7月18日から31日まで日本ナショナル・トラスト協会の派遣でイギリスの森

林保全作業に行ってきました。その事についてレポートします。

 

 既に皆さんは、自然環境や歴史的建造物を開発から守る手段のひとつとし

て、ナショナル・トラスト運動があることはご存知だと思います。

約100年前、工業開発による自然破壊が急速に進んだイギリスにおいて、

3人のボランティアが始めた市民運動がきっかけでした。以来、市民からの寄

贈や寄付金によって貴重な海岸線や古い城館を買い取ったり、あるいは保全

契約を結ぶことで保護、保存活動が広く認知されていきました。ピーターラビッ

トでおなじみの湖水地方の景観もこのようにして守られてきました。

 現在、英国ザ・ナショナル・トラスト(英国NT)は2,446平方km(ほぼ神奈川県

の面積と同じ)を所有し、イギリスにおける民間最大の土地所有者でもありま

す。また会員数は設立当時の1,000人から260万人を超えるまでに上って

います。

 (ちなみにイギリスの総面積は24.5万平方km、日本の約3分の2ですが、

国のおよそ20%が公園地域に指定されており自然保護先進国といえます。

そしてイギリスの人口は約5,830万人、日本の2分の1です。)

 

 さて私がキャンプした場所はロンドンの北西、40キロ、電車で約45分ほど

の丘陵地帯(平均標高は130m最高で230m)に位置するアシュリッジ・エス

テイトと言う森です。約1,800ヘクタールの広さにうっそうとした森林、牧草地

が広がっています。1925年に、元の領主の死後、売りに出された領地を

「英国NT」が、寄付を募って買い取リ、保全してきた場所です。

 

 ここのベースキャンプで日本から6名、イギリス人2名が寝袋持参の共同自

炊生活をしながら保全作業をするというのが今回のプログラムでした。

具体的には

       @貴重なトンボやカエルを保護するため池の3分の1ほどガマの除去

                  A鳥の生息のため低潅木、西洋サンザシの除伐

                  B「英国NT」の境界地を示す木製フェンスの設置

事前に「英国NT」のスタッフから保全作業の役目や道具の使い方の詳しい

説明があります。西洋の鋸、枝きりバサミそしてショベルなど珍しい道具で

日本との比較が楽しめました。朝9時から午後4時までかなりハードな作業

で、初日は筋肉痛や手のマメに悩みました。また食事作りに追われる毎日

でしたが、大変充実した日々を送ることができました。息抜きに別のナショ

ナル・トラストであるストウ景観式庭園や運河なども見学してきました。

 

 シカやリス、ウサギなどが寝泊りしている小屋のすぐ近くで普通に見るこ

とができます。またチョット肌寒いですが夜は天の川が見られるほどの空気

の澄んだ爽やかな場所です。(ここは北緯50度、稚内より北で7月の平均

気温16℃。ロンドンに着いた当日寒くて、フリースを買ってしまいました。)

 そしてたくさんの野鳥や野草、貴重な昆虫の宝庫である森にはブナ、カシ、

カエデ類の広葉樹が多く、巨木だらけでした。この森の景観はイギリスの

代表的なカントリーサイドの一部を形作っています。フットパスが整備され

市民の憩いの場所として広く親しまれていることが実感できました。

 

 「英国NT]の保全活動費は基本的に会員費、寄付金、そして庭園などの

入場料により賄われています。そしてロスチャイルド家などの大富豪による

寄贈からもイギリス人の社会的ステイタスの考え方を窺い知ることができま

す。イギリス人の自然を愛する姿勢、ボランティアや寄付への対応に歴史

の重みを感じます。また「英国NT」の組織運営そしてスタッフのレベルの高

さは、日本との社会的、歴史的背景や地理的環境が大きく異なるとは云え

日本の自然保護活動の有り方に参考になる部分が多いと感じられました。

「7月のアシュリッジの森から学んだこと」も読んで下さい。

 

 次に、日本のナショナル・トラストについてレポートします。

 

