演奏時間:約49分
「交響曲」と題されているものの、内容は単一楽章の描写音楽で、拡大された交響詩と見ることが出来ます。一人の登山者を通して、アルプスの大自然の一日を描いた大作です。全体は22の部分に分けられ、それぞれに表題が付けられています。
曲全体に渡って「山」、「太陽」、「登山者」などを表す主題・動機(以下、同様にかぎ括弧で示します)が使われています。これらの旋律を頭に入れておくと、より作品を楽しめるはずです。
冒頭の下降旋律は「夜の主題」です。それが終わると金管が「山」を表す動機を静かに出し、まだアルプスの山が輪郭しか見えない事を示します。
やがて少しずつ空が明るくなってきます。
頂点で「太陽の動機」が提示され、太陽が徐々に姿を現します。
わずかの休止を置いて、いよいよ登山開始です。
低音で「登山者の主題」が出ます。これが曲全体の主題です。しばらくして金管が「岩場の動機」を吹き、続いて舞台裏のホルンが、狩のラッパ(角笛)の音を鳴らします。
ヴァイオリンが描く木の葉のざわめきの中を、「登山者」が歩きます。この部分の後半に、木管による鳥の鳴き声が聞こえてきます。
弦が静かに「登山者の主題」の変形を出します。川の流れと水の冷たさを連想させながら、徐々に滝のある場所に近付いて、水の轟音(ティンパニのトレモロ)が大きくなってきます。
「岩場」に続く急激な下降音が滝を表します。登山者はしぶきの中に幻影(オーボエの旋律)を見出します。
高山の花のほのかな香りを、木管のスタッカートで表します。登山者はその美しさに見とれます。
カウベル(牛の鈴)の音、そしてヨーデルが聞こえてきます。のどかな田園風景を楽しむも、やがて道に迷ってしまう事に。
いくつかの主題・動機が絡み合って、焦燥感を醸し出します。
突然視界が開けて「山」が姿を現し、トランペットが高音で「氷河の動機」を吹きます。
急な「岩場」を、落石などに注意しながら慎重に登っていきます。
金管の上昇音が、ついに登頂に成功した事を表します。オーボエが敬虔な旋律を吹いた後、喜びに満ちた壮大な音楽が響き渡ります。それに続いて「岩場の動機」、「太陽の動機」が堂々と力強く出されます。
頂上からの素晴らしい眺め。登山者はこれらに魅了、そして圧倒されます。
各主題・動機を展開する部分です。
霧の発生は木管のスタッカート、曇っていく様子は「太陽の動機」の弱奏で示されます。
突然の天候の変化に不安を覚え、悲しむ登山者の心情を描きます。この部分の最後に、ティンパニによる雷鳴が微かに聞こえてきます。
頂上で出た敬虔な旋律が今度は短調で出され、さらに不安が大きくなります。「夜の主題」が急速に奏されて空が暗くなり、弦のピチカートとウィンドマシーンが、降り出した雨と風を描写します。
強い雨と嵐の到来に、登山者は下山を始めます。(本当は雲行きが怪しくなった時点で下山するべきでしょうが、そこは音楽構成上の理由でしょう)
登山中に出てきた動機が、逆の順に次々再現され、大急ぎで山を下りていく様を表します。クライマックスでは、「サンダーマシーン」という雷鳴音を出す装置が使われます。
やっとのことで下山し終え、嵐が止んだ頃には、もう太陽は沈もうとしていました。
「山の動機」の後に、引き伸ばされた「太陽の動機」が続き、登山者のわずかな感傷も描かれます。
印象的なオルガンの音で始まる、最も長い部分です。登山者が山での楽しかった一日を回想し、満ち足りた気分で夜を迎えます。
再び「夜の主題」が戻ってきます。続いて「山の動機」と「登山者の主題」が静かに再現され、大自然と人が共に眠りにつきます。