停車する列車が来ても乗客がおらず、静謐な空気が漂う板切れホームのみの駅、稲士別。元々は仮乗降場として開業したが、その当時は道内時刻表にも掲載されず、1987年のJR発足時に正式な駅として認められてようやく一般的に知られるようになった歴史を持つ駅である。
ホームから出て左側の所に昔は、その古めかしさにどこか不気味さを感じる待合室があり、その中には駅ノートもあったそうだが、既に撤去されてしまったようだ。
駅の出入口の道路はとりわけ車が度々通過していく。駅周辺に信号が見当たらないこの道は抜け道となっているようで、稲士別の駅周辺は人や列車よりも車が通り過ぎて行くのが圧倒的に多い。
稲士別は利用者が皆無という現状から、2017年春のダイヤ改正で廃止されることが決まり、訪問という経緯に至った。初訪問は昨年の12月、留萌本線の末端区間の廃止の時期に来たのだが、乗る予定の飛行機がトラブルによって発車が大幅に遅れ、その影響で帯広14:47発の列車に間に合わず、仕方なく1本後の16:13発の列車で稲士別に向かってみた。北海道の12月の16時は既に空が暗くなる時間。撮影は無理でもせめて待合室の中で帯広名物の豚丼でも食べようと思って降りてみたら、待合室がなくなっていることに絶句、やむを得ず真っ暗な寒空の下、ホームで豚丼を食べ、次の釧路行きの列車を延々と待つ羽目になったのが最初の思い出だ。
2回目となる今回おそらく最後の訪問もトラブルで飛行機が遅れて、帯広14:00発の列車に乗れなかったものの14:47発の列車には無事に乗れて明るい時間帯に稲士別に下車することができた。
駅周辺に民家や会社がちょこっとあるが、地元の人が駅に近づく気配が全く感じられなかった。それでも駅入口にはきれいに雪の通路を作ってくれているのは少しばかりの配慮がなされている。
次に乗る列車が来る間、車が何台も通り過ぎ、列車が来る警報機が鳴っても特急のみならず、普通列車も通過されてしまうが、残念ながら駅の廃止を惜しんで写真を撮りにやって来るファンは見当たらなかった。
だが次に乗る列車が来るちょっと前に地元の新聞社の方が廃止される稲士別とその利用者に対する取材にやって来て、内地から来た、ただの旅行者である私も色々と取材に応じた。新聞社の方も、地元の方に対しても取材を行って来たようで、「何でそこに駅があるのか分からない」という回答をもらったという話を聞いた。地元の人は稲士別の駅があっても無くても別に生活に困ることはないということが感じられた。
(2017.1.31)