女族隷属

1日目(日曜日) 午後1 双警遭惑

駅前は、休日の夕方だけあって結構な人通りだった。
はしゃぐ子供をつれた若い夫婦、ウインドショッピングをする恋人達、部活帰りのバッグを担いだ騒がしい高校生の一団、道端でギターを奏でる売れないストリートミュージシャン。
雑多な人々が駅前の商店街を行き交っていた。
そんなやや西日がかった商店街の中ほど、小さな本屋の店先で一人の中学生がパラパラと雑誌を立ち読みしていた。
ゲームの情報雑誌を流し読みしている小柄な少年、高梨正樹は「はうっ」とこの日何度目かわからないため息をついていた。
立ち読みしている本の内容等全く頭に入らず、ため息をつきながら自分のした事を思い返す正樹だったが、喫茶店「クリソベリル」での夢のような時間から、まだ1時間もたってはいなかった。

そんな少年の脳裏をよぎるのは……
「ふふふふ、坊や、もっとしたいでしょ、ほらいらっしゃい、お姉さんの中に……」
そう言ってきゅっとしまった腰を淫らにくねらせ、ねっとりと濡れた唇に笑みを浮かべ、白い手を差し出す妖艶な美女。
覚えているだけでも、誘われるままに2回、3回と艶やかな女店主を犯しまくり、何度も何度も精を注ぎ込み蕩けるような甘い肉体を味わったのだ。
「泪さん……綺麗だったよなぁ、すごい色っぽいし…」
正樹の思考は、いつのまにか雑誌の紙面からついさっきまで、貪るように味わっていた美女との情事の名残に包まれていた。
すっと伸びた白い腕が正樹の髪をかき乱し、白く豊満な乳房が揺れている。
きゅっとくびれた腰から張り出した滑らかなお尻、そしてスカートから伸びる長くしなやかな美脚への完璧なライン。
その全てが少年のために淫蕩に蠢き、誰もいない喫茶店のカウンターの上で悦楽と従順の声で甘く囁いてくれていたのだ。
「……うわっ、よっ涎」
正樹がはっと気が付くと、何時の間にか手にしたゲーム情報誌を取り落とし、ぽかんと店先で立ちつくしていた。
慌てて袖口でごしごしと口元をぬぐうと、真っ赤になって辺りの視線を気にしてそこらにあった雑誌を引っ掴み、顔を突っ込む。
まっ…まいったな、最近こんなのばかりだよ……
事情を知っている者がいれば、思わずぶん殴りたくなるような幸せすぎる悩みを抱えながら、正樹はまた「はうっ」とため息をつく。
とりあえず、
「坊や、また遊びにいらっしゃい、美味しいご飯をつくってあげるわよ、あら?それとも坊やのお家にお食事作りにいってあげましょうか?ふふふ、それがいいかも、冴子にもいろいろ話を聞かないといけないしね、い・ろ・い・ろ♪」
と、意味ありげに含みをもって微笑む泪さんの猫のような瞳が気になってしかたなかった。
なんにしろ、また一人年上の妖艶なお姉さんを虜にしてしまったのだ……
しかも相手は正樹の保護者でもある冴子さんの親友なのだ。
「はぁ、冴子さんになんて言おう・…」
昨日は許してくれたけど、今度はさすがに大学時代からの親友を堕としてしまったのだ。
凛々しく聡明な女神のような冴子さんでも……
「はぁ、気が重いや」
正樹はまたため息をつくと小さな背筋をもっと丸める。
冴子さんに嘘をつこうとか、泪のことを遊びとして割り切ろうとか、思いつかないところが正樹らしいと言えば正樹らしい悩み方だった。
なんにしろ、何時までも本屋で立ち読みをしていても仕方が無いのだけは確かだった。
「とりあえず家に帰ろっかな……んっ……こっこれ!!」
何気なく掴み取った目の前の雑誌。
そこに正樹はあまりにも見知った顔を見つけていた。
顔を隠すために大きく開いたページに、カラー写真で載っているその人物は……
「まっマイカさん!」
間違いない、何処かのデスクだろう大きな椅子に腰掛けた金髪碧眼の美女が、正樹には見せたことがないビジネスライクな表情で写っている。
そしてその横には、金融や株価や相場変動といった正樹には意味の良くわからない文字が小さくぎっしりと詰まっていた。
どう見ても正樹におなじみの娯楽冊子ではない。
おそらく経済専門雑誌なのだろう表紙には、正樹の知らない、だがその世間では非常にメジャーな雑誌名が書かれていた。
「まっマイカさん……本に載ってるんだ……」
正樹は驚きを隠せないままパラパラと本を捲っていく。
そこには『アジア経済の今後を担う』という特集で、マイカさんともう一人、こちらも外人女性の年若い社長が取り上げられていた。
残念ながら正樹には書かれている内容の十分の一も理解することはできなかった。
しかしマイカの写真や、経歴…これも意味のわからないものだったが、代表とか会長とか名誉理事などと書かれているだけで正樹に感嘆の声を出させていた。
「凄いや、ここにも載ってる、ここにも……あっ、レンさんも出てる」
グラビア雑誌や週刊誌のように、ページ丸ごとを使って大きなサイズで人を扇情させるような写真ではなく、格式のある経済紙にあくまで顔写真として掲載されているのだけなのだが、その人をひきつける美貌はまったく損なわれてはいない。
「……ほんと凄いや」
正樹にとって、知り合いが本屋で売っている雑誌に載っているという事実は驚きの一言だった。
雑誌や新聞はあくまで読むための物で、自分や自分の知っている周囲には縁がない、そう思っていたのだ。
そこに知り合いというよりも、もっと密接な……少年の肉奴隷に堕ちた外人美女がきりっとしたスーツに身を包みインタビューに答える様子が載っているのだ。
「……マイカさんって本当に…凄い人なんだ」
実際目の前で特別列車を走らせたり、電話一つで運行ダイヤを替えたりとむちゃくちゃしているのだが、そんなことより本屋に売っている雑誌に載っていることが単純な少年を驚かせていた。
もし正樹が「聡明な金色の女帝」と呼ばれるマイカ・ルーベルトの真の実力と世界に与える影響力を知れば驚くではすまされないレベルなのだが……
そして、そのマイカの絶対的な主人である正樹は、自分自身が知らないうちに実は自分が世界経済を担うほどの大きな発言力をもっていることに気が付いていなかった。
もし今、正樹が本に載りたいと一言いえば、マイカは喜んで本どころか出版社を1つ創設することは間違いない。
もっともそんな欲は間違えても持ちそうに無いのが正樹本人の資質の一つなのだが……
そしてそんなこととは露も知らない少年は、
「……こんな人たちを僕は……」
と、純粋にマイカとレンの運命を狂わせてしまったことに脅えていた。
雑誌の中で自信に満ち溢れ椅子に腰掛けるマイカ、そしてその後ろに控える赤い髪の寡黙なレン。
平凡な正樹は、そこにはまったく知らない世界があるように思えてならなかった。
だが、そんな彼女達と昨日だっていつものように朝の特別列車の中で貪るように交わりあっていたのだ。
「あん、ふふふっ今日もあたしの中に出すのね正樹、いいわほら、あんっ、でてるぅ」
「……正樹様、次は私の中に…あん…うっ後ろからですか?…かっかまいません、正樹様にしていただけるのなら……んんっっ」
正樹の上で淫らに腰をふる見事な金髪の輝くマイカ。
そして、絶品の淫肉で正樹に奉仕する赤毛の麗しいレン。
目を閉じなくても毎朝必ず自分を抱きしめ、通学時間の間中交わりあう美貌の外人美女達の姿は簡単に浮かんでくる。
優雅に微笑み正樹に左右から抱きつく彼女達と、雑誌の中で新しいビジネスモデルについて論じる美女達。
そのギャップが正樹を困惑させていた。
「……こっこんな凄い人達にあんなことしちゃって…僕は」
別に経済的に恵まれているから人間として偉いとは限らないが、まだ中学生の正樹にとって読むのも大変な小難しい雑誌で特集を組まれるような人と自分が関係しているという事実は十分に混乱を引き起こしてくれる原因となっていた。
「………ぼっ僕…僕」
もし自分があの時あの電車に乗らなければ…
もし腕輪がはずれなければ…
もしこんな不思議な力がなければ……
これほど光り輝く美しい美女達と関係を持つことは一切無かっただろう。
道端で会っても話をすることもなく、もし雑誌を手に取ったとしても、美人な外人さんだなぁっと思いその日の夜に思い出してニヤつく程度に違いない。
それが…自分の変な力のせいで…今は……
「僕は……」
様々な思いが頭の中を渦巻いて、正樹は満足な言葉にならないまま何度も同じセリフを繰り返すと、いつのまにかぎゅうっと雑誌を握り締めていた。
その線の細い顔は血色が悪く、小刻みに震えている。
もし、ここに件の彼女達がいれば……
「あたし達が正樹のものになるのはあたし達が決めたの、それに、正樹が幸か不幸か悩む事はないわ、だってあたし達が正樹を幸福にしてあげるんだからね、覚悟しなさいよ正樹、むちゃくちゃハッピーにしてあげるわよ」とマイカが笑い飛ばし、レンはきっとそっと少年の頭を抱きかかえ何時までも優しく抱き締めてくれただろう。
だが残念なことに、その頃二人の美女はある事情により正樹の側どころか、日本にすらおらず、正樹の混乱した心を鎮めることはできそうもなかった。
「……はぁ」
正樹は小さくため息をつくと、ぼんやりとしたまま本屋から背を向け呆然と機械的に歩き出していた。
これ以上悩んでも正樹一人の力ではどうしようもない。
変な力については摩耶さんが調べてくれているし、後はこれ以上他人を巻き込まないようにおとなしくしているのが自分にできる最善の方法だろう。
「……家にかえろう…」
傷心した正樹に考えられる選択肢はそれだけだった。
冴子さんはまだ仕事から帰って来てないかも知れないが、たまにはお迎えをするのもいいかもしれない……
いつもは、美貌の叔母さんが玄関口まで出迎えてくれ、その抜群のスタイルを駆使してお帰りの挨拶をしてもらっているのだ。
「正樹君、おかえりなさい」そう言って幸せそうににっこり微笑む冴子さん。
その姿は、仕事帰りのぱりっとしたスーツ姿の時もあれば、シャツに短パンのラフなスタイルもあったが……料理中のエプロン…だけの姿の時が大半だった
その光景を思い出しただけで、いつの間にか股間がむずむずと大きくなっている。
ついさっきまで、悩んでいたっていうのに……
「………僕って……最低」
正樹は一人嘆息すると、とぼとぼと駅にむかって歩き出すのだった。


