No.35 コロナとの戦い20 老いに学ぶ

 感染者数が日ごとに増加して国内では一日千人を超え、東京でも400人を超えるようになりました。政府は経済の影響を懸念して緊急事態宣言は出さず、さらに観光業のテコ入れのためGo to トラベルというキャンペーンを行っています。感染者は若い人が多い、重傷者が少ないと繰り返していますが、果たして迎え撃つ医療態勢の準備は大丈夫なのでしょうか。

 先日の外来で御高齢の御婦人から「便秘はよくなりましたが、最近下痢気味なので下痢に効く漢方薬を下さい。」と言われました。ないことはないのですが、その前にいつものように「甘いもの食べていませんか?」と聞くと、「子供が美味しいメロンがあるのでと持ってきたので・・・」とのこと。「親孝行ですね。でも食べても一口がいいですよ。食べ過ぎるとおなかが冷えて下痢しますから、一口食べて美味しかったと言ってあとは残して下さい。薬より先に養生ですよ。」と申し上げました。子どもが良かれと思ってかえって親の健康を損なうことはあります。賢いお母さんは子どもが美味しいからと言って好きなだけ食べさせることはありません。逆の立場になって大人になった子どももお年寄りになって胃腸が弱くなった親にたくさん食べてもらおうと思ってはいけないのですが、若い人は老人ほど賢くありません。そもそも美味しいものを我慢するのはむつかしいので適量だけに止める強い意志を持たねばなりません。年をとると頑固な人ほど健康を維持できるのかもしれませんね。年をとらないとわからないことの一つです。

 コロナで外出を控えるようにとのことで当然運動不足となります。テレビで人と会わずにできる運動で階段の上り下りを紹介していました。上るときに下の脚でけらずに上の脚で立ち上がるようにすればよい運動になるとのことでした。理にかなっていると考えて早速住んでいるマンションの階段の上り下りを始めました。急に始めると必ずどこか傷めますので、慎重にまず1往復、翌日は1往復半と徐々に負荷を強くすることとしました。そして3日目の朝、「あたたた・・。足が痛い!」左足に激痛が走り目覚めました。「さては痛風か。夏は汗かくから尿酸が濃縮されて出てくるけど、親指じゃない。足の底が痛い?これは足底腱膜炎だ!」と即座に診断をつけてひたすらマッサージしましたが、その後痛みは3日続きました。教訓はいくら身体に良いものでも時期とやり方が正しくないと逆効果だということです。普段とほんの少し違うことをやるだけですぐ痛みという信号を発するようになるのが老いるということでしょうか。足底腱膜炎の患者さんに原因を聞いてもわからないことが多いわけです。長い年を経てはじめてわかったことです。

90歳のおばあちゃんから「先生、いつ見てもお若いですね。」と言われて、「90歳からみれば周りはほとんど若い人ばかりでしょうね。私は30歳も年下ですからねぇ。」と笑って答えました。人生はマラソンのようなものでゴール近くになると先に行く人ははやく行ってしまうし、棄権した人はいなくなるしで次第に孤独になってしまいます。老いの観察眼は近くにいる人を見てその人の状態がどうか関心を持つものでしょうか。そのような人に常に見られているという意識を持って御期待に背かぬようにこれからも若々しく胸を張って歩きたいものです。



2020年08月03日