東洋医学編 「老いてインドに学ぶ」

 年も改まりすでに令和も5年になりました。先輩から年賀状がきて「後期高齢者になると元気もやる気も無くなって家で寝転がっている」とのことでした。若い頃、颯爽とした姿で厳しい指導をしていた姿と重ね合わせて、自分も残された時間は限りがあると年の初めに貴重な教えを受けました。

 コロナのおかげで多くの学会や勉強会が、インターネットでも参加できるようになりました。以前から勉強したいと思ったことをより簡便に勉強できるようになったので、最近インドの医学を勉強しています。インドは古代文明の発祥の地の一つで、数千年前から独特の養生法が行われていましたが、高齢化が進む日本にとって参考になることが多いようです。外来で「年は取りたくないねぇ」と嘆かれる患者さんがたくさんおられます。日本では老いを歓迎しない風潮があるようですが、インドでは高齢だからこそやるべきことがあるというのが素晴らしい。60歳までは社会で自己実現を果たしながら成長を重ね幸福を味わう時間とされており、60歳を過ぎれば成熟した心を持って本格的に社会貢献をする時間、80歳を越えれば平和な心と体験からくる豊かな知恵を持って人生の師として存在する、とされています。80歳で人生の師となることを目標にして、平和な心でただ存在するのが到達点だと考えれば年をとるのも楽しくなりませんか。

 高齢者の運動について「どのくらいやったら良いですか?」とよく聞かれますが、教科書的な1日8000歩歩くのはなかなか難しいようです。認知症の学会で1日4000歩を下回ると寿命が短くなるという統計の結果が発表されていましたが、そもそも各個人でふさわしい運動量が異なるのではないかと思っていて、これまでは目分量で元気がある人には多めにそうでもない人には少なめに歩くことを勧めていました。インドでは体力の半分まで運動するようにとされているようです。脇の下などに汗がにじむくらいが体力の半分くらいとされており一つの基準となるでしょう。呼吸が乱れたら運動をやめるようにとも言われているようです。個人差の大きな高齢者は一律の数値目標ではなく、その日その日の体調に合わせて適度の運動をすることが大事だと思います。

 睡眠についてはインドでも早寝早起きが良いと言われいますが、いつ起きたら良いかといことは明確に示されており、日の出の96分前とされています。何のこっちゃと思ったのですが、実際にその時間に起きるようしたところ確かに体調が良い。夏と冬では日の出の時間が違う訳で、お日様の運行に合わせて寝起きする方がより理にかなっているのでしょう。睡眠時間も夏は短く冬は長くなるのが生理的であるといわれます。そんなに早く起きて何をするのかといえば、ヨガであったり瞑想であったりやることはたくさんあるようですが、ただ思索するのもよいようです。早く起きても頭はぼんやりしているので朝はお金の勘定や具体的問題の解決には向きません。朝は、より本質的な平和な心で生きるために必要な知恵などを静かに考えるのによいようです。そんな時にテレビやネットを見るのはもったいないと思うようになりました。年をとるとともに仕事は減ることが多く、それはつまり自由が増えることを意味します。もう若くはないと嘆くより、今までの生き方を離れて与えられた時間の中でより有意義に過ごすように生き方を変えるのもよいのでは。

 ウクライナの戦争は続き、コロナは新たな変異種が広がって世界の混乱に終わりが見えません。不安定な時代ですから不安に駆られるでしょうが、今を乗り切るためにはまず健康であることが必要です。この時代に負けないために養生しましょう



2023年01月17日