日本のナショナル・トラスト運動は1964年、古都鎌倉の聖地、鶴岡八幡宮の裏

山「御谷(おやつ)山林」の乱開発反対運動をきっかけとして、作家大仏次郎氏

を中心とする市民が設立した「鎌倉風致保存会」が始まりだとされています。

(ただし、イギリスに倣った寄贈による保全運動は富士山麓などにおいて大正時

代既に実施されていたようです。)御谷山林の1.5haを含め現在までに2.7ha

を買い取り、他に3.8haの土地および大正期の洋館2棟を賃貸管理し、古都保

存法成立の契機にもなっています。

 

神奈川県では神奈川県条例によって設立された「(財)かながわトラストみどり財

団」が土地所有者と保存契約を結び、秦野市の葛葉緑地、藤沢市の片瀬・川名

緑地、大和市の泉の森、久田(くでん)緑地、逗子市の大崎緑地を保全管理して

います。また「北鎌倉の景観を後世に伝える基金委員会」、アカテガニのカニパ

トロールで有名な「小網代の森を守る会」、「中道志川トラスト協会」が活発に活

動を行っています。「境川斜面緑地を守る会」は5年に渡る地道な活動が実を結

び、相模原市がマンション予定地1.5haを公園緑地として買収させる事に成功

しています。

 

全国的には北海道の「知床100平方m運動の森トラスト」、埼玉県の「トトロの

ふるさと財団」、沖縄県の「やんばる自然保護の会」など、47のナショナル・トラ

スト運動団体が設立され広がりを見せています。

 

(社)日本ナショナル・トラスト協会は1983年全国各地に広がる運動体の連絡・

協議組織として設立されました。政府もナショナル・トラスト運動をこれからの環

境問題に取り組む住民運動の一つとして評価し、政府が認めたナショナル・トラ

スト団体へ寄金した人に対する所得税控除、企業などからの寄金を損金扱いと

する事などを認め、法人税の課税対象からはずすことになりました。さらにナシ

ョナル・トラスト団体が獲得した資産に対する不動産取得税および固定資産税

を免除すると言う優遇措置を認める事にも貢献しています。

 

運動が活発な、発祥の地であるイギリスは日本と同じように狭い国土で工業立国

です。ただし高騰する地価、寄付やボランティアに対する考え方の違いなどにより、

日本のナショナル・トラスト運動は苦戦を強いられています。行政側もNGOなどボ

ランティ団体との役割分担、補完協調を認知し、助成金もやや増えてきてはいま

す。しかしやはり活動資金が充分とは言えません。土地を購入すればすべてが解

決するわけでもありませんが、私達の次の世代に引き継ぐべき資産は急速に失

われています。最近、自然保護→金→政治立法→政治家擁立、と短絡的に考

えるようになってきました。日本の自然保護活動が一部の市民によるボランティア

に期待し続けてはいけないと思っている今日この頃です。

 

追1:鎌倉風致保存会の保全作業日は

   9月7日(土) 永福寺跡

  10月19日(土) 朝比奈切通し

 いずれも9:30AM現地集合。弁当飲み物持参、小雨決行です。

 もし都合がつけば、みなさんも参加してみてください。

 

追2:英国ナショナル・トラスト、(社)日本ナショナル・トラスト協会および鎌倉風致保存会の

WEBサイトは下記の通りです。

    http://www.nationaltrust.org.uk/

http://www.ntrust.or.jp/

http://www.frinet.or.jp/~fuhchi/

追3:9/3〜5まで日本ナショナル・トラスト協会が主催する日英ベンチャーキャンプ

in富士に参加してきました。

    

イギリスから女性2名、台湾から2名、香港から1名、日本から10名が参

   加し、1週間盛り沢山のプログラムでした。私は3日間だけのスポット参加。

   内容は御殿場市にある富士山ナショナル・トラストのバックアップのもと

       @富士山麓で採種、育苗したバッコヤナギ、ブナ、イヌエンジュなど

                   の苗木作業や植林。

                  A富士山五合目での自然観察会や星座観察会

                  Bビオトープの森作り

 C富士山麓のブナ、ヒノキの原生林見学、トレッキング

   などでした。国際色豊かで大変楽しい経験をすることができました。

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