〈1〉異変
「この世界は狂っているんだ」 朝のホームルーム、唐突に壇上に立ち上がった斎乃司(いつきの つかさ)はそう言葉を綴った。 もう我慢できない。こんな狂った世界。これ以上我慢していたら、こちらが狂ってしまう。 教室内がざわめく。しかしその内容は、司にとって聞く価値もない物だった。 司の通っている学校、私立河淋(かりん)学園の生徒だから、この程度の騒ぎで済んでいると言える。河淋学園の校風はリベラルで、少数者を多数者がいじめる、などといった陰湿な行為とは無縁だった。だが、これがひとたび広まれば、斎乃司の立場は非常に悪い物になるだろう。今のうちに、止めなければ。 「もういいだろう、斎乃」 教室のドアが開いた。その向こうには、教科担任。担任は、苦笑の体で礼を交わした。交わそうとした。しかしその礼は無視され、教科担任の冷たい視線はただひとつ、斎乃司に向けて注がれていた。教科担任の本来持っているべきものは何も持たず、その手にするのは黒光りする拳銃。 軽い、破裂音。それが二回。 ――そう。結果は、分かっていた。いつも、こうなるのだ。だとしても、他に、なにができるというのか、この僕に。 |
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