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第36回 根付の鑑定制度について
平成18年9月17日


 今回は根付の鑑定方法について考えてみたいと思います。

 根付のコレクターであれば、こんな時に根付に関する鑑定制度があれば助かる!と思うときがあるのではないでしょうか。骨董屋で良さそうな根付を見つけて、購入すべきかどうか判断に迷うことがあります。また、銘の真贋や作品の時代性、作品の材質に関する議論が多くあります。しかし、その迷いや議論を収束させて、判断を決定打としていわば固定するような方法が、残念ながら根付の世界にはありません。

 鑑定制度は、絵画や古美術、不動産、司法裁判、DNA鑑定などの世界でもあります。刀剣や古式銃の鑑定も有名で、足利将軍に仕えた本阿弥家による刀剣の鑑定や目利きは、皆さんご存じの鑑定の一つだと思います。また、根付の鑑定に類するものとして、例えば、海外の根付図録には、作者や材質、時代性が堂々と明記されているものが多いです。それは海外の根付ディーラーの経験や各種文献、データベースなどに基づいたものであって、何か公式な判断に基づいてなされているものではありません。しかし、図録の読者は、そのディーラーの経験や人格などを総合して、その記述に対して一定の信頼感を置いて、受け入れているのが実情です。

 これらを考えると、鑑定とは、結局のところその方法に関係なく、鑑定を受けた人や読者が最終的に当該判断に対していかなる信頼を置けるか、という点につきます。最終的に信頼感さえ得られれば、行政による鑑定ではなく、財団法人による鑑定、私的研究会(団体)による鑑定、業者による鑑定、私人による鑑定などなんでもありということになります。例えば刀剣の世界でいえば、都道府県の教育委員会(行政)による鑑定だけでなく、日本美術刀剣保存協会(団体)による審査、銀座長州屋(業者)による日本刀の無料鑑定評価、個人による鑑定サービスがあります。

 さて、この鑑定制度とは一体何なのでしょうか。


1.鑑定制度とは

 上に挙げた分野の鑑定の共通項として推測できるのは、鑑定とは「その分野の専門家が客観的な審査基準に基づいて、対象となるものの真偽について判断し、証明すること」だと定義できそうです。

 この証明ですが、真実として100%の証明は不可能です。例えば、科学的手法に基づいて行われるDNA鑑定であっても「犯罪現場に残された犯人のDNAが容疑者のものである確率は99.99%である」というように、完全な証明はできていません。確率論として、その証明のたしからしさを追い込むことができるものの、真実において完全な判断はできません。

 根付の世界でも同じです。例えば、「この作品は松下音満(おとまん・おとみつ)の作品であるか?」と問われた場合、実際に幕末に長崎でその作品の製作現場を確認しているわけでもなく、100%の証明は不可能です。しかし、音満から当時購入してオランダ・ライデンの国立民族博物館に収蔵されているシーボルトコレクションの作品など、音満の他の作品との共通点の確認、技法の比較をすれば、相当程度の良い確率で彼の作品であるか否かを判断することができます。つまり、根付の鑑定に必要なことは、この「確からしさ」「不確からしさ」を客観的に見極める材料をより多く集め、それを基にして専門家が適性に判断を下す仕組み、ということになります。
 
 100%完璧な判断は不可能ですから、少しでも100%に近づくように材料を積み重ねて、他人が納得するレベルで証明をするしかありません。例えば、「この無銘作品は明治時代の外人向けの輸出用だ。」といった話があります。小泉元首相のワンフレーズ発言のように、断定的な豪語はその場では格好良いのかもしれませんが、根拠がなければ、何か外国人に対する他意を含んだものとしか受け止められません。客観的に証明されていない命題なのに、本歌の可能性のある作品群を軽々に贋作と決めつけることほど害のあるものはないと思います。

 また、「江戸時代の象牙材は貴重でほとんど輸入されていなかった」ことは事実ですが、この事実をもって「江戸時代には大振りの象牙根付はあり得ない。」と断定することはできません。象牙自体は、正倉院宝物に象牙製の撥鏤(ばちる)が収蔵されているとおり、昔から象牙材の交易は確かにあり、江戸時代でも日本は消費国でした。根付師達は入手の機会が確実にあったのに、「10cm以上の大ぶり根付はあり得ない」となどと断定できないでしょう。わずか2倍の差なのに、長さ5cmの象牙根付がOKで、10cm以上になるとバツとするには説得力に欠けます。

