洞窟の中を、慎重に窺うガンバ達…ところが、そんな彼らの背後から黒い影が飛び掛ってきた。
「うあああっ…!」
彼らは、洞窟の中に突き落とされてしまった。中は、泥地だった。
「ちきしょう、こんなところに落としやがって、ザクリめ…」
「おいっ、あれを見ろ!」
ザクリが、洞窟の入口に姿を見せた。
「狐だ…しかも、黒い狐だ!」
唖然とするヨイショ。
「へっ、キツネってのがバケモンの正体か。正体さえ分かれば、こっちのもんよ…」
ガンバは、立ち向かおうとするが…
「うああっ、身体が沈み始めたぞ!」
「いかん!ここは底なし沼だ!」
慌てる彼らを見下ろして、ニヤリと笑ったザクリは、彼らに背を向け高台まで走ると遠吠えを…!一方、ガンバ達は身体が次第に沈んで行くが
どうしようもなく、ガクシャもいい考えが浮かばない。
焦ってもがく忠太は、身体が泥沼に沈みかかったところを、シジンに助けられる。
「これ忠太、暴れるでない。暴れるとすぐに沈むぞ」
そんな中、独り冷静なイカサマが
「そう、身体を横にしてじっとしているんだい。いくらか時間が稼げるぜ」
それを聞いて、ガクシャがいい考えを思いついたと言い出すが、ヨイショ突っ込まれて、沈黙。そんな中、泥沼に沈みながらも必死に泳いだガンバが
岩壁にたどり着いた。
「おーいみんな、こっちだこっちだ!しっぽにつかまれ!」
「おう…」
仰向けになった仲間が、近づいてきた。彼らは、岩壁にしがみつき次々に上に乗って徐々に上へと登って行くが…イカサマが岩壁に手をかけた
つもりが、岩壁の穴に手を突っ込んでしまい彼が手にしたのは、何とコウモリ!
「ん…?う、うわああっ!」
慌ててバランスを崩してしまい、落下してしまう。何とか、コウモリにまとわりつかれながらも脱出した頃には、夕方になっていた。
「くそう…まんまと黒ギツネの罠に、はまっちまったぜ」
「鋭い牙、真っ赤な舌、氷のような眼…」
「と、とにかくこれは何か作戦が必要ですな」
「取りあえず、海岸に出ようぜ。この森の中で夜になったら、ザクリの思うツボだぜ。」
彼らは、森を出て海岸まで着いて一安心。すると、ボーボの鼻が何かを嗅ぎつけた。
「どうした、ザクリか?」
「いや、このにおいは確かイエナちゃんです。イエナちゃーん!」
ボーボは、匂いのする方へ駆け出してしまう。
「イエナって、クリークの?」
「そう、かわいい妹よ。へっ、ボーボも年頃だぜ」
彼らがボーボの後を追うと、岩陰にリスたちが集まっていた。
「ホントだ、みーんないるぜ…」
「へへ、こりゃザクリのことは内緒だね」
「そうだな、罠にはまったなんてみっともなくて、言えないもんな」
ガンバとヨイショが、苦笑しながら話していると、イエナが彼らに気づいた。
「…ボーボさん!」
「えへへ、こんにちは…」
その声に、リス達が一斉に振り向いたがその顔は険しい。そして、クリークも顔を出した。
「よう、クリーク。また会ったな」
「ようどうしたい、隠れ家を移動するって言ってたけど、こんなところで何してるんだい?」
明るく振舞おうとするガンバ達に、クリークは厳しい表情で言った。
「忠告を無視して、とんだことをしてくれたな」
「えっ…?」
「なぜ忠告どうり、この島を出ていかなかった!なぜ、ザクリに対して余計なことをしたんだ!?」
「いや、俺たちはその…」
「ごまかしても無駄だ!これを見たまえ…」
そこには、無残な爪痕も生々しいリスの死体が…
「これは…?」
絶句するガンバ達。
「君達が、ザクリを怒らせた結果だ!ザクリは、我々が君たちをそそのかし刃向かったと 思ったんだ!
つまり、君たちのつまらない英雄気取りが、我々の仲間を殺したんだ!」
涙を浮かべて詰め寄るクリークの言葉に、ガンバ達は言葉もなく、ショックを隠せない。
リス達は、夕日に染まる海を背に悲しみの葬儀をしていたのだ。仲間の死体に、一つまた一つ石が積み上げられ
やがて彼らの墓標が出来上がった。
「…本当のことを言おう。僕たちは、ザクリの冬の食料なんだ」
「ええっ…?」
「冬の食料?」
「そう、島に冬がきて食料がなくなったときに、いつでも食える『食料』さ。だからこんな風に無駄に殺すことは、決してなかった。そう、せいぜい
年に4、5匹だ。それが、我々とザクリとの間の、長い戦いの末作り出された、この島のルールなんだ。
君たちは、余計なことをしたんだよ。だが、もういい…」
「おかしいよ…何かおかしいよ。結局は、ザクリの言いなりじゃないか!」
クリークの言葉に反論しようとしたガンバに、リス達の怒りの石が飛んでくる。
「生意気を言うな!ヨソ者のお前たちに、俺たちの苦しみが、分かってたまるか!」
「そうだ!早く島を出て行け!」
「でていけ!」「そうだ、出て行け!」
墓標に泣き崩れるイエナ。そして、ガンバ達に石つぶてが次々に飛んでくるが、彼らには抵抗も反論もできず…
「もういい、止めろみんな!」
クリークが、止めに入った。
「君達の航海の無事を祈る、さようなら。さあ、みんな隠れ家に急ごう!」
リス達が去ったあと、やっとの思いでガンバが顔を上げた。
「ねえみんな、俺たち間違っていたのかい?ねえみんな、俺たちはただの英雄気取りだったのかよう?」
「分からねえ、分からねえよ!何もかも!」
ヨイショが自棄になって、大声を出す。そして、水平線に夕日が沈み辺りが暗くなった…
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