ローマ
ROMA

La citta' eterna 永遠の都 − たとえ使い古された言い回しだとしても、ひとたびこの街に足を踏み入れれば、この言葉が真実であることを実感させられます。テルミニ駅を降り立って、歩き出すやいなや、その空気にほかの街とは違う何かが潜んでいることを感じるのです。
なんとも騒々しい街。車が排気ガスを撒き散らしながら、我が物顔に走り回り、なぜか信号の少ない路を横断するのも命がけ。地下鉄に乗れば、神経を尖らせて、スリに警戒。
それなのに、なんと魅力に溢れる街なのでしょう。二千年以上もの歴史画何層にも積み重なり、今も生き続けているからに違いありません。

2001年6月、私が歩いたローマの町を、古代ローマ遺跡、教会、美術館に分けて、ご報告したいと思いますが、なにぶん訪問してから4年の歳月が立ってしまいました。通貨はリラからユーロに移行したし、情報も古くなり実用には適さないかもしませんが、ある一人旅の覚書として、何かのお役に立てれば、と思います。
(入場時間等、インフォメーションは、2005年3月現在の出来うる限りの最新情報)


古代ローマ遺跡

コロッセオ Colosseo
コンスタンティヌス凱旋門 Arco di Constantino
フォロ・ロマーノ Foro Romano
パラティーノの丘 Monte Palatino

以前(1990年代)に比べると、コロッセオ(に限らず、イタリア中のあちこちの名所旧跡・美術館がそうなっているのですが)に入場するための列が延々と続き、時間の関係から、この旅では、内部見学は断念しました。しかし、外観だけでも、その威容は見るものを圧倒せずにはいられません。コンスタンティヌス凱旋門との調和も素晴らしいものです。

なんといっても、私がこの旅行で楽しみにしていたのは、フォロ・ロマーノが入場無料になったこと。気楽に散策できるようになった一方で、有料だった頃に比べると、観光客が増え、二千年前に思いを馳せるには少々賑やかにはなりましたが…。
とはいえ、ローマの午後の日差しの下、大理石の柱や礎石、そして松の木に目をやると、「古代ローマは滅んだのではない。ただ午睡(シエスタ)をしているだけなのだ」という感傷にひたる瞬間も…。
遺跡群の中でも、皇帝たちの住居のあったパラティーノの丘(考古学博物館入館料含)は有料になっているので、人が少ない分、静かに散策できるというメリットがあります。

9:00〜日没1時間前 フォロ・ロマーノは無料。2005年時点では、コロッセオとパラティーノの丘の入場券は、セットになっているようです。

なお、2001年にはまだ修復中でしたが、現在はネロの黄金宮殿 Domus Aurea が実に数十年ぶりに公開となりました(見学には予約必要)。

アウグストゥス墓廟 Mausoleo di Augusto
スペイン階段から南に伸びる道をテヴェレ川に近づくと、突如、初代皇帝アウグストゥスの墓廟が出現するので、驚かされます。こういうところが、さすがローマです。
この近くには、アウグストゥスとその一族を讃える「平和の祭壇」 Ara Pacis もあり、派手な横断幕があったので、それに沿って歩いたのに、一向に「平和の祭壇」にたどりつけませんでした。どうやら、2001年6月にはまだ修復中だったようです。



パンテオン Pantheon
初代皇帝アウグストゥスの盟友アグリッパが「万神」に捧げるため建立し、その後焼失したのをハドリアヌス帝が再建した神殿が、現在に伝わっているもの。
おそらく、人類が造った建造物の中で、最も美しく最も崇高なものといえるのではないでしょうか。外観もさることながら、一歩一歩内部に足を踏み入れれば、その空間感覚が他のどの建造物にも似ていないことが感じられるはず。はるか高みにある天窓から陽光が差し込むドームを見上げて、いつまでも飽くことはありませんでした。
人間の idea 理念が具体的な空間となって、凝縮した人類史上空前絶後の名建築。

平日8:30〜19:30、日祝 9:00〜17:30 入場無料


カステッロ・サンタンジェロ Castello Sant'Angelo (ハドリアヌス墓廟)
法王庁からの抜け道もあると伝えられ、現在はカトリックの総本山サン・ピエトロ大聖堂と対になっているカステッロ・サンタンジェロ 聖天使城ですが、ここではあえて古代ローマの建造物として扱わせていただきます。
もともとはハドリアヌス帝の墓廟として建造され、内部に入ってみると、古代ローマの面影がよく残っていることがわかります。特に屋上やテラスからローマ市内を一望してから(絶景!)、らせん状の階段を下ったとき、間違いなく、ここは古代ローマだ!感じられました。
もちろん、オペラ・ファンには忘れてならないのは、プッチーニの『トスカ』の終幕の舞台となった、屋上の天使像。
9:00〜19:00 



