最近、マライヒがおかしい。 妙にそわそわしているマライヒを見て、バンコランはそう思っていた。 仕事が終わって家に着き、家のチャイムを鳴らすと、マライヒはものすごい勢いでドアを開けて迎えてくれるのだが、 そこにバンコランの姿を確認するやいなや、 「……ああ、バンコランおかえり」 と、気を落として部屋に戻っていく、その後そわそわして落ち着かない、そういう日がここ数日間続いていたのだ。 (もしかして浮気してるっ?)(いや、マライヒに限ってそんな……) バンコランの中でそういった葛藤があり、気になりつつもしかしマライヒに聞くことはできないでいた。 そんなこんなでバンコランももやもやしていたある日のこと。 いつものように家に帰ったバンコランに対するマライヒの様子は前日までと一転した。 「バン〜、おかえり〜、お食事できてるよ〜、それとも先にシャワー?」 突然の変わりようにバンコランは面くらうが、取りあえずはと答えた。 「……あー、では食事を」 「わかった!じゃ、早く着替えてきてね♪」 ルンルン気分でマライヒはキッチンに戻っていく。いったいどうしたというのだろう…… その後、食事は終わり、先にシャワーを浴びたバンコランは、マライヒが浴びているシャワーの音を 聞きながら考え込んでいた。マライヒの変異の理由を。しかし、考えてもわかるはずもない。 バンコランは困り果てながらふと視線を流す。すると、隠される様においてある見なれない小さな箱が目に入った。 「なんだ、これは?」 箱を手にとったバンコランは箱の表面を見まわした。箱にはAmazonと書いてあった。 (Amazon?……ああ、確かこれは通販だな。マライヒが何か買ったのかな) そう思いながら、更に箱を見まわす。すると箱に貼られていた伝票シールに気付く。そこには品名が書かれていた。 「ふむ、品名、鼻毛……カッター!?」 「キャ―――――ッ!」 品名を読み上げたと同時に悲鳴が上がる。いつのまにかシャワーから出ていたマライヒがバンコランが箱を手に しているのを見ての悲鳴だった。 「キャ―――――キャ―――――ッ!」 悲鳴をあげながら、バンコランから箱を奪い返す。そして後ろ手に持って隠そうとする。 もう既に見つかってしまってる以上無意味だというのに。 「マライヒ、それ……」 「キライにならないで!」 「!?」 「お願い!」 マライヒから出た言葉にバンコランは混乱する。どういうことだろう、どうしてキライになったりするというのか。 しかし、マライヒが発した次の言葉にバンコランは納得をした。 「だって……鼻毛なんて……トイレにすら行かないぼくに鼻毛なんて……鼻毛なんて……ゥワーン!」 『美少年はトイレになど行かんのです』 マライヒは、自分に鼻毛が伸びていること、ましてそれを処理するための鼻毛カッターなんかを注文していることなんて バンコランに絶対知られたくなかったのだ。こっそり注文してこっそり処理をするつもりで。 だから、チャイムがなったら宅配業者かと思い慌てて出て、バンコランがいる時に来たりしないかと そわそわしていたというわけだ。 それで、今までのマライヒの態度の謎が解け、すっかり安心したバンコランはマライヒの頭を宥めるようにそっと撫でる。 「バカだな、マライヒ。そんなことでキライになったりするわけがないだろう?」 「ほんと?」 「当たり前だ」 「バン!嬉しい!ありがとう!愛してる!」 優しく微笑みながらマライヒに語りかけるバンコランにマライヒもほっとしたようだ。満面の笑みを返して、 バンコランに抱きつく。バンコランもマライヒを包み込むように抱き返した。 「わたしもだよ、マライヒ」 しばらくの間、幸せな気分で抱き合っていた二人だったのだが…… 「ところでマライヒ。その、だな、私にもそれ貸してもらえないか?」 「え……?うそ!?……あなた、鼻毛が生えてるの!?」 「え?そりゃ、まぁ……」 その言葉を聞いたマライヒは、信じられないといったように少しずつバンコランから身を離していき、 「イヤーッ!鼻毛が生えてるバンなんてイヤ―――――ッ!」 と、バンコランを突き飛ばし、一人リビングに残してマライヒはベッドルームへと走り去ってしまった。 「……マライヒ、おまえは鼻毛が生えてるわたしは、愛してくれないのか……っ」 一時の幸せの絶頂の中、たったの一言によって一気に不幸のどん底へと落とされたバンコランなのでした。あわれ。 end
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