:以下の訳出の原文は"Delta-Green.com""Case Histories/Y.GOLO.NET"です。
この稚拙な直訳を読んで興味を持たれたら、ぜひ原文の方を読んでみてください。


Y.GOLO.NET

by Shane Ivey

 テディはしばしば、闇で満たされた寝室の中に座っていた。そこはモニターの青ざめた輝きだけが光り、パソコンのスピーカーから流れる喘ぎと呻きの柔らかな音声だけが静寂を破る、十代の若者の汗と汚れた衣服の臭いのこもる部屋であった。彼は素早くキーボードを打ち、そして彼の息遣いもそれに合わせるかのように、早く、熱く、浅い湿った息を吐いている。彼の両眼は思考の集中によってしばしば細められた。彼はその全身全霊をもって流れ去る様々なイメージに焦点を合わせ、何かがダウンロードあるいはアップロードされるのを、粘つく歯を半ば剥き出しにしながらもどかしげに待っている。その強烈な眼差しがより緊張の度を高めるためなのか、時々彼は前方へと身を乗り出し、低い擦過音を吐き出した。ここは彼にとっての教会、彼にとっての崇拝の場であり、輝くイメージや恍惚と堕落に満ちた音声は一時、彼にとっての神であった。

 テディは彼を見つめる男達、黒いスーツに身を包み、終わり無き静寂の如き監視活動の中で汗と悪臭に苦しむ、厳しい顔をした男達を決して見る事はなかった。彼は決して彼らを見る事はなかったが、しかし彼が自分のパソコンのキーボード、彼の祭壇、息も吐かせぬ程の熱望と憎悪を捧げる彼の社の前に座って以来、数時間に渡って奇妙な形のカメラのシャッターが押され、作動音を哀れそうに響かせていた。男達は刺激のない退屈しきった表情を浮かべて彼の方を見やり、何かを待っている。ただ一人だけが無表情になる事なく、カップの中のぬるくなったコーヒーをすすり、他の男達を見回し、そして彼らにつきまといその心を寒がらせしめている記憶について知りたいと思っていた。彼は超小型マイクに向かって話しかけた。「03 34 時。作戦目標はパソコンで映像ファイルを鑑賞しています。女がジャーマンシェパードと獣姦しようとしているやつです。私達の方は皆退屈で死にかけています。あいつの何処にこんな監視の必要があると言うんです? それともやはり悪いのは私達の方ですか? どう思います?」

 いらついた調子の、音質の悪い声が応答した。「私を失望させるな、ケリー。くだらない事を考えている暇はない。」

 テディが崩壊し始めたのは彼が十四歳の時、放課後の居残り用大教室の床の上に、鼻を砕かれて横たわっている時であった。頭上では空調装置がうなるような低音をたて、埃の微片が薄暗がりを貫く一条の不快な光の中に輝いていた。そこにいるのは彼ともう一人、彼を見下ろすように立っている、怒りに興奮した教師だけである。「これはお前のための授業だ。」かすれていたが、その声は彼の拳とは違った脅威を帯びていた。「さあ、立て。何をするべきか分かっているな、このくそカス野郎が。」テディは顔を上げ、恐怖と嫌悪を覚え、憎悪と救いの無さを知らされた。机の上には一冊の古い書物が広げられている。そのページは黄色く変色してささくれ立ち、水に濡れたかのようにうねっていたが、そこに書かれた言葉はこの上なく神聖なものであるという事が明らかにされていた。彼は「するべき事」をを知った。

 それからしばらくして、彼はアシュレイ・ミラーという少女と出会った。彼女は若く、可愛くそして好意的だった。彼女がテディの如き若者と話すような種類の人ではないという事は二人とも知っていたが、しかし彼女は彼に何かと話しかけた。彼女は微笑みかけながらたわいのない話をし、それに対して彼は時々冗談を言い、そして「するべき事」をしばし忘れた。そうしたある日、彼は彼女に彼の知るもう一つの秘密について語った。
「彼は僕を彼の司祭にしたいんだ。」テディは言った。
「彼の何? 彼って誰なの?」
「君も行く事が出来るよ。君も彼のを見る事が出来る。」
 彼は自分に強いるように囁きながら彼女に触れ、その湿った掌が彼女の顔を舐めるように撫でた。彼女はすくみ上がり、そして悲鳴を上げながら彼を押し退けた。

 次の日テディは、病んだ光と埃まみれで息苦しい空気に満ちた部屋の中でひざまづいていた。そこには一千とも百万ともとれる数の死体がぬかるみのように積み重なっている。彼の両眼は細められていたが、その瞳は大きさを増していた。彼の息づかいは浅くなり、肌は熱く乾いていて、その脳は火を噴き、口は脂ぎってぬめりを帯びた光沢を放っていた。彼の教師は一時去ってしまっていた何をするべきか分かっているな、このくそカス野郎が。彼は膨れ上がった腐肉の発する光を見上げた。「お前はのろますぎる。」声が彼に語りかけた。「お前に課せられた任務を果たせ。そうすれば我がそれを裁くであろう。この程度の量では我が一口にもならぬぞ。我は喰らわねばならぬ。」古い書物の言葉が流れるように空中に湧き出し、毒々しい真理となって大気中のエーテルと混ざり合いながら漂った。彼は「するべき事」を知った。

