【 第 1 章 】 - (2)

千絵ちゃんはまだ少し混乱した状態で、2人に話し掛けてくる。
「唯、あんたってもしかして双子だったの?」

「違うよ、千絵。双子なんかいないよ。」
2人のうち後から来た方の唯ちゃんが答える。
「じゃあ何で、あんたとそっくりな人がもう1人にいるわけ?双子じゃなかったら一体この人誰なのよ。」
「知らないよ。私だってこんなに自分に似ている人なんて、今まで会った事ないもん。」
「似ていると言うよりはっきり言ってそっくりじゃない。唯、双子じゃなければ一体何だって言うのよ。」
千絵ちゃんと後から声を掛けてきた方の唯ちゃんが話している所にもう1人の(千絵ちゃんと先に出会った)唯ちゃんが
話し掛けてくる。

「あのー すみません。あなたの名前、もしかして‘ゆい’言うんですか?」
「はい、『かわ ゆい(河川 唯)』と言いますが、あなたは…」
「嘘…、わたしもあなたと同じ『かわ ゆい』っていう名前なんですけど。」
と言いながら、バックから取り出した物を2人に見せる。
『えーーーっ!!』
今度は2人とも驚きのあまり声を出さずにはいられなかった
2人に見せられたのは免許証だったが、
氏名には『河川 唯維(かわ ゆい)』と
漢字こそ違っていたが唯ちゃんと同じ名前が記されていた。
しかも一致しているのは名前だけは無く、誕生日も唯ちゃんより2年早いだけで同じ『**月△△日』になっていた。唯ちゃんも免許証を返すと同時に一応高校時の生徒手帳を取り出すと学生証の所が見えるようにして
唯維ちゃんに手渡した。

「へぇ〜、ホントに同じ名前なんだ。しかし偶然にしては恐ろしいね。」
唯維ちゃんは妙に感心したように言って学生証をじっと見てから唯ちゃんに返し、今度は千絵ちゃんの事について尋ねてきた。
「それで唯さん、そちらの人はあなたの友達?」
「はい。あ、あたし、宇留千絵って言います。この子とは中学からの付き合いなんです。」
「そうなんだ、宜しくね千絵さん。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
年上とわかって緊張しているのか、少し上擦った様な声で千絵ちゃんは答えた。
「あの〜唯維さん。」
千絵ちゃんが申し訳なさそうな顔つきで唯維ちゃんに話し掛ける。
「何?」
「さ、さっきは随分失礼な事を言ってしまって、本当にすみません。」
千絵ちゃんは唯ちゃんに良く似ている人だったとはいえ、別人に随分失礼な事を言っていたのに今になって
気が付き、その事について頭を下げて謝った。

「いいよ、気にしなくても。あたしも自分にそっくりな人がいたという事にはすごく驚いているし、
もし自分の友達にそっくりな人がいたらあたしも多分間違えてしまうと
思うからね。」
唯維ちゃんは笑ってそう答えた。
千絵ちゃんはもう一度頭を下げその後、唯維ちゃんに話し掛ける。
「ところで、唯維さんはこの後、何か予定ありますか?もし良かったらあたし達、Nisetan』で買い物とか
するんですけど、一緒にどうですか?」

「う〜ん今日は特に用事が入っている訳でもないし、別にいいよ。」
「やったぁ、唯維さんの事色々と聞いて見たかったし、唯維さんセンスも良さそうだから服を買う時も
参考になりそうですから、唯のセンスだと、どうしてもお子様趣味になりそうだからね。」

と言いながら千絵ちゃんは横目でじぃーと唯ちゃんを見る。
「悪かったですね。どうせお子様ですよーだ。」
と言いながら唯ちゃんはスネたふりをした。
一方の唯維ちゃん2人のやりとりを見てクスクスと笑いながら
「仲良いんだね、2人とも。」
2人に話し掛けてきた。
「唯維さんの周りには千絵みたいな人はいないのですか?」
「コラ、「千絵みたいな」のとはどういう意味だ、どういう・・・」
さりげなくもかなりキツイ事を言う唯ちゃんに対し、千絵ちゃんが面白くなさそうに唯に言い返す。
「仲の良い友達はいる方だと思うし、その中には千絵さんみたいな元気の良い人もいるわ。
でも、私の知り合いの中には「千絵」って名前の人はいないかったね。」

「全部が全部、唯と同じって訳でもないんですね。」
千絵ちゃんがそう言った時に、ふと思い出したように腕時計を見る。時間は1130分を示していた。
「あーっ。もうこんな時間。」
「千絵が悪いんでしょ。自分で言っておきながら遅れてくるんだから・・・。あの・・・唯維さん。そろそろ行きませんか?」
「そうだね。もう時間も大分経ってしまったし・・・行きましょうか?」

『はぁーい』

唯ちゃん・千絵ちゃんが同時に返事をすると3人は『Nisetan』へ向かって歩いて行きました

【第1章】 あとがきへ続く

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