「ちょっと君、そこの中学生、聞いてるの?」
鋭い声が黄昏色に染まる商店街に響いていた。
幾人かの通行人ははっとして振り返るが、その声の主の目線が自分に向いていないのを確認すると、ほっとした顔で視線をそらせ足早に去って行く。
「ちょっと待ちなさい、君」
口調は鋭さと声量を増し、商店街のレンガ道に響き渡る。
そして声の主は、自分の声を無視して駅に向かって俯き加減に歩く少年の肩に手を置いていた。
「君よ、君、待ちなさい」
「え?」
ぐいっと肩を掴まれて初めてその人物……高梨正樹は、先程から自分が呼ばれていたことに気が付いていた。
「なっなんですか?」
きょとんとして振り返ったそこには……
凛々しい美貌の年若い婦警さんが立っていた。
正樹にとって道を訪ねた時か、落し物を届ける時にぐらいしか縁のない職種だ。
「え?……あの?」
きょとんとする正樹の目の前で、官給品の婦警の制服に身を包む女性がきつい瞳で見つめ返してくる。
どう見ても、落し物を届けてくれるのではないだろう。
「あの?なっ何か?」
何もやましいことは無いのに何故かドキドキしてしまう初心な正樹だった。
もっとも正樹でなくても、目の前の婦警に違う意味で胸を高鳴らせる男は少なからずいただろう。
赤味かかった金色の髪…おそらく、きりっとした眉毛は黒いので染めているのだろう…警察官らしくないショートボブに、まるでモデルのように目鼻のはっきりした華やかな顔立ち。
さらには、その胸元のボタンが数段開けられ、短めに詰められたタイトスカートからはストッキングに包まれた美しい美脚をレースクィーンのように余すところなく露出している。
国家公務員にして治安維持を務めとする警察官の服装と派手な美貌とがあいまって、婦人警官というよりもむしろ色っぽい風俗のお姉さんが婦警のコスプレをしていると言った方が的確な容姿と格好のなかなかの美人だったのだ。
「君、ちょっと?その手にもっている物……レジを通っていないでしょ」
正樹より頭半分背が高い金色の髪の婦警さんは、ぐいっと少年の右手を捻り上げる。
「痛っ…なっなにするんで・…あっ!」
思わず半身を捻るように腕を捕られた正樹の目線の先には、一冊の雑誌が目に入っていた。
「そっそれ…」
婦警の白い手袋に包まれた手に奪われた雑誌は、ついさっきまで正樹の思考を捕らえて放さなかったマイカとレンが載った経済誌だった。
しまった!
ついぼ〜としてて、そのまま持って来ちゃってたんだ。
そのことに気が付き慌てる少年にきつい婦警の声が飛ぶ。
「万引きはりっぱな犯罪なのよ、わかってるの」
「はっ犯罪…そんな…」
「あっ、君!」
酷く悪い言葉の響きに、正樹は思わず婦警の手を振り払おうと無意識のうちに数歩後ろに後ずさってしまう。

どんっ

その背中が何か柔らかい物にぶつかっていた。
「まどか、ナイス!その子万引き犯よ、逃がさないで」
手を振り払われ、きっと目じりを吊り上げた金髪の婦警がグロスの塗られた唇を開く。
「おっけ〜」
「え?」
正樹の背後からのんびりとした声が聞こえたと思うと、おもむろにまた腕が後ろにぐいっと回され今度はがっちりとアームホールドをかけられてしまう。
「いっ痛っっ」
「ダメよ、逃げちゃ〜」
スローペースな声とは裏腹に素早い動きを見せたのは、こちらも婦警の制服に身を包んだ長い黒髪の負けず劣らずの美女だった。
すこし垂れ目ぎみの優しい顔つきに、蜜を吸ったような唇はまるで甘えた子猫のように少し突き出している。
そして、お堅い婦警の制服の下からでもわかる大きく張りのあるバストと、引き締まったモデルのようなスタイル。
そんな黒髪の婦警さんが後ろから正樹を取り押さえ、白手袋で包まれた手でがっちりと関節を捕らえていた。
「よくやった、まどか!ふふふ、あたし達から逃げようたってそうはイカのなんとかよ、最近ここらを連続して荒らしてる万引き犯は君ね!」
派手な美貌の婦警さんが、きゅっとしまった腰に手をやると、まるでポーズを取るようにびしっと捕縛された正樹に指をつきつける。
それは、おそらく何度も鏡の前で練習してきたかのような見事な決めポーズだった。
「ねぇ麗華ぁ、逃げたっていうかぁ〜、この子が麗華の迫力で倒れそうになってたような……」
正樹を締め上げる黒髪の婦警がぼそっと呟く。
「まどかは黙ってる!ふふふふ、これであの副署長の鼻をあかしてやれるわ、ついでに査定もばっちり…くくくく、さぁきりきり歩きなさい、交番でたっぷり余罪を追及してあげるわ」
麗華と呼ばれた金髪の婦警さんは、手袋に包まれた手をボキボキっと鳴らすと美貌を歪めて、不敵に笑いだす。
なんだか彼女の後ろから、ボーナス、昇給といった金欲にまみれた公僕らしからぬオーラが出ているかのようだった。
「ちょっちょっと、まってくださぃ、僕違いますっ」
正樹は腕を締め上げられる痛みに耐えながら声をだす。
たしかに悪意が無かったとはいえ、お金を払わずに本屋から出たのは悪いことだったが、このままでは本当にありもしない余罪までも追求されそうだった。
「犯人はみんなそう言うわ」
麗華はギロッと三白眼で少年をにらみつけ断定すると、真っ赤な唇をにやっと歪め壮絶なまでに美しい笑みを浮かべ有無を言わさぬ様子でカツカツとローヒールを鳴らして歩き出す。
「そっそんなぁ」
その取り付く島も無い様子に、呆然と青くなる正樹。
その体は後ろからがっちりと腕を捻られまったく身動きがとれそうになかった。
「あらぁ暴れちゃだめよ〜、はい歩いてねぇ」
そう言いながら先ほど相棒から、まどかと呼ばれたおっとりとした感じの婦警さんが正樹の背中を押すように先へ促す。
その背中に当たるのは柔らかくいい匂いのする細身の身体なのだが、的確に関節をとらえられまったく力がはいらない。
中学男子の平均から比べると線が細くか弱いとはいえ、男の子の正樹を片手一つで器用に取り押さえ、まだ余裕十分なその姿は、おそらく相当捕縛術に通じているのだろう。
「あのっお願いです聞いてください、僕、僕、本当に違うんです」
正樹はまだ背後の彼女ならわかってくれるだろうと最後の望みをたくして声を絞り出す。
「でもぉ、君万引きしたわよね〜、あれぇ」
しかし、のんびりした口調で少年の腕を締め上げる黒髪の婦警は、先行する相棒の手に握られている確実な証拠に目線を送る。
マイカとレンが載った経済雑誌。
「そうですけど…」
「ふぅん、そこは素直なんだ」
「でも、取る気なんてなかったんです、本当です」
涙目になりながら、首を横にふる。
正樹は今の事態がぜんぜん信じられなかったが、それでもまだ心の何処かにちゃんと説明すればわかってもらえるという淡い期待が残っていた。
なにせ故意ではなく、まったくの不注意で雑誌を持ち出してしまったのだ。
ポケットの中の財布に冴子さんの渡してくれた十分なお金もあるし、用途は解らないがマイカが「困った時はこれを出しなさい」と言ってくれたピカピカ光るカードだってある。
もっとも正樹がこの二人の婦警のことを詳しく知っていたのなら、そんな期待など一ミリだって持ちはしなかったろうが……
「とっとりあえず、放してください逃げませんから」
先程から関節をとられ身動きできない正樹は必死に訴える。
腕がしびれて痛いのもあるが、それよりも婦人警官の制服に身を包んだ黒髪の美女の柔らかいバストの感触で下半身がこんな時だというのに大きくなりだしていたのだ。
「だ〜め、そう言って逃げちゃう悪い子ちゃんも多いんだもん♪」
のんびりとした声の婦警さんは、さらに胸を押し付けるようにしてぐいっと正樹を背後から抱き締める。
「あうぅ……嘘じゃないんです」
長い黒髪も美しい婦警さんに公道で抱き締められ、身悶える少年。
「あらら、だめよ、暴れたって逃げられないんですからねぇ」
じたばたと体を左右にふる正樹を、まるで駄々っ子をあしらうようにまどかは軽くいなすと、さらに腕を絡めてぐいっと抱きかかえる。
「ううっ」
「ふふふ、逃がさないわよぉ」

