『氷の女帝』


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 アドリアナ帝はうら若い女性に似つかわしくない凛々しい軍装で颯爽と広間に登場した。

 彼女は先代皇帝の急逝に伴う苛烈な後継争いで生き残った皇族と名の付くただ一人の女性である。

 目も覚めんばかりの美貌を持つ17歳…

 翠緑色の瞳を持ち、綺麗に編み上げたブロンドの髪を後ろに垂らしている。

 陰惨な家督争いに生き残るだけあって、大振りな金爛鎧を身に付けたその姿には逞しく強健な印象があった。

 普通のか弱い姫君ならば剣を持つ事も無く、後継争いの場に立つ事も無いだろう。

 深窓で楽を嗜み花を愛で、詩歌でも吟じているのであろうが、彼女は違った。

 早くから女を捨てる事を公言し、兄達に混じり剣に乗馬にと武芸の鍛錬に励んだ女傑である。

 幼少時から剣に才を示し、戦乱の世に在って皇位継承者の誰よりも人の上に立つ将としての資質があったが、その気性の荒さから前皇帝の受けが悪く、玉座に一番遠い存在だった。

 敵対する者は多く、彼女が女帝として君臨するにあたり粛清された反対派の数は産まれて間も無い赤子も含め、千を下らない。

 死か服従か…その冷酷な処断に人々は彼女を『氷の女帝』と呼び、畏怖する。

 冷気すら纏って降り立つ広間には六十名ほどの少年兵が一分の隙も無く整列していた。

「その…皇帝陛下が仰せられた通りの若者達を選りすぐりました」

「ん…」
 
 前以って彼女が条件を示し、選別された彼らは皆一様に顔立ちの整った若者ばかりだ。

 宰相の言葉に彼女は小さく頷くと、手近な少年兵の顎を指で持ち上げて顔を検分し、一つだけ問い掛ける。

「お前は優秀か?」

「優秀であります!」

「うむ…お前は如何じゃ?」

「優秀であります!」

「うむ…では、お前は…」

 順に一人一人少年兵達の顔を検分しながら聞いて行く。

 皆此処に選ばれた事に誇りを持ち、自分が優れていることを高らかに宣言する。しかし、最後に居た小柄な少年は違った。

「お前は優秀か?」

「じ、自負しております!」

 自信無さ気である。それに幼さの所為か指定した身長よりかなり小さい。

「ムッ?他人から見たらどうじゃ?」

「認められております!多分…」

「生まれは?」

「マルト領出身、マルチャン・レッドフォックス子爵の三男です!」

「ほう…マルチャン卿とな?」

 マルチャンは権力闘争でアドリアナにただ一人付いた軍閥の貴族である。

 早い内から軍上層部ではなく、直接兵権を持つ辺境警備隊長らに働き掛け、後の皇族同士の“共喰い”を有利に進めた。

 彼の働き無くして彼女の皇位は有り得なかっただろう。

 稀代の女好きとして知られるだけあって、それほど多大な功績にも拘らず即位後の褒章(金)も突っ撥ね、粛清で余った爵位・拝領も断り、女官一人を所望した粋人だ。

 それは周囲が邪推するように子爵は彼女に大きな貸しを保持したままそれをネタに牽制している様にも取れたが、当の本人は恩の貸し借りなど何処吹く風、功績をひけらかす訳でも権威を翳す訳でもなく、飄々として掴み所が無い。

 権力に興味があるかと問えば、顔を顰め疎まし気な様子。

 何故彼女に付いたかと問えば、『さぁ…?』と首を捻る。
 
 …喰えない男だ。

 ただ純粋な好意からの行動であるならば、尚更何かしらの礼を尽くさねばならぬと考えてはいたのだが…

「ゴホンッ…」

 選考を一任した宰相に目を遣ると、彼は一つ態とらしい咳をして在らぬ方向に顔を背けた。

 どうやら彼が気を効かせたらしい。

(余計な事を…)

 一瞬、眉を顰めたものの、まるで見込みが無い訳でもなさそうだ。

 彼女はなおも問い続ける。

「お前の兄達は優秀か?」

「ハイッ、皇帝陛下!」

 自慢の兄達なのだろう。

 自分の時とは違い、自信を持って速答する。

 レッドフォックス家の息子達が文武に優れていることは彼女の耳にも入っていた。

 四人の子の母親が一人として同じ女性が居ないというのは流石と言うべきで、特にこの三男坊は妾腹とはいえ、才女として知られる帝国大教授との間に出来た神童と伝え聞いていたのだが…

「弟は居るか?」

「ハイッ、一人居ります!」

「優秀か?」

「ま、まだ生まれたばかりで…その…優秀だと信じます!」

 愚直なまでに事実しか言わない。

 見目も良く、女の子のように可愛らしい。

 アドリアナは目を細めた。

「フッ、まあ良い…お前に決めた。また、最前一列を残し、他は後日じゃ!」

「解散っ!」

 女帝の声を継ぎ、宰相が命ずると少年らは隊列を一糸乱さず退室していく。

「付いて参れ!」

 マントを翻し、背を向けて歩き出す女帝に残された少年達十六名は戸惑いながらも付き従った。

 歩くこと数分…

 少年兵達は前皇帝以外の男子が何人たりとも足を踏み入れることの適わなかった後宮の一室に導かれ…

「服を全て脱げ!わらわ自らが検分する」

 …全裸になることを強要された。そして、女帝は手ずから一人ずつ股間にぶら下がる男のモノを握り、その大きさを確認していく。

 きゅっ!

「うっ!」

「皮が被って小さいな…お前は帰っていい」

「ハイッ!うう…」

 涙ぐむ少年…

 ぎゅっ!

「はうっ!」

「うむ…まだ皮被りだが、元気な持ち物だ」

「あ、有難う御座います!」

 瞳を輝かす少年…

 ぎゅうっ!

「あうっ!」

「もう剥けているのか?フフ…良い色をしている」 

「あ…あ…うう…」

 亀頭部が微妙に刺激され、ふるふると快楽に震える少年。

 …と、一人一人の反応を楽しみながら男を選別していく。

 そして、最後にレッドフォックス家の少年に至ったのだが…

 ぐぐっ!

