第12話 祭りだ喧嘩だ大騒動【1】

山道を下るトラック。荷台には、野菜がたくさん積まれている。ガンバ達は、その荷台に潜り込んで町へと向かっていた。
「しかし、そろそろ着きそうなもんなんですがねぇ…」
地図を前にして、ガクシャが呟く。仲間達が思い思いに過ごす中、ボーボはたくさんの食べ物を前に、夢中でそれを口にしている。
「ボーボ…そんなに食べて大丈夫か?」
ガンバの声も、ボーボには意に介さないようだ。そのうち
「見えてきたたぞ!」
イカサマの声が、仲間達を呼び集めた。ガンバ達は荷台の幌の裂け目から、それぞれに顔を出す。その先には、雪を頂いたカラス岳が。
「間違いありませんぞ、あれがまさしくカラス岳!」
ガクシャが。嬉しそうな声をあげる。
「あれを越えたら、いよいよ目指すノロイ島なんだな」
ガンバも、はしゃいでいる。
「それにしても、ずいぶん険しそうだね」
ボーボの言葉にヨイショが
「なあに、どんなに険しくってもここは陸の上だ。海の上のことを考えれば、どうってことないぜ」

そのうち、麓の村に降りると八百屋の前でトラックが止まった。表ではトラックを降りた人間の足音が…
「人が来るぞ、隠れろっ!」
ガンバの号令で、彼らはダンボールや木箱の中に隠れた。表の様子が分からないので、少々不安な表情のガンバ達…やがて足音が近づくと
いきなりガンバ達の隠れていた段ボール箱の天地がひっくり返った。中のジャガイモに潰されそうになって、ボーボが声を上げそうになる。
「あれ…どっかに運んでるぞ…」
やがて、木戸を開ける音がして足音が止むと、再びダンボール箱の天地がひっくり返った。人間が、無造作に箱を肩に担いで八百屋の倉庫まで
運ぶと、それらを無造作に積み上げていったのだ。やがて、仕事が終わったのか木戸が閉まると足音は遠のいて行った。
「ボーボ、もう大丈夫だぜ」
「バァーン!ヘヘーッ、みなさーん、お元気ですか?」
ガンバの無邪気な呼びかけに、仲間達も顔を出した。
「わあ、食べ物がいっぱいだね。今夜はここで寝ようよ、ねえ」
ボーボは、目の前の野菜や果物の山に目の色を変えるが
「いやいや、それはダメですよ。朝になると、人間が入って来ますからね」
ガクシャに釘を刺されてしまい、
「そうだよ、ボーボは朝寝坊だからすぐ人間に見つかっちまうよ。別のねぐらを探そう!」
ガンバに言われて、沈黙しかかるが
「で、でもさその前に食べられるだけ食べておこうよ!
「それがいい。折角、これだけ食いもんがあるんだスタミナを付けとくんだ!」
「ハハハ、それには賛成です!」
彼らは、思い思いに野菜や果物を口にして腹ごしらえをした。
その夜…
穴から出て行こうとしたものの、ボーボは食べ過ぎてお腹か膨れてしまい穴につかえてしまう。
「いくら何でも、食いすぎだぜ…」
ヨイショとガンバがシッポを引っ張るが、ボーボはびくともしない。
「ねぇ…お腹がすくまで待ってよ…」
「ダメダメ、お腹が空いたらまた食べたくなるでしょう?」
ボーボの泣き言も、忠太に諌められてしまった。するとガクシャが
「こうなったら、解決策はただ一つ。おいボーボ、お腹に力を入れてへこませるんですよ」
「お腹に…?」
すると、周囲にガスの抜ける音と共にかぐわしき匂いが立ち込めた。
「わーい、抜けられた〜」
ボーボは喜んではしゃぐものの、ガンバ達はその匂いにダウン。
「あ…おイモ食べ過ぎかな?デヘ」