カチリッ

その時、もみ合う二人はまったく気がついていなかったが……少年の腕に嵌められていた不思議な模様のついた腕輪の止め具が、婦警さんの袖にひっかかり微かに緩みだしていた。
「やっやめてください」
「だ〜めぇ、暴れるとどんどんきつくなるわよぉ」
そして、その腕輪の緩みに呼応するように黒髪の婦警はさらに激しくぎゅうぎゅうと正樹を抱きしめる。
ぐいぐいと形のよい膨らみが背中に押し付けられ、紺のスカートから伸びた長い脚が少年の股を割り入り込んでくる。
「あうぅ」
「ほら〜ぁ、ねぇ、おとなしくしなさい」
その美貌は少年の耳元に甘い息を吹きかける距離まで接近し、チロチロと伸びた舌先が耳を微かにかすめだしていた。
その姿はどう見ても犯人を逮捕する勤勉な婦警と言うより、困って赤くなる少年に逆セクハラをはたらく不謹慎なお姉さんといった具合だった。
「どう?まだお巡りさんを困らせるのかなぁ?」
黒髪の婦警さんは、自分も息を少し荒くさせながら、捕獲した犯人というよりまるで愛しい恋人を捕まえたように少年を包み込み、しっとりと濡れた唇の先で耳元に囁き続ける。
「てっ抵抗してませんから……あうぅ」
「ホントかなぁ」
くすっと笑うと、関節を締め上げていた筈の手が何時の間にやら移動し、白い手袋に包まれた指で少年の身体を服の上から撫でまわすように動いていた
「やっやめてください、なっなにするんですかっ」
「んふふふぅ、凶器を持ってないか、お巡りさんが検査してあげるわ〜」
のんびりした口調の端々には、まるで熱に犯されたような甘い響きが混じりだしていたりする。
まどかと呼ばれたその美貌の婦警の手は、正樹の身体を這いまわり、やがて下半身の方に触手を伸ばしだしていた。
「こっこんなのおかしい…ですよ…あっ」
「……ふふ、かっわいい」
まどかの子猫のような唇が楽しげな笑みの形をとると、制服に包まれた胸の奥がトクントクンと高鳴りだす。

……ほんとあたしどうしちゃったんだろ……この子の言うようにおかしいのかも……
……ううん、おかしくなんかないわ…
……犯人の言うことを鵜呑みにしちゃだめ!
…そうよ!わたしは犯人が凶器をもってないか確かめてるんだもん
これは警察官の義務だもの!

「ふふふ、それじゃ、もっ〜と、調べましょうね」
すでに少年に対して正常な思考を働かせていない婦警は、とろんっとした瞳で腕の中の獲物を弄ぶ。
「あうぅ、やめてくださぃ、婦警さん」
目の前で小さくもだえる万引き犯の少年。
その婦警という言葉の響きがびくんっと長髪の美女の体を自制させる。
「お願いです、僕もう抵抗しませんから、だから…」
正樹は、背後から抱きしめる美人婦警の腕が緩んだ事を感じて畳み掛けるように懇願する。
その震えた声と必死の口調が、まどかの脳裏にかかったピンク色の霧を徐々に晴らしていた。

……たっ確かにちょ〜とやりすぎちゃったかも…

「そっ…そうね」
抜群のスタイルの婦警さんは、ばつが悪そうにそう言いながら少しだけ腕から力を抜く。
「あっありがとうございます」
思わず正樹は自分は悪くないのにお礼をいってしまう。
だが、それは間違いだった。
「………っ!!」
そんな律儀な少年の顔を覗き込んだ黒髪の婦警と、正樹の瞳がばっちり合ってしまったのだ。
お互いの瞳が相手を映しこむように覗き込まれたその瞬間……

……まっいいか、だってこの子とっても可愛いんだもん、ぎゅってしちゃおっと

まどかは自分が婦警と言うことも、ここが公道であることも忘れ、先ほど以上に密着して少年を抱きしめる
「ふふふ、騙されないわよ、そう言ってお巡りさんから逃げるつもりなんでしょ、悪い子ちゃんね〜」
「えっそっそんな」
しかも、あたふたと慌てる少年のズボンの膨らみに白い手袋に包まれた手を再度伸ばしだす。
「ふふふ、やっぱりね〜ここに何かかた〜いモノがあるだもん、うふふ、何かしら?」
「あぅ」
白い手袋に包まれた婦警の指先が今まさに少年のズボンのジッパーを降ろそうとした。

その時、
「まどか、何してんのさっさと行くよ、これから取り調べだからね、ふふふふ、余罪の十や二十すぐに思いださせてやるわよ、くくく」
先に歩き出していた金髪の婦警が振り返り、ぱんっと拳を手に打ちつけて不敵にニヤついていた。
「あっ…うっうん、わかったぁ」
その音にはっと意識を取りもどした黒髪の婦警は正樹から身体を離すと、ぼや〜とのぼせたような顔で余罪をでっちあげる算段を練る同僚を見つめる。
「ん?どしたのよ、まどか?」
「う…ううん、なんでも…ない…なんでも……すぐ行くわ」
さらっと流れる自慢の黒髪を振ってまどかは頭の上から滑り落ちそうになっていた帽子を直す。
「そっそんな……まっ待ってください、話を聞いて」
まどかは、そう叫ぶ少年の腕を今度は心持ち優しく、しかし絶対に逃がさないように掴み上げ、にっこり笑う。
「うふふ、わかってるわ……お話はミニパトの中でたっぷり聞いてあげるわね」
そう言うと、いまだに無罪を主張する少年を引きずるように、通りの向こうに止めたミニパトに向かって歩き出す。
「え?そっそうじゃなくて…あの…ちょっと…うわぁ」
まるで密売される小動物のように軽々と扱われる少年は、そんな婦警さんが頬を染めて「楽しみっ楽しみ♪」と鼻歌を歌っていることも、腕に嵌められた腕輪が今にも外れそうなほど緩みブラブラと引っかかっていることにも気がついてはいなかった。


唐突だが、草壁 麗華は困惑していた。
思わず鮮やかな金色に染まった自前の髪を掻き毟りたくなるほど困惑していた。
こんなに困ったのは、今の職場、ここ「学園駅前交番」に飛ばされた時以来と言っていいだろう。
もともと、公僕の意識も低く、テレビの刑事ドラマを見て面白いかもって軽い気持ちで警察官になっただけの麗華にとって「初の女性だけによる派出所」への移動は困惑以外の何物でもなかった。
提案者の「女性の感性によるきめ細やかな地域住民へのサービス」との創設理念とは裏腹に、実際には何かあっては問題と犯罪率も極端に低く、しかも他の派出所の管理区域にかぶる形で無理やり増設された形だけの派出所だったのだ。
しかもご大層なことに歩いて5分のところに本署がどんっと控えているのだ。
交代要員もいない二人制かつ夜間休業という時点で、すでに機能していないといっても過言ではない職場環境。
結局喜んだのは、すばらしい理念を打ち出した提案者のキャリア組の女副署長と色物取材で一時沸いたメディア、それに活動理念の定かではない女性権利団体だけだった。
麗華にとっては本署に戻りたくても、何の事件も取り締まる対象もないため点数の稼ぎようもなく、戻る手柄も口実も立てられないここは監獄とたいして違いはなかった。
話し相手と言えば同じように飛ばされてきた、同期の川村まどか、ただ一人。
自分とは違い、やんごとなきお嬢様のまどかは両親の手回しで犯罪に会いそうになく、かつ、いかがわしい男性の同僚がいないと言う理由でこの社会的陸の孤島に計画的に飛ばされてきたらしかった。
そんな理由なら最初から警察官になるなっと思わないでもない。
まぁ何にしても、そんなただ一人の同僚が今、彼女を困惑させていたのだ。
「ねぇ、お名前は?どうしたの、忘れちゃったんですかぁ?」
のんびりとした声がまるで赤ちゃんに話し掛けるような甘ったるい響きを含んで聞こえてくる。
「ねぇ、僕ぅ、お姉さんとお話ししましょ、お名前教えてちょうだい、ねぇ」
「………」
麗華は、自分でも自慢の長く形のいい足を組み直すと、額に浮かんだ青筋を抑えるように指でこめかみをグリグリとほぐす。
「ねぇったら、話してくれないとお姉さん怒っちゃうぞぉ、ぷんぷんっ、なんちゃってぇ、えへへ」
スポンジみたいなスカスカな声がふわふわと宙を舞う。
釣られるように麗華の頬がひくひくっと引きつっていく。
「あ〜ん、お願いだから、お名前教えてよぉ、ねっ、ねっ、これ以上意地悪するとお姉さん泣いちゃうぞぉ」
麗華はビキビキっという音をたてて奥歯を噛み締め、眉がぐんぐん上がっていく。
……落ち着け、落ち着くのよ
…相棒の間の抜けた天然バカっぷりはいつものことじゃない。
そう、いつも……いっつも馬鹿ばっかり……
ううっ胃が…胃が痛いっ
麗華は今まで、まどかがやってきたドジの数々を思い出してさらに怒りを倍増させてしまう。
自ら憤りを再燃させヒクヒクとひきつる麗華の横で、甘ったるいマイペースな声はさらにとんでもないことを言い出していた。
「そうだ、じゃぁお姉さんのお名前教えてあげるわぁ、お名前はねぇ川村まどかって言うのよ、スリーサイズは秘密なんだけどぉ、君にだったら教えてあげてもいいかもぉ」
麗華の額からブチッと不吉な音が響いていた。
我慢の限界、忍耐のリミッターがレッドゾーンに振り切れる。
「やめやめぇええええ、どこの世界に取り調べ相手にスリーサイズ教える婦警がいるのよぉ」
ブチ切れた麗華はグロスの塗られた光る唇を開くと、目の前に乗り出していた同僚の頭をがっと掴んでぶんぶんと上下に振る。
「きゃぁん、いやん、いやん、いやんっ」
「いやんっじゃないわよぉお、このお馬鹿ぁ」
同僚にヘッドロックをかける金髪の婦警さん。
「あのぉ僕もう帰っていいですか?」
そんな二人の間から、おそるおそる正樹が声を出す。
『絶対ダメっ』
すごい剣幕で振りかえる美貌の婦警コンビの返事は見事な程にはもっていた。
「まだ、電話番号も聞いてないんだもんっ」
「まだ、調書もとってないでしょうがぁ」
その理由は見事に違うようだったが………

