第14話 襲いかかる猟犬の群れ【2】

地面に、家の近くの地図を書いて仔ウサギが説明する。
「んーとねぇ、ボクん家はね、こっちに一本杉があってさ、それでねドングリ林がこっちにあるの」
ガンバ達は、仕方なく仔ウサギ・ピョンを住み処まで送って行くことにしたのだが…
「それで、お日様はどっちから昇るの?」
「えーっとねぇ、こっち!…いや、えーと…あっちだよ?」
「えーっ、引き返すのかあ…ま、仕方がないか。送ってくぜ」
ガンバ達にとっては、不本意な行程になったがピョンの好奇心は、止まることを知らない。次々と、ガンバ達に質問を浴びせる。
「お兄ちゃんたちは、どうしてお空からやってきたの?どうして、お空に昇っていったの?」
「竜巻に巻き込まれたのさ」
ガンバが答えると
「竜巻って、なあに?」
「風の渦巻きのことさ」
「へえ、川の渦巻きとは違うの?」
「ああ。空の上まで、続いてんだぜ」
「いいなあ、ボクもいっぺんでいいから、乗ってみたいなあ」
すると、横から忠太が真顔で答える。
「ダメだよ。とってもこわーい乗り物なんだから」
「ねえ、怖いってどうしてなの?」
「どうしてって…目は回るしホコリだらけで、目なんか開けていられないんだ」
「へぇー、そうなの…」
と、突然繁みの中から鳥が飛び立った。突然のことにもガンバ達は思わず身を伏せるが、ピョンは慣れたもので
「ど、どうしたの…?」
警戒して伏せているガンバ達に、
「アハ、怖くなんかないよ。あれはね、キジって言う鳥なんだ。おとなしい鳥なんだよ…」
と、彼らに説明する。しかし…
「……!」
突然、周囲に銃声が響き渡った。そして、キジがガンバ達のすぐそばに撃ち落された!それに続いて、けたたましい声がこちらに向かってくる…
「こ、怖いよう…」
「犬だ!」
「それもよ、一匹じゃねぇぜ…!」
彼らの間に、緊張が走る…!
「くそう…バラバラに逃げたって、追いつかれてしまうぜ」
「ここはひとつ、俺とガンバで陽動作戦と行こうぜ…」
「よし、やってみよう…」
その間にも、猟犬たちが迫ってくる。このままでは、ピョンが危ない。
「さあ、ボーボと忠太はピョンを守って森の中に逃げろ!」
やがて、数頭の猟犬が撃ち落した獲物目掛けてやって来た。ガンバ達は、ピョンが発見されないように、陽動作戦に出るつもりで待機している。
「い、いいか…シッポを立てるんだ!」
ガンバの、緊張気味の声に
「と、とっくに立ててるぜ」
イカサマも、緊張を隠せない。やがて、彼らのそばまできた猟犬は別の獲物…ピョンの匂いに気付いたようだ。唸り声を上げて、ピョン達が
隠れている場所に近づく猟犬達…
「それっ!」
ガンバとイカサマは、一斉に飛び出して目の前をチョロチョロと走り出した。猟犬達は吠えまくりながらガンバ達を追いかける。命がけ、必死の
鬼ごっこだ。一方のボーボ達は、その様子をただ震えながら見ているしかなかった…
「……!」
どのくらいたっただろうか、突然辺りに人間の指笛の音が鋭く鳴り響いた。いつの間にかハンターがやって来ていて、獲物のキジを手にすると
猟犬達を呼び集めたのだ。ハンターはそのまま去っていき、猟犬たちもその後に続いた。こうして、危機は去った。
「へへ、うまくいったぜ…!」
彼らは、引き続きピョンの住み処を目指すことに。
「強いんだね、お兄ちゃん達って」
ピョンは、ますます興奮した様子だ。
「なあに、それほどでもないさ」
ガンバもちょっと得意げに答える。
「へへ、あんなのは朝飯前ってとこよ」
イカサマも、自慢げに言う。
「へえ…もっとお話してよ!」
「そうさなあ…俺達が、ザクリ島で黒ギツネをやっつけた時なんざ、とてもこんなもんじゃなかったぜ…」
イカサマが、ちょっと興奮気味に話した。

