第1章§冒険の始まり

1.「ちいさな」決闘

昼も夜も人の絶えない、とある繁華街。
大小のビルが、雑然と建ち並んでいる谷間にある、人間の目に付かない狭く小さな場所に、ネズミだかりができていた。
「これから、町ネズミのルールに従って、決闘を行う!」
ザワザワと騒がしい空気を振り払うかのように、一匹のネズミが声を張り上げた。
「これは!町ネズミの名誉と、誇りを賭けた闘いで…!勝敗に文句を付けたり…」
立会い役であるネズミが、決闘の前に両者に確認する意味を兼ねて、大きな声を出すがそれを周囲の罵声がかき消す。
「へっ、グチャグチャ言うなよ。文句を付けたくても、死んだら何も言えまい?」
がっちりした体格のネズミが、腰に両手をあてた格好でニヤニヤ笑いながら、立会い役に言った。
立会い役は、もう片方のネズミを見た。こちらは、対戦相手としては小柄で、相手になるのかと思ってしまうほどだ。
でも、戦闘意思は相手に負けていない。
「では、両者…こちらへ!」
立会い役に促されて、ふたりは歩み寄るとお互いに睨み合った。
ふたりの間に、見下すような冷淡な視線と、ありったけの憎悪を集中させた視線が激突する。
「…分かったな?」
立会い役の言葉など、ふたりの耳に入るはずもなかった。
“フフフ…今度こそ、おめぇの息の根を止めてやるぜ。しかし、一撃で仕留めねぇぜ。じっくりと、なぶり殺しにしてやる!”
体格のがっちりしたネズミ…ロックの眼が、相手に告げると
“ヘッ、今度と言う今度は、てめぇのその、いじけたシッポを噛み切って、ボスとして…いや、ネズミとして再起不能にしてやるぜ!”
相手のネズミ…ガンバの眼も、負けずにやり返す。
「おい、いつまで待たせるんだ!いい加減に、始めやがれ!」
無責任な野次が、次第に大きくなる。
「俺は、いつでもいいぜ。ただよ、ガンバもおめおめ町を出て行くのは辛いだろうし、そのついでに、あの世まで送ってやるぜ」
ロックの挑発に、ガンバはただ、じっと相手の顔を見ていたが
「フン、言うだけ、言ってな…」

町に生きるネズミたちには、彼らなりの『ルール』がある。今回の決闘は、ネズミ同士の『ルール』を巡るイザコザが、発端だ。
それは、最も単純で昔から繰り返されてきたことで、要するに縄張り争いであるが…
「んな、単純な話じゃねぇっ!」
ふたりは、声を揃えて言うだろう。そう、ふたりはこれまでお互いのエリアを巡って、殴り合いの喧嘩を何度したことか…
その結果を巡って、報復合戦はエスカレートして、他のエリアまで巻き込むに及んで、とうとうリーダー格のネズミが立ち上がった。
「ふたりは決闘を行って、敗者はこの町を出て行き、勝者は二度とこの町でイザコザを起こさないことを、宣誓しろ」
これに逆らったところで、彼らには何の利もない。
“こうなったら、奴と白黒付けてやる!”
お互いに、自分が負ける気などこれっぽっちもない。むしろ、大勢の前で相手のことを叩きのめして、決着を付ける気で満々だった。
「決闘は、武器を一切使わないこと。それ以外は、殴る・蹴る・噛み付く…何でもありだが、股間の急所への攻撃・目潰し・背後からや
 背後に手を回しての攻撃は、禁じ手だ。決着は、どちらかが完全に立ち上がれなくなるか、ギブアップを宣言したらだ。禁じ手を犯したら
 故意・偶然に関わらず即、失格だからな」
“奴を叩きのめすのに、禁じ手なんて必要ねえや!”
野次馬連中は、決闘の場の周囲の建物の壁や、配管や、付属物に鈴なりになって、決闘の行方を見守っている。
「始めろ!始めろ!久しぶりの決闘なんだぜ!」
「早いとこ、ガンバを血の海に沈めちまえ!」
「ガンバの身体を、ビルより高く吹っ飛ばしてやれ!」
「ロックの鼻っ柱を、齧り倒してやんな!」
「その拳で、ロックの腹の皮を突き破って見せろ!」
野次の応酬が激しくなって、場はますます騒がしくなってきた。
「最後の確認だ…決闘の意味と、ルールを、分かっているな?守るな?」
立会い役は、この言葉にうなずくふたりの眼をジッと確認すると、軽くうなずいた。
「では、皆は手を出すな!手を貸すな!ふたりとも、始めっ!」
立会い役が、精一杯の大声で戦闘開始を宣言すると、場のボルテージが一気に上がる。
肝心のふたりは、構えたまま睨み合ったままだが、お互いの背中から憎悪や闘志や…様々な感情が、炎のように立ち上っていた。

先に動いたのは、ガンバだった。猛然と、ロックに向かって突進して行った。ロックは両手を広げて、ガンバを捕まえようとする。
ガンバは、それにはお構いなしに突っ込んでいくが…突然、膝を曲げてしゃがみこむような姿勢を取った。
「……!」
次の瞬間、ガンバの頭上スレスレのところを、ロックの右足がかすめていった。ロックは、ガンバを引き付けて蹴りを喰らわすつもりだった。
それを読んでいたガンバは、ロックがバランスを悪くした瞬間を狙った。
「でぇいっ…!」
ガンバは飛び上がってロックの胸倉をつかむと、全体重でそのまま押し倒した。そしてロックの身体に馬乗りになり、力任せに顔面を殴った。
場が、一気に興奮のボルテージを上げる。だが…
“こいつ…何、落ち着いてやがる?”
いつもなら、力ずくで引きずり降ろそうとするのに…ふと、ガンバの手が止まった。
「どうした?もう、終わりか?」
やられている側のセリフとしてはふてぶてしいこの言葉に、ガンバはなおも攻撃しようとしたが、ロックが身体を動かしたので思わずバランスを崩した。
「……!」
次の瞬間、周囲に鈍い音が響いて、ガンバの身体が吹っ飛んだ。やや、不利な体勢からの一撃ではあったが、ロックのパンチがガンバの顔面に炸裂したのだ。
「うっ…く…」
ガンバは、倒れこまずに必死に立ち上がるが、ロックの立ち直りも早かった。ガンバに体勢を整える暇を与えず、目の前に立ちはだかった。
「やってくれるじゃ、ねえか?」
ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべると、ロックは右の拳を突き上げた。それが、ズドッと鈍い音を立てて、ガンバのボディーに突き刺さった。
「う!ぐ…えっ…!」
一瞬、ガンバの身体が宙に浮き、そのままドサッと倒れ伏した。ロックは、苦しい表情でうずくまるガンバに近寄ると、右手で襟首をつかんで持ち上げた。
「ヘヘ、いい顔だな…もっと、いい面にしてやるぜ!」
なおも、ロックは左の拳をボディーに放った。しかし、ガンバは必死でそれをかわすと、空を切った相手の二の腕に前歯を突き立てた。
「ギャッ…!」
今度は、ロックが苦悶の表情で左腕を押さえて、うずくまった。


