「イタリア映画祭2005」寸評

Le conseguenze dell'amore

愛の果てへの旅

2004年
監督 ・脚本 : パオロ・ソレンティーノ
撮    影 : ルカ・ビガッツィ
美    術 : リーノ・フィオリート
音    楽 : パスクワーレ・カタラーノ

スイスのホテルに8年間も独りで滞在している初老のイタリア人男性ティッタ・ディ・ジローラモ(トニ・セルヴィッロ)。彼はいったい何者なのか?時折、手がける「仕事」はいったい何か?そして、1ヶ月に一度、まるでビジネスライクに行う麻薬の注射…。
こうして、まったく展開の読めないストーリーとして始まるのだが、最終的には、驚くべき見事な起承転結を迎える。私がここ数年の間に見た映画の新作の中では、イタリア映画に限らず、もっとも巧みに書けている脚本の一本だったと思う。
そして、もうひとつこの映画にあてはまる形容詞は、スタイリッシュ。シャープなカット(特に、地下の駐車場の車のシートを剥ぎ取り、それがマントのように広がるショットが繰り返される)、ロック系の音楽。普通の映画だったら「歯の浮くような」と言ってしまいそうな、キザな台詞もこの作品世界には、自然なものとして響く。

この映画のストーリーを要約するのはとても難しく、ひとつだけ物語のキーとなるエピソードを紹介するに留めよう。
麻薬注射と同じように、ティッタ・ディ・ジローラモには不思議な習慣=仕事がある。何者かにより、ホテルの彼の部屋に札束の詰まったスーツケースが届けられると、彼は前述したように駐車場から車を出し、銀行に行く。そしてなぜか機械ではなく、銀行員の手により、札を数えさせる…。謎めいたこの習慣がやがて解き明かされるのは、物語が後半に入ってからであり、ひとたび物語が動き出すや、一気にラスト・シーンへとなだれ込んでいった。

そして、物語が動き出す前にも、ディ・ジローラモの無機的な言動を一変させるような出会いがあった。ホテルのバールで働く若く美しい娘(オリヴィア・マニャーニ。イタリア映画史上の大女優アンナ・マニャーニの孫娘だという)と、親しくなったことである。
冷たく表情のないディ・ジローラモが内に秘めていた人間性−それは「人間を信頼したいから」と称して、手作業で札を数えさせていたことに、発露していたのだろうか−が甦り始めたとき、あたかも「物語」も甦ったかのようだ。

また、ストーリーに直接関係ないように見えていた、ディ・ジローラモが語る長いこと音信普通の「親友」や、ホテルの隣の部屋に住みついている没落貴族の老夫婦の存在が、最終的には物語世界に組み込まれ、無駄な要素のまったくないパズルのような脚本だった。ストーリーという縦糸とスタイリッシュなカットという横糸から成る一枚の完璧な織物のような作品である。


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2005年8月4日

「イタリア映画祭2005」公式サイト

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