第13話 特訓!!モーモー大作戦【2】

と、ボーボの鼻がある匂いをかぎつけた。
「あーっ、匂う匂うよ。素敵な匂い…ミルクだ。これは、ミルクの匂いだ!」
と、匂いの方へ駆けて行く。一方、ガクシャは何かに気づいたように
「ミルク…?なるほど、そう言えばここは、牧場風でありますなあ」
ボーボが匂いを追ってやってきたところには、雌牛が草を食んでいた。
「はばらかべっちゃん…!でっけぇなあ…まるで山みたい」
初めて見る牛の大きさに、唖然とするガンバ。するとボーボが
「ミルク…ミルク…」
と、牛に近づいていく。それをガンバが慌てて止めた。
「あ、待てボーボ!気を付けろ、こんなのが牙をむき出してきたら一発だぞ…」
すると、その横をガクシャが
「ハハハ…まったく、ガンバはなーんにも知らないんですねぇ。これは、牛ですよ。牛」
と、皮肉な口調で通り過ぎる。
「牛というのは、草しか食べないおとなしい動物。牙なんかあるわけないじゃないですよ。ハハハ…」
と、自ら牛の口元まで近づいていくが突然、背中をその大きな舌でベロリと舐められて、ガクシャはビックリして飛んで帰ってきた。
「ね、恥ずかしい。全くガンバはなーんにも知らないんですから。本当に」
これには、ガンバも面白くない。
「んなこたぁ、知ってたよっ!」
と、ガクシャの耳元で怒鳴りつけた。一方のガクシャも負けていない。
「でしょうとも!山の登り方まで知ってらしたんですからね、ああたは!この足のマメは、どうしてくれるんですよ!」
憤然とガクシャが突き出した足を、ガンバはいつものひとかじり。悲鳴を上げるガクシャとガンバの間に、ヨイショが割って入るが二人の空気は険悪
なものに…
「よさねぇか、ふたりとも。くだらねぇことで、揉めるな」
「そういうこと。それよりよ、折角だ本物の牛乳ってやつを、ゴチになりやしょうぜ…」
イカサマの言葉を待たずして、ボーボが
「賛成!」
と、牛の乳房に飛びつく。仲間達は、それぞれが「本物の牛乳」を口にするが、乳房の数が一つ足らない。最後の一つを巡って、ガンバがガクシャを
突き飛ばすなどして取り合いになる。そして、勢い余ってガクシャにたいして攻撃したつもりがガンバは牛の乳房をガブッとかじってしまった。
「……!」
ビックリした牛は、大きな声を上げて暴れまわる。その声と迫力に、ガンバ達はその場を退散。離れた草陰から様子を伺った。
「あー、びっくりした…」
「カミナリみてぇな声だぜ…」
「やい、ガクシャ!やさしい動物だって言ったの、誰だい!」
「それゃ誰だって、オッパイ齧られたら怒りますですよ!」
再び、いがみあうふたりにイカサマが割り込んだ。
「チャラのサッ…と。もう、飽きましたよ。おふたりのケンカにゃねぇ…それよりどうでやんしょうねぇ、同じケンカするなら、あのモーモーちゃんを相手に
特訓、としゃれこんでみちゃ…」
「そうか!あの牛をノロイだと思って…」
「なるほど、そいつはいいや!」
「うん、グッドアイディアです!」
「賛成!やりましょう!」
仲間達がその気になる中、ボーボはちょっとためらった様子だったが…
「突撃―っ!」
ヨイショの号令で、彼らは牛に立ち向かった。それぞれが、足を持ち上げようとしたり揺れるシッポの房を攻撃したり、背中に乗ってみたり…そんな中
ボーボは目の前の乳房に飛びついてしまう。すると、さっきのこともあって神経質になっていた牛は、たちまち大きな声を上げて、暴れまわった。
彼らの「特訓」は、あえなく失敗。しかも、牛はその場に横たわってしまった。こうなると、どうしようもない。
「た、た、た…退却ぅーっ!」
ヨイショの号令で、退散。慌てて、安全なところまで退避したガンバ達。