 そして今、彼は再び一人きりで部屋の中に座り、眼に虚ろな光を宿し、人としての感覚も理性も失ったまま「言葉」を世界へと送り出していた。突然そのスクリーンが瞬き消えてしまい、音も発しなくなった。家屋への送電が止められたのだ。だが彼は身動き一つしなかった。緩やかに扉が開かれて黒装束の人影が二人現れ、そして窓ガラス越しにかすかに光る赤い光点が彼の額の上に投じられた。それでも彼は身動き一つしなかった。侵入者の一人が素早い足取りでパソコンのそばへと近づき、ワイヤーカッターを取り出すと二秒足らずの間に外界へとつながるコードの束を全て切断してしまった。

 音質の悪い声がイヤフォンから聞こえてきた時、人影はハッとして顔を上げた。:「目標物は沈黙、目標物は沈黙。照準は変更なし。ベータチーム、報告せよ。」

 戸口に立つ人影――デルタグリーンのエージェント――は、今や状況を把握したかのような鈍い眼光をたたえだしたテディに、サブマシンガンの照準を合わせ続けていた。

 かすれた声が戸口の男から冷たく発せられた。「さあ、床に伏せろ、この――

くそカス野郎

――ガキ、何をすればいいか分かっているな。」

 テディの両眼と口は憎悪に大きく開かれたが、次の瞬間それらは力を失い、何か他のものに呑み込まれていった。やがてテディの座る椅子の方から声が聞こえてきたが、それは彼のものではないように思われた。「お前達は遅すぎた。我が社の扉は既に大きく開かれている。」膨れ上がり発光する肉体の重みで椅子がきしんだ音を立て、大きくて重い手が側にいたエージェントの顔をつかみ、飢えた舌が彼のそれに絡みついてその悲鳴を封じ込めた。

 窓が内側に向けて粉々に吹き飛び、かつてテディだったものの背中を銃弾が打ちのめし続けた。そのものがもう一人のエージェントの方へと向き直った時、彼は瞬間両眼を大きく見開き、そしてその武器が閃光を発して、腫れ上がった肉体から脂ぎりヌメヌメした血と悪臭を放つ肉を噴出させた。

「ベータチーム、報告せよ!」

 死してなお震え続ける塊に向かって最後の一連射を放ち終え、空になったエージェントの銃はカチカチと音を立てた。彼の両眼は大きく見開かれたまま、その状況を凝視し続けていた。かつて顔であった残骸を両手で覆って、彼の相棒がくぐもった悲鳴を上げながら延々とのたうちまわっている。血にまみれたテディの手はその側に萎びて弱々しく横たえられ、肉体の発光もその死と共に、既に暗闇へと次第に変じつつある。

「ケリー、一体何が起きたっていうんだ?」

「今、猟奇的な事件が続いています。これは世界的な規模で起こっている、模倣犯による殺人及び死体損壊と言うべきもので、いずれの事件においても類似した、普通のものではない歯形が犠牲者の身体に残されています。この残忍な犯行が行われたのはニューヨーク、アトランタ、グレートフォールズ、バンクーバー、イスタンブール、ノッティンガム、シンガポール……」

「現時点においては、FBI はいかなる公式声明も行っていません。この種の事件に関しては名声のある行動科学部門も、公式なインタビューの申し入れは全て断っています。しかし特別捜査官のジーン・クオールズは、このように広範囲にわたって犯行の模倣が普遍的に行われるという状況は通常では考えられないという事を認めています。彼女はより詳細な情報については何も漏らしませんでしたが、ただ一言『我々は目下捜査中です。』とだけ語りました。」

「『ナイトリィ・リポート』、続いてジェフ・チェンバーズによる生活情報のリポートです。」

「ありがとうトゥルーディ。さて皆さん、この話はおそらく以前にも聞いた事があるのではないでしょうか? インターネットの利用者達の間に大きな関心を呼んでいる問題、スパムメールについてです。それは我々にとって時間の浪費であり、各企業の経営者達ならあなたにこう忠告する事でしょう――「時は金なり!」。ところで、ここ数日にわたって何百万人ものコンピューター利用者が彼らのメールボックスに、同じ内容のお節介なメールを見つけるためにログインしています。それは奇妙な黙示録的一節の書かれた手紙で、ヘッダーのサブジェクトとメッセージ本体に書かれた奇怪な名前から――ええと、正しく発音しているかどうかこれを見てください――「イゴーロナク・メール」と呼ばれているものです。宗教学の専門家達は当惑していますが、そのほとんどは、おそらく誰か退屈した子供による悪ふざけに過ぎないのでは、と言っています。」


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