『ガンバ…また、ケンカしたの?』
『ああ…』
『うわっ、ひどい顔…』
『うるせえなあ、ボーボ…こんなの、2〜3日で元に戻るって』
『そうじゃあないよ。こんなことしてたら、ガンバ、死んじゃうよ…』
『チェッ、縁起でもねぇ!ロックのパンチくらいで、死にゃしねえよ』
ボーボというのは、ガンバの幼馴染だ。
身体は、ロックに引けを取らない大きさだが…いわゆる『でくのぼう』で、いろいろな面でガンバと好対照である。
ガンバにしてみれば、ボーボは放って置けない存在で、ボーボから見ればガンバはいろいろ頼りになる存在だ。
ふたりを、町ネズミたちは『親友』と言う間柄で見ていた。
『あんな、シッポの腐った奴…!』
ロックと言うのは、札付きのワルで通っていた。その腕っ節で、不良どもを束ねてボスを気取り、他のネズミ達とイザコザを起こしていた。
町のリーダー格のネズミたちは、何度かロックを裁こうとしたが、肝心の被害者がその場に出てこない。みんな、ロックを悪者にすることによって
後から報復されるのを恐れ、尻込みしたのだ。
『何だい、だらしのねえ!』
ここで、引っ込まずに立ち向かったのがガンバだった。たちまち、彼らはいがみ合う。ある時、派手に殴り合いをしていたところを、リーダー格に取り押さえられた。
ふたりはリーダー格のネズミたちを前に、二度とケンカをしないことを約束させられ、とりあえず握手を交わした。
しかし、これで少しはケンカの抑止力になるだろうと言う、リーダー格たちの考えは、いともあっさり裏切られた。
3日と経たずに、ふたりはケンカを起こす。
『こんなことになったのは、おまえのせいだ!』
そして、ロックがボーボを連れ去るという手を使い、ガンバに降伏を要求したことで、また派手な乱闘を演じて、ガンバがロックを叩きのめした。
一方、ロックは八つ当たり的に町中で暴れだすし、ついにリーダー格達も、堪忍袋の緒が切れた。
『ガンバ、どうしてもやるの?』
『あったりまえだ!ボーボ、お前だってひどい目に遭ってるだろう?あいつとは、何度もケンカしたけど、今度は違う。お互いに、町ネズミとしての自分を賭けた
 闘いなんだ!分かるだろう?』
ボーボは、ガンバの目を見たらその後の言葉が、出なくなった。本当は、ガンバを止めたかったのに…


ガンバは、すぐにでもロックに襲いかかりたかったが、思ったより腹が痛む。
“くそう…”
一方、ロックがすぐに動かないのを見て、ガンバは少しずつ距離を縮めていった。
「…おっと!」
ロックは、不意を突いて右を繰り出してきたが、ガンバはそれを読んでいた。ヒョイと避けたが…痛むはずの左が、思ったより勢い良く伸びてきた。
「わっ…!?」
ロックの左手が、ガンバの足をつかんだ。バランスを崩したガンバは、仰向けに倒れてしまった。たちまち、ロックの右腕がガンバの胸倉をつかんだ。
“し、しまった!”
慌てて、その手を振りほどこうとするが、逆にロックの右手は喉の辺りを絞め始める。さらに痛む左手を添えて、ガンバの身体を持ち上げ始めた。
「う…ぐぐ…ぐうっ…」
たちまち、ガンバの表情が歪んで顔が赤くなってきた。
「勝負あった!」
野次馬から声があがるが、立会い役はガンバの様子を窺っている。
“まだ、抵抗する気力は、あるようだが…?”
すると、何を思ったかロックは、急に手を緩めてガンバをその場に落とした。野次馬がどよめくが、ロックはニヤリと笑って腰に両手を当て、ガンバを見下ろす。
「……!」
次の瞬間、ズドッと鈍い音を立てて、ロックの蹴りがうずくまるガンバの腹に入った。ガンバの身体は、地面を数回転すると仰向けになった。
「ゲ…ゲホッ、グホッ…グ…ウウウ…」
もはや、これまで…ロックが、ガンバの傍らに立ちはだかった時、その場にいた者たちは、誰もがそう思った。その中で、立会い役だけは冷静だった。
“…まだ、眼は死んでいない”
ロックがガンバの身体を持ち上げようとした時、ガンバは上半身をいきなり起こすと、ロックの鼻っ柱に頭突きを喰らわせた。
この不意打ちに、ロックの身体がのけぞって両手は鼻を押さえるのに、集中した。
“今だ…!”
ガンバはシッポをバネに伸び上がると、がら空きになったロックの顎を目がけてパンチを放った。全体重を乗せたガンバ渾身の一撃に、周囲に鈍い音が響き渡ると
ロックの身体は宙に浮き、仰向けに倒れた。
一方、ガンバも踏ん張る力がなく、ドサリと倒れ伏した。両者ダウン状態になり、場は静まり返った。このまま、両者共に…?
「……!」
場がどよめいたのは、ロックが凄まじい形相で、頭を持ち上げたからだった。必死の顔が、口や鼻から流れる血で凄まじさを増している。
そして、ガンバが足元に倒れているのを見ると、凄まじい表情で身体を持ち上げ始めた。
「み…見ろっ!」
ロックが起き上がろうとするのに呼応するかのように、ガンバも立ち上がり始めた…!ふたりは、じりじりと身体を持ち上げ、まずロックが震える足で立った。
ついで、ガンバも気力で身体を支えながら立った。両者は、しばらく動かずにいたが…
「……!」
ロックが口からブッと血を噴き出すと、その場にドサリと仰向けに倒れた。立会い役が、ロックの様子を見たが、完全に白目をむいて失神状態だった。
「勝負あり!勝者、ガンバ!」
一瞬、静まった場に立会い役の声が響くと、場はドッと沸いた。だが…
「野郎!生きて帰すな!」
「ガンバを、叩き殺せ!」
案の定、ロックの手下が騒ぎ出した。止めようにも、パニックになった野次馬が邪魔で大混乱に。当のガンバは、もはや逃げる気力はない。
呆然と立ちつくしていると…
「こっちだ、早く来い!」
雑踏の中から、誰かがガンバの手を引いた。

トップへ

2.海って、何だろう

ガンバが意識を取り戻したのは、あの激闘から3日後のことだった。
「……」
ぼんやりとした視界いっぱいに、ボーボの顔があった。ボーボは、ガンバがいつ意識を取り戻すのかと、ずっと顔を見ていたのだ。
「ガ…ガンバ…」
泣き出しそうな声で、絞り出すように名前を呼ぶボーボに、ガンバはいつもの調子で、応えようとしたが…
「……!」
ガンバを、激痛が襲った。だが、包帯で全身を巻かれていて、思うように身動きが取れない上に、あまりの痛さに声も上げられない。
「ガンバ、ガンバ!」
オロオロしたボーボが、悲鳴に近い声を上げたのを合図に、住処に別のネズミが入って来た。
「どうやら、気がついたようだな?」
「ア…アカハナさん…ガンバが、ガンバが…」
アカハナと呼ばれたネズミは、ボーボに笑って見せるとその場からどかせた。そして、ガンバの顔を覗き込んで
「何、傷の手当てはしてある。その痛みは、馬鹿なことをした代償だ」
ガンバは、何か言おうとしたが、声にならない。
「その様子なら、あと2日で動けるようになるな。また来よう」
アカハナは、そう言い残すと住処を出て行った。そして、その言葉どおり2日後には、起き上がれるようになった。

