【 第1章 】−(1)


翌日、千絵ちゃんは自分の部屋で慌てて髪を整え、服を着替えて出かける準備を
していました。
昨夜の電話で唯ちゃんに遅刻の事で突っ込まれたのを気にしていたのか
絶対に遅刻しないよう強く決心をしていましたが、
想いは空回りし朝寝坊をしてしまいドタバタした朝となりました。準備が終わると部屋を出て階段を降りた所で
母親の冴さんが
声をかけてきます。
「千絵、朝御飯は?」
「いらない、途中で何か買って食べるから。行ってきまーす。」
そう答えながら、千絵ちゃんは靴を履き勢い良く家を飛び出して行きました。
千絵ちゃんは駅まで走って行き一応駅へ向かう電車に乗る事20分、ようやく待ち合わせ場所の一応駅に到着しましたが
既に約束の時間を10分オーバーしていました。

「まずい…急がなきゃ」と心の中で思いながらホームの階段を駆け上がり改札を出て当たりを見回した後、
改札口のすぐ近くで時刻表を眺めている一人の女性を見つけて声を掛けて
行きました。
「唯、ゴメンゴメン。ちょっと遅くなっちゃって。」
息を切らしながら千絵ちゃんはそう話し掛けた後、何かに気が付いたか様な表情をして、
「あれ…?なんか唯、雰囲気変わったわね。」
「…」
相手が何か言おうとする前に井戸次早に
「何ていうか…前に会った時より雰囲気違うし、そういった服持っていたっけ?
それに髪の毛、
前の時よりずっと赤い色をしているけど、髪染めたの?なんか前はもっと
明るい色だったよね?」
彼女の前で捲くし立てる様にしゃべる千絵ちゃん。
それに対して彼女が困惑した表情で口を開く
「あの…すみません。どこかでお会いしましたっけ?」

「はぁ?何言っているのよ。先週、零さん達とお花見した時に会ったじゃない?」
「あたし…あなたとは多分お会いするの初めてだと思うんですが…」
「ちょっと唯、何ボケた事を言ってんのよ。1週間会わなかっただけであたしの事、忘れちゃったって言うの?」
女性は千絵ちゃんの迫力に押され気味になりオロオロし始めている。

千絵ちゃんが更に早く捲くし立てる様に喋っていると不意に目の前にいる女性の後ろから唯ちゃんと同じ声が聞こえてきた。
「千絵〜。そんな所で何やってるの?」
「何って今、あんたと話し…て…って・・・えっ…え?」
千絵ちゃんもその声が聞こえたので、声をした方向に顔を向けて答えようとしたが
途中で硬直してしまったかの様に止ってしまい、そして…
「えーーーーっ!」
千絵ちゃんは驚きのあまりに数歩後ずさりしながら、駅にいるのも忘れ思わず声をあげてしまう。
千絵ちゃんが驚くのも無理はなかった、自分が唯ちゃんに話し掛けているのだと思っていたら、

もう一人後ろから唯ちゃんと同じ顔立ちの人物が現れたのだから…

駅周辺は、たまたま人がほとんどいない時でしたがそれでも数人の人が千絵ちゃんの声を聞いて振り向いてくる。
「ちょっと、千絵。こんな所で大声ださないでよ〜恥ずかしいじゃない。」

「おっ、驚きもするわよ!何であんたが2人もいるのよ!」
まだ驚きを隠せない表情で千絵ちゃんは2人を指差しながら聞いてくる。
「えっ?」と言いながら指差された2人はお互い相手の方へ顔を振り向くと
「えーーっ!」
「嘘…」

と、千絵ちゃんほどではないがさすがに驚いていた。

【第1章】 - (2)へ続く

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