「ほら、あれ…あの小屋に潜り込もう」
「そうだな。あそこなら、あまり人間もこねぇぜ」
その夜のねぐらを捜していたガンバ達は、小屋の中で自分達にちょうどいいサイズの「家」を見つけた。
「おい、ここがいいぜ。俺たちにぴったりだ」
早速、中に入って見るガンバ達。
「ホントだ、ここはいいぜ」
「やるじゃねぇか、イカサマ」
するとボーボが
「でも…ちょっと狭苦しいね」
「だからいいんじゃないか。もしネコに見つかっても、とっても簡単に入ってこられないだろう?」
「そうよ、見知らぬ土地では用心するのにこしたことはないんだ」
ヨイショが、腰を落ち着けながら呟くように言う。
「しかし…この金ぴかの家、前に見たことがあるような気がするんですがねえ…」
ガクシャが、ちょっといぶかっていたが
「なあにブツブツ言ってんだい。みんなが安心して眠れんなら、それでいいじゃねぇか」
ヨイショに押し切られてしまった。とにかく、旅の疲れもあって彼らはすぐに横になった。
そして、彼らは夜が明けても夢の中…そして、忠太は悪い夢にうなされていた。
…それは、島のピンチを救うべく助けを求めて旅立ったが、ノロイに見つかり、追い詰められ、怪我を負わされたあの恐怖の夜のこと…そして
目が覚めると
「家が揺れてるぞ…」
外では、威勢のいい声が唱和して家が縦に横に揺れている。忠太は、壁の隙間から表を見た。すると大勢の人間が家を担いでいるではないか。
「た、大変だ!みんな起きてよ、大変なんだよ!」
「な…何だ、何だ?」
「じ、じ…地震だーっ!」
仲間達は忠太に揺り起こされて、異変に気付いた。
「大変だ!人間がみんなで、この家を担いでるよ」
「こりゃ一体、どうなってんだ?」
事態が呑み込めないガンバ達は、激しい揺れに翻弄されて目を白黒。
「祭りですよ!『みこし』とかいうやつだっだんです。これは!」
「金ピカでよ、どうもおかしな家だと思ったぜ…」
ガクシャが事の次第に気付いたものの、どうすることもできない。表では人間達が、ますます激しく神輿を担ぎその度にガンバ達は、右へ転がり
左に倒れ…シジンは酒を注ごうと悪戦苦闘、ガクシャは飛んだメガネを捕えるのに飛び跳ねて…やっと神輿が神社の境内で休憩を取った頃には
彼らは全員ぐったり。
「あー、これじゃ船酔いとおんなじだよ…」
「まだ天井が、ぐるぐる回ってるよ…」
そんな中、比較的元気なヨイショが表の様子を覗きながら
「おい、逃げるなら今のうちだぜ…」
確かに、周囲に人間の姿は少ない。
「よし、敵陣突破だ。全速力であの縁の下に潜り込もう!」
ガンバ達は、神輿から飛び出すと社の縁の下に潜り込んだ。
「脱出成功。ここなら、安心だぜ」
と、思いきや、ボーボの鼻が異臭をとらえた。そして…
「……!」
奥から、唸り声を上げて野犬が近づいてきた。ボーボや忠太達は慌ててその場を逃げたが、ガンバ達には恰好のケンカ相手だ。すかさず威嚇して
くる野犬に、イカサマのサイが飛び野犬に命中。怯んだところを、ガンバとヨイショが尻尾や耳にひと齧り。この攻撃に野犬は悲鳴を上げて退散。
「ハハハハ…大したことなかったぜ」
「へへ、お互い腕の見せ場もなかったな」
ちょっと拍子抜けの二人だった。と、そこへ
「おおいみんな見てみろ、ここはあいつの住処だったらしいぜ」
イカサマの声に集まってみると、古びた座布団を中心に野犬が暮らしていた形跡が。
「よおし、ここを俺らの住処にしようぜ。こいつはいいや」
「ここなら、人間の目にも止まらねぇな」
と、ヨイショもその気になっている。その言葉に、忠太が
「あの…今日はこれからカラス岳に向うんじゃ…?」
「バカ言うなよ、折角の祭りなんだぜ。たっぷりと楽しもうぜ」
「で、でも…」
「それにさ、美味しいものがいっぱいあると思うよ」
と、ボーボも乗り気。
「お神輿の中で寝過ごすようでは、まだ長旅の疲れが残っているのですよ」
「そうですとも。十分に体調を整えておかないと、あの険しいカラス岳を越せませんぞ」
シジンとガクシャに、諭された上に
「それによ、この先祭りなんぞにお目にかかることもねぇだろうしなあ」
珍しく、ヨイショもちょっと感傷的なことを言う。
「そりゃそうですけど…」
忠太は返す言葉がない。
「よおし全員一致で決まり!今夜は、祭りに出発!」
仲間達がお祭りにはしゃぐ中、忠太は独り浮かない顔をしていた。

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