「はうぅっ…」

「ヒィッ!な、なんじゃっ…こここ、この大きさはっ!?」

 氷の女帝の頬がぱっと朱を帯び、秀麗な面が驚愕に歪む。

 少年のペニスは勃起していないにも拘らず極太だった。

 薄桃色の包茎ペニスではあるが、これからまだまだ成長を予感させる巨根である。

 大きく左に曲がった太い一物は触ってみると幾つもの瘤があり、その初々しい色合いとは逆に禍々しい蝕感を女帝に与えた。

「も、申し訳ありません!!」

「謝らずとも良い!立派であるぞっ!? し…しかし、この太さでは裂けてしまうやも…いや、臆してなるものか!お前も合格じゃ!?」

 女帝はそう言い捨てると熱くなった頬を隠すように顔を背け、そのまま何も言わずに出て行ってしまった…

 此処で短小の三名が除外された。

 程無く女帝に代わって年嵩だが美しい女官が現れ、残った少年達は裸のまま別室へと導かれる。

 途中、少年達は手桶を持った若い女官達と擦れ違い、ジロジロと興味深げに見られたり、クスクスと忍び笑われ大変恥ずかしい思いをしたが、股間を隠すことは赦されなかった。

 次に案内された場所は湧き出す温泉を利用した広大な浴場である。

 其処で案内をしていた女官がおもむろに服を脱ぎ始めた。

 成熟した肉体は脂が乗り、たっぷりと豊満な乳房が揺れる。

 成人女性の裸体を見るも初めてという初心な少年兵らがその光景に目を丸くしてまじまじと見蕩れてしまうのは仕方ない事なのかもしれない。

「あ、あまりジロジロ見るのは…失礼ですよ」

 全裸になった女官は少年達十三人分の視線を感じてか恥し気に顔を赤らめ、俯き加減で彼らを諭すものの肌を隠すことは無い。

「参りましょう」

 女官は豊かな尻をプリプリと揺らしながら少年達を引率していく。

 その魅惑的な光景に鼻を伸ばし、既に股間を勃起させ、歩き難そうにする者も出た。

 浴場の中頃の位置で少年達を待って居たのは数十名の美しい女官達である。

 彼女達は一糸纏わず、生まれたままの若々しい肢体を晒していた。

「では、皆様…此方に御座り下さい」

 年嵩の女官が示した先には人数に会わせた十三脚の足の長い木製椅子が置かれており、少年らが促されるまま各自席に座ると一脚に付き四、五人の女官が近付く。

 女官達は自らの体に石鹸を塗り込むと少年達の体に身を寄せ、擦り立てて来た。

 国中から選び抜かれた美貌の女官達がその肉体を使って清める行為は童貞の少年達にとって正に至福の時間であった。

 美少女たちの魅惑の泡踊りに次々と少年兵の間から悦びの悲鳴が上がる。

「うぅぅっ!」

「あぁんっ!」

 彼らの大きく開けた股間には必ず二人の女官が跪き、男の持ち物を扱き立て、舌を這わしているのだ。

 少年達のペニスは見る見るそそり立った。

 その中でも一際異彩を放つ者が…

「キャッ!ど、如何しましょう?これは如何したら…女官長様ぁっ!?」

 あの『氷の女帝』をも驚愕させたレッドフォックス家の巨根少年であった。

 彼の股下担当になった少女が悲鳴を上げ、先程少年兵らを案内した女官に助けを求めたのだ。

「どうしたのです?早く清めて差し上げ…まぁっ!?」

 女官長も一目見てその威容に口元に手を当て、驚きで目を見開いたまま固まってしまう。

 彼も…勃起していた。 

 それで無くても大きいのに三倍膨張しているのだから始末に負えない。

 触らねば判らなかった無数の瘤も今は一つ一つが視認できるまでに大きく肥大していた。

 女官長の狼狽振りは如何ほどであろうか…

「わ、分かりました…私が代わります」

 唇を震わせながら年若い女官と入れ替わり、その彼女には足を洗うように命じる。

「ス、スミマセン…」

 思わず謝ってしまう巨根少年。

 その恐縮した少年の様子に女官長は落ち着きを取り戻すと、クスリと笑みを洩らして石鹸で泡立てた手をそそり立つ肉柱に絡めた。

 しゅっ、しゅる…

「謝る事は御座いませんわ。まだお若いのに御立派でいらしゃいます。それより…」

 女官長は急に声を顰め…

「御免なさいね?こんなオバサンで…」

 恥し気にはにかみながら戸惑う少年に向けてパチリと一つウィンクする。

 年増といっても、それは他の幼い十代の女官達と比べて…であろう。

 皇位委譲に伴い、後宮は彼女一人を残し、総入れ替えが行われていた。 

 故ペヤンゴ帝は老いてなお壮健で政治を蔑ろにし、日々姦淫に溺れ性宴に興じ、戯れに女官達を慰み者にした。

 宮殿内の女官全てに素裸で奉仕させ、来賓が来れば何時何処ででも体を開くように命じたのだ。

 崩御の際、淫婦・売女と罵られ、その殆どが恥じ入るように逃げ去る中、後宮の仕来りを憂い、ただ一人毅然として残った女官が彼女である。

 一人だけ年齢が高いのはその為だ。

「そ、そんな…すごく…綺麗です」

 巨根少年は頭を振って否定した。

 前皇帝の寵愛を受け、夜毎手放さなかったと言われる色白で艶やかな肌は今以て若々しい張りを保っている。

 年寄りの使い古しの様に言われるが、その美貌は年若い女官達では足元にも及ばない成熟した女性の濃厚な色香を纏っていた。

「フフ…ありがとう」

 世辞と取ったのか、女官長は微笑を浮かべて答えると、彼のまだ包皮の被ったピンクの肉茎に舌を這わせる。

 じゅる…れろ、れろんっ!

「うっ…あうぅぅぅ…」

 美女の奉仕に身を固くする少年。

 敏感な若竿は初めての口唇奉仕に包皮の上からでも敏感に反応する。

 ちゅっ!れろ…れろん…

「ん…んむぅ?んん…」

 女官長は経験が豊富なようだが、その肉棒の野太さにはやり難さを隠せないようだ。

 ぴちゅ…

「ハァ…剥きますよ?」

 一頻り舐め終わると、女官長は亀頭部の半ば以上を被う包皮の先を軽く摘んで言った。

「え?」

「だから、おち●ちんの皮を…剥かないと綺麗になりませんから…」
 
「あ…待っ」

 むにゅぅっ!

「あうっ!?」

 女官長は少年の答えを聞く前に一気に包皮を引き降ろしてしまう。

 その割礼の儀式は他の少年達にもほぼ同時に行われていた。

 ピッ!

「痛っ!」

 ズルッ!

「ヒィィィッ!」

 ズリッ!

「うひっ!」

 どびゅびゅっ!

 ある者は痛みを訴え、ある者は快楽に身悶えて痙攣し、剥かれた際に擦られ、射精に至る者まで出た。

「あンっ(ごきゅん!)、精が薄まってしまいましたわ」

 噴出す精液を飲み込みながら女官は射精してしまった少年兵に落第を伝える。

「あああ、あの…出したらいけないんですか?」

「皆様が精通している事は既に確認済みです。今更射精の出来・不出来の確認は必要は御座いませんので、精を洩らされた方は即座に今回の選から外れて頂きます」

 巨根少年の問い掛けに女官長は青少年にとって困難極まりない事実をあっさり告げた。 

 美しい女官達は、『私たちは御体を清めるだけです…』とか澄まし顔で言いながら意図的に淫らな行為に及ぼうとしている節がある。

 彼女らはまるで競うように少年達を射精させようとしていた。

 選ばれた者だけにその卓越した精神力で殆どの者が辛うじて持ち堪えるが、彼女らの手管は凄まじく、中には耐え切れなくなって陥落する者も出た。

「んひぃっ!」

 どぷとぷどぷ…

「もう…出してはいけませんと申しましたのに…」

 してやったりとばかりにニッタリ笑みを浮かべる始末である。

 その頃、巨根少年も今まで外気に触れていなかった亀頭部やエラの溝にこびり付いた恥垢を麗しの女官長に舐め取られ、苦戦していた。

 ぺろ、ちゅる、べろん!じゅるぅぅぅっ…ごっくん!

「んふ…凄いオスの臭い。クラクラするわ」

 汚い物を舐め取り、嫌悪感を露わにするかと思いきや、彼女はその恥垢を唾液と攪拌し、美味しそうに飲み下したではないか。

 瞬く間に恥垢でざらついた亀頭部は滑りを帯び、艶々と輝き出した。

 巨根少年の目はその淫靡な光景に釘付けで、更に欲情の炎を燃え上がらせる。

 また、ペニスへの奉仕は美貌の女官長ばかりでは済まされない。

 勝気そうな女官が勇気ある行動に出て彼女の援護に加わったのだ。

「んぶっ!んぶぅぅう…っぷはぁ、ハァ…大き過ぎて咥え切れないよぉ!」

 泣き言を言いながらもその瞳は爛々と輝いている。

 更に危険な事に女官長はソープに塗れた爆乳を寄せてペニスの根元を包むとムニュムニュとパイズリを始め、勝気そうな女官は剥き卵のように綺麗になった亀頭部分に口を大きく開けて喰らい付き、レロレロと舌で間断ない刺激を与え続ける。

 また、両手足に五人もの女官が舌でぺろぺろ、胸でムニュムニュ、濡れ光るヴァギナを擦り付ける者まで居る。

 先ほど悲鳴を上げた女官も少年の巨根の異様に淫気が高まったのか、自分で股間を慰めながら息も絶え絶えで彼の足に縋り付く。仕舞いには少年の足指を使ってヴァギナの内側を掻きむしり始めた。

 巨根少年は全身に絡み付く女肉の柔らかさと欲情した女体が放つ香しい性臭に酔わされて意識が薄れていく。

 彼の忍耐力はもう風前の灯であった。

 ニュルニュル…じゅぷじゅるるる…にゅるにゅる…

「クハッ、う…うう…あうっ!ヒグッ!ヒッ!あうぅぅぅ…」

(もう駄目だ…駄目っ、出ちゃう!?)

