で終わる単語の直後に y (または ll または hi )で始まる単語が続く場合の話です。
 このような場合でも l を普通に(舌先を歯茎につけて)発音してかまいません。しかし、それとは異なり、このような位置での l を 2.5 で説明した「保守的な ll 」のように発音することがしばしばあります。これは地域によりません。

 この場合の発音には、2.4 n + y + 母音 と共通点がありますので、2.4 と似せた形でプロセスを説明してみましょう。

 (1) まず、l はまるで「保守的な ll 」のような硬口蓋音の発音になります。
 (2) 続いて、前舌面と硬口蓋が中央部で密着したまま、前舌面の左右の部分も上にあがって前舌面の全体が硬口蓋と密着した形になります。一瞬、息はせき止められて口の外に出られなくなります。
 (3) その後、前舌面と硬口蓋の密着が解かれ、母音が発音されます。

 このうち (2) の瞬間が、この場合の y の発音になります。ですから、このパターンのときには(2.3 での説明と異なって)例外的に前舌面と硬口蓋が密着して y を発音することになります。

el yate  él llegó  el hielo



(第2回おわり)

第3回  b (v) と d と g