「ガンバ、私は町のリーダーのひとりとして、お前に言っておくことがある」
アカハナは、真剣な顔でガンバに話し始めた。
「知ってのとおり、決闘の勝者であるお前は、もう二度と仲間とイザコザを起こしてはならない」
「…分かってるよ」
「ロックは町を出て行っても、お前とそりの合わない連中が、全ていなくなったのではあるまい?」
ガンバは、ムッとした表情を見せた。
「何が、言いたいんですか!?」
町ネズミは、ある歳になるとエリアを持つがどうか、選ぶことになっている。エリアを持つということは、部下を統率し、ルールを守り、町ネズミ社会の発展に
寄与することを意味する。その元締めが、アカハナ以下5匹の『リーダー』である。
「ガンバ、お前はエリアを持たされて以来、何かとイザコザを起こして来たな…」
「それは…」
「確かに、ロックの行動は目に余るものがあった。しかし、お前が火に油を注いでいたことも、また事実だろう?」
親を亡くしたガンバにとって、アカハナは父親代わりの存在だった。
「ロックは…?」
「昨日、町から出て行ったよ。部下と一緒にな」
“この次は、俺に町を出てけって、言うんですか?”
ガンバは、腹の中でアカハナに噛み付いた。アカハナは、ガンバの表情からそれを読み取ったように
「決闘のルールが、なぜああなっているか…それは、敗者は町から出て行き、勝者には秩序の足枷せをはめる…全ては、町ネズミの社会の秩序を守るためだ」
ガンバの表情は、ますます面白くない…と、言っている。
「町には、いろいろ危険がある。人間にネコにカラスに…秩序を乱す行為を許したら、それらにやられて、我々は生きていけないんだぞ」
ガンバは、黙ったままだった。
「お前の親父も、ケンカっ早い方だったがな…だが、町ネズミとしてのルールはきちんと守ったものだぞ」
ガンバは、アカハナから顔をそむけた。
「まあ、今ここでとやかく言っても、仕方があるまい。ただ、これだけは言っておくが…もし、今後お前が仲間とイザコザを起こすようであれば
 私の名においてお前を、この町から追放するぞ。これは、脅しでも何でもないからな。覚えておけ」
アカハナは、いつになく厳しい口調でガンバに告げると、出て行った。
「チェッ…」
アカハナの姿が見えなくなると、ガンバは舌打ちした。正直、ガンバはロックとのイザコザにウンザリしていた。とは言え、いればいたで奴は目障りだ。
無視しようとしても、向こうがうるさい態度を取る…
だから、あいつをこの町から体良く追い出す方法として、決闘をしたのだ。ロックさえ町からいなくなったら、あとは野となれ山となれ…と、言うつもりでいた。
しかし、今度は逆らいにくい存在が厳然と立ちはだかった。


決闘から一週間後、ガンバはロックの『エリア』だった場所に行ってみた。
その場所は、想像した以上に静かだった。アカハナの話では、ここは空白になっていていずれ誰かにエリアを割り振ると言うが…
「何て…ことだい」
ロックとは、いつも殴り合いのケンカをしていた。ロックを叩きのめすこともあれば、パワーに負けてズタズタにされたこともあった。
そのケンカの場は、ネコのたまり場になっていた…
「はあ…」
ガンバは、空しい気持ちで町をうろついていた。そして、町の真中を流れる大きな川のほとりで、ぼんやり川面に映る自分の姿を見ていた。
「……!?」
と、背後に気配を感じて、振り返った。そこには、見慣れない顔のネズミがいた。歳は自分より少し上だろうか…
「だ、誰だい?」
ガンバが誰何すると、相手は名乗る代わりに
「へへ、すっかり治ったようだな」
まるで、事情を知っているかのような口調で言った。
「えっ…?」
いぶかるガンバに、相手は続ける。
「まあ、あん時はああなるんじゃないか、って思ってたけどね…」
「あん時、って…あっ!?」
ガンバの頭の中で『あん時』と言う言葉と、相手の声が結びついた。

『こっちだ、早く来い!』

相手はその通り、と言う顔でニヤリと笑った。
「あ…助かったよ。あの時、俺は動けなかったし…」
ロックを倒して決闘に勝利したものの、ロックの手下たちが襲い掛かってきた。ガンバは抵抗することも、逃げることもできなかった。
すると、野次馬連中の中から誰かが、ガンバの手を引いて、かくまってくれたのだ。
「まあ…とっさだったし、袋に押し込んじまったけどさ」
相手も苦笑して見せた。その後、彼はその袋を担いでトンズラした。ガンバは、その間に気を失ったので、何も覚えていないが…
「例の立会い役が戻った場所へ、袋を置いていったのさ。あそこへ置いていけば、まず無事だろうってね。あとは、お任せさ」
「そ、そうだったんだ…」
ガンバは、ちょっと照れくさそうに笑った。
「それにしても、町ネズミにしとくのがもったいねえな」
突然、相手は変なことを言い出した。
「……?」
「お前…ガンバって言ったっけ。海を見たことが、あるかい?」
「う、み…?」
「そう、海さ。こんな狭っ苦しいところでなくて、とてつもなく広く、大きく、冒険に満ち溢れた場所さ」
自分にとって世界の全てである町を、狭っ苦しいと言われて、ガンバは面白くなかったけど、海を知らないので黙っていた。
「どうだ、海に出てみないか?こんなちっぽけな場所で、同じ相手とケンカしていても面白くないだろう?」
「んなこと…」
ガンバは『ねえよ!』と、言い切ることができなかった。
「まあ、今すぐ来いとは言わねえけどよ…来て見る価値はあるぜ」
「い、行くのはいいけど…海って、どこにあるんだよ?」
すると、相手は川を指さして
「その川を、ずっと下って行くのさ。川はいずれ、海に出る」
ガンバには、汚く臭い川と海とが、結びつかない。だから、疑わしい目で相手を見た。
しかし、相手は動じることなくガンバを見ている。
「どうせ、町に居づらいんだろう?」
図星を刺されて、ガンバはうろたえた。とっさに、否定も強がりもできなかった。
「な、なぜ…」
「なぜ、分かるのかって?そりゃ、あれだけ派手なケンカができるほどの奴が、秩序とやらに縛られるわけがないぜ。
 つまりよ、勝っても負けても両成敗で、辛い目に遭うのが、あの決闘の『暗黙のルール』ってわけじゃねえのか?」
ガンバは、今になって徐々に分かりかけてきたことを、ヨソ者がすっかり理解していたことに、ショックを覚えていた。
「う…うるさいなあ…」
すると相手は、くるりと背を向けると去りざまに
「来たくなったら、いつでも来なよ。港で、待ってるぜ。それから、俺はシャドーって言うんだ。覚えといてくれ」


