第9話:黒ギツネとの苦しい戦い【1】

夜の森に、ザクリの咆哮がこだまする。ガンバとクリーク達は、森の奥へ向かっていた。
「ザクリの園だ」
「いよいよ、決戦だぜ」
緊張の走る彼らの耳に、イエナの悲鳴が…!
「イ…イエナちゃーん!」
思わず大声を上げるボーボを、ヨイショが慌てて押さえる。
「バカッ!ザクリに聞こえたら、どうすんだよ!」
それを振りほどいてまで、イエナの名前を叫ぼうとするボーボ…
「ヘッ、辛ぇのはおめぇだけじゃねぇんだぜ」
「妹をさらわれた、クリークの身にもなったみたまえ」

森の中の隠れ家で、クリークが中心になって作戦を立てていた。
「…イエナは、俺たちをおびき出し皆殺しにするための囮だ。不用意に攻撃したら、奴の思うつぼだ。奴との戦いは、闇との戦いなんだ。
今攻撃することは、我々の死を意味する」
「チッ、忍者みてぇな野郎だぜ」
イカサマが、呟くように言う。
「だが、闇の中でやることがただ一つある。奴の棲み家を捜しだすことだ。陽が昇れば、奴の棲み家は絶対に分からない。
今までの戦いがそうだった。だから、次々と仲間が殺された」
「でも、どうやって棲み家を?」
シジンが、口をはさむ。
「オトリ作戦だ!一組が囮になって、ザクリをおびき出し、逃げる。そして、囮を見失って棲み家に帰るザクリを、もう一組が尾行る…」
「そいつはいいぜ、バッチリだい!そして明日の昼ザクリの油断した隙に、総攻撃をかけよう!」
ガンバが飛び出し、気勢を上げるがガクシャは冷静だ。
「オホン…しかし、しかしですな、あまりに危険が多すぎますぞ」
この言葉に、一同はしばし沈黙。しかし、サイを振ったイカサマが、口火を切った。
「ケッ、サイはもう投げられたんだ。どのみちここにいたって、ザクリにみつかりゃオダブツだぜ」
そして、ヨイショが意を決したように言う。
「ようし、やってみよう。クリーク、作戦にかかろうぜ」
「…ありがとう」
クリークも、戦いへの決意を固めた。
「君たちは、仲間を集めて配置につくんだ」
クリークは、まず仲間たちに指示を出しリス達はそれぞれの場所に散った。
「この地点と、この地点で仲間たちが見張っている」
森の略図を示しながら、クリークは作戦を説明する。
「我々は、おとり班と尾行班に分かれる。おとり班は、ザクリをまいて逃げる。囮を見失ったザクリを、尾行班が棲み家までつけていく。
何かあった時は、必ずこの場所に戻るんだ。いいか、絶対に勝手な真似はしないでくれ…」
いよいよ、作戦決行だ。
「それじゃあ頼むよ。おとり班は、出来るだけ騒いでザクリの気を引き付けてくれ」
「任しとけ。さあ、出かけるぜ」
おとり班は、ヨイショ・ガクシャ・シジン・忠太だ。ところが、ガクシャの身体は早くも小刻みに震えている。
「ん…どうした?ガクシャ」
「え…いや、別に…アハハハハ」
「よおし、行くぞ!」
おとり班が出て行くのを見送ったイカサマは、不安そうだ。
「でぇじょうぶかい?頼りねぇぜ…」
「大丈夫さ、大丈夫だって…」
ガンバが、そんな不安を打ち消すように言った。