そんな怒鳴り声やら甘い声やらが行き交っているのは、正樹を拘留した二人の婦人警官、草壁麗華と川村まどかが勤務する小さな交番だった。
まさに町の派出所っと言った感じのこじんまりとした建物は、意外にもたった二人が勤務するには十分な大きさで、デスクの置かれた受け付け兼応接間、それに簡単な仮眠室をかねた休憩室まで個別に用意されているほどだった。
実際、麗華やまどかは女子寮にかえらず施設の充実したここに泊まりこむことも多いほどだった。
そんな「学園駅前交番」に正樹が連行されて来たのは、まだほんの5分前のことだった。
弁明も言わせてもらえず無理やりミニパトの狭い後部座席に押し込まれ、まるで拉致られるようにここまで連れてこられてしまったのだ。
ミニパトの中でも必死に故意ではないことを伝えようとするのだが、返ってくる返事は「くくく、これで昇給よ、昇給っ、本署に返り咲きよ」という地を這うような美女の不気味な呟き声と「え〜と、右良し左良し、あれもいっかい右見ないとぉ、あぁん左は?」という本当に免許をもっているのか疑いたくなる婦警さんの指差し確認の声だけだった。

「僕本当に…その連続凶悪万引き犯…ですか?それじゃないんです」
そんな正樹は交番の片隅に作られた小さなブースのような中に連れ込まれていた。
通りに開いたガラス張りのドアからはブースの中が見えないように仕切りで区切られている。
使い古された机を挟んで、正樹の座る鉄パイプの椅子、その対面にはぎしっと椅子をきしませてショートカットを金髪に染めた美貌の婦警さんが見事なスタイルを惜しげもなく晒してふんぞり返って座っていた。
そして、正樹に背を向けるようにして座る黒髪の婦警は帳面に書き込みをしている。
ついでに何故か、正樹の目の前の机に大きな懐中電灯が置かれていた。
その用途はまったく不明だが、この小さなブースが何のための小部屋かと言えば、ブースの仕切りの上ある「取調べ中」と丸文字でかかれた手書きのプレートが全てを物語っていた。
ふつう、派出所に取調室などそうそう無いのだが、この増設された小さく区切られたスペースは麗華の個人的趣味によるものだった。
何故か相棒のまどかに予算申請を書かせると、大概の予算が通ることに目をつけた麗華が取調室欲しさにまどかに無理やり発注させたのである。
そんな別名麗華さんのストレス解消部屋の中に、不敵な声が響き渡る。
「そうは言ってもねぇ、あたし達ちゃんと見てたのよ、もう観念して全部吐いたらどう?」
にんまりと唇に笑みをうかべる整った顔立ちの婦警。
その姿は、犯罪者を取り締まるというよりむしろ、どこか非道な刑務所のサディスティクで意地悪な女所長といった感じだった。
「……意地悪な女所長のように麗華ちゃんは微笑みましたっと」
そして思ったままを口に出して供述調書に書き込む天然ボケな同僚の婦警さん。
「だぁああ、あんた何書いてんのよ、余分なこと書かない!」
「何よもう……わかったわよぉ、そんなに怒らなくてもぉ」
まどかは麗華にギリギリと睨まれ慌てて帳面の内容を消しゴムで消して修正しだす。
「ふぅ…たくっ」
麗華は乱れた髪を整えると、がたっと椅子に座り直し自分の優位を保つようにもう一度長い足を組み替える。
「さてと、高梨正樹君、へぇ中学2年生なんだ、え〜と住所は……」
麗華は正樹のポケットから押収というか、略奪した財布から抜き出した学生証をマジマジと見つめる。
「……高梨正樹ちゃんっと」
そして後ろでは黒髪の婦警さんがニコニコしながら麗華の読み上げる正樹の学生証の内容を、何故か自分の手帳にせっせっと書き写している。
「あの…僕…」
正樹は多少おどおどとしているが、それでも自分の主張を続けようと口を開く。
「あによっ」
まるで分厚い鉄の板でも貫けるほどの眼力で少年を睨み付ける麗華。
すでに彼女の脳内では、正樹はここ数ヶ月界隈を荒らしまわる万引き犯というとになっている。
いや、むしろしてみせる!
多少頼りない感じだが、聞き込みにあった通りあの学園の生徒で中学生のようだし、もう間違いない、いや間違いでもこいつが犯人!
そんでもってあたしはめでたく本署復帰!
天然ボケのお馬鹿な相棒とも、暇で退屈な交番勤務ともサヨウナラ!
そんでもって、ばりばりのエリートでキャリアの刑事に見初められたりして玉の輿っ……くくくくっいいわ、いいわよぉぉお、
そのためにもこいつには何としても犯人になってもらわないと!
鳴かぬなら泣かしてやろうホトトギス!」
「……あのぉ麗華ちゃん……声…でちゃってるよ」
はっとして麗華があたりを見渡すと、いつのまにか机の上に片足を乗せて力説していた自分がいた。
目の前では拘束した犯人の少年が、青い顔でガタガタと震えてこちらを見ており、隣では同僚が「あははは」と暢気に笑っている。
「あっ……ゴホッン……」
麗華は咳払いをすると、ちらっとめくれたタイトスカートの裾を整えて何事もなかったかのように椅子にぎしりと腰掛ける。
ちらりと片目を開けて目線を送ると、そこにはもう人間不信一歩手前のような顔でビクビク震える少年がいた。
「……え〜そのぉ……冗談よ」

しーんと静まりかえった取調室。
「………」

数十秒後
「嘘だぁあああ、絶対僕を犯人にする気だぁあああああ」
思わず意識を飛ばしていた正樹が絶叫する。
その顔は血の気が引き、まるで呪いのビデオをみちゃいましたという感じで、目の前の理不尽な不良婦警に疑惑の視線を送っている。
「まぁまぁ、落ち着きなさい、ほら、戦前の特高警察でもあるまいしそんなことしないわよ、ここは法治国家よ、日本なのよ、水も安全も無料なの、安心しなさいって、ははははは」
タダより怖い物はない。
そんな、まったく信用できない本人がカラカラと笑って正樹を落ち着かせる。
「でっでも、さっき」
「あによっ、この麗華さんが信用できないって言うの?」
ギロリと対爆用の複合装甲でも貫けそうな眼光が正樹を貫く。
説得というよりむしろ恐喝だった。
「そっそんなわけじゃないんですけど……」
気の強い女性に免疫が無い、というより周りにいるのがそんな美女ばかりの正樹は勢いを失いしぶしぶパイプ椅子に座り直そうとする。
「そうよ、正樹ちゃん、お姉さん達はそんなひどいことしないわよぉ、ただちょっ〜と調書を書きかえたり、証拠を作ってみたりするだけなんだから♪」
それは偽装に捏造と世間では一般的に言われる行為だった。
ニコニコ笑いながら、よけいなフォローをかます無邪気な黒髪の婦警さん。
「やっぱりぃいい」
「だぁああああ、余分なこと言うんじゃないわよぉ、ほら高梨正樹っ、あんたも座んなさいっ、今回はちゃんと取り調べしたげるから、ほら」
今回は…って…やっぱり…
ガタガタと奥歯を鳴らしながら正樹は震える体で椅子に再度腰かける。
そんな正樹を見ながら麗華は、満足そうに頷くと、底冷えのする視線でもうこれ以上何も言うなっと言わんばかりに相棒を睨みつけ、自分も少年の対面に座り直す。
「ふぅ……さてと……まずは盗んだ物ね…なんだっけ?…あぁこれね」
すらっとした脚を組んだ麗華がその作りの派手な美貌を歪ませると、足元のカバンから雑誌を取り出す。
それは正樹が本屋から持ち出してしまった例の雑誌だった。
「ふ〜ん、でもまた変なもの盗んだわね、面白いのこの本?」
確かに普通の中学生が、株価の変動や金融論に興味があるとは到底思えない。
麗華は何気なくパラパラとページをめくってみるが、彼女だってまったく何が書いてあるのかよくわからない内容だった。
おそらく自分に1行だって関係することは書いてないだろう、そしてそれはこの目の前の凡庸そうな少年にも当てはまることだった。
「そっそれは……そのべっ別に、たまたま持ってただけで……それに盗んだんじゃ…」
ここでマイカとレンを名前をだせば迷惑がかかると思い正樹はもごもごと口の中で言葉を濁らせ、あいまいな口調になってしまう。
「ふ〜ん」
金髪の麗華は正樹の話など端から聞かず、何となくパラパラとページをめくっていたが、あるページで不意にその動きを止める。
「ふっふ〜ん……な〜るほど、ねぇ」
おもむろに一人納得して、にやっと意味ありげに笑うその顔は華のある美しさだけに、見る者をたじろかせる威力は十分だった。
「なっなんですか?」
思わずその凄みのある美貌にドキマギしながら正樹が声をだす。
「くくく、そっかそっか、中学生ならエロ本の一つも買えたくても買えないもんねぇ、確かにね、ふ〜ん」
麗華は面白そうな目線で正樹をまるで値踏みするようにジロジロと眺めると一人悦に入ったように何度も納得する。
たいへん失礼きわまりない婦警さんだった。
「くくく、かわいい顔しても、健全な男子中学生ってわけだ」
実際は健全どころか実の叔母さんや学校の女教師を肉奴隷にしているとんでもない中学生なのだが、そんなことは知らない婦警さんはうんうんと頷く。
「ね、ね、どうしたの麗華ちゃん、何々?」
後ろの席で書記をしていた川村まどかが、好奇心に満ちた瞳をキラキラさせてキャスターを転がすと椅子ごと同僚の側に寄ってくる。
「見てみな、まどか、これ、ほらここっ」
「えっ、どれどれ〜……うわっ、すっごい美人さん、外人さんね〜、それにすっごいスタイル、モデルさんなのかしらぁ…うひゃぁ胸もおっきい、ねねっ正樹ちゃんはどっちの人が好みだったの?」
そう言ってまどかが正樹の前に突き出したページは、まさに正樹が本屋で立ち読みしていた知的な輝きに溢れたマイカのカラー写真が載ったページだった。
さらに見開きのもう片側のページには、正樹の知らないマイカに負けず劣らずのショートカットの美女がこちらもスーツに身を包み秘書らしき女性を従え嫣然と微笑んでいる。
おそらく特集を組まれていたもう一人の女社長というのが彼女なのだろう。
「ねっどっちどっち」
「あっあの…こっこの人が……」
正樹がマイカを指してモゴモゴと口篭もっている間に、まどかはばっと雑誌を引っ込め、マイカの写真と自分の警官の制服に包まれた体をまじまじと見比べる。
「あ〜ん、そっかぁやっぱり正樹ちゃんはグラマーな方が好みなんだぁ……う〜、あたしも負けてないかも、あぁ〜ん、もう少し胸があればぁ、ねえ麗華ちゃんどうしよぉ?」
制服を押し上げるバストをタプンタプンと揺らして大きさを確かめながら小首をかしげる。
「だあああぁ、あたしが知るかぁ、だいたいあんたの胸が小さかろうがまっ平らだろうが全然関係ないでしょがぁ」
「だよねぇ、あたしより小さい麗華ちゃん聞いた、あたしが馬鹿でした、よよよよ」
「こっこいつは…」
ぎりぎりと奥歯を噛み締め、眉をぐんぐんと吊り上げる麗華と、自分の胸を抱きしめ泣き崩れるまどか。
そんな二人を見つめながら、正樹はガックリと肩を落としてため息をついていた。
「はぁ、どうしよう……」
すでに美女に絡まれる運命の星を背負ったとしか思えない、他人からみたら羨まし過ぎる少年は、それでも彼なりに今の状況を悲観していた。
実際のところ、連続万引き犯云々は濡れ衣なのだが、本屋から件の雑誌を持ち出してしまったのは紛れもない事実だった。
目の前で「胸がないからひがんでるんだぁ、ほれほれっ」とか「うっさい、乳だけ無駄にでかいあんたとは違うのよ」と胸の大きさで大騒ぎの婦警達の指先一つで正樹の運命は決まるのだ。
もし彼女たちが厳重注意で済まさず、正樹の保護者である冴子さんに連絡をしたら?
そう思うと正樹はますます気が重くなってしまう。