やがて、向こうに大きな杉の木が見えてきた。
「坊や、一本杉ってのは、あれかい?」
「うん」
「さあ、もう独りで帰れるだろう?
「うん」
「じゃ、ここでおさらばだ。元気でな…」
すると、突然ピョンは悲しそうな表情になった。
「どうしておさらば?」
「ええ!?いや…俺達、寄り道しているヒマなんてないからさ…」
「どうして?どうしてヒマないの?どうして!?」
ついに泣き出してしまったピョンに、ガンバは上手い言葉が見つからない。
「どうしてって…弱っちゃったなあ…」
すると、横からイカサマが
「ガンバ…ちょっと寄っていってやろうぜ…坊やのオフクロだって、礼の一つだって言いてぇだろからよ、な?」
更にボーボも
「それに僕、お腹が空いちゃったんだ…」
先を急ぎたいガンバは、表情を曇らせたが
「ええ…?んー、よし。じゃあ、ホンのちょっとだけだぞ?」
すると、ピョンの表情が一変する。
「ホント?うわーい!うわーい!」
無邪気に飛び跳ねて喜ぶピョンにガンバも
「嬉しいか?そんなに嬉しいか?ハハハ…」

「へぇー、すごいなー」
「そうなんだ。あのお兄ちゃん達はな、空も飛べるし犬だってやっつけちゃうんだから…」
ピョンは、興奮気味に自分が見てきたことを兄弟に話して聞かせる。
「うそだーい、ネズミが犬をやっつけられるわけないじゃないかー」
兄弟から抗議の声が上がっても、ピョンは意に介さない。
「ホントなんだってば。ボク、この目でちゃんと見たんだよ。このお兄ちゃん達はな、これから山の向こうの遠いとこに出かけてって、
ノロイと言う悪いイタチをやっつけるんだってさ。ボクも一緒に連れてってもらって、おお暴れするんだ。エイッ、ヤア!トウ!」
その気になって、独りはしゃぐピョンを見て母親ウサギは
「まあまあ…あの、ピョンがあんなことを言ってますけど、まさか…?あの…」
と、不安げな表情を見せる。
「でぇじょうぶ。あっしに任せておくんなせぇって」
自信ありげに、イカサマはその場を離れて独り張り切るピョンのもとに。
「あー、坊や…」
「オッケー、なあに?」
「ちょぃと、坊やに話があるんだ」
無邪気に駆け寄ってくるピョンに対して、イカサマは懐手のまま
「なあ坊や、悪りぃけどよおめぇを連れて行くわけにゃ、いかねぇんだよ…」
「どうして?」
たちまち、ピョンは半べそ状態に。
「ん…つまりよ、おめぇには家もあれば、おっかさんもいる。あっしらとは、ちょっと違うのよ」
「どう違うの?どうして、どうして、どうして?」
ちょっと斜めを向いて、わざとピョンと視線を合わせないような格好で答えるイカサマ。しかし、この「ニュアンス」をピョンが理解できるわけもなく
泣いてますます駄々をこねるので、イカサマは返事に困る。
「どうして、どうして、どうして!?ボクが嫌いなの?」
「い、いやそうじゃねぇって。でぇ好きよ。でもなあ…ここが旅人の辛れぇところでよ…その…」
「いやだ、いやだ、いやだーっ!」
とうとう、ぴょんは泣き出してしまう。
「ご迷惑なんですよ。ピョン、聞き分けのないことを言わないで…」
母親に宥めすかされても、なお母親の胸で泣いて駄々をこねるピョン。しかし、ガンバ達にとってはこれ以上グズグズしていられない。
「何とお礼を申し上げたら良いか…本当にありがとうございました。ささ、ご挨拶なさい」
しかし。ピョンは母親の胸にすがって泣くばかり。
「いやだ、いやだい…」
その様子を見て声をかけそびれていたガンバは、イカサマに促されて
「じゃあピョン、元気でな!」
彼らは、別れを告げると走り出した。
「お兄ちゃんたち、ひどいよー。そんなのないよーっ」
あくまで泣いて駄々をこねるピョンに、ちょっと後ろ髪引かれる感じはするが、ガンバ達はカラス岳山頂を目指して再び走り出した。

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