「待て!イカサマ!」
「何だ、やるか?」
「止めねえか!ふたりとも!」
一触即発になったふたりを、ヨイショが止める。
「イライラすんのは分かっけどよ、何たって俺達のせいで、クリークの仲間が殺されちまったんだ。ここはおとなしく、クリークの言うことを聞いて
この島を出てってやるのが仁義ってもんだ。分かったな…分かったら、さっさといかだを作っちまおうぜ」
再び、黙々と作業を続ける仲間達。ガンバは半ば自棄になって、持ってきた木を齧り続けていた。
しばらくして、ボーボがふと立ち上がると居たたまれないように歩き出した。
「おいボーボ、どこ行くんだよ?」
ヨイショに呼び止められて、ボーボはしどろもどろ。
「あ、あのですね…その…」
すると、ヨイショは
「食料を集めに行くのか?」
「い…う、うん」
「そうかそうか。ん、行ってきな。行ってきな」
「う、うん。行ってきまーす!」
ボーボの胸のうちを分かっている仲間達は笑って見送ったが、忠太だけは怪訝そうな顔で
「おかしいよ…食料はもうたくさん集めてあるのに」
そんな忠太に、シジンが諭すように言う。
「いいんだよ、忠太。君も大きくなれば分かる。お別れに行ったんだよ、ボーボは…」
そして、森に向かって走るボーボ。
「イエナちゃん…逢えるかな。イエナちゃんたちの新しい隠れ家って、どこだろう?」
ボーボは必死に鼻を動かして、リス達の居所を捜そうとしていた。
そのころ、ヨイショ達は作業を終えて砂浜に横になっていた。
「さて、いかだは出来上がった。あとは、ボーボの帰りを待って出港だ」
「しかし、驚いたなあ…リス達が、ザクリの餌だったなんて…」
ガクシャの言葉に、ヨイショが噛み付く。
「よさねぇか、ガクシャ!」
「そうよ、もう関係ねぇことはなかったことにしやそうぜ」
イカサマにも食って掛かられて、ガクシャは沈黙。
一方、森に入ったボーボはイエナを捜してさまよい歩く。木から落ち、足を滑らせてもなお這いながらイエナを捜すボーボ。
「イエナちゃん、どこいるんだよ…もう歩き疲れて、ダメなんだ…」
ボーボが足を滑らせて落ちたところは、花が群生していた。
「いい匂いだ…まるでイエナちゃんみたいだ…」
ボーボは、花の匂いに包まれて寝てしまった。
その頃、イエナは木の実を摘み食料集めをしていた。すると、その途中…
「美味しいよイエナちゃん、もっと食べなよイエナちゃん。美味しいんだから。ホントなんだよイエナちゃん…」
ボーボの寝言が聞こえてきた。
「ボーボ…!」
驚いて上げたイエナの声に、ボーボは目を覚ます。
「あ、イエナちゃん…あの…?あれえ?」
「どうしたの?泥だらけよ」
「え、え?ちょっと…えへへ…」
思いがけず再会できたものの、みっともない姿にボーボは照れ笑い。ふたりは、おかしそうに笑った。
だが、その一方でねぐらを出たザクリは不気味な咆哮をあげて、森の中をうろつき始めていた!
「ねえ、あたしに何をごちそうしてくれたの?」
「ええ?」
「うふふ、さっき寝言で…」
「ええ、ボクそんなことを…」
「ボーボさんって、いつも食べ物のことを考えているのね」
「そ、そんなことないよ。ボクだってね、たまには空を見上げて、きれいな星だなーまるでコンペイトウみたいだな…あれ…」
イエナに笑われて、ボーボは慌てて言い直す。
「あ、あの、冒険のこととか考えて、海に出ればいろいろ珍しい食べ物が…」
「ほらあ。ウフフフ…」
「もっと、いろんなこと…あ、そうだ。ガンバみたいに強くなりたーいって」
「どうして強くなりたいの?」
「だ、だってね、強ければネコが来たって折角のチーズを放り出して逃げなくたっていいだろ?だから…」
一方、海岸で帰りを待つガンバ達は…
「ボーボの奴、遅いなあ…」
「いいじゃねえかガンバ、ボーボにとっちゃ永の別れだぜ。待ってやろうじゃねえか、なあ?」
サイコロを弄んでいたイカサマだが、ふとその手からサイがこぼれた。ところが…
「いっけねぇ、一番不吉な四・二(死に)目が出やがった…」
思わず呟くようなイカサマの言葉に、ガンバが
「あん?何か言ったか?」
「な、何でもねえよ…」
「あっそう…」
「ボーボさん、あたしそろそろ帰らないと…」
別れを告げようとするイエナに
「う、うん…」
なごりを断ち切れないボーボの生返事を遮るように、彼らの背後で物音が…!
「……!」
振り向いたふたりに、巨大な黒い影が一気に襲い掛かってきた…!
海に夕日が沈もうとしているが、ボーボは戻らない。ガンバは、居ても立ってもいられない。
「遅いよ…いくら何でも、遅すぎるよボーボの奴…」
イカサマは、再びサイを振ってみたが出たのはやはり、四・二の丁…
"まただ…やっぱりサイコロの目はウソをつかねえぜ"
サイを握ると、イカサマは仲間に言った。
「みんな行こうぜ、こりゃ、ボーボに何かあったぜ」
その声に、仲間は森に向かおうとする。ガンバも慌てて続こうとしたが…
「クリーク…!」
行く手に、リスの一群が。
「どうだ、この島を出る決心は付いたか?」
相変わらずの態度のクリークだが、ヨイショがそれに応える。
「あ、ああ…つけたよ。とっくにな」
「けっこうだな。ところで、イエナはここに来なかったか?」
突然の質問に、ヨイショは少し戸惑いながら
「え?い、いや…」
「そうか、邪魔したな。よし、今度は森だ!」
クリークが仲間と向かおうとした時
「イエナちゃんが…イエナちゃんが…」
ボーボがボロボロになって戻ってきた。
「イエナちゃんが…大変なんだよ、ザクリに…ザクリにさらわれたんだよー」
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