平成中村座公演
昼の部 夏祭浪速鑑
二幕六場
2002年11月24日
平成中村座(大阪 扇町)
■出演■ 中村 勘九郎 中村 扇雀 坂東 弥十郎 笹野 高史 片岡 亀蔵 中村 橋之助 中村 福助ほか
■はじめに
この日は急遽ビュー友ごま嬢をお誘いしての観劇とあいなりました。
この時の感動、高揚感は言葉では言い表せません。芝居でこれほど感激したことは初めてでした。
まさに、「生きてて良かった!」と言うほどの素晴らしい舞台でした。
何か素晴らしいといって、勘九郎さんを始めとする出演者の情熱が演技や会場の隅々まで溢れていることでしょう。開演前や幕間にまで役者が登場しては雰囲気を盛り上げるなどという歌舞伎公演は初めて体験しました。
そしてこの会場の造り。木造の掘建て小屋にも等しい会場は、トイレは少なく座席も通路も狭いのですが、逆にそのような昔ながらの空間を提供することがサービスになっているのがニクイところ。
客席同士も一体感があるし、客席と舞台の垣根がなく、客の通る通路までも演技をする場所となる、客にとってはワクワクするような芝居空間がそこにありました。
演目は、コクーン歌舞伎で大成功を収めた、串田演出による「夏祭浪速鑑」。
ラストの演出はコクーンとはまた一味違った壮大なものになり、手拍子の鳴り止まない素晴らしい盛り上がりでした。
■開演前
大阪駅で待ち合わせをして、環状線に乗り換え会場へ向かう。
会場となる扇町公園へ着くと前日と同様、はためく幟が出迎えてくれる。
平成中村座公演のために作られた特設会場で、手作りの、まさに「小屋」というのがふさわしい会場です。
↓平成中村座の入り口
公園で石井さんが出ている雑誌などを見てまったり過ごした後、
「そろそろ、、」ということで会場への木戸をくぐる。
すでに、入場した人たちが売店に列を作って、パンフレントやグッズを購入している。
そして私たちもお昼のお弁当を買うために並んでいると……、
若い役者さんがでてきて、それぞれ飴売りや町の衆に扮してのサービスを始めました。
その様子をカメラに収めるために、私はお弁当を買うのをごま嬢にお願いして、
役者さんが出てきた入り口あたりに移動。
シャッターチャンスを狙っていました。
↑突然喧嘩が始まりました(笑)
物売りの声、鳴り物の音、浪速の町の情緒を楽しんでいると、急に会場の入り口あたりが騒がしくなってきた。
「この野郎!」
「やかましい!」
なんと若い衆の喧嘩が始まった!
役者連中が集まってきて、口々に「喧嘩だ、喧嘩だ!」と騒ぎ出す。
《粋な演出やなぁ》
などと感心して観ていると、中から一際恰幅のいい、中年の侠客が出てきた。
「何に、喧嘩だぁ?」
瞬間、目を疑いました。
短い台詞を発したその人こそ、"ナント
勘九郎さんではないの?!"
勘九郎さんは、喧嘩の二人を追って、町の衆に囲まれたままあっという間に小屋の裏手へ流れいく。
《うおおおおおおおお!!!!》
あんまり吃驚したもんだから、シャッターも切れず(泣)、呆然と見送るのみでした。
もう、それにしても何というサービス精神!
役者さんがすごく身近に感じられる。
いきなり役者の心意気を見せられて、遊園地に連れて行ってもらった子供のようにワクワク・ドキドキ。
すっかり勘九郎さんの手にハマってしまいました。
↓お茶子さんにビニール袋をもらって、靴を脱いで中へ入る。
中へ入ると、そこでも役者さんが物売りに扮して会場を歩いている。
そして、座席へ。
すると、開演前の舞台に漫才と見まごう2人組が登場して、軽妙な語り口で前座をつとめ出しました。
「いやぁ、ほんとにね、ようお越しくださいましたねぇ。お母さんはどちらから?──
ああ、そうですか。
遠くからどうもありがとうございます。……お父さん、椅子、硬いでしょ、大丈夫?
