宮城県と山形県の県境付近に位置する堺田は、防雪林と切通しの間に造られた、秘境ムードを漂わせる駅だ。かつては交換設備があったが、ここで行き違いを行わないようにダイヤを変えたこともあって、今では片面ホームとなり、使われなくなったホームは、時間の経過と共に朽ちている。

 出口の階段を上りきると、すぐに民家がお目見えして下車した時の秘境ムードは一気に消え去る。それだけではなく、駅のすぐそばには分水嶺があって、その周辺はきれいに整備されている。
 
 小さな用水路を流れて分岐した水は東は太平洋、西は日本海へと流れていく、大きな分岐点だ。このような平坦な地でなおかつ駅のすぐそばに分水嶺があるのは非常に珍しいことだと言う。

 分水嶺のある堺田の駅から歩いて5分の国道沿いには俳人、松尾芭蕉が宿泊した家としては唯一現存する旧有路家住宅の「封人の家」がある。家の中は一つ屋根の下に、土間を挟んで座敷と馬屋が同居していて、ちょっと変わっている。また家の中には日差しがあまり入らず、近年の暑い夏でもいろりで暖をとらなければならないほどの涼しさである。

 芭蕉は弟子の曾良と共に尿前(しとまえ)の関を越えて出羽へと旅路を急いだが、日が暮れてしまったために止む無く「封人の家」に泊めてもらったと言われている。芭蕉がその家で泊まったときに人と馬が同じ家の中で暮らしている光景を見て、



蚤虱 馬の尿する 枕もと

という句を詠んでいる。

 「封人の家」の中では、管理人さんと他の旅行者と一緒になってのおしゃべりで、時間が過ぎていった。芭蕉がこの家に泊まったのは様々な説があって、雨宿り程度に家の軒先で数日過ごしたとか、座敷には上がらず土間で過ごしたなどという憶測が飛び交っていると管理人さんが話してくれた。

 列車の時間が来たので再び駅に戻って、改めて分水嶺を眺めてみた。北から流れてきた一本の用水路から、二手に分かれる水路はそれぞれ違う海へと旅立っていく。こんな小さな分かれ道から大きく方向が変わっていくのは、人の運命に似ている気がした。

                                                              (2007.7.28)
堺田のホームと待合室
堺田の駅とその周囲の風景


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芭蕉が寝泊りしたと言われている「封人の家」
堺田の駅前にある分水嶺
Sakaida
堺田