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スペイン語発音ピンポイントレッスン

第6回 単語と単語のつながり(2),音節末子音


6.0 開音節化傾向   (音声による説明はありません)
 今回は 6.1 から 6.3 まで3つのことについて扱いますが、それらすべてに共通するキーワードは「開音節化傾向」です。

 第4回で学んだように音節には必ずひとつだけ母音が含まれるのですが、その母音で終わっている(その後に子音がつかない)音節のことを開音節(かいおんせつ)と言います。一方、最後が子音で終わっている音節閉音節(へいおんせつ)と言います。
 たとえば carta という単語を音節に分ける(ついでにアクセントのある音節を太字にする)と car.ta となりますが、1つ目の音節 car は子音 r で終わっているので閉音節、2つ目の音節 ta は母音 a で終わっているので開音節です。

 開音節はさらに「子音1つ+母音1つ」から成る「CV型」と「母音1つ」のみから成る「V型」の2種類に分けられます。前回もちょっと出しましたが、Cは consonante(子音),Vは vocal(母音)の略です。また、ここでも以前と同じく二重母音と三重母音はいずれもそれぞれ1つの母音二重子音は1つの子音と見なすことにします。
 閉音節はもっと種類が豊富です。「子音1つ+母音1つ+子音1つ」から成る「CVC型」がいちばん多いですが、その他に「VC型」,「VCC型」,「CVCC型」があります。(これらの型の種類を覚える必要はありません。)

 いくつかの単語の例を見て、どんな種類の音節があるか確かめてみましょう。 ama ( a.ma ) の a は母音1つだけで1つの音節になっているから「V型」で、 ma は「CV型」。claro (cla.ro) は cla も ro も「CV型」。tiene (tie.ne) は tie も ne も「CV型」。carta (car.ta) の car は「CVC型」で ta は「CV型」。
 こうしてみると、「CV型」の音節がずいぶん多いですね。実は、スペイン語の音節は閉音節よりも開音節が好まれ、その中でも特に「CV型」の音節が最も安定しているのです。

ポイントその1:スペイン語の音節は開音節、特に「CV型」が好まれる。

 しかし、中には閉音節を多く含む単語もあります。たとえば transcripción ( trans.crip.cion ) の trans は「CVCC型」、crip と ción はいずれも「CVC型」。閉音節ばかりが3つ続いてできている単語です。でも、このような単語はスペイン語の中ではどちらかと言うと例外的です。そして、閉音節の中の母音の後の子音、 transcripción を例に取ると trans.crip.cion緑色の子音(音節末子音と呼ぶ)は、いろいろな意味で不安定な存在です。
 「不安定」ということの意味はこれから少しずつ説明します。

ポイントその2:閉音節の音節末子音は不安定である。

 以上のポイントその1とその2をまとめて、次のように表現することができます。

最重要ポイント:スペイン語の音節は「CV型」に近づこうとする傾向がある。

 さらにこれを、次のように言い換えることもできます。

最重要ポイントの言い換え:スペイン語の音節には音節頭を強め、音節末を弱める傾向がある。

 この傾向のことを「開音節化傾向」と呼ぶわけです。(※1)
 (※1)厳密に言うと開音節には「V型」もあるので、本来なら「CV型音節化傾向」と言うべきかもしれませんが…。


6.1 単語と単語のつながり(2)子音おわりの単語+母音はじまりの単語   6.1 の音声

 子音で終わっている単語の後に母音で始まっている単語が続くと、「その子音と母音が結合して新しい音節を作る」という現象が起きます。

 例として、el oso という句を考えてみましょう。定冠詞 el は、これだけを見ると閉音節ですね。名詞 oso ( o.so ) は開音節2つからできています。しかし、この2つの単語を続けて発音すると次のように el の最後の l と oso の最初 o が新しい音節を作ります。その結果、音節の切れ目と単語の切れ目が違ってくることになります。

  el oso → eloso → e.lo.so (el.o.so ではない)

 いつのまにか閉音節が消えて、開音節3つだけになっている点に注目してください。それからアクセントは音節全体にかかりますから、アクセントのある音節は lo です。単語の切れ目はまったく関係ありません。