キリスト教宗教施設

サン・ピエトロ大聖堂 Basilica di San Pietro
言うまでもなく、カトリックの総本山。建物内部に入って、これほどの巨大さに圧倒させられる空間は、やはり比類ないものです。
若きミケランジェロの手による傑作彫刻「ピエタ」は、ガラス・ケースを通しての鑑賞になりますが、少女のような面立ちの聖母の美しさと哀しみの表象には、制作後何百年の時を経ようと、瑞々しい感動を呼び起こされます。
バロック美術の巨匠ベルニーニの手による巨大な天蓋と祭壇も、必見。
旧聞に属しますが、日本人の若い観光客が、この大聖堂内で騒いだせいで、一時団体客の入場規制が施行されていました。たとえ、訪問者がキリスト教徒でないとしても、くれぐれもここが聖なる場所であることを忘れないように。もちろん、どんな宗教のどの宗教施設においても、ですが。

夏季:7:00〜19:00
冬季:7:00〜18:00


サン・ジョヴァンニ・イン・ラテラーノ大聖堂 San Giovanni in Laterano
紀元314年、コンスタンティヌス大帝が建設した、ローマに数ある教会の中でも、もっとも歴史と権威のある大聖堂。その歴史から、私は古代ローマの面影を求めて訪れたのですが、現在はボッロミーニが設計したバロックの聖堂となっています。
大聖堂の脇にある礼拝堂には、十字架に架けられる前のキリストが昇ったと伝えられる「聖なる階段」 Scala Santa があり、私が訪問したときも、多くの信者が祈りを捧げながら、膝で階段を登ってゆく姿が見られました。ここまで信者の方が真剣な様子で祈っている様は、パドヴァの聖アントニオ寺院以外に、私は見たことがありません。くどいようですが、信者の方の邪魔にならないように。写真撮影などは、控えましょう。

7:00〜18:45 


サン・ルイージ・デイ・フランチェージ教会 Castello Sant'Angelo
町を歩いていて、ふらっと初めてこの教会に足を踏み入れ(90年代のいつ頃だったか…)、堂内にカラヴァッジョの名作「マタイのお召し」を見出した時のうれしい驚き。(現在は、教会の入り口に案内板が出ています)
「マタイのお召し」は、確か正面主祭壇向かって左側面にあったと思うのですが、200リラ(ユーロになってからは幾らになったことか…)のコインを機械入れると、数分間照明が当たって、作品を鑑賞できるようになっていました。お堂の中の暗さと画面の暗さがまったく同じで、あたかもその場でキリストがマタイを召命する現場に居合わせているかのような錯覚すら味わいます。テーブルの下の高利貸したちのタイツをはいた脚が闇の中に白く浮き上がってたのが、今でもまぶたにしっかりと焼き付いています。
そして宗教美術は、博物館に引退するよりも、本来置かれるべき場所に置かれ、人々の礼拝を受け続けるのが、理想的なあり方だと確信させられました。

8:30〜12:30、15:30〜19:00
木曜午後・休 



美術館

ヴァティカン美術館
システィーナ礼拝堂 Cappella Sistina
もはや説明不要の、ミケランジェロの手による超人的な壁画「最後の審判」と天井画「天地創造」のある礼拝堂。
ご存知の通り、長年にわたる修復作業で、鮮やかな色彩が甦りましたが、80年代に修復前の状態を鑑賞している私は、もしかして貴重な体験をしたのかも?
「天地創造」をよく見るために、手鏡を持参するのも、よいと思います。また、今ではミケランジェロにすっかり圧倒されていますが、側面の壁にボッティチェリ、シニョレッリ、ペルジーノらの手になるフレスコ画があることも、お忘れなく。
また、この礼拝堂だけに限られることではありませんが、ヴァティカン美術館の宗教的な性質からも、しゃべり声などには充分ご注意下さい。特に入場者の多いシスティーナ礼拝堂内には、係員の"Silenzo!" 「静かに!」の声が度々飛んでいました。

ラファエッロの間  Stanza di Raffaello
火災の間、書名の間、ヘリオドロスの間、コンスタンティヌスの間
から成る、ラファエッロが法皇ユリウスU世、レオ]世のために制作を続けた壁画群です(一部は、ラファエッロの死後、弟子が完成)。
高名は「アテナイの学堂」「聖体の論議」「聖ペテロの解放」など、これぞ「盛期ルネサンス」の美と調和の世界。特に「アテナイの学童」は、、二次元の画面において、理想的な建築空間を見事に再現しています。
システィー礼拝堂と違って、比較的間近に作品を鑑賞できるのが、貴重。