 意識が朦朧とし、射精への臨界点を越える寸前…

「あの…女官長様?他の方々は清め終わりましたが…」

 別の少年を担当していた女官が声を掛けてきた。

「あら?そう…」

 見れば、他の少年兵らは既に湯で泡を洗い流し、布地で水気を拭き取っているところだ。

 巨根少年が中々音を上げない為、今まで抑え続けて来た日々の性的欲求に火が点き、時間を忘れて没頭してしまったらしい。

 時間はとうに過ぎていた…

「ハァッ!ハァッ!」
 
「もう少しだったのに…残念ね」

 女官長は息も絶え絶えの少年に向け、チロリと舌舐めずりして悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 そして、『よく頑張りました…』と彼の耳元で囁き、頬にチュッ!と軽くキスをしてくれる。

 巨根少年は何とかこの窮地を切り抜けたようだ。

「ねえ、貴方…お名前は?」

「グリンです。父とファーストネームが一緒なので、みんな僕をミドルネームで呼びます」

「じゃあ…グリン君?マルチャン卿の息子さんという事だけれども、御父上の此処も…その…大きいのかしら?」

 女官長は少年の極太ペニスをキュッ!と、握り締めて尋ねた。

「はぁ?」

 少年は何故この美貌の女官長がそんな事を聞くのか疑問に思ったが、以前風呂で見た父親のイチモツを思い出し…

「…もっと大きいですよ」

「まあっ!?…素敵」

 少年の答えに女官長は紅潮した頬に両手を当てて恥じらい、嬉々とした表情を見せた。

「???」

 彼女のテレテレとした表情に少年はもう一度首を傾げる。

 後にこの女官長が父の後妻として輿入れして来るとは夢にも思わないグリン少年であった。



 射精した者たちは、『後日御召しになる』として帰らされた。

 此処でもまた早漏の三名が脱落し、残るは十人となる。
 
 女官長は服を身に着けたが、少年兵らはまだ裸のままだ。

 少年兵たちは再び場所を変えることとなった。

 服を着させてもらえない。

 それは何と頼りなく、何と情けないことか。

 途中、後宮の休憩施設を通るなどして女官達により一層淫靡な目で視姦される。

 女官長が居る為、近寄って触れられることはないが、視線がネットリと絡みつくようだ。

女官達もまだ若く異性の裸に興味が旺盛で、娯楽の少ない後宮内で美少年達が全裸で歩いている姿は体の良い男娼のストリップ・ショーを見ているような物だ。

 彼らの全裸行進は彼女らの猥談ばかりか今夜のレズビアンやオナニーの格好のオカズにされることだろう。

 一方見られる少年達は羞恥で考えが纏まらない。彼らの思考は次第に混濁していく。

 そうして困惑しながら到着したのは大理石の敷き詰められた円形の闘技場・・・円形の外郭に沿うようにまたもや数十人の美少女達が全裸で取り囲む。

 闘技場という場所、彼女らが指先の自由な黒革のグローブやレガースを填めていることから此処で行われることは明らかだった。

 女官長は少女たちの顔ぶれを見て何故か一瞬顔をしかめたものの、彼女らが準備を万端終えている事を確認して一つ頷き、少年達に語り掛ける。

「さて、学力は紙面にて表せますが、その武威を示した場は人それぞれでその内の幾人かは誇張も見られます」

 女官長は美少女たちの取り囲む円の中にゆったりと入り込み、輪の中央で両手を広げて彼女らを誇るように示した。

「ここいいるのは戦術武官以下戦術局の者達です。頭脳派とはいえ、れっきとした皇国騎士…体術に秀でております。もうお分かりでしょう。彼女らと戦って武を示していただきます。そこで…その…」

 そこまで言ったところでそれまで笑顔だった女官長の顔が急に眉根を寄せた渋いものに変わる。

 怒りのためか額をピクピクとさせ、肩がフルフルと小刻みに震えていた。

 何か言いにくそうにしていた彼女だったが、意を決したように声を高めた。

「はっきりと申します!局の長に中級の実力者を揃えるよう申し付けたはずなのですが、どういう間違いか…多分、選考の手間を嫌って手近な者全員を送り込んだのでしょう。中に…貴方々にはとても手に負えないであろうとてつもなく強い者も混じっております!?」

「えーっ!?×10」

 驚きの声を上げる少年達に対して女官長は顔を引き痙らせながらも何とか笑顔を作ると申し訳なさそうに言った。

「しかし、その者をこのまま帰したのでは繋ぎを取った私が陛下よりお叱りを受けます。そこでクジを引き、貴方々の運気をも確かめさせて頂くことにします。もし当たったら申し訳ありませんが、運がなかったということで諦めてください…必ず当たるわけではないし…ねっ?」

 (「ねっ?」じゃないよなぁ…)とか内心思いながらも拒否権の全くない少年達は不承不承頷くしかない。

「では…」

 少年達が各々頷くのを見て女官長はニッコリと普段の落ち着いた笑みを戻すとクジの入った箱を少年達に示す。

「年のお若い順から引いてください。あ…貴方からです」

 最初にクジを引くように言われたのは一番小さいレッドフォックスの巨根少年だった。彼は他の少年達から見て一つか二つ年若い。彼はおずおずとクジの山に手を伸ばして引いた。

「五十八番ですね…ええっ!ごじゅうはちばんっ!?」

 女官長が悲鳴を上げると同時にその驚きの余波は立ち並ぶ美少女達の輪に広がっていく。

「58って…ライリィ?」

「ライリィだわ。初っぱなに引くなんて…」

「何て運の悪い子なの?」

「殺されるわよ、あの子…」

「“鋼鉄”のライリィ…」

 クジの結果を聞いてヒソヒソとなにやら言い合っていた少女達は一瞬静かになりその後…

 ぱち…ぱち…ぱちぱち…パチパチパチ…

 幾人かの少女たちが手を叩き出したことから始まった拍手は徐々に全員に広がっていった。

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ…

 それは割れんばかりの拍手の渦となって円形闘技場に大きく響いていく。

「え?な、何っ?何っ?」

 その拍手の意味が分からないグリン少年に右隣の少年達が哀れむように声を掛けた。

「祝福の拍手だ。君って運が悪いなぁ…」

「なっ?しゅ、祝福って?」

「君は多分彼女らの中で一番強くて怖い人を引いたんだ」

 今度は彼の左隣の少年が答える。

 彼は一番の強敵が居なくなったことを喜び、安堵の笑みを浮かべていた。

 何とグリン少年はあっさり女官長が『とてつもなく強い者』と評した少女を引いてしまったのだ。

「ええっ!?」

「お気の毒様…」

「まあ…頑張れよ。それしか言えない…」

 そう周りの少年達も口々に勝手な激励すると彼らも拍手に加わった。

「さあ…貴方、可哀想だけれども前に出なさい!そして、五十八番“ライリィ”おいでなさい!」

「ハッ!」

 名前を呼ばれた少女が敬礼をし、前に一歩進み出る。

「あ…」

 進み出たのは『一番強くて怖い相手』と言うには印象の違い過ぎる銀縁の眼鏡を掛けた小柄な美少女だった。

 短いプラチナ・ブロンドの髪。眼鏡から覗くアイス・ブルーの瞳は鋭く、知的な光を宿している。

 肋が浮くほどほっそりとした肢体、手足も細く長く手折れそうなほどで華奢に見えた。

 そのたおやかな背中には翼の刺青が羽ばたくように両肩に広がって彫られており、絶対神の従属たる翼神への深い信仰を表わしている。

 これまで体を動かしていたのか、若干熱を帯びた彼女の肉体はほんのりと紅潮し、吐息は熱く薄紫の刺青は更に色を深め、小振りでも綺麗な稜線を描く美乳の先には可愛らしい乳首が勃起しているのが見て取れた。

 銀髪の少女は眼鏡を外しながら自分も裸であることの羞恥を感じさせず、小振りな乳房を揺らしながら少女達の輪から少年達に向かってしなやかに歩き出す。

「ライリィ、殺しては駄目よ」

「………」

 女官長の声を受けて少女は立ち止まり、少年兵達を順に値踏みするように一人一人に目を遣る。

 彼らの整った顔をではない。彼らの股間にぶら下がるモノに…である。

 余裕を持って少年達のペニスを見回す少女。

 しかし…

「え゛?」

 グリン少年の股間に目を遣った瞬間、無表情だった彼女の顔が“変”になった。

 鋭かった瞳はまん丸に見開かれ、引き締まった口元は半開きで奇妙に横に広がり、端からだらりと下に垂れる。

 少年の股間は先ほどの淫らな清めの儀式から常に勃起しっ放しだった。

 臍の上にアーチを描くその異様…クールな知的美少女も再び眼鏡を掛け直すなどして彼の巨チンに驚きを隠せないようだ。

 見開かれたままの視線を上げ少年の顔を見ると、同じく彼女の裸身に見惚れる彼と見詰め合う形になる。

 二人の顔が見る見る赤くなっていく。

「あ…ど、どうも…」

「はい。どうも…です」

 巨根少年が彼女に対して頭なんか下げちゃったりするモノだから知的な美少女も釣られて間抜けに頷き返してしまう。 

 銀髪の少女は気恥ずかしさからか彼から顔を逸らすと、落ち着きを取り戻すように他の少年の股間に目を戻す。そこにはグリン少年の逞しい巨根に比べるとあまりに矮小なモノがダラリと力なく並んでいた。