どうしよう……
どうしたら?

その時、思い悩む少年の視線の先に、自分の腕に嵌められた例の腕輪が目に入る。
それは先ほどのもみ合いでその留め金が緩みきっていた。

…あっ危ない、外れそうに……はっ外す?
……そうだもし今これを…

ふと、正樹の脳裏に悪魔の囁き声が聞こえてくる。

そうだ、もし今この腕輪を外して、あの不思議な力が出れば……

ちらりと目線を上げると、二人の婦人警官は未だに胸の大きさについて激しい罵り合い…討論を続けていた。
「ふん、そんな乳牛みたいな胸をゆすったって気持ち悪いだけよ」
「無いよりましだもん♪」
「うぐっ…」
「それに〜麗華ちゃん、お風呂の棚に隠してるでしょ……バストマッサージ用の機械♪」
「うううぅ……うっさい、うっさい、うっさいぃいい、人が気にしてることをこの娘はぁあああ」
どうも言い合いから取っ組み合いに移行しそうな様子だった。
そんな二人だが、正樹がいままで見てきた女性に勝るとも劣らずの美女だろう…その性格をさておけば世の男性なら自分からこの取調室に列をなして群れるほどだ。

そうだ……
この二人を…

知らず知らずのうちに少年の喉がごくりと鳴る。
今までだって魅力的な美女たちを自分の虜にしてきたが、「堕としてやろう」という明確な意識があって堕としてきたわけじゃない。
自分で自分の力を知ってそれを使うのと、何も知らず無知という名の免罪符で目を覆ったまま使うのとでは……その差は歴然だろう。
正樹はもう一度、生唾を飲み込むと震える指先をそっと腕輪の表面に走らせる。
今は亡き母が作ってくれたそれは、正樹にはまったく解らない何かの皮で作られ不思議な模様と文字を浮かび上がらせた細かな細工の入った逸品だった。

その緩みきった留め金に正樹の指さきがソロリソロリと伸びていく。

…そうだ、今外せば…

正樹の呟きを後押しするように、肌の奥で黒い衝動がざわざわと沸き立ちだす。
髪の毛の先からつま先までまるで何百もの黒い糸が這い回り、その一点、自らの意思で女性を堕とすという目的のために腕輪に集まっていくような感触が少年を襲う。

…外せば…外せば…僕は…

ドクドクと耳の後ろで血管が悲鳴を上げている。
正樹の目の焦点は霞がかかったように狭まっていき、もう腕に嵌められた腕輪しか見えていない。
その霞んだ視界の中では、まるで腕輪についた黒いシミが自分の激しい鼓動に合わせて鳴動するように広がっていく。

…僕は…僕は……

ジュクジュクと正樹の体から湧き出す黒い衝動は、滲み出すように腕輪を撫でる指先を飲み込み、まるで操るように、急かすように、留め金を狙って叫び声をあげていた。

…ヨクボウを…
………カイホウしろ…と

「僕は……うわっ」
その時、強烈に刺すような光が襲いかかる。
「ううぅ」
あまりの激しい光にチカチカと瞬く残像に襲われる正樹は、くらくらと頭をふって意識を取り戻していた。
「くくく、何をボンヤリしてたのかしら?高梨正樹クン」
そこには、ニヤニヤ笑いながら正樹を見つめる麗華が悠然と椅子に腰掛け、すらっとした美脚を披露していた。
「うっ…うぅ…眩しいです」
「くくく、犯罪者は明かりを嫌うものよ」
刑事ドラマの見すぎのような台詞を吐く美人婦警。
その手に逆手に持たれた懐中電灯から延びた光線が、正樹の顔を直撃している。
先程正樹を正気づかせた強烈な明かりの光源はこれだったようだ。
どうやら、この懐中電灯は取調室などによくあるスタンドライトの代わりらしい。
「さてと!ぼ〜としてるんじゃないわよ、今から徹底的に追求して……余罪を吐かせてあげるからね!」
余罪をでっち上げる気満々の不良婦警は派手な美貌を素敵に歪ませ、本人談「機能的な大きさの優良バスト」を突き出すようにして威張っている。
ちなみに、こちらは同僚談「奇怪お化け乳牛」の持ち主、川村まどか巡査は口論に負けた同僚の苦し紛れの鉄拳にやられ。頭をおさえてえぐえぐと涙を流していた。
正樹はそんな二人を、まだチカチカする視界に捉えながら、そっと腕輪から手を放していた。

