すくーるらいふ
ごめん手塚、GATSBY貸して」
「ん」

ロッカーの扉越し、大石・菊丸の向こうにいる不二にむかって正確にボトルが飛んでくる。

「さんきゅ。シート切らしちゃってたんだ」

朝練終了後、時間は後10分も空いていない。テニス部の部室は朝から汗の匂いに噎せ
かえっている。
流れる汗を気にせず、濡れたアンダーシャツをロッカーに投げ入れて、とっとと着替えて去っていく者もいるが、そうはできない者もいる。

「あれ?不二って何使ってたっけ?」

菊丸は隣のロッカー内をひょいと覗いた。綺麗にたたまれたシャツの替え置きの上に、無造作に
ビオレパウダーシートの空箱が転がってる。

「にゃ?これ女の子のヤツじゃないの?」
「ん。姉さんに貰った。結構良かったよ」
「ふ〜ん。どんなんだろ?借りてみればよかった」
「今度また買おうと思ってるから、貸してあげるよ」

白いGATBYのボトルをカシャカシャと振って不二が胸元に白いスプレーを吹き入れる。
アンダーの裾から零れる爽やかな香りのするガスは、この部室にいつも最後に広がる定番の香りだった。
不二は、既に着替え終わっていた手塚の左手に、はい、と渡す。

「ありがとう」
「いや」

手塚はそれをロッカーにいれると、身支度を整えた。部室の外には、鍵を手にした大石が廊下で扉を開けて、待っている。

「本当はずっと窓を開けておきたいくらいなんだよなぁ…やっぱ臭いよなぁ」
「仕方ないよね、汗かかない練習なんてないんだし」

鍵をかけながら、ぼやく大石の肩を菊丸が叩く。

「じゃ、また放課後ねん」
「ああ、また後で」

それぞれに廊下を早足で駆けていく。

「ここで走ると結局また汗かいちゃってさぁ、デオドラントって意味ナシって感じしにゃい?」
「ん〜少なくとも手塚はそうでもないんじゃない?もうひとつ持ってるもの。」
「はい?」
「GATBY。小さいヤツね、鞄に入ってるんだって」

着席した教室で、カシャカシャとミニボトルをふる手塚部長の真面目な顔を想像し、36組の2人は、
ぷぷぷ…と、笑みをこぼした。

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