第14話 襲いかかる猟犬の群れ【1】

やはり、砂丘は危険が多すぎる。ガンバ達を連れ戻しに向かったヨイショ達だったが…
「あ…あの音は!」
シジンの耳が察知した通り、砂丘は黒い雲に覆われて激しい風が吹いていた。そして
「いかん、竜巻だっ!」
砂塵を巻き上げて、竜巻が砂丘を横断している。
「ガーンバーッ!」
なす術なく、ガンバの名前を叫ぶヨイショ達。一方…
「みんなー、死ぬ時は一緒だぞーっ!」
ガンバ達は、お互いのシッポを結び合って腹ばいになり、この激しい風をやり過ごそうとしていた。
「こうなりゃ、運をシッポに任すしかねぇぜ…」
イカサマの言葉通り、彼らにはなす術がなかった。そして、激しい竜巻の渦はシッポを結び合ったままの彼らを、空高く舞い上げた。
「うああああっ…!」

「だから…砂丘を渡るのは危険だって…俺達と一緒に来れば良いものを…何てバカヤロウだーっ!」
拳を叩き付け、ヨイショは涙声を震わせる。
「いや、馬鹿は我輩ですぞ!我輩が愚かだったばっかりに…ガンバ達を説得できなかったんですからな!」
その横で、ガクシャも涙声で悔しがる。
一方のガンバ達は、空高く舞い上げられたところで、結んでいたシッポが解けて彼らはバラバラに落下し始めた。
「おい、みんな目、開けてみろよ!」
ガンバの言葉に、彼らは恐る恐る目を開けてみると…
「うわあ…!」
そこには、滅多に見ることのできない光景…上空からのパノラマが広がっていた。彼らは状況を忘れて、思わず歓声を上げる。
「ねえ、誰が一番先に降りるか、競争しようよ」
忠太の無邪気な提案に、ガンバはちょっと顔をしかめた。
「馬鹿…このまま落ちてみろ、俺達はお陀仏だぞ…」
「ええっ…!じゃあ、どうしたらいいの?」
「水だ!水の上なら、助かるかもしれないぞ」
しかし、そう都合よく行かない。
「だって…水なんて、どこにも見えないよぉ!」
忠太の、半ば悲鳴に似た声にイカサマが
「諦めようぜ…所詮、俺達はネズミよ。コウモリじゃねぇんだからな」
と、腕組みしたまま開き直ったようなことを言う。
「くそう…」
このまま、地面に叩き付けられてしまうのか…?と、その時!
「あーっ、地図がーっ!」
忠太が背負っていた地図が、風圧で飛ばされてしまった。慌てて、イカサマが広がった地図を押さえる。同様に、ガンバがボーボが忠太がそれを
押さえ…何と、地図がパラシュートの代わりになった。思わぬことに、彼らは歓声をあげながらゆっくり空の散歩を楽しみながら地上に降りていく。
そして、その様子を好奇心にあふれた目で見ていた一匹の仔ウサギがいた。

