「イタリア映画大回顧」寸評

追い越し野郎

Il sorpasso


1962年
監督 : ディーノ・リージ
脚本 : ルッジェーロ・マッカリ、エットレ・スコラ、ディーノ・リージ
撮影 : アルフィオ・コンティーニ
音楽 : リズ・オルトラーニ



ローマ郊外のアパートに住む学生ロベルト(ジャン=ルイ・トランティニアン)が、夏の盛りの聖母被昇天の日、通り掛かりの中年男ブルーノ(ヴィットリオ・ガスマン)に電話を貸したのが、ことのはじまり。強引なブルーノに誘われ押し切られるまま、ロベルトは、ブルーノのスポーツカーに同乗して、思いがけない旅に出発する…。典型的な巻き込まれ型の災難である。なんとかブルーノを振り切って帰宅する機会をつかもうとするロベルトの内心の声。しかしお調子者のブルーノのペースから逃れられなくなり、ずるずると旅は続いていくことになる。
チヴィタヴェッキアのトラットリーア、ロベルトの叔父の家、ナイトクラブ、そしてブルーノの別れた妻子の家へ。

ガスマンが快(怪)演!その図々しさ、調子のよさは、「植木等」を思わせる。両者ともそれぞれの国の戦後の経済成長の時代を体現しているかのようだ!

小さなエピソードだが、ロベルトが子どもの頃から慕っていた叔父夫妻を訪ねた際、ブルーノがロベルトの耳に「見てみろよ。彼らの息子は、門番にそっくりだ。叔母さんは浮気したんだな」とささやくのは、強烈なシーンである。このときのブルーノはさながらメフィストフェレスで、思わず背筋がぞっとした。

そう、これは‘60イタリア式『ファウスト』ではないか?ロベルトはファウストのように老人ではないが、大学で専攻している法学一筋で、世間知らずのまま老成しているような青年。そんな彼をメフィスト=ブルーノがスポーツカーにさらって、「世界」を見せてやるのだ。ブルーノの手にかかれば、今までロベルトの目に見えなかった叔父さん夫婦の別の面も暴かれてしまう…。

そんなブルーノにも、別れた妻の家へ転がり込めば、年頃の娘リリー(カトリーヌ・スパーク)をはさんでの彼なりの葛藤があるのだが。

そこを出る頃には、最初はブルーノの追い越し運転にはらはらさせられていたロベルトが、いつのまにやらブルーノを煽るようになっていた。その挙句にスポーツカーはガードレールをはずれて崖下に転落。ブルーノは転落前に車から脱出して一命を得たが、ロベルトは車の中に…。呆然と立ち尽くすブルーノ。

ディーノ・リージの乾いた語り口が、素晴らしい。感情移入を廃した徹底したリアリズムによるコメディの傑作である。

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