「フッ…」

 漸く落ち着きを取り戻した彼女は唇の端を吊り上げ、彼らを嘲るように鼻先で笑った。

「一人“男性”が居るようですが…」

 グリン少年から赤くなった顔を隠すように気を遣いながらそれ以外の少年達を見渡し、鼻でせせら笑う。

「他はモノのちっちゃいオカマ共。殺しても良いのでは?」

「ふぅん…それもそうねぇ…」

 女官長もそれに小首を傾げて応じた。

 クスクス・・・フフフ・・・

 一様に表情を引き締めていた少女たちにも軽い笑いの波が起こる。

 彼女らはまだ包皮を被った者も居る少年らのペニスを嘲笑っていた。

 彼らのペニス・サイズは年相応で標準とも言えるものだったが、レッドフォックスの少年の異様を目の当たりにするとどうしても矮小に見えてしまう。

 中には男性器を初めて見る少女もいるだろう。巨根少年の一物が普通と誤解した者が居たかもしれないが、その誤解を解く者はない。

 アハハハハ…

 彼女らの嘲笑は酷く冷ややかで深い蔑みが込められていた。

「クッ!」

 その少女の言葉よりも女官長の溜息混じりの答えと少女達の嘲笑の方が少年兵ら9人の怒りに火を付けたようだ。

 少年達が怒りに歯噛みする中、ただ一人だけ例外扱いされたグリン少年は、ぼーっと目の前の美少女の裸身に見惚れていた。

 絵画などで描かれる豊満な女性とは違い、その細身の肉体は成熟した母性的魅力は薄いかもしれない。だが、骨格からしてけして男と見間違うことのないか弱い裸身は儚い妖精のような美しさを醸し出していたのだ。

 そのか細く見える少女の体が怒りに燃える少年兵達には御しやすいと見えたのだろう。

 彼らは一様にこの少女に当たらなかったことに悔しさを滲ませていた。

 押しただけで崩れ落ちてしまいそうなほど線が細い少女…

 皇国騎士団に属するエリートといえど、この少女ならば『勝てる』と。しかし、レッドフォックスの少年は気付いていた。

 彼女の肉体は痩せているだけではなく、柔軟な筋肉で引き締められていることに…

 小さく可愛らしくても猟に向く犬はいる。そして、良く訓練された猟犬でも飼い主以外の他人が不用意に檻へ入り込めば、噛み殺される。

 此処は檻の中、彼女は獰猛な猟犬…

「ハッ…」

 惚けてしまっていた少年はすぐに気を引き締め、何時どのような攻撃が来ても良いように備えた。

「フフ…」

 少女の痩身を見ても気を緩めることなくただ一人身構えた少年に女官長は満足そうに頷いて呟く。

「ライリィの外見を見て油断しないどころか、警戒している。イイ子ね?」

「くそぉぉぉっ!」

 だが、女官長の呟きは一人の怒りに燃えた少年の怒号で掻き消され、グリン少年の耳に届くことはない。

「あっ!待っ…」

 選考を通るエリートだけに選民意識の強いその少年には先程の少女達の嘲笑が耐えられなかったのだろう。

 グリン少年の制止も聞かず、一際筋肉の付いた逞しい腕で力任せに殴り掛かる。それは少女の顔面をしっかりと捉えたように見えた。しかし…

 グキョッ!グキョッ!

「ギャァァァッ!」

 少女は少年の拳を軽く交わした後、まるで宙に浮くように飛び上がって伸ばされた彼の右腕を捉えると、それを股に挟む形でするりとしなやかな裸身を絡めてそのまま引き絞った。

 殴り掛かった少年は美少女と肌を合わせた喜びを感じる暇すらない。

 彼の腕の肉は捻れ、関節でない位置で曲がり、在らぬ方向に向いていた。

「ひぐぅ・・・ヒィッ!ヒィィィッ!」

「わわわ、ちょっ…暴れないで。今、填めるから…わぁっ!」

 グリン少年は肩を外されて暴れる少年の体を引き擦ってライリィから距離を取ると、外された肩を填めに掛かる。しかし、脱臼した際幾つかの筋繊維が引き千切られ、右腕全体…特に肘関節から下、手に向かうまでの骨が粉々に砕かれている。

 折れた骨が肉を破っている部分もあり、回復しても以前のように動くとは思えなかった。

「ひ、酷い…うわっ!?」

 ビュンッ!

 巨根少年がその攻撃の陰湿さに眉を顰めたと同時に彼の後頭部に向けて鋭い蹴りが繰り出される。

 それを体を翻して寸での所でかわした彼であったが、運の悪いことに少女の美脚の進行方向には先ほど肩を外された少年の頭部があった。
 
 ぐしゃっ!

「ガァッ!」

 顎は砕け、折れた白い歯を撒き散らし、秀麗だった貌は無惨に崩れ去る。

 更に銀髪の少女は砕け散る少年の顎へ踵をゴリッ!と抉り込んだ。

 彼はそのまま床に横たわり、血溜まりの中ピクピクと痙攣して死に向かっていく。

 一分の隙もない攻撃、小柄な体からは想像できない破壊力、その殺害に躊躇すらない非情さ…

 一瞬で血溜まりに転がされた同胞の姿を見てもう少年達の誰も彼女をただの痩せた美少女と侮る者は居ない。

「あ…あ…な、何も殺さなくても…」

「所詮此処に集められたのは優秀と周囲に褒めそやされても家督に遠のない次男・三男坊。此処で実力を見せられぬ者は無役で職も得ることも出来ず朽ち果てるのみ。不遇になった者をこうして絶ってやるのも情けです…」

 家督を継げない女である我が身を重ね合わせたのか、彼女は自嘲気味に言った。

「そ、そんなこと…」
 
「ライリィが正しいですわ。この国に弱者は要りません。皇帝陛下も同じ御意見でしょう。お嫌なら彼女を倒してその武を示しなさい!」

 無意味な問答に発展しそうな若い二人の間に女官長が割って入る。

 彼女は女官の長というだけの立場ではあるが、女帝即位の際の権力構造崩壊の余波は大きく、役職選考は皇室近従の胸三寸…皇帝の私事一切を取り持つ彼女の発言力は非常に大きいと言わざるえない。

 更に信望の厚い彼女の言葉はそのまま女帝の言葉であるとまで噂される。

 これ以上異を唱えることは許されなかった。

「…はい」

 釈然としない様子で項垂れる少年に女官長はニッコリと微笑んで言った。

「とはいえ、ライリィ相手に武を示すのは難しいわよね…じゃあ、勝てたら特別にご褒美を上げましょう。それで少しは頑張ってみようという気持ちになれるかしら?」

「ご褒美…ですか?」

 女官長は銀髪の美少女に目を遣ってにんまり笑う。 

「もし勝てたらライリィ戦術武官…彼女を差し上げます」

「ええっ!?」

「雌奴隷にするも他人に売り渡すのも自由です。良いですね、ライリィ?」

 人一人…その意思すらも私して譲渡するなど少年には考えられないことだった。だが、当の少女本人は頬を赤らめながら少年をジッと見詰め、女官長の非情な命令に逆らうことなく素直に応じた。

「構いません。万一でも負けることがあれば、喜んでこの子の奴隷になりましょう。しかし、私が勝ったら…」

 そして、耳まで顔を赤くしたかと思うと震える声でとんでもないことを言い出す。

「この子を…私のお婿さんにします!」

「は?ええっ!?あ、あの…あの…」

 それは唐突な告白であった。

 少年が驚いて少女を見ると彼女は恥ずかしそうに俯き、上目遣いで彼の方をチロリと見た。

 少年の背筋にむず痒いような甘い感覚が走る。

 リ〜んご〜ん!り〜んご〜ん!

 その瞬間、不意に少年の脳裏にはウェディング・ベルが轟音立てて鳴り響く。

 腕を組む新婦は純白のドレスを着た無表情な彼女・・・

(こ、この年で結婚っ!?)

 想像力豊かな少年はその白昼夢にへなへな〜と床に崩れた。

「まぁっ!人見知りの激しい貴女がそんなこと言うなんて…余程気に入ったのね。フフ、これだけの持ち物だもの…良いでしょう」

 女官長はこういう話題が好きらしくノリノリだ。まるで見合い婆のように当事者のことを考えずに話を進めていく。

「あの〜?」

 勝手に話を決められた少年は堪らない。白昼夢に脱力しながら異議を唱えた。

「あっ…よろしいですわよね?この美貌・才気…貴方とさほど年も離れておりませんし、代々名門ラクゥンドッグ侯爵家の家宰を務める家柄です」

「え?」

 慌てて言い繕う女官長から意外な知己の名前を出されて少年の中で疑問符が浮かぶ。

(ブラクトン老候の?)