「なあボーボ、お前は海って知ってるか?」
唐突な問いに、ボーボはきょとんとした顔で
「…知らないよ。ガンバは、知ってるの?」
「知らねぇ」
「ガンバが知らないこと、おいらが知ってるわけ、ないじゃないか…」
会話は、一旦そこで途切れて沈黙が続いた。
「なあ…その海ってやつを、見てみないか?」
「やだ」
「何で?」
「だって、海ってどこにあるのさ?すぐ近く?ずっと遠く?」
「この川を、下っていけば…」
「いつ着くの?」
ガンバは、うるさいな…と言う顔で黙った。すると、ボーボが呟いた。
「…海には、美味しいものがあるのかなあ」
「あ、ある!あるって!」
「どんなのが?」
「そりゃ…魚とかが…食べきれないほどいて、赤いのや、青いのや、黄色いのや…」
苦し紛れの言葉だったが、ボーボの目に変化が現われた。
「ふうん…海、かあ」
「そ、それにさ、一目見るだけでいいんだ。何も、海のそばで暮らそうなんて…俺は、町ネズミだもん。すぐに戻ってくるさ」
ガンバは、急き込んでボーボに言った。
「ガンバ…本気で行く気なんだね」
「えっ?」
「だって、ガンバがそうやって早口になる時って、本気になった証拠だもん」
「……」
ボーボから鋭い指摘を受け、ガンバはちょっと複雑な顔をしたが
「あ、ああ。本気さ…本気で行く気だぜ。俺はよ」
「分かったよ。でも、海を見たらすぐに帰るよね?」
「へっ、そうこなくっちゃ!」
「でも、今からじゃ遅いと思うよ…」
「んっ…?」
ボーボが指さした方を見ると、ビルの谷間に真っ赤な夕日が沈もうとしていた。

2日後の朝、ふたりは用意した舟(人間流に言えば、発泡スチロールの容器)に乗って川を下っていった。特に、誰にも言わずに…
「アカハナさんには、言っといた方が良かったんじゃない?」
「なあに、構わないさ。海を見たって、土産話をすりゃ十分だよ」
川の流れに任せて、二人の『珍道中』が始まった頃…
「ガンバとボーボが、消えたって?」
アカハナの元に、一報が飛んでいた。
「町を、出て行ったんでしょうか?」
「さあな…すぐに帰ってくるかも知らんし、このまま帰ってこないかも知らん」
アカハナは、大して驚きもせず、慌てることもせず、笑っていた。
『ガンバ…お前は知らないだろうが、お前の親父と俺は、若い頃に放浪していたことがあった。そこで、いろいろと冒険をしたものだ。
 そして、俺は町に戻ったが…あの時の経験が、今の俺を作ったんだ。ガンバ、お前もこの町を飛び出して、経験をして来い。
 冒険を重ねて、大きくなって帰って来い。おまえなら…』

トップへ

3.港町にて

ガンバとボーボが、町を離れて一週間が経った。
その間、ひたすら川の流れに任せて下っていたふたりは、舟が大破転覆したり、新しい舟を求めていたらよその町ネズミに襲われたり、ボーボの泣き言から
ケンカになったり…と、いろいろあった。
「ガンバ…何だか、川が広くなったね」
「そうだな」
やがて、周囲の匂いがそれまでの臭いものから、変わってきた。
「魚屋の裏みたいだ…」
ボーボが、鼻をしきりに動かしながら言った。
「なあ、ボーボ…この辺の町に、上がってみないか?」
ガンバの提案に、ボーボもうなずいた。
「……」
そこには、見慣れた町とは全く違った光景が、広がっていた。そこは、港近くの倉庫街だった。周囲には貨車が点在していた。
「やたら、横にでけぇ建物だな…」
「いくつもあるね。でも、窓がないよ?」
「…本当だ」
「あれ、何だ?電車にしちゃ、おかしいぜ」
「本当だね…それに、動かないし」
「あっち、行ってみようぜ」
どんよりとした空に、町に比べて殺風景な光景、ガンバは何となく面白くなかった。
「ねぇガンバ、ここって海なの?」
「し、知らねぇよ…!」
半ば自棄な感じで、ガンバは返事をする。
“……”
ボーボは、ちょっと不満そうな顔をしたが、こんな所でケンカしてガンバと離れるのが怖いので、黙ってついて行った。だが…
「あ…?」
とうとう、雨が降り出してきた。
「ボーボ、こっちだ」
彼らは、手頃な建物の軒下に避難した。
「…止みそうにないなあ」
雨は、勢いを保ったまま降り続く。
「おいら、お腹すいたよ…」
いつものボーボのせりふに、ガンバは
「雨さえ、小降りになればなあ…」
いつもなら、適当にその辺うろついて来いよ、と言い放つところだが…
“見知らぬ土地じゃ、俺だって不安だよ…”
曇っていたので、太陽の様子がわからなかったが、どうやらもう夕方のようだ。周囲はだんだん、暗くなってきた。
「ちぇっ、今夜はここで…」
ガンバが言いかけて、ふと横を見ると…
「……!」
「ガンバ?」
「しっ!何かいる!」
ガンバは、小声でボーボに注意した。その様子から、ボーボはネコを連想し、たちまち縮こまった。
「…ネコ、だ。それも、3匹いるぜ」
ボーボが、声にならない悲鳴をあげる。
「どうやら、雨宿りついでにウトウトしているようだ。ここは、離れよう」
ガンバは、そっとその場を抜け出そうとしたが、ボーボは恐怖で固まってしまい、動きがぎこちない。
「……!」
案の定、ボーボがつまづいてその場の物を散乱させて、物音を立ててしまった。
「逃げろ!」
当然のように、ネコが追いかけてきた。
「あれ…?」
意外だったのは、ネコがしつこく追ってこなかったのだ。ネズミなんか、珍しくないと言うのだろうか?
「ま、まあ…助かった、か?」
「雨も、止んできたね」
「ともかく、今夜はどこかで…」

