以下のコンテンツは、Chaosium社の"Call of Cthulhu"サプリメント"Malleus Monstrorum"におけるデータを翻訳したものです。
そして、他の者達よりも冷静で科学に通じた私が震える抗議の声をつぶやき……狂気へといざなうかのように連打される太鼓のくぐもった音と、忌まわしいフルートのか細く単調で哀れを催す音が、時の彼方の想像を絶する光無き室より、宇宙の渦巻く墓場を流れてゆき、嫌悪すべき太鼓と笛の音が奏でられるその場所で、のろのろとぎこちなく馬鹿げた踊りを舞う、巨大な闇黒の究極神達――盲目にして無言の魂無き鬼神達、その魂こそニャルラトテップである。
―― H.P.ラヴクラフト 「ニャルラトテップ」
ルーシュチャ方程式は、解かれた時にニャルラトテップを顕現させる数学の方程式です。この方程式は量子数学の非常に複雑な断片であり、ほとんどの定命なる精神の理解をはるかに超えています。公式を解く手段を持っている者でさえ、そのためには数百から数千時間を費やさなくてはなりません。
教団:このニャルラトテップの化身は、単独で崇拝される事はありませんが、神話における比較的進歩したいくつかの種族、ミ=ゴ、シャン[シャガイからの昆虫]、イェーキュブ人、イスの偉大なる種族、ヤディス星の住民等には知られています。ハイパーボレアの人間もまた、ルーシュチャ方程式の秘密を知っていたかもしれませんし、同様の可能性はクン=ヤンの住民にもあります。この方程式とその解答を知っているもの達はその力を理解していて、細心の注意を持ってこれを使用します。
その他の特徴:INTが18未満の人間は、ルーシュチャ方程式を解こうと試みる事さえできません。この公式を解こうと試みる者は、方程式の研究と計算に(365-EDU)日を費やさなくてはなりません。そしてその期間の最後に、1D100で自分のINT以下をロールする必要があります。成功した場合は方程式を解いた事になりますが、失敗した場合は、さらに(365-EDU)日を計算に費やさなくてはならないのです。方程式を解こうとする試みに費やされる各週ごとに、この作業が強迫的なものとなる可能性が1%づつ累積していきます。一度強迫観念が生じてしまったなら、方程式を解いてしまうか、この試みによって発狂してしまうかするまで、毎日0/1ポイントの正気度の喪失を被ります。
解かれた場合、ルーシュチャ方程式はニャルラトテップ自身として顕現します。方程式を解いた者の耳にはまず、鬼気迫る笑い声と、この世のものとは思えない遠吠えが聞こえてきます。続いて視界が一瞬暗くなり、突然あたかも自分の思考過程が自分だけのものではなくなったかのように感じます。それまでは決して知る事のなかった思考や知識が、精神の中を飛び交い始めるのです。一度も聞いた事のない他国の、異界の言語で話し始め、知り得るはずのない歴史の一場面や出来事について、とうとうとまくし立てます。さらに、不健全な黒い電撃に打たれたかのように、この世のものではない力が身体の中を駆け抜けます。ニャルラトテップの思考が精神の中に殺到し、知識とINTは秒単位で増大していきます。そして瞬く間に、INTは86まで、POWは100まで上昇してしまいます。方程式を解いた者はニャルラトテップになってしまったのです。STR、CON、SIZ、DEX、移動、耐久力の値は本人のままですが、今やニャルラトテップのINTである86と、POWである100を持っています。その正気度は0まで落ち、EDUの値は三倍になります。
ルーシュチャ方程式を解いてしまった者を救う事は、ほぼ不可能です。そのような人物は肉体だけが生きていて、精神は「這い寄る混沌」のものになってしまっているのです。殺されると、ニャルラトテップは退去する前に他の何らかの怪物的な姿に変身するという、いつもと同じ劇的な過程を経て追い払われます。「悪魔を追い出す」のような呪文はニャルラトテップを人間の宿主から、その肉体を破壊する事なく強制的に退去させる事ができますが、しかし宿主だった人間の精神も同じく永遠に失われてしまいます――少なくとも永久的狂気に陥ってしまうのです。
攻撃及び特殊な効果:ルーシュチャ方程式はいかなる実際の攻撃手段も持ちません。方程式を解かせるだけで、攻撃としては充分なのです。
STR 該当せず | CON 該当せず | SIZ 該当せず | INT 86 | POW 100 | DEX 該当せず |
移動 該当せず | 耐久力 該当せず |
ダメージ・ボーナス:該当せず
武器:該当せず
装甲:該当せず
呪文:該当せず
正気度喪失:ルーシュチャ方程式を解いた場合に失う正気度ポイントは、1D10/1D100です。
"Malleus Monstrorum"の付録における発音表記では、"Kruschtya"は[ROOSH-tih-YAH]となっています。
冒頭の引用はラヴクラフトの短編「ニャルラトテップ」(大瀧啓裕氏の訳ではナイアルラトホテップ)の一節であり、ルーシュチャ方程式の登場するものではありません。Google等で検索した限り、2007年6月現在において、この方程式の登場するシナリオや小説等は発見できません。完全に"Malleus Monstrorum"オリジナルの化身なのでしょうか。