……こんなことはよくないよね…やっぱり

懐中電灯の刺激のおかげで正気を取り戻せなかったら、今ごろとんでもないことになっていただろう。
「ふぅう」
思わず安堵のため息を吐くその手は、いつの間にかびっしょりと汗に濡れていた。
「ちょっと聞いているの、高梨正樹っ」
カッとまた正樹の瞳をねらって懐中電灯の鋭い閃光と麗華巡査の詰問が飛んでくる。
「はっはい」
「いいわ、まずはこれ、何かしら?」
目を細めて顔を上げる正樹の前に、ピカピカと光る意匠の凝ったカードが一枚差し出される。
何処かの会社のロゴマークだろうか大きな盾とグリフォンを象った紋章が描かれ、その下には認識用のホログラムが七色の輝きを放っている。
間違いなくマイカが正樹に「困った時にお使いなさい」と、くれたカードだった。
「それは…知り合いに借りてて…あの、それが何か?」
正樹にはその利用価値がまったくわからず、なにかの商品券のようなものだと気楽に思っていた程だった。
「くくくく、墓穴を掘ったわね高梨正樹」
しかし、してやったりとニヤリと例の壮絶に美しく背筋の凍る邪な笑みをうかべる麗華は、声高にびしっと正樹を指差す。
「これはクラウン・クラブのすっんごい高級な会員限定のプラチナカードなのよ、あんたみたいな中学生がほいほい持ってていいわけない品よ、くくく、そう……ずばり盗品ね」
「そっそんなわけない……うわっ眩しい」
麗華はカッとまた懐中電灯の光をあてて反論を防ぐと、意味も無くばんっと机を叩き、勢い込んで正樹の目の前に鋭く濁った眼光で迫ってくる。
「さぁ、きりきり吐きなさい、あんたの背後にきっと日本をまたにかける国際的なカード盗難組織があるに違いないわ」
そっちのほうが、そこらの中学生がほいほい関わってる可能性はかなり低そうだが……
錆びた剃刀のように不敵に笑う婦警さんに、正樹は怖くて意見できそうになかった。
「ねね、このカードそんなに凄いの」
暢気なまどか婦警は、机の上からひょいっと件のカードを取り上げるとまじまじと見つめる。
「あったりまえよ、そのカード会社は格式が高くて一般のカードだって審査が厳しくてなかなか発行してもらえないのよ、あたしだってブロンズクラスを申請したのに……なによ薄給なんだから仕方ないじゃない……それのプラチナよ、プラチナ、ゴールデンのさらに上よ、えっっわかってんの、おい、こら、高梨ぃ」
完全にエキサイトしてしまった不良婦警さんは、片足を机の上にのっけると正樹の襟首を締め上げ、その眼前に懐中電灯を押し付ける。
「あううぅ、まっ眩しいです」
襟を掴まれ頭をシェイクされ、瞳を照らされた正樹はなんだかクラクラしてきて頭がぼ〜っとしてくる。
「だめよ、こっちを見なさい、さぁこのカードも盗んだものよね、素直に言いなさい」
グリグリと正樹の頬に懐中電灯が押し付けられ、瞳に閃光が突きつけられる。
「ううぅ…やっやめてくださいぃ」
このままこの状態が続けば、少年の意志は確実に削られ、落ちるのも時間の問題だろう。
原始的だがけっこうじわじわと効く方法だった。
「くくく、ほら素直に盗みましたって言えばいいのよ」
グロスの塗られた透明感のある唇が、そっと甘い声を囁くように少年の耳元に自供を迫る。
「あうぅう……」
「ほら、言っちゃいなさい、僕がやりましたって……ら〜く〜になるわよぉ」
襟首が締まり、頭に酸素がまわっていない正樹にはそれがまるで天使の囁き声のように聞こえてきていた。
「ぼっ…僕…」
「うんうん、僕が?」
正樹が紫色の唇で何故かやってもいない犯罪を告白しようとしていた、その時。
「ねねね麗華ちゃん、このカードに刻印してあるMASAKI TAKANASHIって正樹ちゃんのことじゃないの?」
何気なくカードを見ていた黒髪の婦警がのんびりとした声をだす。
「まっマジ?……げっホントだ……こっこの子のカードだ……ふぅ意外な盲点ね…うかつだったわ」
盲点も何もまず最初に調べることなのだが、金髪の婦警は「うかつだったわ」の一言で全てを勝手に水に流していた。
「ごほっごほっ……しっ信じてもらえましたか」
チアノーゼをおこして紫色になった唇を押さえて正樹はぜぇぜぇと肺の奥に酸素を送り込む。
「まっ…まぁね……しかし、何でこんなカードをこんな子が…はっまさか偽造!」
麗華はぱちんっと指を鳴らすと推理を現実にかえるため、カードを念入りに調べだす。
「あららら、大丈夫?正樹ちゃん、はいお水」
そんな麗華をほうっておいて、まどか婦警は水差しからコップに水を注ぐと少年に差し出し、その背中をさすってやる。
「…んぐ、んぐ……うぅ…すっすいません」
「うふふ、いいのよ、正樹ちゃんも疲れたでしょ」
にっこり笑って正樹を見つめる視線はどう見ても麗華と正反対というか、正樹を犯人とさえ見てないような、のほほんとした様子だった。
「あの…僕…どうなっちゃうんですか?」
ちらりと向こうでカードを噛んだり、曲げたり、懐中電灯に透かしてみたりと色々試す暴走婦警さんを見ながら正樹は疲れきった声をだす。
「そうねぇ、麗華ちゃん久しぶりに遊んでくれる人を見つけたから喜んじゃってるのよぉ、もう少しお相手してあげて♪」
「遊び相手って……」
呆然とした顔で黒髪の美人婦警さんを見上げる正樹の頭の上にぽふっと手がのせられ、まるで子犬を撫でるように撫でまわされる。
「ふふふふ、でも正樹ちゃんって本当に可愛いわねぇ、お姉さんとっても好きよぉ」
にっこり笑いながら暢気な口調でそう言うと、かいぐりかいぐりと頭を撫で続ける。
「じょ冗談はやめてください…」
「あら、冗談じゃないのに…ふふふ」
残念そうにそう言う暢気そうな婦警さんの黒い瞳の奥はいたって本気だということに、まだ正樹は気がついていなかった。
「あの…僕…もう、家に帰りたいんですけど…」
「えぇ、もう帰っちゃうの?…そうだ〜、じゃ今からカツ丼とってあげましょうか?ねっ、警察でカツ丼、食べてみたいでしょ?」
何が嬉しいのか黒髪の婦警さんはニコニコ微笑んだまま、正樹の頬をつんつんとつついて促してくる。
「でも…僕……」
「美味しいわよ〜、カツ丼♪」
どう傍目から見ても、犯人と警官の会話ではないのは確かだった。
その時、ようやくカードに偽造の跡を見つけることを観念した麗華がいい雰囲気の二人に目をとめる。
「ちょっと、まどか、なに犯罪者となごんでんのよ、あたしが取調べするんだから、あんたは黙って供述調書とってなさい」
いっそのことカード情報をこっそり本庁の盗難リストに加えてやろうと策謀としていた麗華が鋭い声をだす。
「なによぉ、麗華ちゃんばっかり正樹ちゃんとお話してずっこいじゃない」
「おっお話ってあんたねぇ、これは取り調べよ」
「ふ〜んだ、今度はあたしがお話する番なんですからねぇ」
そう言いながら、正樹の頭をぎゅっと制服に包まれた豊満な胸の中に無造作に抱きしめてしまう。
「うぷぅ」
まどかのふくよかで弾力のあるバストの谷間に抱かれ正樹は顔を真っ赤に染めて埋もれてしまっていた。
「んふふふ、お姉さんの取調べはとってもきついわよぉ、あっそうだその前にカツ丼とってあげないと♪」
暢気に笑い正樹の頭をいい子、いい子と撫で回すまどかの目の前で、プチプチと麗華のこめかみの血管が切れていく。
「だああぁあああ、あんたの取り調べもカツ丼もなしよ、そこにいるのは、国際的なカード偽造犯なのよ」
いつのまにか、ただの万引きから三段跳びでカード偽造犯にされている。
カツカツとヒールの踵をならして机を回り込んできた麗華は無造作にまどかを正樹から引き離す。
「あんっ、麗華ちゃんのヤキモチ妬きぃ」
「んなわけないでしょがっ……たくぅ…さてと、高梨正樹、きりきり吐いてもらうわよ」
口の端を吊り上げて笑う美女婦警におののきながら、ついつい正樹は言わなくていいことを口にしてしまう。
「あの……」
「何よ?」
「……カツ丼でないんですか?」
「でるわけないだろがぁ」
どがっと懐中電灯を机に叩きつける麗華。
麗華は、あはははっと冷や汗を流す正樹を一睨みすると、冷めた目つきでいそいそと立ち去ろうとする同僚にギロリと視線を飛ばす。
「…んで、まどかは何してるの?」
「えっ?何って、決まってるじゃない」
のんびりと振り返るまどかは、なせか婦警の制服の上からひらひらのエプロンを身に纏ってぴっと人差し指を一本立てる。
「カツ丼つくろっかなぁって…ダメ…だった?」
「おまっえはぁああああああ」
ぐわっしと同僚の頭をひっつかむと激しくシェイクする豪快な婦警さん。
「いやぁめてぇぇえええ」
「どぉこの世界に手作りカツ丼で被疑者をもてなす婦警がいるかあぁあああ」
がくんがくんっとまどかの頭をふりながら、エプロンをむしりとる。
「だってぇ、正樹ちゃんがカツ丼食べたいって……ごめんなさいぃい」
「……はぁはぁ、あんたはおとなしくそこに座ってなさい」
ぜぇぜぇと荒い息をつきながら、麗華はその美貌を歪ませて丸めたエプロンを床に投げ捨てると、またどかっと正樹の目の前に座り直す。
「……んで、どこまで話したっけ?」