結局、彼らはネコに警戒しながら、一夜を明かしたが、翌日も曇り空。ふたりは、再びこの町をあちこち回った。やがて、彼らは防波堤の先に着いた。
目の前には、川と比べ物にならないほどの水が広がっていた。
「ガンバ…これが、海っていうものなの?」
「こ、これ…は…」
その光景は、想像していたものとかけ離れた、ひどいものだった。灰色の空と同じ色の水が、ただ広がっているだけ。魚も見えない、冒険も感じられない…
「なあんだ…おいら、がっかりしちゃった」
それは、ボーボだけでない。ガンバは、失望と怒りと落胆と…あらゆるマイナスの感情が、自分の中に充満していくのを感じていた。
「ああ…」
とうとう、その場に座り込んだガンバを見て、さすがのボーボも黙ってしまった。沈黙がふたりを支配し、ただ海を見ていた。すると…
「……!?」
背後から、誰か近寄ってきた。
「よお、とうとう来たな?」
シャドーが、声をかけてきた。その顔を見るや、ガンバは彼に猛然と近づいた。
「て…てめぇ!」
ガンバは、自分の感情を剥き出しにして、シャドーの胸倉をつかんだ。突然のことに、シャドーは面食らっている。
「お、俺をだましたのかよっ!」
「だ、だましたぁ?」
「そうだろう!海だ、冒険だ、って…それがこれかよ!」
シャドーは、とっさにガンバの言わんとすることを理解した。
「ま、待てよ…確かに、ガンバの言うことは分かるが…手ぇ、放せったら」
ガンバは、右手を下ろした。
「ふう…まあ、これは海に違いはないけどよ、本当の海じゃねえんだ」
「本当の?どういうことだよ!?」
「ここは、港といって、船が出入りする場所さ。人間も多い、ネズミも多い。町ん中も人間が多いところは、汚ねえだろう?」
ガンバには、汚い海と汚くない海の区別が、付かなかった。
「要するに、ここは海ん中でも汚い場所で、俺の言う『本当の』海は、もっと別の場所にあるんだよ」
ガンバは、何となく疑わしい目をした。
「それは、どこだって言うんだよ…」
「どこって…それは、もっともっと遠くだぜ。人間すらいねえ、見渡す限りの大海原…って、とこまで行かねえと」
「どうやって、そこまで行くんだよ?」
「まあ、船に乗って2〜3日すりゃ…」
「またあんなのに、乗るの?」
思わずボーボが、ウンザリしたような声を出した。
「あんなのって…お前たち、船を知ってるのか?」
ガンバの話を聞いたシャドーは、一瞬呆れた顔をして、次に大きな口で笑った。
「な、何がおかしいんだよっ!」
ガンバは、腰に両手を当てた格好で、シャドーを睨んだ。
「ふ、船…ねえ。まあいい、ついて来いよ。お前たちに俺の言う船ってやつを、見せてやるからよ」
言うが早いが、シャドーはテトラポッドの陰に消えた。
「おおい、来るのか?来ねぇのか?」
向こうからシャドーの声がする。ガンバとボーボは、顔を見合わせたが
「い…行くよ!待ってくれ!」 慌てて、シャドーの後を追った。そして、しばらく走ると…


「これが、船だぜ」
シャドーが指さしたのは…
「で…でけぇなあ」
ガンバとボーボは、貨物船を見上げて言った。
「なあに、これでも船としては小さい方さ。さ、行くぜ」
「い、行くって…?」
「船の中さ。本当の海を、見に行くんじゃなかったのか?」
何となく、相手のペースに引きずり込まれているように感じながらも、ガンバは後には引けなくなっていた。
「い…行くよ、行くよ!」
彼らは、係留用のロープを伝って船に乗ると、人間を警戒しながら、船底の貨物置場に着いた。
「例のガンバが、やって来たぜ」
シャドーが声をかけた先には、大きな背中が座っていた。太く、陽に焼けたたくましい腕が、そいつを物語っていた。
「…どれ?」
振り返ったそいつは、ロックよりもさらにがっちりした体格、厚い胸板、眼光鋭い目…ガンバでなくても『ただものじゃねぇ』と、感じさせる迫力を持っていた。
「ふん、確かにチビだが…いい眼をしているな。町ネズミにしとくのが、もったいねぇ奴だぜ」
ガンバは、その太く低い声に気圧されまいと、思わず腹に力を入れた。
「俺の名は、ベアー。よろしくな」
相手が素直に右手を出したので、ガンバもつられて右手を出した。
“す…すげえ、ゴツゴツした手だ”
ガンバは、幼い頃を思い出した。父親の手も、こんな感じだった…
「ガンバ、そいつは?」
ベアーは、傍らに視線を移した。
「ああ、こいつはボーボ。俺の幼馴染だ。食いしん坊で、気が小さい奴だけど…」
ベアーは、ガンバと同様に右手を出すと
「よろしくな、ボーボ」
「あ、はい。よろしく…」
ボーボは、ベアーの握力に驚いていた。
「ところで、ガンバ…一つ、俺と勝負しねえか?」
突然の提案に、ガンバは驚くと同時に躊躇した。
「何、別に殴り合いをしようってんじゃねぇよ。あそこに、丸があるな…俺はあの中で構えるから、お前は力だけで俺を丸の中から動かしてみな」
ベアーは、床にある丸の印を指した。
「……」
ガンバが返事に困っていると、ベアーは構わず丸の中に行くと、腰を落として膝を曲げガンバに声をかけた。
「さあ、いつでも来い。殴ったり、蹴ったりは無しだぜ。力一つで、俺をここから片足でも出したら、お前の勝ちだ」
「ようし…」
ガンバの心に、火が点いた。早速、ベアーに近づくと両手をベアーの腰に回して、力を入れた。
「ふん…ぬ…ぬぬ…」
だが、ベアーはびくともしない。まるで、石の塊を持ち上げようとしているようだ。
「く…くそう…」
ガンバは、それから足を持ち上げようとしたり、背中から攻めたり必死になったが、ベアーは表情一つ変えず、動くことはなかった。
「ち…ちくしょう…っ!」
なおも諦めず、奥歯をギリギリ噛み締め、真っ赤になって攻めるガンバ…
「そこまでだ!」
突然、シャドーがガンバの肩を叩いた。
「え…え?」
訳が分からずに、こちらを見たガンバに、シャドーは足元を指さした。
「ああっ!?」
いつの間にか、ベアーの左足が円の外に出ていた。
「あ…はは、ははは…」
ガンバは、精魂尽き果てた感じで、ヘナヘナと座り込んだ。
「俺の負けだ。良くがんばったな」
「あったりまえだい。俺は、がんばり屋のガンバ、って言うんだい」
ベアーとシャドーは、ニヤリと笑った。
「まあ、ともかくあっちで休んでな」
ガンバは、ベアーの言葉に従い、貨物の隙間で横になった。
「それにしても…あいつに勝ちを譲るなんて、お前らしくないじゃないか?」
シャドーが、からかうようにベアーに声をかけた。
「へっ、そうじゃねえよ…見ろ、この足」
ベアーの両足には、ガンバの手の跡が残っていた。
「おまえ…じゃあ?」
「ああ、こっちから勝負をけしかけて、ひっくり返されたんじゃ…なあ?危なかったぜ。がんばり屋のガンバ、か。面白い奴だぜ」
ベアーは、愉快そうな笑顔を見せた。