 ラクゥンドッグは三代前の皇弟が起した家で順位は低いながらも皇位継承権をも持つ名門の家柄だ。

 現当主ブラクトン・カリ・ラクゥンドッグは名門故の皇位継承争いに巻き込まれることを嫌い、継承権をあっさり放棄。皇族であることも捨て、北方の焦臭い動向を理由に早い内から中立を宣言した。

 潔く見えるが、『何処に付いても負けそうだったから…』というのが本音らしい。

 前皇帝の御代から長く北方守護に充たっていた名将も既に老境に立ち、殆どの執務を家宰任せて隠居しているが、チェスに目がない。

 かの家とレッドフォックス家は行商の他、配下の付き合いも頻繁で、現当主とは父・マルチャン共々チェスという共通の趣味で懇意にさせてもらっていた。

 老侯は閃きの一手を見せる彼を非常に気に入っており、今も祖父・孫ほどの年齢差のある友人として親交を持ち続けている。

 何度か訪問する内に家宰も紹介されており、優しそうで紳士然とした彼は老侯の喜ぶ顔を見て『是非、自分の娘の婿になって欲しい』と冗談めかして請われたことがあった。

 老侯は『ちっと澄ましておるが、ピチピチじゃぞ?』とか言っていたが…

(なるほど…)
 
 その冷たさをも感じさせる凛とした美貌、若く瑞々しい肌。確かに『澄ましているけどピチピチ』…?だった。

 家宰よりも吊り目がちで目付きが鋭いが、その面影がある。だが、彼女は彼の顔も知らないはずだし、彼もレッドフォックスだと名乗っていない。

 その娘に男の部分を一目惚れされて求婚されるとは何とも言えない縁を感じたりもする。

 こんな美少女と付き合えるならとも思う。しかし、結婚まで一足飛びだと躊躇するなという方が無理だ。

 その上…

(困った)

 色々賭け事が先行してしまっているが、皇帝陛下が勝利を望まれている以上、彼女とは戦い勝たなければならない…だが、どうにも勝てそうもない。

 彼は剣技はまずまずだと思うが、体術系はとんと不慣れだ。

 今以て彼女が人の腕をあんなに粉々に出来たのか理解できない。

 グラウンドでは勝負にならないだろうし、躊躇いなく人を蹴り殺した事から見ても手加減してくれることなど皆無だろう。

(どうしよう?)

 …と思った瞬間、彼女の右足がハーフ・クォーターから繰り出される。

「行きます!」

 ブンッ!

「うわぁっ!」

 考えるより先に少年はライリィの鞭のような右蹴りを避けるというより無様に四つん這いになって逃げた。

 背中を向けて足を縺れさせて時折転びながらフルチンで恥も外聞もなく逃げ回った。

「たーすけてーっ!」

「うっ、うわっ!く、来るな!」

 他の少年兵たちを頼りに走り寄って懇願したりもしたが、一人殺されているだけにビビって彼らも蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 周囲を囲む全裸の美少女達は逃げ出そうとする少年達を円の外に出す気はなく、殴る蹴るなどして彼らを円の中央に押し戻す。

「こ、殺される!助けてください!」

 少年は無様に蹴り倒されながらも土下座して外に出してくれるように頭を床に打ち付ける。

 それは惨めで哀れすら誘った。

「………」

(所詮はこんなもの?)

 『婿にする』と言ったのは単にグリン少年の巨根に目が行ったばかりではない。彼の小柄でありながら鍛錬の見える肉体に彼の真っ直ぐな性根を感じ取り、惹かれたからだ。

 資質に恵まれ、更にその資質を努力で磨き上げる事が出来る才能を持つ者は希で、彼女もその一人と自負している。だからこそこの少年はどこか違うと感じた。

 計画的に日常となるほど継続して各所に強い負荷を掛け続けなければ、あんな肉体にならない。

『頑張り屋さんだ…』

 そう思ったから衆人の前であんなに恥ずかしい求婚をしたというのに…期待外れだったようだ。

「フッ…」

(いいや…もう殺しちゃおう)

 若干の自嘲と失望、哀れみを含んだ冷たい笑みを浮かべた瞬間、ほんの僅か彼女に隙が生まれた。

 その僅かな隙にいつの間にか反転した少年が彼女の上半身に向けて一気に飛び掛かって来る。

「くっ!」

 瞬時に狭められたこの距離では避けきれないと判断した彼女は身を前に屈め、足を踏ん張った。だが、そこで少年の軌道がまるで彼女の視界からかき消えるように変わった。

 低く低く突き進み、そのまま彼女の足を抱え込むようにタックルする。

「アアッ!?」

 その素早い身のこなしに虚を突かれたライリィはあっさり足を刈られてそのまま後ろへと倒れ込む。

 とっさに後頭部を抱えるように庇ったが、下は固い石張りの床だ。

 ガッ!

「あ…」

 ライリィは抱え込んだ腕ごと頭部を強か床に叩き付けられ、その衝撃で昏倒する。

 それが大方の予想を裏切って少年は殊勲の金星を挙げた瞬間だった。
 
「勝った!」

「スゲェっ!」

 口々に賞賛の声を上げて近づく少年達…しかし。

 ボタボタ…

 ライリィの股ぐらに頭を挟まれた形になっていた少年が顔を上げると彼は鼻血を出していた。

「この女、倒されるあの状態で君に攻撃したのか?」

「なんて恐ろしい女だ…」

 彼が攻撃で手傷を負ったものと思い少年達が怖気を震う中、巨根少年は今目の当たりにした光景がフラッシュバックを繰り返し、目をパチクリさせて鼻血を拭くどころではなかった。

 以前女性士官と戦って負けた経験から彼女が異性であることを思考から切り捨て、顔・手足の動きで彼女の動作を掴んで極力胴体部分を見ないでいたし、同輩が虫けらのように殺された怒りで意識せずに戦えたが、彼女は…腰布すら付けていない素っ裸だったのだ。

 股ぐらに顔を突っ込んだ際、陰毛の翳りの薄い彼女の剥き出しになった女性器が目と鼻の先にあり、口付けするような状態だった。

 先ほどの湯浴みで見た時より間近に接する女の隠された部分。

 彼女の其処は何故かジットリと愛液で濡れており、荒い息を吐く時に垂れ落ちたそれを舐めてしまったりもした。

 少年は急速に彼女を女性として意識し、彼女の美貌・たおやかな肢体を思い出し、更にその美少女と肌を合わせているという事実が思春期の少年が持つ若々しい欲望の奔流となって一気に脳髄に押し寄せて来る。

 倒れる瞬間のライリィの肉体が反射的に攻撃を行おうとしたのは確かだが、彼の頭を股座に挟み込んだ所で意識を失い、頸部をへし折るまでに至らなかったのだ。

 彼は実際攻撃を受けたわけではなく、興奮で一気に鼻血を噴き出してしまっただけだったりする。
  
「ほら、拭けよ。大丈夫か?」

「らいりょうふです…ありかとふ」

 少年兵から手拭いを受けとりながら少年はその誤解を解く言葉を言い出せずにいた。

「ライリィ…起きなさい」

「う…女官長…さま?」

 女官長の優しげに微笑む顔が目に映った瞬間、ライリィは上半身を起こし、頭を振って急速に覚醒していく。 

「私は…負けたのですか?」

「ええ…貴女が負けるのを見るのはヴァレリアに剣で負けたとき以来かしら?」

「陛下に…死を以てお詫びを…」

 ライリィは敗れた悔しさで唇を血が出るほど噛みしめる。

 悔恨の表情を浮かべ落ち込む彼女を見て女官長は深く溜息を吐いた。

「ふぅ…真面目な貴女なら必ずそう言うだろうと思ってあの子に預けたのよ」

「は?」

 ライリィは驚きで顔を上げた。

 女官長は彼女が負けることを予想していたことになる。

 彼女は何か問いた気な少女に目を細めて言った。

「何故かあの時、負けそうに思えたのよねぇ…あの子、ああ見えてなかなか強かだし。負けたことで貴女を自害させるなんて惜しいもの…さあ、貴女には死ぬ前に果たさねばならない約束があるでしょう?」