取調べは一向に進みそうになかった。


それからしばらく後、
「ふぅう、ちょっと休憩してくるわ…まどか、この子から目を放しちゃダメよ」
麗華は目頭を細い指先で押さえると、はうっと息を吐き椅子から立ち上がる。
今までずうっと目の前の少年を詰問し続け、ついでに何故か少年の味方にまわろうとする同僚を怒鳴り倒していただけあって流石の麗華も疲れがでていた。
「もちろん」
ニコニコと笑いながら素直にうなずく同僚に一抹の不安を感じながら、疲労に負けた麗華は頭を左右にふると奥にある洗面台のほうへ歩き去る。
やがて、ガチャリと奥の扉が閉まる音が聞こえると、閉鎖されていなとはいえ外から視線を遮られたボックスのようなこの取り調べスペースには正樹と川村婦警の二人だけになっていた。
「ふふふふ、二人だけになっちゃったね」
その途端、まどかは意味ありげに微笑みながら、ゆったりとした感じで微笑むと正樹の目の前の椅子に腰掛けなおす。
紺のタイトスカートから伸びたストッキングに包まれた美脚がまるで少年を誘うようにすっと揃えられていた。
「あの……」
正樹にとっても、これはチャンスとも言える瞬間だった。
正樹を端から犯人と決め付け…というかさらに重犯罪者にしたてあげようとしている先程の金髪婦警とくらべ、まだ目の前のおっとりとした婦警さんのほうが話を聞いてくれそうなのは今までの経緯でも確実だった。
「僕、さっきも言ってたんですけど本当に盗む気なんてなかったんです…あの時ちょっとぼ〜っとしてて…」
「うんうん」
まどかは優しい目つきで少年を見ながら、素直にコクコクと頷いている。
「その本に知り合いが載っていたんですよ、それでびっくりして…」
「うんうん」
その少し垂れ目がちの愛嬌のある大きな瞳は、ほんのりと潤みながらまるで焼き付けるようにじっと少年だけを見つめている。
「それで、本を持ってたことを忘れて…」
「うんうん」
にっこりと微笑む邪気のない笑顔。
「そのまま歩き出しちゃって、故意じゃないんです……って、婦警さん僕の話きいてます?」
「うんうん」
聞いていないこと確実な川村婦警は、先程とまったく同じタイミングで相槌をうつ。
ついでに、何時の間にか椅子のキャスターを転がして正樹の横に寄りそうような位置にちゃっかり移動していた。
「あっあの……婦警さん」
正樹の額にたらっと流れる大粒の汗。
「まどか…って呼んでください」
「ええ?」
突拍子もないことを言い出した黒髪の婦警さんは、息がかかるほどぐいっと顔を寄せてくると何故か祈るように両手を組んで正樹をじっと見つめている。
「え?…ふっ婦警さん」
思わずのけぞる正樹をキラキラと潤む瞳で見上げる黒髪の美女。
「まどか…です」
どうやらそう呼ばないとダメらしい。
先程とは違う意味でせっぱつまってきた正樹は、混乱したまま何とか喉の奥から声を絞り出していた。
「…まっ…まどかさん?」
「はい」
こくっとうなずくその頬はほんのりと桜色に染まっていた。
……こっこの反応は…
正樹の背中にどっと冷たい汗が流れ出す。
フラッシュバックするように思いだされる美女達のあの瞳。
お風呂場で叔母さんが、電車で外人美女二人組が、学校で女教師達が、部室で茶道の先生が……そしてついさっきも喫茶店で女マスターが見せた瞳とおなじ、正樹への恋慕と従属に濡れた輝きだった。
まさか!……あ!
慌ててパイプ椅子に座る自分の腕を見下ろすと、そこには留め金が緩みきった腕輪が今にも外れそうに手首に引っかかっている。
そっそうだった……さっき緩んでるのに気がついて…そのままにしてたんだ……
「あっあのですね、まどかさん落ち着いて聞いて…!!」
はっと顔を上げた正樹の目に映ったのは、にこにこ無邪気に笑う婦警さんがその艶ややかな唇をん〜〜と寄せてくる姿だった。
「正樹ちゃん……んんっ」
「ちょちょっ……話を聞いてっ……んんっ」
正樹の言葉を飲み込むように婦警さんのピンク色のルージュの引かれた唇は迷うことなく重なってくる。
「んんっ」
ぴったりとかさなった美女の肉厚の唇は、まるでお互いの体温を混じ合わせるように長くそして優しく少年の上を這いまわる。
「んっ…んんっ…んふぅ」
パイプ椅子に座らされた少年にそっとキスをする婦警さんは、祈るように組んでいた両手を離すと、おずおずと少年のまだ薄い胸板にもたれかかる。
「んんっ…はぁ…」
その頬はほんのりと染まり、閉じられた瞳の上でまつ毛が微かに揺れていた。
しばらくの間、黒髪の婦警さんは少年の唇の温かみ味わうようにただ顔を重ねるだけだった。
「あっ…んっ」

くちゅっ

やがて、本能的にその先を求めるのか、まどかの口唇の間から差し出された舌先がちょんちょんと正樹の口をつついたり、ひっこんだりを繰り返す。
「んっ…うっ…んんっ」
正樹はそんな美人婦警さんの暖かな吐息と、押し付けられる制服に包まれた柔らかな肢体を感じて徐々に自制心をいつものごとく失おうとしていた。

ちゅっ くちゅっ

「んはぁ…はぁ……ふぅ」
だが、婦警さんの舌先はそれ以上少年を貪ろうとはせず、うろうろと唇の間を彷徨うとそっと離れて行ってしまう。
「あっ…」
「えへへへ、気持ちよかった?」
にっこりと正樹に微笑みかけるまどかだったが、まだ欲求不満そうな正樹の表情を見つけ、徐々にその笑顔が曇っていく。
「あっ…あの……だっだめだった?」
おかしいなぁ…この前みた映画ではこんな感じでキスしてたのにぃ……
もごもごと口の中で呟きながら年上の婦警さんは少年の薄い胸板を指先で撫でさする。
「いっいえ、よかったです」
正樹もそんな恥らう婦警さんに何故かどきまぎしながらそう答えていた。
「そっか〜、よかったじゃぁ、も一回しよっか?今度は正樹ちゃんの好きにしてもいいのよ」
なんとなく正樹のほうが経験豊富だと感じ取ったまどかはさりげなく、お姉さんとして主導権を失わないようにしながらも正樹に続きを促す。
「もっもう一回って……」
「ほら、はやく、んん〜」
まどかの暢気なマイペースに流されるままに、正樹はまたそのピンク色の濡れた唇に塞がれていた。
……好きにしていいんだよね?
正樹はこの数日の間に鍛えられた舌の赴くままに、そっと婦警さんの肉厚の唇を割ると、舌先を差し込んでいく。
「ふみゅ」
ぴくんっと少年に覆いかぶさる制服に包まれた体が震えるが、やがてすべてを任せるように力を抜いて恐る恐るそろそろと口を開いて少年を招き入れていく。

くちゅ ちゅく くちゅ

とろっと唾液にまみれた美女の口腔内に差し込まれた正樹の舌は、そっと歯の間をノックして開かせると、縮こまるように小さくなっているお姉さんの甘い舌に絡み付いていた。
「んぐっ……んんっ…んんっ」

くちゅ ちゅく ちゅるる

正樹の舌が動くたびに、婦警さんの背中がビクンビクンと痙攣し、合わさった唇の間から混じり合った唾液が伝わり落ちる。
「あふぅ…んんっ…んっ」
「まどかさん…もっと口を開けてください…んっ」
「はっはい…んぁ…んぐっ、んぐぅ」
制服姿の美女は、まるで熱に浮かされたようなうっとりとした様子で、素直にうなずくと、自分の口の中を犯す中学生の舌に好きなように弄ばれ続けていた。

くちゅ ちゅくっ くちゅ くちゅ

やがて、正樹の舌が、美女の口腔内を満足のいくまで舐め汚し、たっぷりと自分の唾液をその白い喉の奥に流し終わると、濡れ光る唾液の橋をつくってお互いの顔が離れて行く。

くちゅぅぅ

「はうぅぅ」
ぽわ〜んとした顔で少年を見つめる大人のお姉さんは、まるで強いお酒に酔ったかのように濡れた瞳で目の前の少年を見つめていた。
「……まっ正樹ちゃん……すごいんだね…舌が…こんなに気持ちいいなんてぇ」
もっとも正樹もたいしてキスが巧みなわけではなかったが、初めての強烈な刺激にまどかはもう腰砕けの状態になっていた。
「そっそんなことないです…」
恥ずかしげに下を向く少年の頬をそっと白い手が両側から挟みこむ。
そこには嬉しそうに緩やかに笑う黒髪の美女のトロンとした瞳が待っていた。
「ふふふふ、嘘ばっかり、正樹ちゃん、あたしにもっといっぱいいっぱいキスを教えてくださいね、んんっ」
そう言うやいなや、まどかはがばっと正樹の顔に覆いかぶさっていく。
「っ……んんっ」

くちゅ じゅるるる くちゅう

それは先ほど正樹にされたのをマネた、以前の控えめでやさしげな口付けとは比較にならないほど激しいものだった。
「んんっ…んんんっ」
「んぐ…まっまどかさん……んぐう」
瞳を閉じた川村婦警はまるで少年の口の中をすべて舐めつくように、舌をくちゅくちゅに動かして口腔内をベロベロと嘗め回す。

くちゅうっ ちゅく じゅるるる

技巧もなにもない、ただ少しでも相手の口を味わいたいだけの激しい交わり。
美女の長い黒髪がさらさらと揺れる度に、美貌が左右にふられ、角度をかえて少年の口の中すべてを嘗め尽くそうと舌を蠢かす。
正樹は自分の与えた少し積極的な口付けが、目の前の美人婦警さんの欲望に激しい火をつけてしまったことに今更ながら気がつかされていた。
「んんっ…んふぅ…正樹ちゃん…舌ぁ…もっとぉ…んんっ…美味しいぃ」
「んぐっ、んんっ」
ぴったりと張り付いた二人の厚い口唇の間から交じり合った唾液がトロトロとあふれ出す。

くちゅ じゅるる ちゅく

「ううぅ…ぷはぁ…はぁはぁ、まっまどかさん激しすぎます…はぁはぁ」
「ね〜、もっとキス……しましょ♪」
だが、はじめて知ってしまった蜜の味の虜になっている婦警さんは、やめる気なんかさらさらない。
それどころか、歩道で正樹を軽く締め上げた捕縛術の賜物だろうか性格とは正反対の素早い動きで少年の体をぎゅうぅと抱きしめ、パイプ椅子とサンドイッチにして美貌を寄せてくる。
「うっ…あぅう、だっだめですよ」
正樹はぎゅうっと抱きしめてくる柔らかく張りのある美女の肢体に埋もれながら、もがくように逃げようとする。
その正樹の顔中に、まどかは沸きあがる気持ちそのままにキスの雨を降らして、ペロペロと舌を這わせてくる。
「まっまどかさんっ…んんっ…うぅ」
「ちゅっ、んっ、ちゅちゅっ、……あらら、正樹ちゃん、そんなに暴れちゃだめよ……あっ、そうだ〜」
正樹にぴったり張りついたままの姿勢でまどか婦警はぴょこんっと頭をあげると、何かを思いついたようにモゾモゾ動き出す。
「なっ何をするんですか……んんっ」
「ちゅっ…んふふふ、いいこと♪」
正樹の唇の間にとろっと唾液に濡れた舌を差し入れながら、魅惑的なスタイルの婦警さんは鈍く光る物体をそっと持ち出していた。

