第12話 祭りだ喧嘩だ大騒動【2】

やがて日も暮れて、神社の境内では縁日が賑やかに催された。ガンバとボーボは、忠太を伴って縁日の夜店を巡っていた。賑やかで、楽しげな雰囲気に
始めは目を輝かせていた忠太だったが
"こんな楽しい所、潮路姉ちゃんにも見せてやりたいなあ…"
そんな忠太の胸のうちを知る由もないガンバとボーボは、無邪気にはしゃいでいた。そして、ガンバ達は金魚すくいのそばで金魚をそっと眺めていた。
「うわぁ、赤くて美味しそうだね〜」
「忠太も金トト見るの、初めてだろう?」
しかし、ぼんやりしている忠太をガンバは、背中に乗せて金魚を見せる。
「うん、見える見える…」
"でも、潮路姉ちゃんにも見せてやりたいな…"
忠太は、ぼんやり考え事をしながら身を乗り出したので、金魚すくいをしていた人間に見つかってしまう。ガンバ達は、捕まりそうになりながらも
何とか逃げた。それもひとつのスリルと、楽しむガンバだが忠太は浮かない顔でしょんぼりしている。

一方…
「ムム…ニャロメ、やるか…?」
ヨイショは、屋台に並んでいた数々のお面の中で猫のお面に睨みをきかせていたが…
「はは、だーめだこりゃ」
傍らのガクシャは、風車を息で吹いて
「ほー、我輩の呼吸だけで回るとは…たいした発明ですぞ。人間の中にも我輩のように、頭の良いやつがいると見える」
イカサマは、ちょっと高いところからサイコロ片手に何かに狙いをつけていた。狙うは、小さ目のべろべろ飴…
「ヨッ、と…」
投げたサイコロは、正確に飴を弾き飛ばした。それを見て、イカサマはすばやく降りると戦利品を手に
「へへ、チョロいもんだぜ」
と、満足げ。その頃、はしゃぎ回るガンバ達のそばで独りしょんぼりしている忠太に
「どうしたんだよ?忠太」
さすがに、ガンバも心配そうに声をかけた。
「…ボク、お祭りがちっとも面白くなんかないんです」
力ない忠太の返事にガンバは
「…病気じゃないのか?」
「そうでしょうか?」
「お祭りが楽しくないなんて、病気に決まってるよ」
そこへ、何も知らないボーボがやってきて
「ねぇガンバ、あっちにとうもろこしの店があるよ。ねぇ、一緒に行こうよ」
ガンバは忠太に
「忠太、おまえ先に帰ってシジンに診てもらえよ」
と、ガンバとボーボはさっさと行ってしまい。忠太は重い気持ちでシジンのもとに帰った。

その頃、シジンはねぐらに決めた場所で一升瓶を抱えて良い気分て鼻歌を歌っていた。
「忠太君、もうお帰りかい。どうしたんだい?」
「ボク…何だかとっても淋しくて、お祭りがちっとも楽しくないんです」
「…病気だな」
「病気…?」
「そう、ホームシックと言ってな、心の病気だ」
「ホームシック…?」
「故郷恋しと、シッポが泣いとるんだ。忠太君くらいの歳なら、仕方ないがな」
忠太は、シジンの横に座ると話を始めた。
「シジンさんは、故郷に帰りたいなんて、思ったことはないんですか?」
すると、シジンは赤い顔をして自分の過去をポツリポツリと話し始めた。
「…もう、忘れたよ。何しろ故郷を捨てた男だからな。貧しい田舎の村を捨てて、立派な医者になろうと、貨物列車に乗りこんだんだ…山の子の山を
 思うが如くにも、寂しい時は君を思え…恋ですよ、恋…忠太君、分かりますか?」
「いいえ…」
忠太は、理解できずにちょっときょとんとした顔で答えた。
「ははは、恋に破れし一匹のネズミ。死に場所を求めて彷徨う、さすらいの酔いどれ医者…それがこの僕なんですよ、忠太君」
そこへ、危機が迫っていた。昼間、この場所からガンバ達が追い払った野犬が仲間を連れて復讐に来たのだ。5〜6頭の野犬が、唸り声を上げて
シジン達のいる場所に迫っていた。
その頃、そんな事態を知る由もないガンバ達は、かき氷用の氷を滑って楽しんでいたが
「さて、ぼちぼち引きあげっか…そうだ、忠太に土産でも持ってってやるか」

突然の襲撃に、慌てて逃げるシジンと忠太。しかし、積んであった丸太を崩しても大して足止めにはならない。シジンは酔っていることもあって
逃げ足が鈍い。転倒したところを忠太が慌てて起こそうとするが
「僕はもうダメだ。忠太君、君だけ逃げなさい」
「そ、そんなあ…」
「なあに、恋にやぶれた酔いどれ医者、どこで死のうと…さあ、早く!」
しかし、獰猛そうな野犬達を前に
「そら逃げろっ!」
と、一目散。辛うじて賽銭箱の中に逃げ込んだ。
「でも、逃げられませんよ…」
「大丈夫、ガンバ達が何とかしてくれます」
しかし、野犬にの一匹が、賽銭箱を齧り壊し始めた。
「ノロイと戦うまでは、死ねませんからな…」
と、シジンは言うもののふたりにはなす術なし。
一方、ガンバとボーボは忠太への土産を適当に物色して、ねぐらへと向かっていた。と、社を遠巻きにして見ているヨイショ達の姿が…
「ど、どうしたの?」
慌ててガンバ達が駆け寄ると、ヨイショは
「おおいガンパ、大変だい!」
慌てて駆け寄ると、野犬の群れが…
「さっきの、野良犬じゃねゃか…」
「ああ、仲間を連れて仕返しに来やがったんだ」
すると、ボーボの鼻が異変を捉えた。
「匂うよ、匂うよ…忠太と、それからお酒…」
「シジンか!?」
「うん、あの箱の中で匂うよ」
野犬達がとりかこんでいる賽銭箱に、ふたりが閉じ込められているのは分かったものの…
「よおし、行くぞ!」
突進しようとするガンバを、ヨイショが止める。
「待て!無茶だ、とても勝ち目はねぇ!」
「じゃあ、忠太達が目の前でやられるのを見てろってのかよ!」
ケンカを始めそうな二人に、イカサマの声が飛ぶ
「早く何とかしねぇとヤバイぜ!」
こうなると、頼みの綱は…
「何か良い手はないのかい、ガクシャ!?」
「いやあ、あるにはあるんですがね。多少、危険を伴いますなあ…」

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