トップへ

4.港ネズミと船乗りネズミ

ガンバが目を覚ました頃、辺りは薄暗くなっていた。
「何か…体中、痛てぇよ」
ガンバは、ベアーに笑って見せた。
「何だ、まだまだだな、ガンバ!」
ベアーは、長年の仲間に接するように笑った。
「ところで、今夜はお前を連れて行きたい場所が、あるんだがよ」
ベアーの誘いに、ガンバは躊躇なく応じた。ボーボは、町に帰るのがその分遅くなると、不安と不満が入り混じった顔だったが
食い物も飲む物もたくさんあると聞いて、次第に顔が緩んできた。
「さて、そろそろ行こうか?」
ベアーが腰を上げた時には、夜になっていた。
「人間どもに見つかると、厄介だからな…」
ガンバは、図体に似合わないことを…と、腹の中で笑った。
「ガンバ…ここいらの人間はな、町の人間とは違うぞ」
シャドーが、ガンバの腹を見透かしたかのように言った。
「ええっ?」
思わず、声が上ずったガンバに
「シャドーの言うとおりだよ。町の人間は、俺たちを見ると悲鳴をあげるか、ちょっと驚いた感じで、すぐに攻撃してこないが…海に関わる人間は、
 有無を言わせないで俺たちを、殺しに来るからな」
ベアーの言葉には、冗談めいた感じがなかった。さすがのガンバもちょっと緊張して、ボーボは既に半べそ状態になった。
「でも、ネコは案外とおとなしかったけどな…」
ガンバの言葉に、シャドーは
「まあ、そうかもな。ここは、魚がゴロゴロしているから、ネコは食いもんには困らねぇし、何も逃げる餌を必死に追うことはねぇ。
 ただ、俺らがチョロチョロしてると、本能ってやつで追いかけてくるんだろうぜ」
「そんなものかな…」
そうこうしているうち、彼らは目的地に着いたようだ。
「あそこだぜ」
ベアーが親指で示した方からは、賑やかな声が聞こえてくる。
「……」
ガンバとボーボは、まず場の雰囲気に驚いていた。同じ『宴会』にしても、町ネズミのそれと空気が違った。
汗と陽の匂いに、海の匂いが混じって、喧騒のトーンも違う。
「どうした?行くぜ」
ベアーに促され、ガンバとボーボは後に続いた。場は、ベアーの登場に盛り上がる一方で『見かけない顔』に対して、怪訝そうな雰囲気を表わしていた。
「おおい!ちょっと聞いてくれ!」
ベアーの声に、場は水を打ったように静かになった。
「実はな、こいつは町ネズミなんだがよ、けっこう見どころある奴だ。この俺と、勝負したほどだからな!」
ベアーは、ガンバの背中を叩きながら、仲間に紹介した。
ガンバは、少し面食らった顔をしていたが、場の連中にはこういう紹介をされたガンバは『ベアーに認められた奴』と映っていたのである。
「そして、こっちがボーボってんだ。まあ、鍛え甲斐がありそうな奴だが…ガンバの親友だってことだし、こっちもよろしくな!」
場の連中は、拍手喝采でガンバたちを迎えたが、中には所詮は…と、お義理の雰囲気の者もいたが。
「ガンバ、座興にもうひと勝負、やるか?」
ベアーの誘いに、ガンバはちょっと当惑顔をしたが、場からやんやの声があがっては、断りきれなかった。
「力勝負だが、今度はこっちも動くぜ。いいな?」
座興と言いながらも、ベアーの眼は真剣勝負の雰囲気だった。事実、ガンバはベアーと組んだと思ったら、あっという間に投げ倒された。
「どうした、がんばり屋の名が泣くぜ?」
ガンバは、ニヤリと笑うと再びベアーと組んだ。今度は、投げられまいと踏ん張る一方、ベアーの下半身を狙って全身でぶつかっていった。
「……!」
その気迫に、場の雰囲気はガンバを認めはじめた。
「ハア、ハア…くそう、もう一度!」
結局、力負けしてしまったガンバだが、なおも勝負を挑む。しかし、その眼は自棄でも血走ったわけでもなく、何か楽しんでいるようだった。
「いいぞ、やれやれ!」
周囲のやや無責任な野次に背中を押され、ガンバとベアーの勝負は続いた。

「ガンバ、おまえにゃ港ネズミと、船乗りネズミの区別は付かないだろう?」
ベアーは酒の勢いもあって、いつになく上機嫌だった。
「分からないよ。んなこと…」
「船に乗ってんのが、船乗りネズミ。港にいるのが、港ネズミだ」
ちょっと真顔で説明するベアーの顔を見て、ガンバは笑っていいのか、怒るべきなのか、分からなかった。
「ばーか、ここは分かったような顔しておいて、突っ込み入れるところだ!」
ベアーは、笑ってガンバの背中をバンバン叩く。
「船乗りはな、文字通りあちこちの船に忍び込んで、いろいろなところへ行く連中だ。港ネズミは、船を下りた元船乗りや船は苦手だが、腕っ節に自信のある連中が
 中心だな。どちらも、口が悪くて騒々しいところはあるが、根は良い連中だ」
シャドーの説明を、ガンバはフンフンと聞いていた。
“確かに、騒々しいっていうか、うるさいっていうか…”
連中は声が大きい上に、口調が荒いので、ガンバには周囲で一斉に、口喧嘩が起きているかのように感じていた。
「そういや、今日は船乗り連中の姿が、少ねぇなあ」
ベアーは、場を見渡しながら言った。
「船が、遅れてんのよ」
横から、別のネズミが声をかけてきた。
「今日までに、3隻着くはずなんだが…こればっかりは、波まかせ人間まかせだ」
「…そう言うことかい」
ベアーは、ちょっと面白くない顔をした。
「ガンバ、おまえ…急ぐ用でもあるのかい?」
シャドーに聞かれたガンバは、ちょっと答えに迷った。
「まあ、まだ『本当の』海を、見てねぇもんなぁ?」
「あ、ああ…」
そうは言っても、ガンバはあまりここに居たくはなかった。
賑やかな場所は、嫌いではないが…少々、自分には合わない騒々しさに感じていた。所詮、俺は町ネズミなんだし…という気もあった。
「まあ、そう急ぐこともあるまい。しばらく、ここにいなって。なあ?」
ベアーの言葉に、ガンバはチラッとボーボの方を見たが…いろいろあったためか、もう横になっていた。
「ちぇっ…」


翌日の昼、遅れていたと言う船が港に着いた。
「……」
ベアーは、この間の船よりも大きくしっかりした船だと言うが、ガンバにはその違いは分からなかった。そして、船から降りてきたネズミ達は、誰も彼も
いかにもと言った雰囲気を持った連中だった。
「よお、久しぶりだな!」
彼らは、港ネズミやベアー達と挨拶を交わし、何だか嬉しそうな顔をして港町に散っていった。
「この港町を、拠点にしているのも、多いからな…奴らにゃ、故郷に帰ってきたようなもんさ」
シャドーの言葉に、ガンバが尋ねた。
「シャドーやベアーは、どこの港町に帰るんだい?」
すると、シャドーは軽く首を横に振った。
「ないよ」
「…どうして?」
ガンバの、怪訝そうな問いに
「俺もベアーも、故郷なんてとっくに捨てたのさ。冒険のある方へ向かって、風来坊の日々さ…それでも、行く先々で仲間がいて、元気だったかと挨拶できる場所が
 故郷ってことになるかな」
シャドーは、傍らのベアーに相槌を求めるような顔で言った。
「まあ、そんなとこだな…」
ベアーは、ちょっと笑って答えた。
「ふうん…」
ガンバが、ちょっと理解しきれない顔で、それでも分かったような顔をしていると
「お、いたいた!」
「元気そうだな、おふたりさん」
ガンバの斜め後ろから、親しげに声をかけてきた者がいた。ガンバが驚いて振り向くと、そこには船乗りネズミ風がふたり立っていた。
「やっぱり、あの船に乗ってたか!」
「へっ、分かってたような顔しやがって。ここにいたのも、偶然だろうに!」
「なあに、俺のヒゲがな、敏感に空気を読み取ってたんだよ!」
「ほおお…そいつはすげえ!」
「何、笑ってんだよ!」
いかにも、気の置けない仲間同士のやり取りに、ガンバはちょっと唖然とした顔でその様子を見ていた。
「ところで、見ない顔だが…?」
ひとりが…ガンバとは同じくらいの歳のようだが、ちょっと鋭い(と言うか、世間馴れしたような)眼のネズミが、斜め後ろに立っているガンバを
握った手の親指だけ曲げて肩越しに指した。
「おお、そうだ。紹介するぜ…こいつがガンバで、こっちがボーボだ」
二人の目が、ガンバとボーボを品定めをするように見た。ガンバとボーボが、ちょっと緊張した顔でいると、背の高い方が
「そうか…俺の名はリッキー。見てのとおり、船乗りだ」
長身ながら、筋肉質の腕が彼の身体を想像させる。
「俺は、ジャック。よろしくな」
お互いに握手を交わすと、リッキーが
「ところで、ガンバ達はどこの…?」
ガンバが答える前に、ベアーが遮るように
「実はな、こいつら町ネズミなんだぜ」
ベアーは、リッキーとジャックの反応を楽しむかのように、ふたりを見ながら言った。
「へぇ…」
期待通りの反応に、ベアーは嬉しそうな顔をした。
「それに、俺と勝負したしな?」
ふたりのガンバを見る目が、どんどん変わっていく。
「……」
ガンバは、興味本位で見られていることに、ちょっと面白くない気持ちになった。
「そう気にするなよ。悪気はないんだから…」
あからさまにムッとしたわけではなかったが、ガンバの心境を察したようにシャドーが背中越しに小声で言った。
「んなこと…」
ガンバが言いかけた時、唐突にベアーが話の矛先を曲げた。
「ところで、何か面白い話は、ないのかよ?」
磊落に笑って問い掛けたベアーに、リッキーはちょっと笑って
「まあ、手ぶらで来るのも何だしなあ…」
「そうこなくっちゃな!」
ベアーは、すかさず乗り気になって話を聞きだそうとした。