その頃、麓の草原を駆ける影が三つ。ヨイショ達である。
「ねえ…一休みした方がいいですぞ」
足を痛めていて、少々バテ気味のガクシャが声をかける。
「ええ?しょうがねぇなあ…シジンはどうだい?」
と、ヨイショは少し不満顔。そして
「私なら、大丈夫」
シジンは、額の汗を拭いながら答える。
「お、おやおや…我輩は、シジンがしんどいだろうと思って、申し上げたんですけどね」
そういうガクシャが、一番荒い息をしている。
「さあ、元気を出せよ!カラス岳の麓に行けば、ガンバ達の手がかりがきっとつかめるって言ったのは、おめぇだぞ!何なら、俺たちだけ先に行って
 もいいんだぞ!」
ちょっと甘えた気持ちをヨイショに見透かされ、たしなめられてはガクシャも言葉がない。
「ええ…そ、そんな無茶な…んー、我輩も行きますぞ!」
彼らは、再び草原を走り出した。
一方、無事に砂丘を抜けて森の近くに降り立ったガンバ達は、木の実を摘んで腹ごしらえ。と、忠太の背後の繁みで物音がすると、手が伸びてきて
木の実を持ち去っていった。忠太は、たちまち震え出す。
「おい忠太、どうしたんだよ?」
「な、何か…いるんだよう…」
忠太は、震えながら繁みの方を指さす。
「ええ?…あっ!」
すると、背後の繁みから半分顔を出して木の実を失敬したのは…
「なーんでぇ、子供のウサギじゃねぇか」
イカサマの言葉に、敵を想像していたガンバは拍子抜け。
「ふーん、ウサギ…」
何てことはない相手に、ビクビクした忠太はちょっと照れ笑い。そして、ガンバはこれを機にカラス岳へ急ごうと立ちあがる。
「さあ、ヨイショ達より先にカラス岳を越えんだい。行くぜーっ!」
サッサと言ってしまうガンバ達に対して、ボーボは出遅れたばかりか、木の実を集めて両手で抱えて走り出す。そのボーボは、たださえ足が遅いのに
抱えた木の実を落とさないように気を取られ、さらに途中からあることに気付いていた。
「おい、何してんだよ、ボーボ!」
離れた場所から、ガンバがボーボに大声を出すが…
「でも…ちょっと待ってよ」
「何言ってんだよ、俺達は先急いでんだよ!」
「ん…でも、付いて来ちゃってるんだよ…さっきの仔ウサギが」
良く見ると、ボーボが抱えていた木の実が点々と落ちていて仔ウサギは、それを拾っては食べていたのだ。
「ん…ハハハ、分かったぜ。ボーボ、それそれ!」
ガンバにそのことを指摘されたボーボは、後ろを振り向くと
「あーっ!そうだったのか…拾ってこようっと」
と、こぼれた木の実を拾いに行ってしまう。これにはさすがのガンバも
「イイッ…調子狂っちまうんだよなあ…まったく」
そんなガンバをヨソに、ボーボは一心不乱に木の実を拾い集めるが、途中で抱えていた分を落としてしまう。
「ああ…僕ってどうしてこう、ダメなんだろうなあ…」
自分にブツブツ言いながら、拾い集めていたボーボは何かと激突。よく見ると、さっきの仔ウサギだ。仔ウサギもまた、怒られるのではないかと震えている。
「何だ、君だったのか。怖がらなくていいんだよ、坊や。さあ、お腹空いてんだろ?これ、あげるよ」
ボーボが怒り出さないのを見て、仔ウサギはケロリとした態度で
「ううん、ボク要らない」
「どうして?」
「だってボク、もうたくさん食べちゃったんだ」
「じゃあねぇ、早くお家に帰るんだね。迷子になっちゃうよ」
ボーボが優しく声をかけると、仔ウサギはあっけらかんとした態度で
「だって、ボクもう迷子なんだ」
「ええーっ!?」
「ねえ、それよりお兄ぃちゃん達コウモリなの?」
「違うよ…」
「じゃあ、何て鳥?」
「えーっ、鳥なんかじゃないんだよ。ネズミなんだよ」
「へーっ、ウソだいウソだい。だって、ボク見たんだよ。空を飛んでたじゃないか。空を飛ぶネズミなんて、聞いたことないや」
「あれはつまり…その…弱っちゃったな〜」
ボーボは、さっきのことが説明できずに困っていると、ガンバがやって来た。
「ボーボ!早くしないと、置いてくぜ!」
いささか、機嫌の悪いガンバにボーボが説明する。
「でもねぇガンバ…このコ、可哀想なんだよ。迷子なんだってさ」
いくら子供…それもかなり幼いようだがウサギはウサギ。身体はガンバの何倍もある。そんな仔ウサギを見上げたガンバは
「けーっ、でっけえ迷子…!」

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