「…手強いなあ」
と、ガンバは思わぬ苦戦に当惑顔。すると…何やらガクシャがお手製コンパスで、牛の身体を計っている。
「ん、よろしい!できた、できた!」
ガクシャは、仲間のもとに帰ってくると
「諸君、喜べ!たった今、我輩が大作戦を作り上げた。全ては頭脳、アイディアであるな。ただ闇雲に突っ走って、ひとの足にマメを作らせるような、
そんな単純なやつは、この際通用しないのであーる」
と、ガンバにマメだらけの足を突き出して皮肉を決め込むと、柵の上に上がって自慢げに「大作戦」を説明し始める。
「まず、ボーボ」
いきなりの指名に、ボーボはちょっとビックリした様子で
「あ、あい…」
「君は、穴掘りが得意だ」
「う、うん…」
「君は、眠っている牛を起こさないようにして、牛のそばに大きな穴を掘ります」
「うん、分かった…」
「次は、忠太君」
「はい…」
「君は、できるだけ牛の目の前に進んで得意の歌を歌ったり、チョロチョロと動き回ったりして牛の目を覚まさせます。怒った牛は、忠太をやっつけ
ようと立ち上がる。そして、そこへ登場するのがイカサマだ」
「ヘッ、おいでなすったな」
「イカサマは、ツツツッと牛の前に進み出て得意のダイス投げ…ヤッ!バチーンと、牛の目に命中。目が見えない牛ちゃんは、そこら辺を暴れだす。
そして、さっきボーボが掘った穴にドッカン」
ここで、一呼吸置いて
「そして、これからが肝心だ」
「うん、うん」
そろそろ…と、期待しているガンバとヨイショが身を乗り出す。
「まず、ヨイショが…」
「ウヒョーッ、おいでなすったーっ!」
「その怪力に物を言わせ、暴れる牛のシッポをムンズ。強力な武器でもある、大事なシッポを押さえられてさすがの牛は、モォー動きが取れない!」
ガクシャの駄洒落に、仲間が笑った後
「さて、いよいよ作戦は大詰めだ。動けなくなった牛に、トドメを刺すのは誰か?」
ガンバは、今度こそ自分が…と、身を乗り出す。
「それは」
「それは…?」
「シジンである!」
これには、ガンバも思わずガクッ。
「シジンは、牛に素早く駆け寄ると…ガブーッ!牛の最大の弱点、オッパイをひとかじり。たまらず牛はあえない最期…以上、ガクシャ大作戦おわり」
と、柵の上から降りてしまう。
「え…終わり?」
一方、ガクシャは自慢げだ。
「どうかね、諸君」
「いやあ、さすがガクシャだ」
「勝利間違いなしです!」
しかし、名前を呼ばれなかったガンバは、ガクシャに急き込んで言った。
「ち、ちょっと待ったー!あ、あのなあガクシャ、何か忘れてやいませんか?」
「はてね…おお、そうだ!大事なことを忘れていたである!」
再び、ガクシャは柵の上に登ると
「この作戦の総指揮は、このガクシャ様が執る!」
「いいぞ、大賛成」
「お前が立てた作戦だ、しっかりやれよー」
仲間達の声を遮るように、ガンバが大声を出す。
「そんなことは、どうでもいいよ!俺だよ俺、俺の出番はどこにあるんだよ?」
柵の上まで登って、ガクシャに詰め寄るガンバだが…
「おおガンバ、いたのか。君の役目は…これだ!この作戦の間じゅう、総指揮官ガクシャ様の疲れた足をマッサージすること!よいな!」
これにはガクッと、下に落ちたガンバだが
「嫌だ、嫌だ!そんなの嫌だっ!」
と、大声を上げるが
「言うことを聞けっ!我輩は、総指揮官であるっ!」
ガクシャに馬乗りにされた上に
「諦めなよ、指揮官殿は足のマメのことで、相当しつこくおめぇのことを恨んでるぜ」
「トホホ…」
イカサマに言われて、ガンバは渋々従いガクシャの身体をマッサージ。そして、準備は整った。

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