ここから東の方に、コットの森って言う、大きな森が広がる場所がある。その森に棲む野ネズミ達が、ピンチに陥ってるんだ。
その原因は、山猫さ。詳しい事情は、聞きかじりだが、森の周辺じゃ相当に怖がれている。何しろ、ボス格の山猫が数匹の手下だか
仲間と結束して襲ってくる、って話だ。森にいた連中は、森の中を移動しつづけたりしているが、何しろ相手は山猫だ。
どんなに遠くへ逃げたつもりでも、あっさり追いつかれてしまう。かと言って、森を捨てても人間の多い場所では…


「どうだい、そそられるはなしだろう?」
ベアーはリッキーの話を聞いて、ニヤリと笑った。
「へっ、てやんでぇ…」
今にもそのコットの森とやらへ、飛んでいきそうなベアーの様子に、ガンバはちょっと複雑な気持ちでいた。

5.山猫の恐怖

リッキーがコットの森に近くに来たのは、その1ヶ月ほど前だった。
「なかなか、賑やかな町じゃねえか」
野ネズミの集落を中心としたその町は、森に近くて人間の住む場所からも離れている、絶好の場所にあった。
「ちょっと落ち着くには、良いところかもな」
リッキーは半月ほど前まで、ある場所で暴力を振るっていた、クマネズミの集団と闘いを続けていた。思えば、長い闘いだった。
何しろ、ボスネズミと力づくの対決の末、奴を叩きのめしたのは良かったのだが、次に下どもの『報復』が、波状攻撃をかけてきた。
逃げても良かったのだが、あまりに派手にボスを叩きのめしたので、手下の攻撃に逃げるわけにも行かず、行きがかりで受けて立つ羽目になったのだ。
「おかげで、身体がガタガタだぜ…」
ケンカには慣れていたリッキーだったが、さすがに今度ばかりは辛そうだった。
「でも、ここならおとなしくしていりゃ…」
周囲のネズミ達は純朴そうで、派手な騒ぎもなさそうだった。

しかし、リッキーがこの町に来て数日後の夜…

「おい、しっかりしろ!」
酒場でいい気分になったリッキーは、帰り道で倒れていたネズミを発見した。若い男のネズミだ。抱き上げる彼の手に、ベッタリと血が付いた。
“こりゃ、いけねえ…”
リッキーは、慌てて酒場に戻った。ひどい傷を負った仲間に、酒場は騒然となったが全身の爪痕を見た連中は、次第に黙って目を逸らしだした。
「一体、どうしたんだい?」
リッキーの問いかけに、男は虫の息を振り絞るように
「な…かま…けて…まねこ…ころ…れる…」
聞き取れない言葉を推理して、リッキーが問いかける
「山猫、か?おまえの仲間を、山猫が殺したんだな?」
相手は声にならない返事をするのが、精一杯だった。そのまま、ガクッと首が折れ…
「……」
リッキーは、彼のまぶたをそっと閉じてやった。そして、ある決意を胸に振り返った。
「な…に!?」
だが、そこには閑散とした酒場の光景が、広がっていた。
「…あんた、旅のネズミだね?」
カウンターで、黙々と皿を拭いていた店主が、リッキーに声をかけた。
「こ、これは一体…」
「まあ『ガルム』にゃ、誰も手を出したがらないよ」
店主は、わざとリッキーから視線を合わせないまま続けた。
「ガルム…山猫か!?」
店主は、黙って小さくうなずいた。
「ちっ…なんてこと…」
リッキーは、改めて店内を見渡した。店主の他には、片隅のテーブルでこちらに背中を向けているのがいるだけ…
「……?」
リッキーは、その後姿に見覚えがあった。
「お、おまえ…?」
「やっと、気付いたのか?」
振り返った顔に、リッキーも思わずニヤリとした。
「てやんでぇ…おまえみてぇに陰の薄い奴は、このくらい静かにならないとよ、どこにいるのかさえ、分かんねぇんだよ!」
リッキーの言葉に、そのネズミは怒ることはなくニヤニヤ笑っている。
「奇遇だな?こんなところで、出っくわすとはよ」
リッキーは、酒瓶を片手にそのネズミのいるテーブルへ向かった。
「その前に、哀れな仏さん、ちゃんとしろよ?」
「独りでやれ、ってか?」
ふたりは店主に適当な場所を聞いて、そこまで仲間を運んだ。そして、彼を埋葬すると簡単な墓碑を建てた。
「やる気、かい?」
問われたリッキーは
「ああ。この辺のネズミが恐れをなす山猫…面白そうな冒険が、待ってんじゃねえか?シッポに力が入るぜ」
「それなら、西だ。面白い奴が、いるようだぜ?」
リッキーは、口元に笑いを浮かべると
「ヘヘ…ジャック様の『感覚』が、お導きか?」
「俺の感覚は、伊達じゃないぜ?」
ジャックも、ニヤッと笑って見せた。