ガチャリ

無機質な鉄の錠がかかる音が取調室に響き渡る。
「はい、おっけ〜」
そう言ってにっこり笑う婦警さんは、苦しくなるほど抱きしめていた腕をそっと離してくれる。
もっとも正樹の頬を這うように唇を這わせ、豊満な胸と情熱的なスタイルをほこる紺色の制服につつまれた身体は勿論ぴったりとひっついたままだ。
「なっ何したんです……え?」
緩んだ美女の抱擁の中で、正樹が身じろぎしようとした時、目の前の婦警が何をしたのか初めて気がついていた。
「ええぇ??」

ガチャガチャ

「こっこれは……」
いつの間にかパイプ椅子の背後に回された正樹の両手首に無骨に光る鉄の輪っか。
間違いなく……手錠だった。
「なっなっなにするんですかぁ」
もう泣きそうな顔の正樹に、ちゅちゅっとキスをするとまったく堪えていない黒髪の婦警さんは暢気にのほほんっと声をだす。
「うふふ、だってぇ逃げようとする悪い子ちゃんなんだもんっ、さてっと、それじゃもっともっとキスしましょうねぇ♪」
にっこり笑うと、悪気なんてさらさらない婦警さんは正樹の膝の上にタイトスカートを乱して乗り上げ、そっとその頭を抱きかかえる。
「あっあの…放してもらえませ…んか?」
「だ〜め」
憎めない笑顔のまま、正樹の顔をぽふっと豊満な双球の間に挟みこむ。
まるで溺愛する大事なぬいぐるみを抱きかかえる少女のように、嬉しそうに微笑むとすりすりと少年の顔を柔らかなバストにすりあてる。
「だっだからって手錠はないんじゃ…」
魅惑的な胸に抱きしめられた正樹は、とほほっと嬉しいんだか悲しいんだか本人にもわからない涙を流していた。
「えへへへ、正樹ちゃんごめんね、でも、いい子にしてたらご褒美だっていっぱいあるのよぉ、例えばぁ」
そう言うとまどかは胸の中で柔肉に顔をうずめる少年の顔を自分の方に向けると、ちろっと舌を出して含み笑いをする。
「お姉さんとキスし放題とか♪」
断然自分がやりたいだけという感じもするが、正樹も目の前の艶やかなふっくらとした唇と、とろっと唾液でぬれるピンク色の舌の誘惑に勝てそうにもなかった。
そんな正樹の視線の意味に気がついた婦警さんは、にっこり微笑むと早速ご褒美を行使すべく、そっと万引き犯の少年にその糖蜜の果肉のような唇をおしげもなく与えようとする。
「んふ、気に入ってくれたのねぇ、それじゃ……んっ」
瞼をとじ長い睫を震わせる美貌が桜色に染まると、間髪いれず舌が躍り出て絡みついていく。
「んんっ…んっふぅ」

くちゅ くちゅう ちゅく

まるで始めて覚えたばかりのゲームを楽しむように、まどかの甘い舌は縦横無尽に少年の口腔内を舐め清め、つんつんと口蓋をつつきまわし、たっぷりと唾液を絡ませて吸い取っていく。
「まっまどかさん……んんっ」
正樹も身動きが取れない状態で婦警さんに口唇を奪われるという倒錯的な状況の中、誘われるまま美人巡査の舌を絡めとり、さらにじゅじゅっと音を立てて吸い付いていた。
「あぁぁ、正樹ちゃん、んんっんんっ」
「んぐっ、じゅく、じゅるるる」
取調室と書かれた狭いブースの中で、パイプ椅子に手錠で固定された少年の上にのしかかる黒髪の美貌の婦警さん。
その制服に包まれた体は官能的にくねり、その度に、顔の位置を入れかえ唇を貪り、舌を絡ませる。
大の男も軽く締め上げるそのしなやかな腕は、今は少年の頭を情熱的に抱きしめ、髪の毛に指を絡めて少しでも深く口をまじ合わせようとしっかりと固定されていた。
「んんんっ、はぁ、もうお口の中とろとろぉ…あぁ、いいっ、んんっ、くちゅ、うちゅんんっ」
「はぁはぁはぁ……まっまどかさん…んっんんっ」
「あぁんだめえぇ…もっとぉ」
時折息をつぐために正樹が口をはなそうとするのを、その腕はすぐさま抱き寄せ溶け合うようなディープキスを再開させる。

くちゅぅ じゅるるる くちゅくちゅ

少年の腰にのりあげた婦警のヒップはタイトスカートが捲り上がりストッキングに包まれた魅惑的な太股まで露わになっている。
その美女のスカートの奥ではすでに、くちゅっと音がなるほど恥ずかしいシミが広がり、お腹の奥からジンジンと暖かな欲求が溢れ出していた。
「はぁはぁ、あぁぁんっ、あぁ」
すっかりキスの味の虜になった黒髪の婦警さんは、ぼ〜とした瞳で正樹の唾液を啜り上げながら、無意識のうちに腰をくねらせ正樹の太股に下着越しに擦り付けだす。
「正樹ちゃん…んんっ…しゅきぃ…だいしゅき」
なぜか幼稚な言葉になりながら婦警さんは体全体を使って正樹を抱きしめ、舌を絡めあう。
「んんっ…まっまどかさんっ」
そして、例のごとく、硬い椅子と柔らかい美女に挟まれた正樹は軽く理性を失いながら、ここが交番の取調室であることも自分が今捕まっていることも忘れ、一心不乱に婦警さんとの深い深い口付けを貪り、いきりたった股間をぐいぐいと腰かけるスカートの丸みに押し付ける。
「んふふふ、もう我慢できないね」
「はっはい」
開けた口から伸ばした舌を空中でレロレロと絡めながら、少年とお姉さんは頷きあう。
お互いの立場も場所も忘れた年上の美女は、そっと腰をあげると支給品の紺色のスカートの留め金に手を添え、ジッパーを降ろそうとしていた。
「正樹ちゃん」
「まどかさん」
はらりと落ちるスカートの奥から、レースの凝った純白の下着につつまれた婦警さんのまだだれにも汚されたことのない下半身が露わになる。
「……なんだか〜お姉さん、恥ずかしいわ」
「きっ綺麗です」
「そう?……えへへ、嬉しい♪」
ごくりと正樹は息を呑んで椅子に座る自分に乗りかかる美女を見つめる。
上半身はぱりっとした官給の婦警の制服に身を包み、そのワイシャツの裾からちらちらと除く白いショーツとストッキングに包まれた魅惑的な下半身。
もし後ろ手に手錠で繋がれていなければ今すぐにも襲い掛かってその白い下着を剥ぎ取り欲望のかぎりを尽くしていたことだろう。
そんな目を開いて自分を見てくれる可愛らしい中学生の様子に、まどかはにっこりと微笑むと腰を這わすように下げた手で、そっと自分の下で盛り上がっている少年の股間をおそるおそる撫でてみる。
「ここ…こんなに…ねぇ…正樹ちゃんのも出してあげたほうがいいかしら?」
「……おっお願いします」
「ふふふ、はい、かしこまりました〜、川村巡査におまかせください」
頬をそめて恥ずかしげに何故か敬礼すると、くすっと笑うまどかは、微かに震える指先をジッパーに添え、まるで爆発物をあつかうように慎重にジッパーを降ろしていく。
「……あっ…あぁ」
ズボンの上から微妙な指先に翻弄されてますます大きくなる正樹の股間のモノは、婦警さんのたどたどしい指先が半分ほどチャックを開いたところで、パンツの間から跳ね上がりいっきにズボンの窓からその脈動する姿を晒していた。
「きゃ……すっすごい……うわぁ、なんかぬるぬるしてるね」
椅子に座る正樹を跨いで向かい会う形で中腰になっている婦警さんの太股にぴちゃりとあたる肉棒はドクドクと先走りに濡れ、ストッキングに染みをつくり美女の肌を汚していく。
「すっすいません」
「いっいいのよ………でも……おっ…おっきいのね……はぁ…これが…あたしの中に…はうぅん」
何故かいやんいやんっと頬を染めて顔をふるまどかは、それでもしっかり正樹のペニスから目を放さない。
「まっまどかさん?」
「はうぅんっ…こんなに大きかったら入んないかも…でも、毎日毎日してるうちになれちゃうかも…ってきゃぁ、毎日なんてぇ、そんな毎日してたらぁ…きゃぁ、あぁあん、もうもうっ」
どうやら、違う妄想に飛び火している婦警さんだった。
「あの、まどかさん?」
股間を痛いほどビクビクとひくつかせるやりたい盛りの正樹は、目の前で抜群のスタイルを惜しげもなく晒していやんっと首をふる美女に声をかける。
「んん〜、上は男の子のほうがいいかしら?やっぱり女の子が二人は欲しいしぃ、ここは正樹ちゃんにがんばってもらって3人は確実に…」
どうやら家族設計まで立て始めているようだった。
「あのぉ…まどかさん…聞いてます?」
「え?いやねぇ、もちろん聞いてますわぁ、旦那さまぁ」
いつのまにか、まどかの中では正樹と結婚していることになっているらしかった。
「だっ旦那さまって……あっ!!」
その時、椅子に座る正樹の顔が驚愕に歪み、カチンと凍り付く。
「あらら?どうしたの旦那さまぁ?」
豊かな胸元を、たゆんっと揺らす川村巡査は、きょとんとした顔でしばらく思案する。
ざわざわと背中に感じる寒気と恐怖に固まる旦那さま。
「あちゃ〜、まさか…」
正樹の視線の先にむかってゆっくりと振り返るその先には……
仁王立ちする一人の人物。
草壁麗華巡査。

その顔はまさに修羅だった。


誤字脱字指摘
12/12 JUM様 1/6 mutsuk0i様 7/7 ミルクコーヒー様 9/20 H2様 3/31 ごんべえ様 6/21 あき様
ありがとうございました。