シャンのルギハクス到来と退去の顛末
及び
「シャンの奴隷になったリクスの住人」に関する推測

 故郷シャッガイの破滅を逃れて放浪の末リクス─ルギハクスに到着したシャン達に対して、リクスの住人達─ルギハクス人は当初、表立って敵意を示す事はありませんでした。彼等はシャン達が都市を建設するのを認め、結果的に数世紀の間シャン達とルギハクスを共同統治するような形になった様です。

 しかしルギハクス人はシャン達のアザトース崇拝には好意を示さず、大方の者達は従来のルログ崇拝を続けました。ルログの信者は神の恩恵の代償として、年に一回捧げ物をする義務がありました。それは信者の一人の脚を除去するというもので、本人の納得づくで行われます。これに比べて遥かに残虐なアザトース崇拝の様式についての噂を聞いて、ルギハクス人は嫌悪を感じていました。やがてルギハクス人の中からもシャン達の都市に出向いてアザトース崇拝に加わる者達が現れ始めたので、ルギハクス人の長老達はそのような好ましくない様式が自分達の宗教にまで浸透してくる危険を避けるために何らかの措置を講じる必要性があると考えました。しかし、シャン達の武器は脅威ではなかったのですが、アザトースの怒りを招く事は避けたかったので、結局何の対策も取られないまま静観される事になってしまったのです。

 こうして数年が経ったのですが、その間にシャン達の間ではアザトース崇拝の忌わしさを嫌い、ルログ崇拝の寛大さに引かれる傾向が次第に強くなっていきました。反対にルギハクス人の中のアザトース崇拝者達はその熱狂の度合いを高め、従来のルログ崇拝に対する嫌悪をつのらせていきます。そしてこの二つの流れは激突の時を迎えます。きっかけは、ルギハクス人のアザトース信者の中の特に狂信的な一団がルログ神殿を襲撃し、ルログの像を全て破壊し三人の司祭を殺害するという事件でした。犯人達は捕らえられ、脳に酸を注ぐという仕方で処刑されましたが、これを機にルログの司祭長達はアザトースの神殿をシャン達と共にルギハクスから追放する事を宣告します。ただし、ルログ崇拝等のルギハクス土着の宗教を信奉する者達については、希望があれば残留を許可する事にしました。この時かなりの数のシャン達がアザトース崇拝を捨ててルギハクスに残留したものと思われます。追放時に最終的にアザトース神殿に残っていたシャン達は、わずか三十ばかりだったそうですから。逆に考えれば、これらのシャン達のアザトース崇拝は狂信も極まったものだったと言えます。彼等はこの追放時の神殿の転位によって地球に到着しているので、地球におけるシャン達の活動がとてつもなく忌わしいものだったという事も納得がいくのではないでしょうか。

 そして問題の「シャンの奴隷になったリクスの住人」ですが、ルギハクスにおいてはアザトース信者になったルギハクス人は見せしめのために、ルログ神殿襲撃犯と同じく脳に酸を注がれて処刑されたそうです。しかしおそらくは幾ばくかのルギハクス人がアザトース神殿に逃げ込んで、追放されるシャン達と共にルギハクスから去って行ったのではないかと思われます。「シャンの奴隷になったリクスの住人」という記述がルギハクスにおいてアザトース崇拝に染まった時点での一部のルギハクス人を指しているのではないならば、ルギハクス追放時にシャン達と同行した可能性のある彼等の末路の事なのではないでしょうか。追放の憂き目に逢ったシャン達が腹いせに、仇と同族であるルギハクス人の信者を奴隷にしてしまったという事も考えられるからです。「妖虫」の主人公が神殿の奥で出会ったもの達の中に、いくつもの手足を持った金属製の立方体の姿もあったかも知れませんね。

参考文献:キャンベル「妖虫」(「真ク・リトル・リトル神話大系」9巻)


△Return to Top

▲Return to Index▲