第13話 特訓!!モーモー大作戦【1】

遠くに見えていたカラス岳も、今や目の前にそびえている。
「へへ、見える見えるぜカラス岳。生意気に雪なんか被っちゃってよー。あとはよー、おまえをちょいちょいと越えりゃ、ノロイ島が見えるんだい。
ま、せいぜい俺たちが行くのを楽しみに待ってな。ヤーッホーッ!」
ガンバに続いて、仲間達もカラス岳に向かって
「ヤーッホーッ!」
それから、彼らはカラス岳に向って一直線。
「誰がカラス岳へ一番乗りか、競争だい!」
そして、走りつづけて田んぼのあぜ道で休むことに。
「かーっ、なかなか近づかねぇなあ。カラス岳ちゃんよー、あんたなかなかやるねぇー」
すると、田んぼの中でボーボが何かを発見した。
「ガンバ…何かいる。何かいるよ!」
ガンバが近づくと、目だけ水面から出していたカエルだった。ガンバが、それを覗き込むと、カエルは突然舌を伸ばしてガンバの鼻先にペタッ。
不意打ちに驚いたガンバは慌てふためく。更にカエルは、ガンバの頭に飛び乗った。
「ワッ、こ、こんの野郎…離れろよっ!」
ガンバは、ジタバタと転げまわって何とかカエルを追い払った。その様子を見ていた仲間達は大笑い。するとシジンが
「あ、出来ました。カエルの子に おどかされて ガンバひっくりカエル…字余り」
「ハハハ、名調子。名調子」
しかし、からかわれたガンバは面白くない。
「ヘッ、シジンの下手くそ。そんのくらい、俺だってできらあ…」
負けじと、自分も一句ひねりだす。
「えー、青空に…と、くらあ」
「ほお、青空に…それから?」
上空を見上げていたガンバは
「えー、青空に スズメがチュンチュン 飛んでます」
「んー、なかなか才能はある」
「だろう?」
シジンの評に、ガンバは満足げだが
「だがあれは、ヒバリじゃ」
シジンに突っ込まれて、ガンバは沈黙。