ボルジア家の間 Appartamento Borgia
法皇アレクサンドルY世が、ピントゥリッキオにフレスコ画を描かせた間。華やかな色彩、かつては宝石がはめ込まれていたという壁画・天井画は装飾性の強いもの。
法皇の私生児ルクレツィア・ボルジアの金髪を肩に垂らした愛らしい肖像にも会うことが出来ます。

ピオ・クレメンティーノ美術館 Museo Pio-Clementino
ちょっと不思議ではあるのですが、法王庁のお膝元は古代ギリシャ・ローマの異教美術の宝庫です。2001年の訪問では時間が限られていたものの、大理石の彫像類を充分堪能してきました。
ベルヴェデーレの中庭 Cortile Ottagonale
よりすぐりの異教の美が飾られています。中でもルネサンス期に発見され、ミケランジェロらに大きな影響を与えた後期ヘレニズムの傑作「ラオコーン」が見ものですが、オリジナルと共にコピーもあり、筆者は初訪問時てっきりこちらを本物と勘違いしていました。ラオコーンの手の欠けている方がオリジナル!
絵画館 Pinacoteca
ここが一番最後の見学になってしまい、ほんとうに駆け足の見学になってしまいましたが、2001年時に特に印象に残ったのは、レオナルドの未完の名作「聖ヒエロニムス」とラファエッロの「キリストの変容」でした。前者は、石でわが胸を打たんとする聖人の描写が、まさに極限にまで達していて、これが完成していたらいかばかりになったのかと思わせられました。後者は、ラファエッロの遺作で、ルネサンスの調和の世界から、マニエリスムの世界へと踏み込んだ、ねじまがったの美の迫力に打たれます。

年により開館時間・休館日が変わるそうです。筆者が訪れた2001年6月は、よりによってその年の半ドン日だった土曜日に当たってしまいました。しかも、予約なしなので、延々と入館のための列に並ぶはめに。炎天下に2時間以上、列についていたでしょうか。夏季に行くときは、くれぐれもペットボトル持参で、水分補強を怠らないように。


ボルゲーゼ美術館 Castello Sant'Angelo
ボルゲーゼ公園内にあるこの美術館は、随分と長いこと修復休館していました。(90年代いっぱい閉まっていたような…。その間、私は、彫刻作品のみ1階で無料公開というのと、トラステヴェレの倉庫みたいなところで、絵画作品のみを公開していたのを見ました)
近年、ようやく美術館全館オープンとなりましたが、同時に完全予約制に。私が利用した時の感触では、入場者のコントロールが出来ていて、ゆったりとした気分で鑑賞できました。それほど規模の大きな美術館ではないので、鑑賞制限時間2時間というのも、ちょうどよいと思いました。


さて、ボルゲーゼ美術館には、私が深く深く愛する二枚の油絵が収蔵・展示されています。
ティツィアーノ「聖愛と俗愛」「キューピッドに目隠しするヴィーナス」
前者は、画家の青年時代の瑞々しい理想美の表象であり、後者は円熟・官能の表現に長けた晩年の作品。二点とも、「視覚の快楽」に心ゆくまで浸らせてくれる傑作です。特に、この見学の時には、「聖愛と俗愛」があまりに美しく、見ているのがつらい(別れがつらい?)という不思議なジレンマに囚われてしまいました。
絵画では他に、ティツィアーノの師匠であるジョヴァンニ・ベッリーニの地味ながら愛らしい「聖母子」、カラヴァッジョの名作「聖ヒエロニムス」が印象に残っています。
後回しになってしまいましたが、彫刻の傑作も数多いのも、この美術館です。バロックの巨匠ベルニーニの、躍動感と官能美あふれる「アポロンとダフネ」、の大理石とは思えない艶やかな肌合いを持った、カノーヴァの「パオリーナ・ボナパルト」など。


9:00〜19:00

予約電話:06−328101 www.ticketeria.it
指定時間(やはり早目が無難)に地下のチケット売り場で、予約番号と交換でチケットを購入。その際、荷物は預けさせられる。チケットを手に入れたら、正面扉前で開門を待つ。

それから、これは美術館とは直接関係ない話ですが、広大なボルゲーゼ公園内は、女性の場合は気をつけた方がよいです。以前、筆者は、性質の悪いナンパ野郎に付きまとわれ、午前中だったのですが周りに人がいなくて、こわい思いをしたので…。


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