夜の森を、大声を出して進むおとり班のメンバー…
「ザクリーッ、出てこーいっ!」
「おまえなんか、ちっとも怖くないぞ!怖じ気づいたか、ザクリ!」
ガクシャも、必死に大声を上げるが草むらで物音がすると、腰を抜かしそうになる。仲間も慌てて隠れたが
出てきたのは鳥のようだった。
「違ったようだな…今のは鳥だぜ」
ヨイショが、草むらから顔を出した。
「ちきしょう、ザクリめ現われねぇな…」
「ほ、ほ…ホントに怖がって、出てこないんじゃ、ないんですかな?ハハハ…」
「さあ、行くぜ…」
ヨイショに促されて、ガクシャはヨロヨロ付いていく。
「ザクリーッ、出てこーいっ!」
なおも、大声を上げて森を歩く彼ら…その姿を、高台からザクリの冷たい視線が追っていた…!
「…聞こえないんじゃ、ないですか?」
なかなか現われないザクリ…忠太が不安そうな声で聞く。
「いやあ、そんなはずはねぇ。もうそろそろ…」
その時、シジンの耳がある音をとらえた。
「リス達の合図だ!ザクリが…こちらにやってくる!」
彼らの間に、さっと緊張が走る。
「ようしみんな、息の続く限り走れーっ!」
ヨイショの号令で、彼らは全速力で駆け出した。

一方、その音は尾行班たちにも聞こえてきた。
「奴め、とうとう現われたな!さあ、急ごう!」
クリーク達も、森の中へ向かった。
一方、森の中を必死に走るおとり班たちを、ものすごい勢いで追うザクリ。森を知り尽くしすさまじいスピードで走る黒い影…!
ザクリはあっという間に、おとり班たちに近づいていく。捕まったら最後、命懸けの鬼ごっこが続く。
一方、尾行班も必死にザクリの後を付けて走りつづける…すると、ザクリはふと何かを感じ取って足を止めた。そして、何を思ったのか
おとり班の追撃を止めて、脇道へと入っていった。そうとは知らない尾行班は、そのまま必死に追跡する。
「ヨイショ達、うまく逃げ切れるかな?」
「分からん。後は、運だけだ」
一方、おとり班たちはある変化を感じていた。
「お、おい…ザクリの足音が消えたぜ?」
「どうやら、ザクリをまいたようですね」
「よし、後は尾行班の仕事だ…」
ところが、尾行班がおとり班を追い越す形で、二組が森の中でばったり出会ってしまった。
「お…おい、どうしたんだ!?」
ヨイショのびっくりした声を聞いて、ガンバ達も足を止めた。
「ええっ…?お、おめえ達こそ…」
「どうしてくれるんですか?我々はザクリを、上手くまいたんですぞ!」
ガクシャに食って掛かられて、ガンバも思わず大声をあげる。
「俺たちだって、必死につけてきたんだぜ!」
「やめな!モメてる場合じゃないぞ。次の手を考えるんだ」
ガンバとガクシャを、ヨイショが止める。ところがそこへ彼らの背後から待ち構えていた黒い影が、突如襲い掛かってきた!
「うわわわわぁっ!」
不意を突かれ、慌てて近くの草むらに逃げ込むもののザクリの前では、なす術なし。ザクリの攻撃を受けて次々と地面や岩に
叩きつけられてしまう。しかし、ザクリはなおも手を緩めない…
と、その時木の上からザクリに向かって無数のクルミが飛んできた。リス達が彼らを救うべく必死の攻撃を始めたのだ。
「今のうちに逃げるんだっ!」
ザクリがひるんだ隙に、ガンバ達は散り散りに逃亡する。彼らを見失った上に、なおもリス達に攻撃されて、さすがのザクリも
ここは退散、何とかガンバ達は隠れ家まで戻った…
「ハァ、ハァ…怖かったですな…」
「ちきしょう、また裏をかかれたぜ…」
「それによ、またまたボーボがよ…ハァ」
そう、またボーボは逃げる途中ではぐれてしまったのだ。
「全く、ボーボの奴…世話を焼かせるな」
「大丈夫、逃げる途中までは一緒だったんだ。ザクリに捕まったってことはない」
苛立つガンバを、励ますようにクリークは言う。

お話の続きへ