「なるほどねぇ…」
ベアーの眼は、冒険心と好奇心で輝き始めた。
「昔、山猫とやったことはあるが…なかなかの敵だったぜ」
「それなんだがよ…」
リッキーは、ちょっと真剣な顔で切り出した。
「これは、俺らが断片的に集めた情報だが…そのガルムって山猫だが、俺らが経験している山猫の倍はあろうって言う身体でよ。しかも、単独行動じゃねえんだ。
 群れを率いていやがる。少なくとも、十数匹はいるって話だぜ。ちょっとのことじゃ動じない俺だが…さすがに独りじゃ腰が引けたぜ」
リッキーの話に、ベアーの顔が少しこわばった。
「なるほど…」
「状況によっちゃ、抜け駆けしても良かったんだがよ…ありゃあ、数が必要だって感じでね。俺だって、むざむざ殺されたくはねぇしな」
「しかし、山猫が群れを成すものなのか?」
シャドーが、怪訝そうに言った。
「そこが、どうにも解せねぇんだがよ…」
リッキーの言葉に、ベアーもうなずく。
「たまに、手下を従えるネコがいるが、せいぜい2〜3匹だ。十数匹とはな…」
少しの間、沈黙が続いた。
「で、ジャックの『感覚』は、どうなってるんだい?」
シャドーが、その場の雰囲気を軽くしようと、ジャックに声をかけた。
「さあて…どういうもんかねぇ」
「何だい、おまえの『感覚』は伊達じゃない、んだろう?」
リッキーが、すかさず突っ込むと
「だからよ…感じないものは、感じないとはっきり言うのさ」
「何、言ってやがんでぇ!」
「やだやだ、真面目に構えて損したぜ!」
「ちぇっ、これだもんな。感覚だけで動くなんて、出来るかよ。最終的にどう舵を切るのかは、本人次第よ。何でもかんでも信用するねぇ」
「あはは、占い師の常套文句だな!」
「ペテン師、とも言うがな?」
磊落に笑いあう彼らから取り残されたガンバとボーボは、彼らの話を何か他人事のように聞いていた。


その夜、ガンバは死んだ父親のことを思い出していた。
「……」
ガンバは、父親が若かったころの冒険話を聞くのが、楽しみだった。たいてい、父親が酒に酔うと子供のようにはしゃいで、自分の『武勇談』を話すのだった。
同じ話を繰り返すことも多かったが、それでもどこか話の内容が食い違っていて、それを探すのも、ガンバには楽しみだった。
『町の連中は、みんなそのネコを怖がってな。関わりになりたくねぇって、引っ込んで怯えてたな』
ガンバが、一番好きだった話は『とある町で凶暴なネコと戦った話』だった。
『でも、助けを求める仲間もいたんだ。そのネコに、家族や友達を殺されたネズミ達はそのネコに復讐したいが、力が足りない…共に戦う仲間を、求めていたんだ』
それからが、武勇談の始まりだった。自ら指揮官を買って出て、時にネコの身体に前歯を突き立て、時に仲間を単独で救い出し…
『ともかく、俺は仲間達が殺され、苦しめられているのを、放っておけなかったんだ。まして、仲間のピンチを見て見ぬ振りが許せなくてな』
後から思えば、その時に負った傷が自分を死に追いやったのだが…
『ガンバ、男なら…必ずこういう時が来る。自分の命を賭けても戦い挑む相手が、必ず現われる。その時、シッポを立てられるかどうかだ』
ガンバにしてみれば、あのロックこそ『自分の命を賭けても戦い挑む相手』であった。自分の世界の中で、最大最強の敵だった。
“でも、もっとすげぇ奴が、いるらしいな…”
ガンバは、もちろん山猫を知らなかった。ベアーの話では、町のネコなどとは比べ物にならないほど、凶暴で敏捷で狡猾で…その上、図体がでかくて群れをなす。
“一体、どんな奴なんだ?”
ガンバは、父親が戦ったと言う『凶暴なネコ』と山猫をダブらせていた。
「……」
これが、父親の言っていた『自分の命を賭けても戦い挑む相手』なのだろうか?ならば、そいつと戦ってやろうか…
“父さんが、凶暴な町のネコを相手にしたのなら…俺は、凶暴な山猫だ!”
ガンバの心にくすぶっていた、父親を超えたいという気持ちと、持ち前の冒険心に火が点いた。もちろん、海も船も山猫も…何もかも見知らぬ世界だ。
でも、怖いと言う気持ちにはならなかった。
“ようし…シッポを立てて、行ってやろうじゃないか!”


翌日、ベアーは顔見知りの船乗りネズミや、港ネズミ達を集めた。そして、リッキーの話と、山猫を倒しに行くつもりであることを話した。
「…と、言うわけなんだが。どうだい、俺らと一緒に冒険に乗り出そうって奴は…」
ベアーが話をしていた途中から、場はざわめき始めていた。
『おいおい、何を言い出すのかと思ったら…』
『山猫の集団を相手にしようなんて、いい加減オツムがおかしくなったんじゃ?』
『まあ、自分の武勇談にハクを付けたいのは、分かるけどよ』
『無謀な挑戦をして、無駄死にする愚か者は、いつの時代もいるもんよ』
『自分の力量に、自惚れてんのよ…』
『俺らには俺らの、船乗りとしての暮らしってもんがあらあ』
『世の中、任侠気質で通っていけないことが多いって、気付いていないのさ』
ヒソヒソ話す声が、その後の展開を予言していた。
「まあ、無理にとは言わねえ。その気のある奴は、ここに残ってくれ」
ベアーの言葉を『もう帰っていいぞ』と受け取ったかのように、次々と場を去っていくネズミ達。しかも、誰もためらいを見せない。
「お…おい!ちょっと待てよ!」
ガンバが、我慢しきれなくなって大声をあげた。
「船乗りだの何だの、威勢の良いこと言ってたくせに、シッポ巻いて逃げ出すのかよ!町ネズミの俺が、やってやろうって言うのによ!」
すると、一匹の船乗りネズミが振り返り
「そういうおまえは、山猫を分かってんのか?」
「知らねぇよ!」
「だろうな。せいぜい、そこらの野良猫を相手にする感覚で、冒険とやらを気取ってるんだろうがよ…悪いことは言わねぇ。止めといた方が、身のためだぜ」
「…んだと!この野郎!」
「止めとけよ」
相手に殴りかからんばかりのガンバの肩を、ベアーがつかんで止めた。
「……!」
振り返ったガンバの目に、涙が浮かんでいるのを見て、ベアーは言葉を失った。
ガンバは、右手でその涙を拭いざまに振り返ると、さっきのネズミの背中は小さくなっていた。ガンバは肩を震わせたが、怒鳴る気もしなかった。
「…何てこったい」
結局、場に残ったのは6匹だけだった。
「さあて、俺らだけで出発するか?」
ベアーの『号令』に、彼らは自然と輪になった。
「野暮を承知で言っとくが、この冒険は命がけだぜ。いつ、どこでも死ぬ覚悟を持っておくんだな」
誰もが、真剣な目でベアーを見た。その目には『分かってる』という答えがあった。
「ところでボーボ、本当にいいんだな?」
からかい半分、ガンバがボーボに言うと、ボーボはちょっとムッとして
「おいらも行くよ!おいらだって…」
ボーボが無理していると分かっていて、なおもガンバは
「そうかあ?帰るなら、今のうちだぜ?」
ボーボは、ちょっと情けない声になって
「だって…おいら、帰り道が分からないもん…」
思わずお互いに顔を見合わせたガンバ達は、次の瞬間大きな声で笑った。

第1章・完
     目次へ戻る第2章へ