「…はい」

 女官長は敗北に項垂れる少女の肩を抱き、何処までも優しい声で諭す。

 そこに鼻に花紙を詰めた間抜け顔の少年がその面相と同じく情けない声を掛けた。

「しゅみまへん。らいりょうふれすか?」

 深く深く頭を下げる少年にライリィは顔を真っ赤にして尋ねた。

「貴方…レッドフォックスでしょうっ!?」

「ふぁい…はい!」

 会話に支障が出てきたので鼻紙を抜く少年。

 既に血は止まっているが、全裸の彼女を目の前にして先程の光景を思い出したらすぐにでも噴き出すかもしれない。

「何番目?」

「さ、三番目です!」

「では、アレクシア教授の息子さんね?」

「はい!」

 その迫力に押されて少年は直立不動だ。

「さっきのは化かしの“態(わざ)”ね?」

「…そうです」

 レッドフォックス家にはそういう伝統がある。

 要は“態”と弱そうな振りをするのだ。 

 それで相手を油断させて勝つ。汚くはない。油断する方が悪い。

 それには色々バリエーションがあってあらゆる場面で使えるように技術として系統立てられている。

 勝負事に限らず人に好かれるように、場を和らげるようにも使える。その逆もしかり。

 それらが処世術を絡めたレッドフォックスの化かし“態”だ。だが、公言しているわけではないし、知っているのは一族の者だけだ。

「でも、何故?」

 疑問に思った少年が聞き返すと…

「ラクゥンドッグの者がレッドフォックスに化かされるなんて…ふぅ…」

 彼女はそれだけを聞くと諦めたように一つ溜息を吐いた。

「私は…貴方の御母様に教えを頂いたものです」

「ははぁ…」

 彼の母親は帝国大の教授で近所の学校へ赴いては臨時講義を行っている。

 その時に漏れたのだろうと納得した。

 勿論威張れることではないし、戦略的にも隠した方が良いのだろうが、目くじら立てるほどのことでもない。レッドフォックスは実力で物を言わす方が遙かに多いからだ。

「御母様の講義はとても…その…ピーキーでラディカルでした」

「はぁ…」

 ピーキーでラディカル…つまりぱんぴーを寄せ付けないくらい特殊かつ、ハイレベルで変ちくりんな…つか、摩訶不思議かい?

 何か褒められた気がしない。いや、初めからから褒め言葉ではないのか…

「ほとんど理解できた者は居ません。私も真意を測りかねました。そこで軽く“態”の有効性を説かれたのですが…成程、油断大敵です」

「すみません」

 年下の少年に深々と頭を下げられ、彼女はニッコリと微笑んだ。そして、自分の首に掛けた銀鎖に手を取る。

「いいえ…素敵でした、“旦那様”…」
 
「はっ?わ、わわっ…むぐぅっ」 

 彼女は手にした銀鎖を少年の首に掛けながら彼の唇に自分の唇を重ねた。

 少年にとって初めてのキスは血の味がした…

「私の部屋にいつ御出下さって結構です。貴方様の雌奴隷ライリィは…いつでも股を濡らして貴方様に貫かれることをお待ちしておりますわ…」

「は?あの…あの…」

 首に掛けられた銀鎖には小さな鍵が付いていた。その意味を判じかねていた彼であったが、彼女の言葉を反芻して漸くその意図に気付き、声を上げる。

「えええっ!?」

 ライリィはその少年の様子にクスクスと小さく笑いながらその部屋を後にしていく。

 その表情に戦う前の冷たさはない。

 負けたにも関わらず晴れ晴れとして、どこか楽しげで明るかった…

「ふふ…これであのライリィも終わりね?」

「雌奴隷ですって…いい気味」

 若くして上に立つ者、優秀過ぎる者は疎まれる。

 ライリィを快く思わないグループから掛けられる言葉は冷たい。

 その言葉に軽く眉を顰めると女官長は再び少年達と向き合い話し始める。

「さて、先程手に負えないと思われた者は今のライリィです。くじ引きの意味がなくなりましたのでこちらで相手を選定させていただきます。なお、勝てたらご褒美は同じ…負かせばその娘は貴方々の自由にして結構です!」

 女官長は少年たちにそう言い終えると、先ほどライリィを嘲っていた少女達に冷やかに言い放つ。

「貴女達も敗れれば、雌奴隷になるのですよ。お気を付けなさい…」

「………」

 その言葉に顔を青ざめ、無言になる少女達…女官長はうっすらと冷たく微笑んだ。

 女官長の言葉通り、他の武官達はライリィほど強くはなかった。蹴り殺された少年は運がない。他の少年兵達は時間を掛けて徐々に体力を奪い、傷付き手こずりながらも皆倒していく。

 相手の少女達は先ほどライリィを嘲っていたグループの中から選ばれた。

 負けた者はその場で犬用の首輪を掛けられ、犬の『ちんちん』の姿勢で雌奴隷の誓いを強いられる。中にはその屈辱から舌を噛み切ろうとする者まで現れる惨状を見せた。しかし、女官長は気にした風もなく、勝利した少年達に向けてニッコリ微笑んで言った。

「大分汚れてしまいましたわね。では、もう一度お体を清めませんと…」

「結構です!×9」

 少年達は口を揃えてそれを拒否した。だが、そんな異論が通るはずもなく…

 ………

 ……

 …

「うひゃぁぁぁっ!」

「アヒィィィッ!?」

 ぶびゅっ、びゅっびゅっ…

 浴場に戻った彼らは再びあの快楽地獄を味わうことになり、二人が脱落した。



 三度場所を変えることとなった少年達の脳裏には疑念がむくむくと膨れ上がっていく。

 人死にまで出たのに何の為の選抜か未だ知らされてはいない。

 閨の事であるのは薄々感じられるのだが、誰と寝させられるのか分からない。ただ、皇帝陛下の御召しとしか聞かされていないのだ。 

 まさか“あの”皇帝陛下の寝所に招かれる訳ではないだろうし、冷酷無比で知られる彼らの女主人の座興であるならば、それはもう陰惨な…

「此方です」

 …と、考えている間にもコレである。

「うわ…」

 女官長が指し示した先は時化って黴臭い地下牢・拷問室へと続く階段…その重く錆付いた鉄扉であった。

 少年兵らの不安は一気に増大する。

「俺、もう嫌だよぉっ!」

 一人の少年が不安に耐え切れず泣き出してしまった。

「分かりました…御帰り下さい」

 女官長は優しく彼の肩を叩き、帰り道を示す。

 これしきのことで弱音を吐く者は“優秀”であるとは言えないのだ。

 これであと六人…

「他の方は宜しいですか?これから先は最後まで御帰り頂けませんよ?」

 まるで地獄行きの最後通牒のような問い掛けだ。 

「宜しいですね?………では、参りましょう」

 女官長は誰も居ないと見るや、ランタンに火を灯し、水の垂れる音がやけに響く階段を六人の少年達を引き連れ、下って行く。

 ギャァァァァァァッ!

 何処からとも無く鞭打つ音、女の絶叫が響き渡る。

 ビシッ!ビシィッ!

 ヒイィィィィィィィッ!

 途中、少年達は牢屋の鉄格子越しから妖艶な熟女に声を掛けられた。

 暗闇から伸ばされる白く手折やかな腕・・・

「ふ・・・ふふ・・・坊やたち。みんなでカワイイおち○ぽブラブラさせて何処に行くの?私と交合いましょう…」

 彼女は全裸でヌメヌメとした粘液に塗れて異臭を放っている。だが、薄汚れ、千路に金の髪を乱しながらも美しさを損なわないその整った容貌は…

 少年達は彼女の顔に見覚えがあった。

「こ、皇后陛下っ!?」

 それは『氷の女帝』の義母にして最大の政敵・前皇后ゼノヴィアであった。

 義母と言ってもまだ二十代の若さで老皇帝の寵愛を受け一児を出産、宮廷で絶大な権力を誇っていた女性…

 彼女の戯れで何人もの生首が飛び、死ぬほどの恥辱に晒し自害に至らしめる傾国の美女。

 公式には内乱の最中に斬首されたとされる彼女がなぜ未だに生存し、なぜこのような場所で監禁されているのか?

「ねぇっ、ねぇっ!坊やたちしましょう。おチ○ポっ!“人間の”お○ンポちょうだぁい!」

 手を伸ばし指先で少年達の頬を撫でて誘う彼女の背後の暗闇からポォッと青白い幾つもの光が浮かんだ。

 ぐるるるる…ヴァウッ!

 青白い光は獣の瞳が発していたもの…唸りを上げて背後から前皇后にのし掛かったのは狩猟に使われる巨大な黒犬だった。

「ああっ…ご、ごめんなさい、アナタ。浮気したわけじゃないの…アアッ!?」

 ズチュッ、ズチュンッ!

 ハッ!ハッ!

