老年医学編「何でもいいわけではない」

 先回このコラムを更新してから複数の人から読んでますよ、また書いてくださいと声をかけていただきました。よろしければお楽しみください。

 先日夜中に歯が痛くなりました。以前から時々痛くなるのですが歯科医に診てもらっても問題ないとのことで、それなら漢方で治療すべく歯痛に効く立効散を枕元に置いています。早速枕元の漢方薬を持って〇〇散とあるので水でも大丈夫なのですが、お湯を沸かして口に含みました。立効散は飲まずに口に含むだけでも効きます。口に含んでしばらくすると痛みが軽くなって、よかったよかったとまた眠りにつきました。翌朝、おはようと挨拶すると奥さんが「足が攣りましたか?」「足は攣らないよ。でも歯が痛くなって立効散で良くなったよ。」と言って見ると何と芍薬甘草湯の開いた袋がテーブルの上にありました。何が起こったのか考えていると奥さんが「何でもいいんじゃない?」

 状況証拠から昨日の夜は立効散と間違えて芍薬甘草湯を手にしたようです。以前夜中に脚が攣ることがあり枕元に置いていたのを忘れていました。信じるものは救われるで芍薬甘草湯を口に含んで痛みがなくなったようです。芍薬甘草湯も痛みに効きますが、歯痛には使いません。芍薬甘草湯も立効散も甘草が含まれており、甘草には歯の痛みをとる作用があるとされています。だから効いたのでしょうか。甘草の入った漢方薬なら何でもよかったのか。
いや、何でもいいわけではない。漢方薬の生薬の割合は重要で少し違うと効果が全く異なります。以前葛根湯が必要な患者さんが葛根湯がないからと葛根湯川芎辛夷という鼻に効く漢方薬を使ったけど全く効かず、葛根湯を飲んだら良くなったという話を聞いたことがあります。葛根湯川芎辛夷は葛根湯に川芎と辛夷を加えただけなのに効果が全く違うのです。他にも同様のことはたくさんあります。漢方薬は構成生薬のバランスが大事なのです。

 しかし、昨夜は効いた。なぜ? もし昨夜歯が痛くなって枕元に芍薬甘草湯しかなかったら、どうだったか。薬箱をひっくり返して立効散を探し、なければ仕方なくロキソニンを飲んでいたでしょう。漢方薬は効くと思って飲むと効くものです。効かないと思うと効果がありません。この薬を飲めば安心という心理的な効果が大きかったと思います。患者さんに漢方薬を飲んでもらう時も、この薬でよくなるということを信じてもらうことが治療効果につながるということを師匠から聞いたことがあります。経験的に効かないんじゃないと疑っている人には効きません。お薬を飲むときはひとまず「この薬で良くなる。」と信じて飲んだ方が早く治ると思います。もちろん副作用にも注意が必要です。多くの漢方薬に含まれる甘草は血圧を上げたりする副作用があるので飲み過ぎに注意しましょう。芍薬甘草湯を一日3回を長く飲むのは控えた方が安全です。

 9月になって猛暑も終わりが近づいています。マスクもつけやすくなっていますが、最近コロナにかかったという話を耳にすることが多くなりました。街でマスクをしていない人も多くなり感染者が増えても当然でしょうが、基礎疾患のある人や、かかると重症化する人には危険な病気であることに変わりはありません。ワクチンも以前ほど積極的に打たれなくなり感染者の増加が懸念されます。感染すると症状が強くてしかも長引く人も多いようですので、これまでの経験を活かして上手にマスクを活用して予防しましょう。




2023年09月04日