No.4 痛みはバランスの問題

患者さんはよく「どうして痛いんでしょうねぇ」と聞かれます。

 痛みの原因には2種類あると考えています。まずは病気の痛みです。例えばガンなどの腫瘍や細菌やリウマチなどが原因で起こる炎症、その他放置してはいけない痛みです。中には悪化して命に関わることもあるのでできるだけ早く診断して治療せねばなりません。医師として絶対見逃してはいけない痛みです。この痛みは姿勢に関係なくずっと痛いのでその点に注意すれば見つけることは可能です。しかし、初期には他の痛みと見分けることは容易ではありません。

 忘れもしない私が若い頃、職場の看護婦さん(当時はそう呼んでいました。今は看護師です。)がボーリングをしたときに膝を捻じって痛いので薬をくださいと頼んで来ました。
はい、いいですよと気楽に処方したのですが、その痛みがなかなか治らずに後でよく調べたら膝の腫瘍でした。下手にろくに診察もせずに治療したために発見を遅らせてしまったと反省して、腫瘍だけは絶対に見逃さないようにしようと誓ったものです。病気からくる痛みを診断し、治療することは医師の大事な使命です。

 今回お話したいのは、病気以外の痛みです。ここで病気か病気でないかの違いはほっておけば治るか治らないかの違いと言うことです。無理な運動をしたりすると痛みを感じますが、別に病気ではありません。ほっておけば自然に治ります。今回は病気でない痛みの本質はバランスを失うことで起こると申し上げたい。バランスのとれた範囲であれば仮に少し痛みを感じてもやがて治ります。痛みはバランスを取り戻すための危険信号と言えるかもしれませんね。私は胃の痛みに悩まされますが、胃の痛みは胃の壁を溶かす胃酸と胃の壁を守る粘膜のバランスが壊れることで起きます。食べ過ぎたりストレスがかかったりすると胃酸が出て胃が痛くなるので薬を飲んで治します。程度が軽ければ自然にバランスをとって薬を飲まなくても治ることができます。胃を痛めやすい人と胃が丈夫な人の違いはバランスをとる力の差といえます。程度としてのバランスは痛みの原因になるのは、お分かりいただけると思いますが、姿勢のバランスも痛みの原因になります。

 整形外科での痛みの多くは姿勢のバランスが崩れることから起きます。年齢を重ねると、膝の内側が痛くなる人多くなります。日本人は膝の内側が痛くなりやすい。なぜかといえば日本人はややO脚の人が多く、まっすぐ立とうとしても右と左の膝の間に空間ができてしまうことが多いようです。左右が一本のニンジンのように立てれば恰好がよいのですが、なかなかそのようになる人は珍しい。膝が開いた状態では体重はどうしても膝の関節の内側にかかりますので膝の軟骨も外側より内側が傷みやすくなります。できれば若いうちから膝を傷めないように膝の間が開かないようにまっすぐに立つ習慣をつける方がよいと思います。

 自衛隊では入隊すると立つ、歩く訓練から開始します。私も防衛医大に入ってすぐの基本教練(初歩の訓練をそのようにいいます)で「膝を閉じろ!」と怖い教官から怒鳴られましたが今考えると非常に合理的なことだと考えます。しかし膝を閉じて立つというのは容易なことでないのも実感として解ります。歩く時もまっすぐに内股でも外股でもなく左右の足が平行に出るのが理想です。そのような立ち方、歩き方をすれば膝の痛みの少ない老後を送れると思うのですが、この年齢になってからでは難しい。

それではどうすればよいかは次回。
2019年09月14日