No.11 膝がイタタ・・・

 暖かくなって通勤も快適となり、オリンピックも近づいてスポーツ庁の鈴木長官の「通勤をスニーカーにして運動しましょう」という国家方針に基づいて運動靴をはいて一歩踏み出したその瞬間、「イタタ、左膝が痛いぞ、どうしたんだ?」左膝の関節の外側が痛くて伸ばせない。「これは外側の半月板の症状だな。このタイミングで・・・」などと考えたが痛くて歩けない。

 半月板というのは膝の関節の上の骨、つまり大たい骨と下の脛骨の間にある隙間を埋めるクッションのような軟骨で内側と外側にちょうど眼鏡のような形であります。スポーツ等で切れて膝が腫れて診察するときにまず疑う病気ですが、齢をとると軟骨自体が弱くなって自然に壊れる人もいて整形外科では「変性断裂」と呼んでいます。

「痛みは切れた半月板が関節の間に挟まって起こるわけだから脚を振れば元に戻るかな」

と映らなくなったテレビの感覚で2、3回振ってみるとあら不思議、何ともなくなりました。しかしまた歩き出すとやはり痛い。しかも歩けないほど痛い。「いやあ、困った。しかし半月板であれば、挟まらないように気を付けて歩けば痛くないはずだ。そうでないと手術で壊れた半月板を切り取れば痛みがなくなる説明がつかない。」など考えながら注意しながら膝が捻じれないようにまっすぐに歩いて行くとまた痛くない。「これでよし。何とか出勤できそうだ。すぐ戻るから手術が必要な断裂という大げさなものではないな。でも横断歩道を渡っている時に膝が痛くなったら困るなぁ」そんな心配しながら、そろりそろりと痛みが出ないように歩いていました。

 わかりやすく紹介されている整形外科学会のホームページから引用させていただくと「半月は加齢にともない変性するので、40歳以上ではちょっとした外傷でも半月損傷がおこりやすくなります」とあり、何か理由があるはずだと振り返っても今となっては仕方ない。全ては運命と諦めることにしました。

 ちなみに外来では「理由は何ですか。老化ですか?」と聞かれて老化という後ろ向きの言葉は使いたくないので「長い間頑張ってきたご褒美でしょうね。」と説明しています。

 その夜風呂の中で「長い間よく頑張った。でもまだこれからもあるので引き続き頑張ってほしい。無理はさせないから。」と膝をさすっていました。ところが夜中に今度は反対の右ふくらはぎが、かばった歩き方をしたためでしょうが、これまたこれまで経験したことがないほど痙攣して飛び起きました。こちらもとても痛い。漢方薬の芍薬甘草湯が即効性があるとは知っていましたが、自力で伸ばすことができたのでそのまま寝たら翌朝になっても右のふくらはぎの痛みが取れていない。そんなときは一回だけ飲んだほうがいいかなと反省しつつ左膝を診てみると外側でなく内側が痛い。「おかしいな。そういえば研修医のころ膝が専門の新名先生の手術に助手で入って「いいか。この患者はこれこれの症状があって外側の半月板の損傷だ。よく見てろよ。」と言われていざ手術で見てみると外側の半月は何ともない。「はて?」と内側を見てみるとこちら側がはっきりと切れている。切れた方を治療しながら新名先生が「こんな不思議なこともあるんだな。」と言っておられたのを思い出しました。

 今はMRIがあるのでそんなことはないのですが症状だけで病気の場所を診断するのは注意が必要です。先だってある学会でも膝の痛みを訴える患者さんの膝を調べても何の異常もなく、股関節のレントゲンを撮ったらそちらに病気があったので股関節を麻酔したら膝の痛みが消えたことを確認して股関節を手術したら膝の痛みが治ったという発表がありましたが、人間の痛みの感覚というものは意外にあてにならないものです。

 私についていえばこの程度の半月損傷の痛みは自然に治ることが多いので、太ももの筋肉に力を入れて膝が捻じれないようにまっすぐに前に出して歩いています。これからも脚の筋力を鍛えて齢を重ねていきたいものです。
2019年09月19日