演奏時間:約55分
1992年、イギリスのラジオ局が第2楽章を繰り返し流したところ、CDがポップスのヒットチャートに入ったというエピソードがあります。
3つの楽章の歌詞は、いずれも女性の悲しみが綴られています。しかし、ソプラノ独唱付きの音楽は決して「慟哭」とまでは行かず、むしろ穏やかささえあります。それが逆に聴き手の感情を揺さぶります。
ここでは5部の弦楽器が更に2つずつ、計10部に分けられます。
まずコントラバスが24小節に渡る旋律を出し、繰り返されるたびに1小節遅れで(つまり25小節ごとに)1部ずつ、高い音で加わっていきます。やがて全ての弦楽器が加わって頂点に達すると、今度は徐々に旋律が一本になり、最後には同じ音が引き伸ばされます。
その長い音が残ったまま、ピアノが入り、それを合図にソプラノが「私の愛しい、選ばれた息子よ」と歌います。歌詞は、傷を負った息子(キリスト)を前に悲しみに暮れる母親の心情を内容とした「哀歌」です。
歌が終わると、今度は先の頂点の部分が再現されて、逆に高い音から1部ずつ減っていき、最後は冒頭と同じくコントラバスだけが残って終わります。
ナチスの独房に入れられた少女が、壁に祈りの言葉を刻み込みました。これがそのまま歌詞として使われています。
天上からの響きのような序奏の後に急に沈み込み、ゆっくりと噛みしめるように「お母さん、どうか泣かないで下さい……」と歌い始めます。同じ言葉を何度も繰り返しつつ進み、最後まで歌うと序奏のメロディーが入り、今度は少し明るくなって再び最初から同じ歌詞を歌います。
2つの和音を交互に出す単純な序奏があり、それに乗って戦争で息子を失った母親の悲しみ……「殺された息子の亡骸さえ見つけられない、もう二度と帰って来はしない」といった内容の歌詞が歌われます。
後半、曲調が変わり、「神の小鳥、どうか息子のためにさえずってあげて」と祈ります。しかし、最後はまた元の曲調が戻ります。