 さらに話はそれますが、象牙及び木刻と問わず、装身具として大ぶりの根付はあり得るかどうかの判断ですが、どうでしょうか。大振りの根付を腰にぶらさげるのは格好が悪い(ので存在しない)と考える場合、それは主観的な好みの問題なので別のお話として置いておくとして、江戸時代の作品の中に大振りのものは確かに残されています。例えば、東京国立博物館の郷コレクションで言えば、10cmを超える吉村周山の蝦蟇仙人根付、9cmの為隆の龍仙人根付、10cmの其水の幽霊根付、直径8cmの楽民の十六羅漢図の象牙饅頭根付があります。また、外人好みと言われる長身の人物根付(オランダ人根付)には10cm以上のビッグサイズがありますが、冷静に考えれば差し根付の部類も同様に長身なのですから、オランダ人根付は一律に否定されるものではないと思います。提げもの全体を見渡しても、トンコツの部類は異常にサイズが大きいです。容器として一日では消費しきれないほどの刻みタバコが入ります。オランダ人が失格でトンコツがOKな理由は何でしょう。

 鑑定制度とは、以上のような種々の根付に関する論争や疑問点があり、それらの真偽について判断し、証明する仕組みのひとつだと言うことができます。

 外国人はこのような議論に対しては、論証による決着が得意ですから、一度立証された事柄には手を付けず、次の新たな疑問点に取り組みます。発展的です。日本人は、権威ある行政や機関が決着をつけなければ、何十年も同じ議論を無駄に繰り返しています。また、外国人がすごいところは、論証のための「参考資料」をボランティアベースで強力に整えるところです。ラザニックの写真集(図版約1万点)、マイナーツハーゲンのカード記録(約5千件)、Fuldの根付作品データベース(約6万件)、根付ジャーナル、ノーマン・サンドフィールドの根付文献目録集(4500件)。日本人のこのような貢献は一体どうでしょうか。

 もし、根付の鑑定を行うとした場合は、それはこのような参考資料を基に客観的、科学的、体系的でなければならないと思います。そして、その手法を明文化して、組織化して行うことが「鑑定制度」です。


2.刀剣・古式銃の鑑定方法

 まず始めに、鑑定制度を考える際に無視することができないのが刀剣や古式銃の鑑定です。ここでは、銃砲刀剣類所持等取締法(昭和三十三年三月十日法律第六号)の制度の仕組みを簡単に解説したいと思います。

 この制度は、銃砲、刀剣類等の所持、使用等に関する危害予防上必要な規制について定めたもので、通常、例外を除いては、銃砲又は刀剣類を所持してはならないこととなっていて(第3条)、所持しようとする銃砲又は刀剣類ごとに、その所持について、住所地を管轄する都道府県公安委員会の許可を受けなければならないこととなっています(第4条)。その例外のひとつが、都道府県の教育委員会が「登録」(第14条)した刀剣や古式銃砲です。登録によって交付された登録証(第15条)が付けられている場合は、例外的に所持が認められています。

 この登録の際に出てくるのが「鑑定制度」です。都道府県の教育委員会は、美術品若しくは骨とう品として価値のある火縄式銃砲等の古式銃砲又は美術品として価値のある刀剣類を鑑定し、登録をする機関となります。面白いのが、刀剣は「美術品として価値のある」ものだけを対象としていますが、古式銃砲は「骨とう品として価値のある」ものも鑑定の対象としています。

 銃砲や刀剣類の所有者は、教育委員会に登録の申請をしますが、実際の登録作業は、登録審査委員の鑑定に基づいてしなければならないこととなっています。また、この登録審査委員の任命や職務、鑑定基準や手続についての細かいことは、国の制度として文部科学省令で定められています。登録審査委員は学識経験のある者のうちから都道府県の教育委員会が任命します。

 この細目を見ると、根付の鑑定に際して参考となるものがあります。

 まず、登録の手続ですが、所有者がまず申請することが前提ですので、登録審査委員が勝手に他人の品物を鑑定することはできません。登録審査委員は「銃砲又は刀剣類に関し学識経験のある者のうちから都道府県の教育委員会が任命する」こととなっています。つまり、ただ単に根付コレクションを沢山所持していたり、長年根付のことを見聞きしているからといって、委員になれるわけではありません。

