テレビ化が決まってそのキャラクターをもうひとひねり、と言うことになりましたが、出崎さんが最初に書かれたイメージに近いものになりました。
キャラクターの中で、最も苦労したのはイカサマとガクシャです。名前から個性的で、限られたイメージのキャラクターでしょう?
そのイメージが、前面に出すぎたキャラでは面白くないし、月並みになるだけだし。まあ、他のキャラクターに匹敵するキャラになったと
思っています。また、シジンはどことなく自分に似ていて、愛着がありますね。
作画面では、出崎さんの絵コンテにこちらが引っ張られるような形でした。絵の非常に上手い人で、こちらもずいぶん参考になりましたよ。
白と黒を多用して、コントラストをはっきり出したのは、出崎さんの要求によるものです。
ガンバが、全体的に絵がきれいで画面が決まっているように見えるのは、東京ムービーとして初めて、レイアウトシステムを導入したことが
あると思います。そして、スタッフが日本の児童文学のアニメ化、と言うことで張り切っていた作品でした。
実際のネズミやイタチの動きも研究しましたが、アニメではそれらとは違った動きを出しました。イタチなんか、実際は頭を持ち上げて
クネクネと走るんですが、それを絵にするとどうもコミカルすぎて、悪役としての迫力が出ない。
ネズミの走りも、身体いっぱいにスピーディーに走る様を表現するのに、2コマ3枚と言う作画方法を使いました。
印象に残っているのは、自分が手がけたのでは第23話のラスト。雨の中、イカサマが泣きながら太一を殴り続けるシーンですね。
長いカットでしたが、自分自身ああ言う暗いシーンが好きなので、念入りにやりました。また、自分はほとんど手がけていないのですが
最終回のラストでノロイが海から上がってくるシーンはすごいですね。
ガンバには「山での冒険」という、続編の構想があったのですが、実現しませんでした。でも、ああいう「冒険もの」は、年齢や世代を超えて
読み継がれていくものだと思いますし、ガンバの冒険もそれを見た子供達が、大きくなってその作品を覚えていてくれればと思います。
絵物語「ガンバと15匹の仲間」について 「エスカリア」誌より
ガンバがアニメ化される前、読売新聞日曜版に「冒険者たち ガンバと15匹の仲間」という絵物語が、連載されていたことがありました。
これについて、当時制作に携わっていらした辻 真先氏のインタビュー記事を要約すると…
連載の経緯は、当時の新聞社文化部次長の方と、東映動画のスタッフが知り合いでお話が持ち上がり、原作者の方とも打ち合わせを重ね
こういう場合では異例ですが、八丈島までロケハンに行きました。
当初、連載は「何回まで」と期限を切らず、大河連載つもりで準備をしたのです。それというのも、東映動画としては「いずれ自分のところで
アニメ化を」と、考えていたのでしょう。
ところが、連載開始直前になって東京ムービーがテレビ化権を取っていると知りましたが、その時点ではまだ本決まりではなかったし
もしかしたら(話が)流れるのでは?と言うことで、半ば見切り発車で連載をスタートさせました。
しかし、それから東京ムービーでのアニメ化がスタートしたため、東映動画としては無理に連載を続ける必要性がなくなったのです。
同時に、新聞社側も人事異動などで紙面の刷新が図られることになり、結局打ち切りという形になりました。
最終回は、尻切れトンボで終わらせるのも何だと、無理やりストーリーを詰め込んだので辛い思いをしながら、文章を書いたのを覚えています。
また、作品の制作にあたっては原作を出来るだけ尊重しながら、キャラクターについてはややマンガチックになりながらも、
ストーリーによって絵を変えたりその構図をいろいろ考えたりと、丁寧な仕事を心がけたので、打ち切りになったことは残念でした。
「早瀬川の唄」についての考察
「エスカリア」には、原作者の斎藤惇夫氏への書面による質問も載っているが、内容的にあまりにシンプルで…(笑)
ただ、一つだけ気になった一文があり、早瀬川の唄には何かモデルがあるのかと言う質問に対して、斎藤氏は
「八丈島伝承の歌がヒントになっている」
と、お答えされています。
斎藤氏が、作品を書く前に取材に訪れていたのが八丈島であることから、ノロイ島のモデルが八丈島であることは、周知の事実ですが…
その「伝承の歌」とは?
早速、ネットで調べてみました。そして!ここに、その検証結果を発表します。
まず、早瀬川の唄の歌詞について…(テレビで放送されたものを基準に)
そろた そろたよ なかまが そろた いちねん ぶりに またそろた
おどり おどらば あのこと おどれ あかい そてつの さくしたで
むすめ ほしけりゃ およいで わたれ ねんに いちどの はやせがわ
わたれ わたれよ いそいで わたれ つきが みちた そのひのうちに
次に、八丈島の歴史について…昔(鎌倉時代頃と思われる)一つの島に、男女が一緒に住むと海神の祟りがあると言うので男女は
男ヶ島(おがしま:現在の青ヶ島)と女護ヶ島(にょごがしま:現在の八丈島)に別れて住んでいたと言います。
そして年に一度、男ヶ島から南風の吹く日に男達は、女護ヶ島へとやって来たのです。
そして、島には「ショメ節」という、民謡があるといいます。これは、盆踊歌・酒宴歌で歌詞は即興で、その時の気持ちを唄ったといいます。
そのため、ある方がショメ節の歌詞を集めてみたところ、250以上の歌詞があったそうです。
そして、ショメ節の歌詞は「七・七・七・五」調で(多くの民謡がそうですが)あるが、特に七の部分が「三・四」「四・三」「三・四」となっています。
それを踏まえて、もう一度「早瀬川の唄」の歌詞を見て下さい。このショメ節にスタイルに良く似ています。
年に一度の逢瀬・その季節・唄のスタイル…これらから、この「早瀬川の唄」は、八丈島の「ショメ節」が、モデルであろうことは
まず間違いないでしょう。
ちなみに、唄の「合いの手」はショメー・ショメーと言う言葉で、それを楽譜にまとめたものを見る限り(私は、オタマジャクシには弱いのですが)
メロディーは異なるようです。
なお、参照したいくつかのサイトについては、ここにURLを貼り付けるわけにもいきませんので、省略します。
ただ、検索エンジンで「八丈島」「ショメ節」といった語句で検索すると、それらしいサイトが見つかると思います。
とりあえず…
長々と、駄文にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
「ガンバの冒険」について、これだけダラダラと書き連ねた愚か者は、他にはいまいと思いつつ…
また、何か見つかったらダラダラ書き出すでしょう(笑)
アニメの初回放映から、30年が経過しました(歳取ったわけだぁ…)テレビでのガンバ達の冒険は、たった半年の短いものでしたが
未だにファンの心を捉え、新しいファンを増やしています。その魅力については、私が駄弁をふるうまでもないでしょう(笑)
出崎氏の作品には、キャラクターが「旅立っていく」ラストが多いように思います。ガンバも例外でなく、終わりなき旅に向かって行きました。
今でも広い海の片隅で、シッポを立てて旅を続けているであろう「冒険者たち」に、幸あれと願いつつ。