そのとき歴史は動いたか?
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 2001年11月7日は日本サッカーの歴史において日本サッカーの進むべき進路が明らかになった記念すべき日として記憶されるかもしれない。

 “インターセプトを多用する守備”と“チェックによるボール奪取を多用する守備”、“ゾーンにより1人で複数の相手選手をマークする守備”と“人につく守備”、(“数的不利をいとわない守備”と“数的不利を起こさないように守る守備”と言い換えてもいいかもしれない)が激突し、前者である日本の守備は遜色がなかった。いやむしろ、ディフェンスの戦術は日本の方が遙かに先進的だったのだから。

 これは、革命的なことだろう。2000年の欧州選手権におけるNo.1DFの一人とされるカンナバロの率いるイタリアの守備陣よりも日本代表でもレギュラーとは考えられていない宮本の率いる守備陣の方が明らかに優れていた。

 そもそも、「7人で攻められても3人で守れる」宮本のF3が、世界ランキングで日本より遙かに上位のイタリアに十分通用することが明らかになった。というよりも「7人で攻められても3人で守れる」とはどういうことなのか、森岡や松田の率いるスイーパーシステムを見てわかった人はいたのだろうか?少なくとも、私には理解できなかった。「3人で攻められても5人で守ればそこそこ守れる」ことがわかっただけである。森岡と松田のF3に対する戦術理解の低さとそれを的確に評価できないサッカーライターたちの理解力の貧困がサンドニでのフランス戦の惨敗をまねき、勝利を捨て去ったとしか思えないスペイン戦の人数をかけた5バックに対する高評価につながり、危うく日本サッカーをマンマークの袋小路に迷わしてしまうという取り返しのつかない失敗に導きかけていた。宮本のF3とは自分たちのチームよりも遙かに攻撃力のあるチームに「勝つ」ための戦術である。

 「7人で攻められても3人で守れる」とはどういうことか。こう豪語したトルシエ本人がどのようなイメージを抱いていたのかは、厳密にはわからない。しかし、一般には、オフサイドトラップを多用して、プレーそのものを中断してしまうこと。と解されていたのではなかったか。私も、ごく最近までそのように解していた。

 ところが、森岡、松田のスイーパーシステムによる守備がトルシエの代表に導入されて以来、F3の解釈の混乱が起こる。フォアチェックにより攻撃の芽をつみ取ろうと試み、攻撃を許したときには、PA内のマンマークで対応しようとする守備は、どこからどうみても、「7人で攻められれば7人で守る」守備としか見えず、現実に低いラインをしき、中盤の選手を呼び戻してがちがちに守り、サイドバックとボランチに超人的な運動量を強いる姿は、日本の攻撃力を大幅に削ぐものであったため、フランスワールドカップ終了後整備が急務とされた攻撃力のアップに全くつながらないにもかかわらず、従来、教科書的に理解されていたゾーンディフェンスのイメージにきわめてよく適合し、保守的な解釈を容易にした。

 それに伴って、森岡・松田型の守備を評価する論者も評価しない論者もトルシエが当初F3の特徴として表明した「7人で攻められても3人で守れる」という言辞は、トルシエが捨て去ったものとし、さらに、FW育成担当として釜本氏が指名されるほど急務であったはずの攻撃力のアップという命題とどう適合するのかということは忘れ去ることによって、合理化を図ったのである。

 ところが、イタリア戦での宮本の守備により明らかになったごとく、宮本は「7人で攻められても3人で守れる」とは、1人のDFが複数の相手選手をマークする守備と「文字どおり」に解釈していたのである。(不明を恥じながら告白すれば、2000年の東京戦におけるアマラオとの1対1において既に、このタイプの守備の萌芽が見られ、ガンバの試合を見ていれば、随所に断片が見られた。ガンバの試合は凡百の批評家の付け入る隙のない着想の宝庫である。)

 この試合において、終始高い位置にラインを敷き、背後に広大なスペースを残したイタリアの守備は、DFがフォアチェックする事によりMFとして中盤でプレーすると同時に、逆サイドのMFがDFの位置に下がるという、DFグループとMFグループのポジションチェンジにより、最終ラインを維持しようとした。しかしながら、柳沢の得点時のイタリアの守備に見られるように、ライン修復のルーズさと緩慢さのために、しばしばピンチを招くのみならず、MFが長距離を駆け戻らざるを得ないのだ。

 これに対し、宮本の守備は、恐るべき効率の良さを見せる。特に、後半は、ハーフウェイラインを超えて前進したプレーが見られたように、前半に比べれば、極めて高い位置にラインが設定され、イタリア攻撃陣によるラインの突破がしばしば見られたにもかかわらず、劇的な守備シーンを記憶しておられる向きは少ないのではないか。ピンチにすら見えなかったのではないか。

 しかしこの間にも宮本は、神業のごとき守備を見せている。後半30分のプレーでは、パス出しの選手のドリブル突破可能なコースに踏みとどまり、後方からの飛び出す選手を視界に入れながら、パスの受け手となったイタリア右サイドの選手がゴール前に切れ込むか、センタリングを上げるコースを塞ぐ、1人で3人を見るプレーである。また、後半41分のプレーでは、9番の選手がパスを出そうとしているとき、9番の前面のパスコースを塞ぎながら、イタリア左サイドの20番の選手をオフサイドトラップで牽制している。(このプレーは森岡が下がりすぎたため成功していないが)

 この、一度に1人で2人以上の選手の攻撃に対処する宮本の守備は、タイトにマークしない。人に付かないということをキーワードにしている。では、どこでボールをマイボールにするのか。優先順位は、まず、ボール奪取を計らないこと。飛び込まないこと。できる限りインターセプトでボールを奪う。イタリア戦で宮本がボールを奪っているシーンはほとんどインターセプトである。

オフサイドトラップをしかけなくても、オフサイドラインをちらつかせることで、相手の行動範囲を制限し、ポジション取りでシュートコースとパスコースを消すことにより、相手の選択肢を奪って行き、限定されたコースの中で確実にインターセプトする。その最も効果的なものはシュートブロックとキーパーのキャッチングと言ってもいいかもしれない。マークは、自分の守備空間(ゾーン)の中で相手選手を泳がせておくことでおこなう。ゆえに、複数の選手の同時マークが可能である。そして、事前に想定した捕捉ポイントでボールホルダーではなく、確実にボールそのものを捕捉する。この結果、守備に必要な人数は大幅に減るだろう。さらに、高い位置にラインを設定することにより、中盤をコンパクトに保ち味方MFとFWの運動量を節約する。後半30分以降の幅30mの空間の中でのドッグファイトは退屈だったのだろうか。私は、そこに未来を見た。

 おそらく、日本の攻撃力が強豪国に対して劣り、日本選手の身体的な能力が劣るとするならば、日本のディフェンスの現時点での最終的な到達目標はこのようなものでなければならないのではないか。そして、日本代表に選ばれる選手は、30mのドッグファイトにおいて、イタリアやフランスよりも優位に立てる技術を持った30mのドッグファイターであるべきだろう。(イタリア戦の個別具体的なプレーについては別稿を用意する予定。)

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