 荒い息を吐く獣はまるで嫉妬に狂った人間の男のようにそのままいきり立つ肉棒を突き込み、ヘコヘコと腰を使う。

 ズチュッ、ズチュッ、ズチュッ…

「アッ!アッ!アンッ!」

 前皇后は一瞬で人間としての誇りを失い、甘い声を上げる。

 女帝に権力闘争で敗れた彼女はその憎き政敵によってここで雌犬として飼われているのだ。そして、その首には今彼女を犯している犬たちと同じ首輪が掛けられている。それは犬たちの妻である証の婚約首輪だった。 

「だって…人間としたかったんだもの。もう…もう…犬とは嫌っ!ずっと…ずっと犬に輪姦され続けるなんて嫌なのぉっ!ネェッ、アナタたち私を犯して!セックスして!私は人間なの…い、犬じゃないのよ!ねぇっ、お願いよぉっ!?セックスぅっ!私とセックスしてぇ!イヤッ!イヤァァァァァァッ!!」 

 ワオォォォンッ!

 ズビュゥゥゥッ、ビュゥゥゥッ…

「イヤァァァァァァッ…」

 前皇后は遠吠えを上げて射精する犬の精液を泣き叫びながら膣のもっとも深い所で受け止めている。

 彼女の裸身をドロドロと汚す粘液は犬たちが吐き出した大量のスペルマだったのだ。

 その暗闇に包まれた牢獄は本当に世の摂理を違えて犬に孕まされそうな魔の空間だった。

 それは彼女に人外の化物を宿すやもしれぬ一層の恐怖を煽る。

「あ…ああ…あ…」

 少年たちは犬に膣内射精される前皇后の狂乱ぶりに怖気を震いながらその場を後にした。

 一般人にけして知られることのない城内地下再奥の地下牢…

 此処は後宮の陰部、私刑(リンチ)の場だ。

 ビシッ!ビシィッ!

 ヒイィィィィィィィッ!

 嫌な雰囲気が最高潮に達した時… 

「御入り下さい」

 ある牢獄棟の一室を示される。

 少年達全員が入り終わると其処には…

「んん…むぐぅううぅっ…」

 …石壇に全裸の女性が縛り付けられていた。

 両手首を一点で固定するように皮の拘束具が嵌められ、頭上の金具で固定されている。

 口には猿轡が噛まされ、苦し気な呻き声が漏れる。

 頭から目元まですっぽり黒い布で覆われている為、顔は判別できないが、体格の良い女性だ。

 大柄で筋肉質な肉体。だが、女らしさは失っていない。

 柔らかそうな乳房はその重みに耐えかねて項垂れる…大きな乳房だ。

 出る所は出て、締まる所は締まっている。

 肌の瑞々しさから大分年齢も若いようだ。

 均整の取れた肉体は汗ばみ、淫らな彩りを添えていた。

 そして、周囲には彼女を今まで性的に責め立てていたのか、胸乳も露わなボンテージに身を包んだ十代前半と思しき女官達が立っている。

 股間は丸出しで陰毛の翳りや性器を隠しもしない。

 それどころかまるで粗相をした様に垂れ放題の愛液を拭くこともせず、立ったまま手淫をして腰を振る者まで居る有様だ。

 その淫らな光景に童貞少年達は一様に生唾を飲み込む。

「今日、貴方達に御集まり頂いたのは、この“奴隷女”に種付けして頂く為です」

「ええっ?×6」

「孕ませるまで犯して頂きます」

 女官長は冷ややかに少年達に言い放った。

 そしてその中の一人、レッドフォックス家の巨根少年を手招きすると…

「皇帝陛下から貴方様が最初に種付けするよう託っております。どうぞ…お楽しみ下さい」

「あ、あの…」

「この婢女の膣内で射精しない限り此処から御帰しする事は出来ません。さあ、存分に!」

 戸惑いを見せる少年に女官長は一層強い口調で言い放つ。

 チャキッ!

「………」

 すると、女官長の声に呼応するように牢の出口に立つ大きな乳房も陰毛の生い茂る股間も剥き出しの淫らな軍装を着けた二人の大女が鉄扉の前で手にした互いのハルバートを交差させて打ち鳴らす。

 顔の半分は黒錆色の鋼のマスクで覆われ、口元でしか表情を伺うことができない。だが、淫靡な鎧を付けていても鍛錬の見えるその裸身から彼女らは奴隷女を取り巻く女官の少女たちとは明らかに違い、帝国正規軍の女騎士であることを想像させた。

 原隊で彼の上司も女騎士で、その実力は一般の男性騎士と比べても遜色ない。

 普段剣技教練でたっぷりとしごかれているからその強さは骨身に染みている。 

 たとえ今此処に居る騎士見習いの少年たちが一気に打ち掛かっても蹴散らされるだろう。

 無言で少年を睨め付ける筋肉強女たちは共に露わにしたバストサイズ100以上もありそうな大きい乳房を更に強調するように胸を張り、鍛え抜かれた筋肉を盛り上がらせて事が終わらぬ限り一歩も通さぬ構えを見せた。

「わ…分かりました」

 気圧されるように怖ず怖ずと拘束された女性に近付く少年。

 しかし、戸惑いとは裏腹にその小柄な体に似合わぬ巨大なイチモツはこれから行う行為を期待して隆々と聳え立っていた。

 ピンク色の肉茎は真っ赤に染まり、先程剥かれた包皮は既に後退してピッチリと張り切っている。

 肉鞘には野太い血管が縦横に這い、ビクビクと脈動し、間近に迫った童貞を失う瞬間を歓喜しているようだ。

「あ、あの…挿れます」

「!」

 少年の言葉に女は一瞬ぴくっ!と体を強張らせると意を決したように自ら股を大きく開いて股間を晒した。

 その裸身はふるふると微かに震え、彼女が男根挿入に怯えているのが分かる。

 ゴクッ…

 巨根少年は今一度生唾を飲み込む。

 女の股間には本来あるべき翳りが一切無い、全くの無毛だった。

 剃った訳ではない。

 生える気配すら見えないのだ。

 中心を飾るヴァギナは女官達に散々嬲られた為か、それともペニスを挿入される事を感じて濡れたのか、トロトロと愛液を垂らしている。

 蜜を垂らして男を待つ淫らな花弁に少年は見惚れた。

 綺麗な薄桃色で淫水焼けの染み一つ無く、余り経験が無い様に見受けられる。もしくは、全く無い処女のものなのかもしれない。

 興奮した…この素晴らしい肉体で自分は『大人の男』になるのだ。
 
 その甘美な行為を思うと知らぬ内に彼のペニスはビクビクと快楽に慄き、血管を脈動させて天へと立ち上る。

 彼はそのいきり立つ一物を押さえつけるように強く握り込んだ。

 ニュル…

 ジットリと潤ったヴァギナにペニスの先を確認するように擦りつけると、徐々に折り重なった花弁を押し退け、埋没させていった。

 異常な環境、淫靡で退廃的な淀んだ空気が彼の現実感を思考から奪い去る。

 まるで淫らな夢のようだ。

 彼の初めての精通は昔宮殿で見掛けたある美しい女官の裸身(実は女官長だったり…)を想っての夢精だった。

 その夢想がほぼ現実となった今、彼はこの素晴らしい女体で童貞を捨てる機会に恵まれたのだ。

 彼の目は“奴隷女”を注意深く観察する。

 目の前に横たわる女性は騎士だ。

 鉄鎧の形に首筋が薄く焼けている。しかし、どんな事情があってこうして縛られているかなど如何でも良かった。

 ただ繁殖を求める雄の本能から腰を前に突き出し…

 ニュ…チュップ…

「ムグィィィィィィッ!ヒッ、ギィィィッ…」

 …挿入した。

 僅かな抵抗を感じた瞬間に彼は嘆息し、女の初穂を摘んだ事を実感する。

「ああ…」

 女はやはり処女だった。

 そして、彼自身も童貞を喪失した事の感動で震える。  

「動きなさい…」

 暫し動きを止めると背後から急くような女官長の声が浴びせ掛けられた。

 女官長はその甘美な感動に浸る間も与えない。

 冷たい声で腰を動かすように強要する。

「早く動きなさい!」

 躊躇する少年の気弱な動きに焦れたのか、彼女はひどく興奮した様子で少年の背後に歩み寄るとその腰を掴み、激しく揺り動かし始めた。

 グイッ!グイッ!グリグリッ!グイィィィッ!