 また、登録審査委員は、鑑定に際しては、「鑑定基準」に従って「2名以上」で「公正」に行なわなければならないことと定められています。委員の主観的な判断ではなく、客観的に基準に基づいて、合議制で決定されることになります。つまり、作家や時代性について偏った思い込みのある人は不可で、参考資料となる客観的な材料を基にして、合議によって公正な判断を下せる能力のある人物が求められていることが分かります。

 鑑定が無事終了すれば、「登録証」が与えられます。登録証は様式が決まっています。

 鑑定の基準ですが、火縄式銃などの古式銃の鑑定基準と刀剣類(日本刀のみ)の鑑定基準に分かれています。

古式銃砲・刀剣類の鑑定基準
銃砲刀剣類登録規則(昭和三十三年三月十日文化財保護委員会規則第一号)より


鑑定分野

【古式銃】
日本製銃砲はおおむね慶応三年以前に製造されたもの、外国製銃砲はおおむね同年以前に我が国に伝来したものであつて、次のいずれかに該当するものであるか否かについて行うこと。

 火縄式、火打ち石式、管打ち式、紙薬包式又はピン打ち式(かに目式)の銃砲で、形状、象嵌、彫り物等に美しさが認められるもの又は資料として価値のあるもの

 1に掲げるものに準ずる銃砲で骨とう品として価値のあるもの(明治十九年以降実用に供せられている実包を使用できるものを除く。)

【刀剣類】
日本刀であって次のどれかに該当するものであるか否かについて行なうこと。

 姿、鍛え、刃文、彫り物等に美しさが認められ、又は各派の伝統的特色が明らかに示されているもの
 銘文が資料として価値のあるもの
 ゆい緒、伝来が史料的価値のあるもの
 1〜3に準ずる刀剣類で、その外装が工芸品として価値のあるもの



3.根付の鑑定方法

 さて、刀剣や古式銃の鑑定制度を参考にしつつ、根付の鑑定のあり方を考えてみます。

 まず、鑑定する分野です。

 鑑定の対象として期待される分野は、いくつかあります。まずコレクターが最初に知りたいと思うのは、「その根付が本歌であるかどうか」ということだと思われます。よって、鑑定分野の一番目として「根付作家の鑑定」が必要です。この鑑定は有銘の作品が前提となりますが、たとえ無銘の作品であっても作者や地域を推定する鑑定のニーズはあるでしょう。

 次に、質問や疑問が多いのは、根付の「題材」と根付の「材質(素材)」ではないでしょうか。根付の題材は、外国人や国内の根付研究家の努力によって、体系化や深掘りをした研究が進められています。しかし、日本や中国に関する様々な題材辞典の助けを借りても、簡単に解明できないような難解な題材はまだ多いでしょう。現在は、提物屋の吉田ゆか里社長がボランティアのような形で解題に取り組まれていて、世界の第一人者です。作品の題材とその意味を特定するような「鑑定業務」があっても良いと思います。もし、コレクターが個別に強く望むならば、有償での業務もありだと思います。

 また、根付の材質(素材)については、牙彫と木刻のどちらでもニーズはあるでしょう。象牙、セイウチ、ウニコール、鯨歯、猪歯は比較的簡単に見分けることができますが、木刻の種類を特定するのは非常に困難です。種類としては柘植、檜、桜、梅、一位、黒檀、紫檀、たがやさん、桑、黒柿などがありますが、作品として磨かれ、染められてしまった後では材質を特定するのは困難です。牙彫・木刻以外には、陶器、磁器、海松、珊瑚、貝、漆工品、金工といった材質の根付も残されています。材質は、これを鑑定できなければどうしても困る!というような性格ではありませんが、やはりコレクターとしては興味のある分野ではあり、鑑定はあっても良いかと思います。

 次にニーズが高いのは、その作品の「時代性」でしょう。有銘・無銘を問わず、その作品の製作年代は頻繁に議論の対象となります。特に、江戸時代に実用を前提として作られた作品(例えば友忠、岡友、三輪など)と、主に海外輸出用としても製作された明治時代の作品(友親、東谷、谷中派など)との区別は、コレクターによってはこだわる人がいます。

