No.7 西洋医学と東洋医学

 私も今年還暦を迎えました。仕事のペースもぼちぼちと考えていたら本当に久しぶりに書くことになりました。

 先だって名古屋市で開催された日本東洋医学会に参加しました。漢方の学会最高峰ですが、今回は約25年ぶりに自ら発表することにしました。若い時は上の先生に尻を叩かれていつも学会で発表を行っていたものです。しかし、いつしか大学から離れてしまい時々自衛隊の災害医療について講演をするくらいで、自らの研究を発表して批判を受け医学の進歩に貢献するという本来の学会発表からは遠ざかってしまいました。還暦で何か記念になることをしたいと考えていたところに非常に興味ある患者さんに遭遇して、少し医学の進歩に貢献しようと若返った気持ちで発表することを決断しました。

 その患者さんは別の病院の症例で50歳過ぎの方です。若い時から痛風の痛みに苦しめられていました。痛風は血液の中の尿酸という物質が増えて関節で結晶をつくり、ひどい痛みを起こす病気です。他の病院で血液の尿酸を下げる薬を飲んで尿酸の値は正常でしたが、足の親指の関節が腫れて痛くて杖をつかないと歩けないというつらい状態で来院されました。痛風の痛みを抑えるには、まずコルヒチン、次にロキソニンなどの消炎鎮痛剤、それでもだめならプレドニンなどのステロイド剤というように西洋医学的な標準的な治療が決まっています。

 コルヒチンとロキソニンはいずれも効かないとのことでした。漢方で治療したいということで来られたので、診察してみると詳しくは省略しますが漢方用語で「肝の気が高まった状態」でした。肝の気を抑える薬である抑肝散を飲んでいただいたところ、見事に痛みが治まり杖をつかずに歩けるようになりました。それまで痛風に抑肝散が効くという発表はなかったので、同様の患者さんがいれば役に立つ、つまり少しでも医学の進歩に貢献できると思い発表した次第です。

 ところで抑肝散はここ松田整形でも比較的よく出す漢方薬です。効く患者さんには本当によく効くのですが、認知症の興奮状態を抑えることにも使うことがあるため、患者さんによってはこんな薬を出すのかとお叱りを受けることもあります。もともとは赤ちゃんの疳の虫を抑える薬でしたので認知症だから出す薬ではないと説明するのですが、たまに誤解が解けないことがあるのが残念です。とにかく今普通に使っている西洋薬の基準治療では治らない患者さんが漢方で治ることがあることは事実です。なんでも治せるわけではありません。しかし、今回のように完全に良くなることもたまにあります。なかなか治らない病気が良くなると患者さんにも喜んでいただけますし、私も嬉しくなります。西洋医学と東洋医学、最新医学と伝統医学、良いところを上手に組み合わせて患者さんが良くなればいいなと考えつつ日々の診療を行っています。
2019年09月14日