 同じように、次の語句の発音を練習しましょう。コツは「単語の切れ目を無視し、全体が1個の単語であると考えて音節に区切りなおしてみる」ことです。

el hombre → e.lom.bre    los hombres → lo.som.bres
Vamos a casa. → va.mo.sa.ca.sa
con él → co.nel    con ella → co.ne.lla
el equipo → e.le.qui.po    en el equipo → e.ne.le.qui.po
el aire → e.lai.re    por el aire → po.re.lai.re
feliz año → fe.li.za.ño    actriz española → ac.tri.zes.pa.ño.la
mis hijos → mi.si.jos    sus abuelos → su.sa.bue.los
los Estados Unidos → lo.ses.ta.do.su.ni.dos


6.2 音節末子音

 スペイン語の子音は次の18種類です。(※2)
      b (=v, w), c (=k, qu), ch, d, f, g, j, l, ll (=y), m, n, ñ, p, r, rr, s, t, z
 (※2)ただし、s と z を区別しない方言ではこれより1種類少なくなり、逆に y と ll を区別する方言では1種類多くなります。

 ただし、これらのうち音節末の位置に立つことのできる子音は原則として d, l, n, r, s, z の6種類のみです。(※3)なお、語末の y は i と同じ発音ですので母音です。
 (※3)私の手元に José Antonio Moya et al., Diccionario del revés (2a. edición), Editorial Club Universitario, Alicante (2004) という逆引き辞典があります。この辞典には 24万6,049もの語形(動詞の変化形,名詞・形容詞の複数形なども含む)が載っていて、d, l, n, r, s, z で終わる語形は文字通り数え切れないほどたくさんありますが、それ以外の子音で終わる語形は簡単に数えられる程度しかありません。ためしに数えてみたら、次のようになりました。 b 1 (club のみ), c 12, f 4, g 4, h 5(うち ch 2), j 1 (reloj のみ), k 5, l のうち ll 0, m 19, n 0, ñ 0, p 2, q 0, t 25, v 0, w 0, x 17.
 このことを言い換えると、音節頭の位置では18種類の子音が区別されるのに対し、音節末の位置では6種類しか区別されないということになります。こんなふうに「音節末の子音の区別が音節頭ほど厳密でない」というのも、開音節化傾向の一環です。

 すでに述べたように音節末の子音は不安定です。以下、この不安定さを「弱化,消失」「区別のあいまい化」に分けて例示します。その際、不安定な音節末子音を緑色で示します。

6.2.1 弱化,消失   6.2.1 の音声
(1) 語末の p, t, c, b, d, g
 これら6つの子音のうち d だけは語末に来るのが珍しくない子音ですが、多くの方がご存知のように(そしてこのレッスンでも第3回で扱ったように)語末の d は非常に弱く発音されるのが普通で、完全に消えてしまうこともよくあります。同様に p, t, c, b, g も語末では非常に弱くなるか消えてしまうかのいずれかになります。
clip → clip    carnet → car.net    chalet → cha.let     coñac → co.ñac
club → club    Madrid → ma.drid
airbag → air.bag / er.bag (英語からの借用語であるため、アクセントの位置やつづりの読み方が例外的)

(2) 音節末の s
 スペインの中部・北部でははっきりと s として発音されますが、スペイン南部およびイスパノアメリカほぼ全域で弱化または消失します。弱化する場合は、英語の h のような発音に変わることが多いです。s のところで s の代わりにため息をつく感じで発音すると、うまくまねできます。(と言っても、私たち非ネイティブスピーカーがわざわざこの発音をまねすることはお勧めしません。)
más → mas    usted → us.ted    España → Es.pa.ña

(3) 音節末のつづり字 x
 つづり字 x は本来 cs と同じ発音を表わすはずなのですが、この直後に別の子音字が来る(すなわち x が音節末になる)と、cs の c が完全に消えて s とのみ発音されることのほうがむしろ普通です。
texto → tecs.to / tes.to    explicación → ecs.pli.ca.cion / es.pli.ca.cion