それから、ガンバ達はカラス岳に向って走りつづけた。そして、渓流のところで一休み。
「はーい、皆さんお昼のご飯でーす」
ボーボがみんなに食料を配って歩いた。
「いよいよ…これから上りか。大変だな…」
それを頬張りながら、ヨイショが呟く。
「うーん、ちゃんとペースを作っていかないと、途中でみんなバテちゃうかも、知れませんぞ」
「そうですね。まだここからは、相当距離がありますから…」
ガクシャも、ヨイショの言葉に呼応する。忠太も不安げだ。しかし、ガンバは
「んー、大丈夫。俺は、高いところに登るのは得意なんだから。知ってる?俺の町にあったテレビ塔」
「知らない」
「じゃあ、超高層ビルは?」
「知らない」
ヨイショ達にしてみれば当然の答えだが、ガンバは納得いかない。
「おーいボーボ…みんなにさ、教えてやってくれよ。俺が、テレビ塔のてっぺんまで一気に駈け上がった時のことをさー。ねー、早く…何してんの?」
と、ボーボのもとに行くが…肝心のボーボはというと
「…ピンゾロの丁!へへ、悪いな。まーた頂きだ。おうガンバ、おめぇも昼飯、賭けてみねぇかよ?」
ボーボは、イカサマとサイコロ勝負で昼飯を巻き上げられていたところだった。
「チェッ…」
ガンバは、ムッとしながらヨイショ達のところに戻った。
「とにかくだ、高いところに登るのはこのガンバ様に、任せて欲しいんだ!」
陸の上のこともあって、ガンバに気おされたヨイショは思わず
「んー…ま、それほど言うんなら、任せるか」
「よろしくお願いしまーす」
忠太に頭を下げられて、ガンバはその気になった。
「おーおー、よーくお願いされた。さーて、早速出発しましょう」
と、仲間達をかき集める。そして
「皆さん揃いましたかー?」
と、生徒を前にした先生気分。
「はーい…」
「んー、いいご返事だこと。それでは、早速カラス岳に登ることについて、その登り方を教えます。まず第一に、まっすぐ全力で走ること。
そして第二に、力いっぱい走ること。そして第三に、何が何でも走ることでーす!」
この、論理性ゼロの「指導」に、仲間達は半ば呆れ顔だが、当のガンバは意気軒昂。
「そんじゃ、張り切ってでっぱーつ!」
と、走り始めた。
「とにかくだ、早えことカラス岳を越えてよ、ノロイ島を見なくちゃ。この目でしっかりとよー」
この気持ちが原動力のガンバは、猪突猛進状態。足元も周囲の環境も…当然のように後続の仲間達のことも、全く目に入っていない。やがて、
草むらを抜けると、突然目の前を車が横切った。
「……!」
ガンバはビックリしたが、どうやら、カラス岳に通っているドライブウェイに向かう車のようだ。
「何でぇ、ビックリさせやがって…」
ガンバがブツブツ言っていると、後ろからヨイショ達が追い付いた。
「おいガンバ…もうちっと、マシな道を通れねぇのかい。身体中が擦りむけちまうよ。何とかしてくれい」
ヨイショの苦言にガンバは
「んー、じゃもちっとマシな道、行こうか…」
と、ドライブウェイに沿って走り出す。しかし、だんだん勾配がきつくなり…ふと、後を振り向くと、仲間達は遥か下で休んでいる。
「ったく…しょうがないなあ…」
ガンバは、ちょっとおかんむり。仲間達の近くまで降りていくと、坂の上から彼らに声をかける。
「がんばろーっ、元気を出そーっ、シッポを立てろーっ!」
独り張り切るガンバに、ヨイショが
「ガクシャが、足にマメをつくっちまったんだよ!おまえも一休みしてけ!」
しかし、ガンバは止まらない。
「一休みだって…何てことを。我々はー、ハイキングに来てるんではないのでーす!さあ、立ち上がって走りましょーっ!ノロイ島を一刻も早く
この目で確かめましょーっ!」
これには、仲間達もさすがに呆れ顔。
「やれやれ、誰でやんしょうねぇ…あの融通の利かねぇ、シッポの堅ぇ奴を先頭に任したのは…」
イカサマの言葉に、ヨイショはちょっと苦い顔で沈黙。結局、ガンバに押し切られて彼らはひたすら走り続けることに…そのうち、ガンバは再びコース
をドライブウェイから外れていく。中でも、一番苦しいのはガクシャで
「ガンバめ…ガンバめ…」
と、ブツブツ言いながらヨイショに背中を押されて走っていた。やがて、湿地帯に出たがここで仲間達は次々とダウン。
「あー、こりゃ問題ですぞ。ガンバにリーダーを任せるのは、非常に問題ですぞ…もーダメ。こんなに走り続けるなんて
教養の無いネズミみたい…」
「俺もマイッタ。海の上ならともかく、陸は弱えよ」
それでも、足を止めないガンバにイカサマが追いついて
「おい、ガンバ…みんなくたばっちまったぜ。ちっとはおめぇ、ペースってもんを考えなくっちゃ…おめえ、評判悪いよ…」
ところが、それに対してガンバは
「イカサマ…教えて。止まり方…勝手に動いちゃって…」
「な、何だって…!?」
これには、さすがのイカサマも呆れ顔。
「やめた、やめたい。付き合いきれねぇやい」
と、横になってしまう。一方のガンバは、走りつかれて休みたいのだが…
「止まれーっ…」
相変わらず、足が言うことを聞かない。そのうち、広い草原に出た。
「止まって…止まって…止まって…あー、目が回るー」
ついにガンバも、その場にダウン。ヘトヘトになっていたところへ、後から仲間達も追いついた。
「…ん?」
ふと気付いたガンバは、ガバと跳ね起きると
「わーっ、休んじゃダメーっ!ハイ、イチ、ニ!イチ、ニ!イチ、ニ…」
その場でジタバタ足を動かすが…仲間達の冷たい視線に気付くと
「俺…評判、落としたかな?」
照れくさそうな一言に、仲間達は声を揃えて
「落としたっ!」

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