第6話:たのしいたのしい潜水艦【1】
大海原を、順調に航海するドラム缶潜水艦…その、海に突き出た部分にある見張台の上でガンバは周りを見渡していた。
波穏やかで変化も無く、見渡す限りただ蒼い海…
「あーあ、どうして海って、こう海ばかりなんだろう…」
潜水艦の、言わば甲板部分ではシジンが日向ぼっこをしながら、詩にならない詩を口にしている。
退屈凌ぎに釣り糸を垂れていた忠太も、獲物がかからず、あくびをしている…手持ち無沙汰なガンバは、思わず叫ぶ。
「面舵、いっぱーい!」
「違う!」
たちまち、ガクシャの怒鳴り声がすると甲板に出てきた。
「違う、違う…いいですか、もう陽はだいぶ西に傾いていますぞ。だから…」
ガクシャは、お手製の方位計測器で方角を計る。
「南へは、もっと左に向かわないと。いいですか、午前中は太陽を左に見て進み、太陽が真上に来る昼間は
それに沿って進む。で午後は太陽を右に見て進む…でないと、南へは行けませんぞ。分かってんですか?」
ガクシャのツッコミに、慌てて分かったと言うガンバだが…
「で、左は何てったっけ?」
「…んもう、取舵!」
「あ、そうそう…」
と、再び見張台に向かうと
「取舵、いっぱーい!」
一方、船底で舵を取っていたヨイショは
「面舵か取舵か、はっきりしろい!」
と、苛立った様子。と、傍らでスクリューを回していたボーボが音を上げる。イカサマに交代してやれと言うが
「そりゃねえぜ、俺はボーボと勝負したんだ」
と、つれない返事。
「でも、僕が勝ったらイカサマが代わってくれるって…」
「で、おめぇはその勝負に勝ったのか?」
「ううん…負けたの…」
これには、ヨイショも呆れ顔。仕方なく、ヨイショが代わることになり、ボーボは食事の支度をすることに。
「全く…あいつは負けると分かってるのに、いつもイカサマの口車に乗せられるんだから」
ぶつぶつ言いながら、ヨイショはスクリューを回し始めた。
一方、甲板では相変わらずの光景が続いていた。シジンは意味なく呟いているし、忠太は退屈している。と、そこへ…
「あーっ、掛かった掛かった!」
忠太が竿に手応えを感じて大声を出した。
「ほお、大きそうですな…」
呑気に声をかけたシジンだが、掛かった獲物は思いのほか大きい。忠太は逆に海に引きずり込まれそうになって
慌ててシジンが食い止める。忠太の悲鳴にに気付いたガンバは、急いで二人をシッポで力任せに引っ張るが
勢い余って転倒してしまう。しかし、竿を持ったままの忠太は再び引きずり込まれそうになり…慌ててガンバが
今度はシッポを忠太の首にかけて、苦しがる忠太を無理に引っ張って何とか助かった。
「大丈夫かい?」
咳き込む忠太を、シジンが気遣う。竿と釣り糸は、見張台を支えるロープに結んで一安心、と思ったらその獲物は
海の中を泳ぎまわり潜水艦をメチャメチャな方向に引っ張り始めた。方角が狂ってガクシャは悲鳴を上げるし
舵が利かなくなってヨイショは大慌て。しかし、当のガンバと忠太は面白がってはしゃいでいる…
結局、糸を切って獲物を逃がすことに。
「あーあ、折角の獲物だったのに…」
残念がる忠太。
「とたんに、腹が減ってきたなあ…」
ガンバの呟きに応えるかのように、ボーボが食事の支度が出来たと言ってきた。
「どう?おいしそうでしょ。これ、僕が全部作ったんだ。」
ズラリ並んだ食事を前に、得意げなボーボ。しかし、それを見たガクシャはおかんむり。
「こんなに一度に食べたら、我輩の食事計画が狂ってしまいますですよ!」
「だって…ヨイショが僕に任すって…」
「いくら何でも、こりゃ作り過ぎだぜ」
ヨイショも、ちょっと呆れ顔。しかし
「ま、作っちまったもんはしょうがないぜ」
イカサマが、率先して口にする。それを受けて、ガンバが潜水艦のためのパーティーにしようと提案。彼らは、宴会を始める。
ボーボの料理をみんなが誉めるが、ガクシャはちくりと釘をさす。それにショボンとするボーボをイカサマが慰めた。
やがて、ヨイショが景気付けに何か歌おうと言い出し、ガクシャが名乗りをあげた。ところがこれが音痴と言うか
調子っ外れで聞くに耐えない。イカサマに怒鳴られたガクシャは我輩の美声を理解しないとは…と、憤然。ヤケ食いを始める。
続いて、ガンバが歌い始めるがこっちもガクシャに負けず劣らず。それでも、興の乗ってきた彼らは皆で唱和して大いに盛り上がる。
ところが、そこへ忠太のすすり泣きが聞こえてきた。
「おい、忠太どうしたんだよ?食い物でも喉に詰まったか?」
気遣うガンバに、忠太は涙声で答える。
「いいえ…島に残した潮路姉ちゃんや、仲間のことを思うと、僕だけこんなに楽しくしていていいのかと、つい…」
彼らのお祭りムードは、一転して沈んでしまった。その空気を振り払うかのように、ガンバが突然
「よし、このパーティーをノロイとの作戦会議とする!」
と、宣言。しかし、あまりに唐突な提案にヨイショ達は当惑顔。ガンバも、勢いで言ったので考えが出来ていない。
どうするんだと、ヨイショに突っ込まれ
「どうするって…齧っちゃえよ!」
「駄目駄目、そんな単純な結論じゃ」
ガクシャにたしなめられてしまう。
「まず、敵を良く知ることですな。幸い、ここにノロイのことを良く知っているひとがいる…」
「でも…僕はこの間話したこと以外、何も知らないよ。」
怪訝そうな忠太の言葉を、ガクシャが否定する。
「いいや、もうひとりいるんですがな…ヨイショの目の傷のことは、まだお話していませんかな?」
「…ガクシャ…」
「まさか…その傷は!」
「ノロイに…!?」
ヨイショが止めるのも聞かず、ガクシャは驚くべき事を口にした。
「そう、ノロイにやられた傷なんですぞ。ノロイに…」
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