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スペイン語発音ピンポイントレッスン

第8回 日本語的なクセを取り除こう



 日本語には日本語の発音の特徴がありますが、ほとんどの日本人はそれに気づいていません。日本語的な特徴のうちのいくつかはスペイン語と共通しているため、スペイン語を発音する際の助けになります。たとえば「開音節が多い」とか「母音が5つで、アクセントのない音節の母音も弱化(あいまい音化)しない」などの特徴は日本語とスペイン語に共通しており、私たちが有利な点です。
 一方、日本語にあってスペイン語にない特徴というものもあり、これは意識的に矯正しないとスペイン語の正しい発音の妨げになります。ここでは、スペイン語の発音に悪影響を与える日本語の特徴として (1)母音の無声化、(2) u の挿入、脱落、(3)声門閉鎖の挿入 という三つのポイントを取り上げ、これらを取り除く練習をします。
8.1 母音の無声化   8.1 の音声

 日本語で「くつした(靴下)」と言ってみましょう。「つ」と「た」では声が出ているのに対し、「く」と「し」では声が出ていないことにお気づきでしょうか? 「くつした」をヘボン式ローマ字で書くと kutsushita となり、このうち母音は順に u, u, i, a の4つです。この4つの母音すべてをちゃんと声を出して発音すると、かえって変なふうに聞こえます。
 同様に、次の単語も下線部を無声で発音するのが普通です。

    あたけん さもち かし こし かく はか かり ットボール

 実は日本語には次のような「母音の無声化」の規則があるのです。

     無声子音に挟まれた i と u は無声化する。 

 上記の単語をローマ字で書いてみましょう。すべての iu赤色で、すべての無声子音緑色で書きます。
    akitaken  kusamochi  shikashi  sukoshi  chikaku  hatsuka  hikari  futtobôru
 赤色が前後を緑色で挟まれると、その赤色の母音が無声化するということ、おわかりいただけたでしょうか?
 さて、ときどき無声化できる環境が2つ以上連続することがあります。たとえば次のような場合です。

    ふつか(二日) futsuka   きくちさん(菊池さん) kikuchisan

 これらを ふつか、きくちさん のように下線部の母音をすべて無声化して発音することもあるのですが、それでは聴き取りにくくなるので、通常は次のように無声化の連続を避けます。

     つか ふか  さん きちさん

 「くつした」もローマ字で書くと kutsushita ですから「つ」の母音も無声化するはずですが、アクセントの関係で「つ」は通常無声化しません。ここで日本語のアクセントの話に立ち入ると煩雑になるので、これ以上の説明は省きます。なお、西日本の方言では東日本に比べて無声化が起きにくい傾向がありますが、まったく無声化しない方言は存在しません。

 私たちは「母音が無声化している」という意識なしに無声化させて日本語を話しているので、スペイン語でも同じような環境が現われたときに当然のように母音を無声化させてしまいがちですが、原則として

    スペイン語の母音は無声化しない

と考えてください。

 次の語句の下線部の母音が無声化しないように気をつけて発音しましょう。
(1) quitar, equipaje, cuchillo, escuchar
(2) situación, anticipar, presupuesto, azucarillo
(3) chipirones, achicar, chupito
(4) gitano, agitado
(5) fichero, futuro, refutación


8.2 u の挿入,脱落   8.2 の音声

 これは上で見た母音の無声化と関わりのあることなのですが、日本語では「す」を、母音をきちんと有声で su と発音しても、母音を無声化させて(または母音を落として) s と発音しても意味が変わらないため、私たちは su と s の違いに鈍感です。

    います imas, imasu       あります arimas, arimasu

 このせいで、たとえば cantas, cantamos をそれぞれ cantasu, cantamosu のように発音して気がつかないことが多いです。しかし、スペイン語としては cantasu, cantamosu のような発音は最後に余計な u がついているために耳障りな発音になります。
 さらに、音節末子音の後(または二重子音を構成する二つの子音の間)に u を挿入してしまってそれに気づかないということもよくあります。

    hablas → habulasu     hablamos → habulamosu
    cantar → cantaru      puerta del sol → pueruta delu solu

以下の語句は u が脱落したり、不要な u を挿入したりしがちなものです。×のついた形にならないように気をつけて練習しましょう。

(1) turista (×trista) / triste (×turiste)
(2) equis (×equisu, iが無声化)
(3) justicia (×jsuticia), juzgar (×jzugar, jzugaru)
(4) fútbol (×ftobol, ftoboru)
(5) azúcar (×azcar, azcaru)
(6) cruzar (×curzar, curuzaru) / cursar (×crusar, curusaru)
(7) los pongo (×lo supongo) / lo supongo (×los pongo)
(8) sucursal (×scursal, scurusaru)
(9) ejecutivo (×ejectivo) / colectivo (×colecutivo)
(10) por supuesto (×poruspuesto)

8.3 声門閉鎖の挿入   8.3 の音声

 左右の声帯の間の空間のことを「声門」と言います。「声門閉鎖」とは左右の声帯がピッタリとくっついた状態のことです。声門が閉鎖したままでは声も出せませんし、息もできません。したがって、声門閉鎖が起きるのは通常、一瞬のことです。
 ここでは便宜上、声門閉鎖をアポストロフィ(')で示すことにします。日本語の「その男を追った」という文を、(1) 声門閉鎖なしで、(2) 声門閉鎖を2回入れて それぞれ読んでみます。

     (1) そのおとこをおった。 
     (2) その'おとこを'おった。

 さて、日本人がスペイン語を発音する時にこの声門閉鎖を入れて発音してしまうことがあります。(※1)しかし、スペイン語では休止の直後以外に声門閉鎖を入れないというのが原則です。「休止の直後」というのは第3回でも出てきましたが、「言い始め」というのと同じことです。
 声門閉鎖を入れてしまう日本人は、二重母音の途中、母音で始まる単語の語頭に入れる傾向があります。次のアポストロフィの箇所に誤って声門閉鎖を入れないように注意しましょう。
 (※1)これは個人差が大きいので、日本人でも声門閉鎖を入れない人もおリ、そのような人はこれを気にする必要はありません。

     (3) adi'ós, estaci'ón, situ'ado, majestu'oso
     (4) en 'ella, los 'hombres, con 'ánimo, el 'único

 上記の(4)のような場合は第6回で学んだとおり音節が e.ne.lla, lo.som.bres, co.na.ni.mo, e.lu.ni.co となることを知っていれば、不要な声門閉鎖を入れることが避けられます。



(第8回おわり)

第9回  総合練習(1)