6.2.2 区別のあいまい化   6.2.2 の音声

 音節頭でははっきり区別される複数の子音が、音節末ではその区別を失って同一視されるということが起きます。これもまた「開音節化傾向」のひとつの現れです。

(1) 音節末の r
 すでに第1回で述べたように、音節末の位置でははじき音の r とふるえ音の rr の区別がなくなります。したがって、次に挙げた単語の緑色の r ははじき音、ふるえ音のいずれで発音しても構いません。
señor → se.ñor    comer → co.mer
árbol → ar.bol    tortilla → tor.ti.lla

(2) 語末の m
 原則として語末に m の文字は来ないのですが、語末に m が書いてある場合にはそれは n で発音します。具体的には舌先を上の前歯の内側の歯茎につけて「ん」を発音します。
álbum → al.bun   islam → is.lan

(3) 音節末の n
 n の後に他の子音が続く場合、n の発音のしかたは次の子音によって大きく影響されます。ただしこれは私たちが日本語の「ん」を言うときに無意識にしていることとほとんど同じですので、あまり気にする必要はありません。
enviar → en.viar   v の影響で n で両唇が閉じる(m と同じ発音になる)(※4):「しんばし」の「ん」と同じ
 (※4)enviar と似た発音の単語に cambiar があります。つづり字の規則で b の前では m と書き、v の前では n と書くことになっていますが、実際には mb と nv の発音は全く同じです。
entero → en.te.ro   t の影響で n のときに舌先が上の前歯につく:「せんとう」の「ん」と同じ
inyección → in.yec.cion   y の影響で n のときに前舌面と硬口蓋がつく(ñ と同じ発音になる):「じんじゃ」の「ん」とほぼ同じ
nunca → nun.ca   c の影響で n のときに後舌面と軟口蓋がつく:「さんか」の「ん」と同じ
ángel → an.gel   g(=j )の影響で n のときに後舌面と軟口蓋がつく:これは日本語に似た例がない

(4) その他いろいろ
acción → ac.cion   音節末の c が消えることがある
técnica → tec.nica   音節末の c が後舌面と軟口蓋がついた n の音になることがある
los dos → los.dos   d の直前の s は r のようになることがある
desde → des.de   音節末の s が「濁る」ことが多い
mismo → mis.mo   音節末の s が (ア)「濁る」、または (イ)消えて代わりに次の m が長めに発音される ことがある
las relaciones → las.rre.la.cio.nes   ふるえ音の rr の直前の s は消えやすい(第1回の 1.3 でも述べました)


6.3 音節頭の強化   6.3 の音声
 同じ開音節でも、「V型」よりも「CV型」のほうがより安定しており、「V型」の音節が「CV型」になろうとすることがあります。その例を見てみましょう。
 ia, ie, io, iu で始まる単語、ua, ue, ui, uo で始まる単語(つづり字の規則により、これらの場合にはその前に h を書き加えることになっています)の場合、i は y と同じ発音になり、u は多くの場合その前に g の音が加わります。つまり、音節頭を強めて「V型」を「CV型」に変えているわけです。

hielo → ye.lo    el hielo → e.lie.lo / el.ye.lo    con hielo → con.ye.lo
huevo → güe.vo    el huevo → e.lue.vo / el.güe.vo    un huevo → un.güe.vo (※5)

 (※5) un huevo が u.nue.vo のように発音されることはあまりないようです。ちなみに、私がマドリードに留学していたころ(1984〜85年)の話をひとつ。Burger King ( bur.guer.kin )というハンバーガーショップで Whopper という商品名の大型のハンバーガーを買いたかったのですが、この Whopper の読み方がわからず、私は列に並びながら「いざとなったら英語風に発音すれば通じるだろう」と思っていました。ところが運よく、私のすぐ前に並んでいた人も Whopper を注文したのです。その人の発音は un.guo.per というものでした。もちろん私も自分の番が来たときにその人のまねをして un.guo.per と言い、首尾よく希望のハンバーガーを手に入れました。
    



(第6回おわり)

第7回  単語と単語のつながり(3)