「うわっ!あっ!あっ!ああっ!だ、駄目、駄目です!やめ…ヒィッ!」

「ウグゥッ!ムギィィィッ!ムギィッ…ギィィィッ!?」

 少年は擦り付けられる女肉の暖かな感覚に、奴隷女は粘膜を抉られる痛みに悲鳴を上げる。

 一度挿出を補助されると少年の腰は止まらない。

 至上の快楽の虜になりそれを、求めて『もっと、もっと…』と腰を突き入れた。

「ハァ、ハァ、ハァ…うっ…く…ハァ、ハァ、ハァ…」

「ムグゥッ、ンギッ、ギィッ…ム…ムギィ、ムギィッ!」

 処女を失った直後、事前に潤され、少年が彼女の体を慮っているにしても彼の瘤付巨根で突き回されて無事である筈が無い。

 蹂躙された処女地を更に肉鞘の表面にある無数の硬い瘤で抉られるとすぐに彼女の股間は処女血の鮮やかな朱で彩られた。

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

 猿轡の内から痛みを訴え続ける奴隷女の耳元で少年は罪悪感から謝罪の言葉を呟き続ける。

「ムグゥ、ムゥ…」

 ペニスを擦り付ける度に凄まじい快楽が頭を白く塗り替える。

 もっと…もっと…

 奴隷女と言われた女の蜜壷は巨根少年のモノが類稀な“名物”であるのと同様に“名器”だった。

 膣壁にはプリプリとした無数の突起が愛液を含み、ペニスに吸い付いて彼を得も謂われぬ快楽の淵に落とし込むのだ。

 初めて味わう女肉の悦び、それが稀有な名器であった事から少年の昂ぶりは止め様の無い物にまでなっていく。

 何時の間にか少年は大柄な女の体に預け、腰を大きく打ち振るっていた。

 ビュクッ!

「うう…ううぅ…うっ…うわぁああああっ!?」

「ヒィッ!ヒィッ!ヒッ…むぅううううううっ!?」

 少年自身も予期出来ないほど早急な射精、腰の奥から搾り取られるような精液…

 奴隷女は膣内射精されると猿轡の奥でくぐもった悲鳴を上げる。そして、たっぷりと膣奥を濃厚な精液で満たされるとブルブルと僅かに震えて脱力した。

「ハッ、ハァッ、ハァッ、ハァーッ、ハー…」

「フーッ、フーッ………」

 奴隷女の豊満な乳房に顔を埋め、暫し荒い息を整えると少年は奴隷女の猿轡を解きに掛かる。

「なりません!」

 直ぐに女官長から制止の声が上がるが、少年はそれを無視した。

 処女を奪い、童貞を捧げた女だ。

 最後に口付けくらいしたい。

 一気に深く口付け、舌を絡め取るが、奴隷女はそれを拒まなかった。

 それどころか自ら舌を絡め、熱っぽく少年の口腔を貪る。

 昂ぶる少年が奴隷女の頭を強く掻き抱く内に彼女の顔を被う黒布が擦れ、その隠された面が露わになった。

「あっ!」

 少年が目の当たりにしたのは予想外の人物。

 僅かに涙で潤んでいるものの、それはいつも彼らを冷たく射竦める冷たい緑柱石の瞳…

 彼女は自分を見る彼の表情に気付くと、かっと目を見開いた。

「陛っ…!?」

「!」

 ガキンッ!
 
 …瞬間、何か細工がしてあったのか、彼女は手首を固定していた金具をいとも容易く破壊した。

 そして、巨根少年の首筋に腕を絡めてグッ!と引き寄せると彼の耳元に口を埋める。

『今見た事を忘れろ!』

 その囁くような声でありながら強い恫喝に少年は震え上がった。

 今、彼が組み敷いている“奴隷女”は彼が尊崇・畏服する女帝…アドリアナだったのだ。そして、彼が自分がした事の業の深さに気付く。

 彼は女帝の“処女”を…奪ってしまったのだ。そればかりか知らぬこととは言え、膣内から溢れるほど大量の子種を植え付けてしまった…

『へ、陛下…』

『忘れれば、命は取らぬ!だが、わらわと“寝た”などと自慢気に巷で言触らしてみろ…目鼻抉り取り、御主の体を細切れにし、エース・クック川の汚水に巣喰う怪魚どもの餌にしてくれるぞ!』

 女帝アドリアナを語る時、切って離せないのが皇国の中央を過る大河『エース・クック』である。

 出生の際は怪魚の大群が上流に上がり一面銀色に満たされたと言うし、風邪を引けば、川が氾濫する。

 皇帝崩御の直前には毒が流された事が原因と思われる大量の魚が浮び、粛清の際にも件の川は罪人の血でドス黒く染まったと言う。

 彼女は自らの畏怖の象徴を口にする事で彼に脅しを掛けたのだ。
 
『ぼ、僕は…』

『む…』

『陛下を…穢してしまいました』

 しかし、彼は自身が切り刻まれる恐怖よりも畏敬する主の処女を奪ったことへの後悔で顔を曇らせる。

 アドリアナはその少年の様子に意外そうな目を向けた。

 誰もが彼女を恐れ、己可愛さで涙ながらに命乞いをするというのにこの少年は自分の身よりも彼女を穢してしまった後悔を口にする。

 そこで女帝アドリアナは他人から生まれて初めて自分の身を心底から案じられたことに気付いた。

『よい…それは、わらわが望んだ事じゃ。気にするな…』

 少年を愛しく感じる。こうして異性と抱き合うのも初めての経験だ。

 アドリアナは幼いと思っていた少年の意外に逞しい背に手を回し抱き締めると片手で彼を宥めるように優しく髪を撫でた。

『お前は何も見て…おらんのだな?』

『み、見ておりません…』

『聡い子じゃ…気に入った』

 アドリアナはそう言うと自ら顔を寄せ、少年の唇を軽く吸った。

 チュッ…

『陛下…』

『もう一度…わらわを楽しむがよい。これでも“女”じゃ…ん…』

 彼女は女官長に目配せして剣を下げさせると、破瓜で未だに痛む腰を蠢かせ、中にある少年を感じ取るように息んで絞り上げた。

『うう……お、お許しください!』

『よいぞ…うっ、わらわを犯せ…犯して孕ませろ…』

 少年はその堪らない膣感触にに呻き声を上げ、再びその女肉へと挑んでいった…

 ………

 ……

 …
 
「ふふ。君、とんでもない量出したなぁ?じゃあ、僕も…」

 実に五度の射精を終え巨根少年がへたり込むと、次に控えていた少年兵が厭らしい笑みを浮かべて破瓜を終え弛緩した女体に圧し掛かる。

「あ……」

 巨根少年には彼を押し留める言葉無く、そのまま立ち尽くすしかない。

「ムグッ、ムグゥッ、ギィッムギィィィィィィィィィィィッ!?」

 猿轡を戻された女帝は再び拘束され、新たな少年の挿入と同時にくぐもった絶叫を上げる。

 “奴隷女”としか聞かされていない少年兵達の暴行は目を覆わんばかりだった。

 処女を失ったばかりの乙女だと言う事を知りながら乱暴な突き込みを繰り返し、己が欲望を処理する為“だけ”に次々と彼女を犯していく。

 誰がより大きな悲鳴を上げさせるかを競うかのように蹂躙していくのだ。

 皆、彼女が誰なのかも知りもせず、知ろうともしない。

「オウッ、オォウッ、オオォゥン!!」

 苦痛を訴える嗚咽が絶え間なく地下牢に響き渡る。

「オイ、早くしろよ!」

「ちょっと待てよ。この奴隷…すげぇ。絞まる…」

「ホント?次、僕っ!次、僕っ!?」

 一人が射精し終えれば、次の者が…巨根少年以外の犯りたがり少年達は見る間に列を作った。

 どれほど惨い目に合わされようとも女官長は止めずに見届け役に回る。 しかし…

「ああ…汚いなぁ。僕、こっちにしよぉ〜」

「お待ちなさい!」

 少年達の中に他人のスペルマを嫌い、アヌスに挿入しようとする者が現れると瞬時に見咎め、制止した。

「孕ませる事が御役目です。貴方にはそれが分かっておられないようですね?」

 そう言うと、先程のボンテージに包まれた年若い女官達を呼び、彼を拘束する。

「え…あ…僕?ああっ、す、すみません。ゆるしてぇっ!うわああああああっ!?」

 縄を打たれた少年は女官が装着した野太いディルドーで逆にアヌスを背後から犯され、女肉の恩恵を受ける事無く、何も無い空に精液を放った。

 陵辱は子種を少年たちが吐き出し尽くしてへたり込む頃まで続けられ、五人の少年達は漸く帰る事を許される。だが、あの女帝の菊座を穢そうとした少年だけは帰還を許されず、地下牢で女官達に嬲られ続け、その後エース・クック川で死体が浮かんでいるのを発見された。

 彼の体には縄で縛られた縄痕や鞭で叩かれたと思しき裂傷が幾状も走り、猥褻な言葉が体中に刺青されており、アヌスは灼熱の拷問棒を突き込まれたかのように無残に焼け爛れ、ペニスは簾のようにズタズタに引き裂かれた上、切断された亀頭部が口腔に捻じ込まれて腐り果てていたという…



(続く)


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