 そして、最後に興味のあるのは、作品として優れているかどうかの総合評価です。作品として“価値が高い”と評価されるもの、例えば、高度な技術、良い構図、綺麗な仕上げ、保存状態、人気の意匠等を総合的に判断して、その作品の価値を鑑定する分野です。


 次に鑑定の方法です。

 これは、刀剣・古式銃と同じように、上記の分野ごとの審査基準を定めることがまず必要でしょう。

 根付の審査委員については、「根付に関し学識経験のある者」のうちからしかるべき手段で任命されることが必要です。残念ながら、刀剣や古式銃砲の研究と比較して、根付に関する学際での研究はほとんどなされていませんので、学識経験者の任命は困難です。よって、例えば、知見を有する根付蒐集家(個別の作家やスクール、時代毎、分野毎に高い知見を有している者)、製作技法に関する専門家(現代根付作家を含む。彫刻や染色等の技法を知る者)、江戸時代の社会・流通経済の専門家、日本及び中国の題材研究家、素材の専門家等を学識経験に準ずる専門家として引き入れる必要があるでしょう。

 同時に、制度の信頼性を維持するためにも、この審査委員の「公正な選任プロセス」は最も困難かつ重要な部分となります。例えば、刀剣の登録審査委員は、都道府県の教育委員会が任命します。その教育委員は、地方公共団体の長(都道府県知事)が議会の同意を得て任命します。つまり、審査委員の任命権者を上にさかのぼっていくと、選挙で選ばれた都道府県知事や都道府県議に行き着くのです。これであれば誰も文句は言えません。
 
 もし、選任に納得できない関係者が大勢いれば深刻な問題となりますし、鑑定業務自体は禁止はされていないのですから、刀剣の鑑定のように他の業者や個人が競争的に鑑定サービスを始めるおそれもあります。根付の場合、一体どのように審査委員を選べばよいのでしょうか。審査に際して公正性、客観性、専門性のある人物を選ぶのは、とても難しことだと思います。

 次に、根付の鑑定に際しては、鑑定基準に従って、2名以上で公正に行なわなければなりません。委員は客観的に基準に基づいて、合議制で決定されることになります。作家や時代性について誤った意見や偏見のある委員は不可です。

 また、当然のことながら、その鑑定品の利害関係者は委員にはなれません。仲良くしている知人の作品であったり、過去に自分の店で取り扱った商品に対して公正な判断ができるとは限りません。鑑定制度に対する公正性・信頼性を維持するためにも、これは大原則かと思われます。

 なお、いわゆる現代根付については、存命の作家が多く総合評価によるランク付けにはなじまないこと、また、素材や時代性についての鑑定は不要(自明)であることから、ひとまず対象外としました。


『根付の鑑定方法(案)』
(平成18年9月策定、試案第1版)

1.鑑定の目的



根付(ねつけ)は、文化的・歴史的に貴重な美術品であり、良好な保存状態で後世に伝え、継承をしていくことが必要であり、このためには、根付の美術的価値、学術的意義、現代作家による創造活動、根付に対する一般の関心喚起等の観点から、鑑賞や展示、図録解説等を通じて優れた根付を適正に紹介することが重要であること。
そのため、根付の作家や時代性、題材、材質等に関して事実に即した説明や表示、展示等が必要であり、当該事実について適正に判断を行う手段としての鑑定制度が望まれていること。


2.鑑定の分野及び基準


鑑定を行う分野は、次の5分野から構成される。
 1.作者(根付師)、2.題材、3.材質(素材)、4.時代性、5.総合評価


鑑定の審査基準の細目は、分野毎に、おおむね下記に構成される審査要素を基に事前に決定されること。


審査委員は、審査基準を補強する資料(リソース)として、文献(『装劍奇賞』等)やデータベース(FULD氏の根付データベース等)、著名な収蔵コレクション目録(東京国立博物館、Baurコレクション等)等を「参考資料」として認定することができる。また、必要に応じて、他分野の専門家の参与を要請することができる。


鑑定分野及び審査基準


作者(根付師)
作品の製作者(製作した工房を含む。)又は製作者の所在した地域等を特定するものであること。
参考資料:根付作品データベース、各種図録、統計的手法、技法研究、銘集、筆跡鑑定、この鑑定結果による基準作品、4の鑑定結果