この会場は手作りですんでねぇ、あんまり椅子が良くないんですよ。……(笑)」
しかし、まあ、そこまでする?(笑)
このホスピタリティーには脱帽でござりました。
↑開演前のひとときを若手役者の話で楽しむ。
高級なお芝居を観にきたというんではなく、すごく庶民的な雰囲気で、
昔の芝居小屋もこんな雰囲気だったのかと思うようなレトロな感じがたまりません。
緞帳にあたる定式幕は通常の歌舞伎の黒、柿、萌葱と違って、黒、柿、白の縞になっています。
どうやらこの配色は江戸時代中村座の頃からの伝統を受け継いでいるようです。
そして、天井からは大きな「平成中村座」と書かれた提灯が下がっている。
しばらく開演前の雰囲気を楽しんでいると、チョンと拍子木が鳴っていよいよ芝居の始まりです。
■序 幕 (一場)
メモを取ってなかった上にかなり時間が経ってしまっているので悲しいくらいにうろ覚えなのですが……
物語のあらすじは、二人の浪花のヤンキーとその妻たちが、義理を貫こうとするお話。
そして、そのために主人公はやがて義理の父親を手にかけることになっていきます。
堺町
お鯛茶屋で茶屋遊びに興じている若き侍がいる。
名を磯之丞といい遊女琴浦を見請けして放蕩を続けていた。
これが実になよなよっとした優男で、この頼りない男の役を、福助さんが演じています。
お供の佐賀右衛門(亀蔵)は、ワルで磯之丞に放蕩の限りを尽くさせて失脚を狙っている。
そこへやってきた一人の女房。
かつて磯之丞(福助)の屋敷で奉公していたというお梶(扇雀)でした。
お梶(扇雀)は今では侠客団七(勘九郎)の女房となっている。
どうやら主筋である若様を諌めに来たらしい。
ところが、いくら説得しても磯之丞(福助)は聞き入れようとしない。
鼻の下から声を出し、子供のうにダダをこねている。
実はこの人、三の線が大好きなんじゃないだろうか?
と常々思っております。
すっとした綺麗な役者さんなんだけど、真顔でしらーーっと三枚目をやってしまう可笑しさがあります。
さて、お梶はごろつきを頼んでおいて、芝居まで打ち、ようやく磯之丞(福助)の気持ちを変えることに成功したのでした。
■序 幕 (二場)
さて、場面が変わって……、いよいよ主役の登場です。
牢屋に入れられていた団七が、ご赦免になる。月代(さかやき)は伸び放題でむさくるしい身なりをした男こそこの物語の主人公。
彼を助けたのは磯之丞の父親で、団七はそれを厚く感謝し忠誠を誓うのでした。
そんな団七を迎えにきたのは、釣り舟の三婦という気骨のありそうな男。
演じるのは坂東弥十郎さん。
着物一式持ってきたはずが、肝心の白旗(褌の意)を忘れ、「ままよ」と自分の赤フンを取って団七に渡そうとするコミカルな部分が実に大らかでいい。
床屋で月代とひげをそり、着替えを済ませすっかりイイ男になった団七が、
通りかかった琴浦の難儀を救う場面は惚れ惚れします。
そして、さらに一寸徳兵衛(橋之助)と、往来で大立ち回りとなります。
止めに入るお梶。やがて和解、兄弟の契りを交わします。
祭りと喧嘩、理屈抜きに華やかで楽しい場面です。
■幕 間(20分?)
ここで多分「幕間」。
またまた先ほどの漫才役者が登場してトークを繰り広げます。
舞台では、トントントンと金槌の音。
トイレに立つ人、早くもお弁当を広げる人、トークに聞き入る人とそれぞれです。
さて、この幕間でだったか定かじゃないのですが、席を立ったごま様からの情報で、この日も前日に引き続いてキャスターの筑紫
哲也が来ていたらしい。それもトイレの前でごく普通に話をしていたというのです。
そして、そのお相手がなんと野口
五郎だったとか!さらにはあの小沢
征爾のご子息で俳優の小沢 ○○さん(すいません名前忘れてます)もご一緒だった!
客席に有名人がいると浮き立ってしまう野次馬な庶民根性が悲しい(笑)。
でも面白いのは、そんな有名人も普通の庶民もこの特設の中村座ではみんなが同じ狭い会場で肩を寄せ合って芝居を観るという雰囲気があることでしょうか。
トイレも少ないし、みんな同じように不自由を我慢しつつ、その不自由を楽しんでいる感じが何とも新鮮でした。
(次へ)
ふんどし
行くぞの声で出てくる橋と勘九郎