車でGO! 秋の冗長スペシャル

 毎回こう連続ものを書くたびにぶつかる大きな障害なのだが、なぜ人はすぐにほかの話題を書きたくなるのであろうか。その原因が更新のインターバルが長すぎることに起因するのは否定しきれない事実なのではあるが、本当にそれだけであろうか。いや、なにかあるに違いない。西尾環那はその”なにか”を求めて毎回ストイックなまでに遅筆な執筆姿勢を貫いているのである。なんたる男前。カンナのカンは漢のカン。玄関開けたら二分でご飯。そんな感覚。
 さて。前回の更新までで購入の候補としてあがったのはこの二台。フィットとファンカーゴ。そしてベンチシートが面白そう、という事。ひとまず見積もりを出してみる事にする。なんといっても先立つものは金。なんだかんだ言っても世の中は銭金なのである。なんとも世知辛い。誰か「環ちゃん、使いなよ」などと言いながらどーんと出資してくれないものであろうか。当方は入社三年目の貧乏社員なのですよ。多少は融通しなさいよ。ほんとにモー。
 とりあえずマツダのHPを見てみる。一体いくらするのだろう。えーっと、ファンカーゴ、ファンカーゴ… あった。というかいっぱいある。
 そこで気づく。「そうか。グレードとかタイプとかってあるんだ」
 いやー、まいったね。書いてあることがチンプンカンプン。1300ccと1500ccってどれぐらい違うんだろう?とか2WDと4WDってどっちを選ぶべき?とか。一回でいいからサンルーフってつけてみたいなー。あ、ベンチシートも選べるんだ。車の上にキャリアーとか付けたいな…
 勘と勢いで車種を選択。のちほどこれの見積もり金額を見て「馬鹿な」とうろたえる事のなるのだが、それを先んじて西尾環那は画面の前で動きをとめた。「色?」
 そういえば全然考えてなかった。何色の車がいいかしら。
 このNacktheitのイメージカラーは実はライトグリーンだったりするのだが(知ってた?)、ライトグリーン一色の車というのはきっと安っぽく映るし、あまり格好良く無い。否、かっちょわるい。ではそれ以外で西尾環那の色といえば? 一部の個人的に付き合いのある人はピンとくるかもしれない。オレンジ。実は最近すっかりお気に入りのカラーなのである。
 なぜにオレンジ。実はオレンジはオランダサッカーナショナルチームのイメージカラーなのである。なんと西尾環那はオランダ大好きっ子なのだ。ワールドカップに来なかったことを本気で悔しがったのだった。ダービッツ見たかったよーう。だから、フットサルのユニフォームもオレンジ。ソックスもオレンジ。マックでもオレンジ(R)。このみかん誰んだ? オレンジ。という始末。
 しかし、オレンジの車って派手すぎじゃない?というかあるの?
 再び壁にぶちあたる。オレンジの車。しかもベンチシート。悩む私の前に先述を満たす新しい候補が登場。その名はキューブ BY日産。さすがはゴーン。外人はやることが派手。
 さぁ、ここからは三つ巴。フィットとファンカーゴの二大勢力に新興勢力のキューブが登場。三国志みたいだ。違うか、三車志? あんまり格好良く無い。サンシャシ。一応「車」と「社」がかかってるの。どうでもいいけど。
 さんざん悩んだあげく、翌日の出社後西尾環那は同期のステーキ部長(人名)にこう告げる。「スパシオもよさげなんだけどさー」(台無し)
 現物を見てみないことにはもはや判断はできないだろう。なかなか車種を特定できない事にあせった環那はここでスパッと決断する。この辺の決断力の鋭さは社会人になってから身についたものである。このように年々男前になっていく西尾環那を独身女性の方々どうぞよろしく。
 思い立ったが吉日。昔の人が言うように、早速その日の会社帰りに車屋さんへ。中古車屋さんというのは意外と遅い時間まで開いているようで、日はとっぷりと暮れているにもかかわらず、ライトアップで出迎えてくれた。
「すんませーん。HPで見たファンカーゴを見てみたいんですが」
 二つ返事ではいどうぞ。連れていかれた先には静かにたたずむファンカーゴ。色はブルーとシルバーのツートンカラー。残念ながらシートはノーマルでベンチシートではなかったが、まぁいいか。気にしない。この辺の懐の広いところに安心を感じる、というのが昨今の世間の評判である。このようにまるで安楽椅子のごとく心地よい西尾環那を独身女性の方々どうぞごひいきに。
「確かこれって1300ccでしたよね」
「HPの方が間違ってまして、実は1500なんです」
 あらまー、パワフル。
「カーステレオってカセットだけなんですよね」
「業者のほうが古いデータをのせていたようで。CDついてますよ」
 あらまー、快適。
「じゃあ前の所有者が禁煙っていうのは」
「あ、それは合ってます。ワンオーナーの禁煙車両です」
 あらまー、清潔。
「これって後ろの席、全部しまえちゃうんですよね」
「やってみますか… (ごそごそ) こんなかんじで」
 あらまー広々。
 こうしてテンションが徐々にあがっていく環ちゃん。頭の中を「この車面白いんじゃないの」という感覚が徐々に侵食しだしたまさにその時、「どうぞ運転してみてください」
 運転席に着席。座ってみるとよくわかるのだが、この車は中が広い。コラムATなので足元すっきり、ウォークスルーというのがまず広さを感じる一因。それから天井が高いので圧迫感がない。これも一因。そしてなにより衝撃的だったのがルームミラーからみたバックビュー。「おっひょおー!(※実際には言ってないぞ)」
 先ほど後ろの席を全部しまっちゃったので、普通ならあるはずの後部座席がミラーに入らないのだ。なるほど、これだけの広さなら車中でインド人もカレーを作るだろうし、冬眠前の熊が鮭を取り置きするはずである。(※実際にはやってないぞ)
「うわー、広いですねー」
「ええ、身長170cmぐらいまでの方ならそのまま寝られると思いますよ」
 ビンゴ環ちゃん171cm。うわ、なんかもう来た。この車は俺のためにここにあるに違いない。大岡越前風に言うと「相違無いな」である。
「いや、めっそうもない。わしら知りまへん」
 と答えようにも
「この桜吹雪でもか!」
 と来た日にゃー
「へへー!おみそれしやした!」
 である。途中から遠山の金さんになっているのは、いかに筆者が興奮していたかを物語っている。
 初めてのコラムAT。オートマでハンドルのところから左側ににょきっとレバーのでてるやつ。利点としてはシフトレバーが足元から生えていないので足元が広々楽々。例えば骨折した友人を後部座席に座せ、運転席と助手席の間に折れたほうの足を投げ出して座らせながら広島旅行に出かけることも可能(具体的過ぎ)。
「じゃあちょっと前の通りを運転してみましょう」
 緊張の面持ちで左手をシフトレバーへ。さぁ、三年ぶり?に御唱和ください。「車でGO!!」
 運転手に西尾の環那。助手席に販売員。そしてフロントガラスの前にはせわしなく動く二本のワイパー。ズバリ、間違った。もちろん車はGO!!どころかパーキングのまま。
「慣れないうちはありますよ」というフォローを真っ赤な耳で聞きながら再度発進。「車でGO!!」
 そして時間にして約十分。細い通りをぐるぐる走った環ちゃんの表情は終始半笑いのままでした。

 で、結局このファンカーゴちゃんが現在、我が家のガレージに住みついているのです。



 半年も前から。
 (オチが卑怯)

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