題材
作品が表現している題材又はその意味を特定するものであること。
参考資料:根付作品データベース、各種図録、江戸時代の流行を研究した文献、中国古典集、他の美術分野の題材研究


材質(素材)
作品に用いられている材質(素材)を特定するものであること。
参考資料:科学的手法、関係文献、当時の貿易資料、木材専門家、1の鑑定結果


時代
作品のおおむねの製作年代を特定するものであること。
参考資料:科学的手法、根付作品データベース、1の鑑定結果、1の作者が判明している他のる作品との比較、技法の比較、経年変化(材質の変色、使用跡、乾燥、埃、ランダムな傷等)


総合評価
おおむね明治時代以前に製作されたものであって、次のいずれか又は複数の要件に該当するものであること。(審査の結果として、特に優れたものに対して「重要」「特別」等の号を付することは否定しない。)

構図、表現、彫刻、仕上げ等において美しさが認められるもの
彫刻や象眼、染色その他の技法において高度なものが認められるもの
各派の伝統的特色が明らかに示されているもの
作品、銘、材質、箱書等が資料として価値のあるもの
由緒、伝来が明らかで史料的価値のあるもの
参考資料:根付作品データベース、各種図録、各種収蔵目録、オークション結果、1・2・4の鑑定結果


3.鑑定の方法



根付の審査委員は、根付に関し学識経験のある者又はこれに準じる専門家等のうちから、適正な手段により選任・任命されるべきこと。

具体的には、知見を有する根付蒐集家(個別の作家やスクール、時代毎、分野毎に高い知見を有している者)、製作技法に関する専門家(現代根付作家を含む。彫刻や染色等の技法を知る者)、江戸時代の社会・流通経済の専門家、日本及び中国の題材研究家、素材の専門家等の学識経験に準ずる専門家を考慮すべきこと。


根付の鑑定に際しては、鑑定基準に従って、2名以上で合議に基づいて公正に行なわれること。


鑑定品の利害関係者は、当該委員にはなれないこと。


鑑定が終了したものについては台帳に記録保存のこと。特に重要な作品については定期的な図録化のこと。



鑑定の申請方法、鑑定費用、鑑定証等の手続や運営に関することは、別途、適正に論じられて決定されるべきこと。また、鑑定制度を運営する責任主体としての人格を有すること。団体が実施する場合は、法人格の取得について検討されるべきこと。


制度の運用においては可能な範囲で情報公開のこと。鑑定基準は、最新の研究成果に基づいて適時、公開の上で改訂のこと。




4.最後に

 今回は根付の鑑定のあり方を考えてみました。この提案はまだ初期版ですから、よりよい方法に改善するためにも自由闊達な議論を期待します。

 最初に、鑑定とは「その分野の専門家が客観的な審査基準に基づいて、対象となるものの真偽について判断し、証明すること」だと述べました。根付に関しては、現状では専門家が圧倒的に不足しており、信頼に足る研究成果の公表の絶対数が足りない状況にあり、また審査基準についてもコレクター、業界、外国人、コレクションを収蔵する機関等の間で何らコンセンサスが確立されていません。さらに、致命的なのが、標本となる良質な根付作品の多くが海外にあり、日本においては基準作品が不足していることです。日本に多くが残されている刀剣とは置かれている環境は異なります。ということで、根付の鑑定制度をただちに走らせることは非常に困難であると考えます。

 とはいえ、作者を特定する筆跡鑑定、材質(素材)の特定、題材の特定といった分野は日本人が得意とするところでしょうから、近い将来は見込みはあるかもしれません。また、根付の総合評価についても、基本的には日本人好みに製作された作品なのですから、日本人がリーダーシップを発揮して積極的に評価をしていくことも面白いと思います。

 我々が最低限すべきことは、将来、根付についてきちんとした判断を下せるよう、鑑定の基準に関するコンセンサス作りや必要な研究をコツコツと蓄積していくことだと思います。上で述べたように、鑑定に必要な「参考資料」も国内ではまだまだ足りません。根付に関連する研究者を育てていくことや研究成果を記録に残る形で編集・保存・公開することも必要だと思われます。根付に関する団体がいくつかありますが、その重要な役割の一つは、このあたりについて組織的に対応していくことだと思います。



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