kabuki index live-repo (rice stone) report

平成中村座公演

昼の部 夏祭浪速鑑 二幕六場 

 

─ 其の二 ─

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■序 幕 (三場)



磯之丞(福助)と遊女琴浦は、三婦(さぶ)の家にかくまわれている。
団七の口利きでとある道具屋へ奉公していたが、番頭を始めとする悪い輩にはめられて、五十両の金を盗んだ罪人にされてしまう。
陥れたのは団七には義理の親にあたる、金儲けには悪事も厭わぬ義平次(笹野 高史)だった。
ここらあたりのいきさつは歌舞伎の中では端折られている。

さて、そこへ団七とは兄弟の契りを交わした徳兵衛(橋之助)の女房、お辰(福助 二役)が訪ねてくる。
ここはお辰のための場面と言ってもいい。
花道をか細い女が歩いてくる。黒っぽい着物に日避けの傘をさして歩く様がなんとも美しい。
前回のコクーン歌舞伎では勘九郎の二役だったらしいが、福助さんになると細い分だけより女らしく、またか弱い女の身でありながら後で見せる一途さ、けなげさが際立つような気がする。

名台詞、「こちの人が好くのはここ(顔)やない。ここ(心)でござんす。」
あくまでも女らしく、柔らかに、事も無げに言ってのけたのが印象的でした。

お辰が磯之丞を伴って出発し、家には事浦が残った。
人が出払ってしまった三婦の家に、義平次(笹野 高史)が現れて言葉巧みに琴浦を連れて行ってしまう。

そこへ団七たちが帰ってくる。

私たちの席は花道横だったので、役者が花道から登場する時、花道を照らす照明がこっちにまで差込んでくる。それですぐに「あ、誰か出てくるな」と分かるのでした。
続いて「シャッ」という幕を引く音がして、── 「さあ、誰?誰?」と出てくる役者を覗き込むことになる。
花道から勘九郎さんが入ってくると、途端に客席の雰囲気が変わる。
場が華やぐとでも言うのだろうか。これほど客席をハッピーにしてしまう役者も少ないだろうと思う。

さて、三婦の家にやってきた団七は、舅である義平次(笹野 高史)の悪巧みを知り、琴浦をさらっていった駕籠を追って血相を変えて飛び出していく。ここも見せ場のひとつ。
だんじり囃子のリズムに乗って、花道を一目散に走りこんでいく。



■幕 間(30分?)

一番長い幕間で食事をとる。
みんな客席や通路へ移動して思い思いにお弁当を広げる。
さっきの漫才コンビばりの役者が再び登場して話を繰り広げる。
屋号当てクイズなど行ったあと、義平次役の笹野 高史さんの屋号のお披露目となりました。
「そして── 今回、歌舞伎界以外から唯一参加されている 笹野さんですけれども、今回のために屋号を作ったんですねぇ。出身地の淡路島にちなんで、屋号は『淡路屋』です!」
客席からは笑いと大きな拍手が沸き起こる。
実は、この屋号も勘九郎さんが遊び心でつけたものらしい。

最後は大向こう(掛け声)のかけ方講座(笑)。
客席の人を捕まえてはひいきの役者を聞き出し、その屋号を叫んでもらうというもの。
役者:「じゃあいいですか?大きな声でね(笑)。はい─」
客:「○○屋〜!」
役者:「そうそう、その調子で、幕が開いたら言ってみてくださいね。」
大向こうは歌舞伎ファンの夢でもあります。なかなか簡単には言えません(笑)。

さて、客席にはビニール袋が用意されているのだが、──
「いよいよこれが必要な時がやってきました。」
「中村座名物、泥が飛んできますから、とくに前の方のお客様はこれで避けてくださいね。」

はてさて、何が飛び出すのやら?



■序 幕 (四場)

一番の見せ場がこの幕。
団七が舅である義平次を殺す場面です。

実際には祭りの雑踏の中での惨劇なのですが、平成8年上演された串田演出のコクーン歌舞伎では「殺し」の様式美を強調するため、真っ暗な中蝋燭の炎だけで殺しの場面を演出して話題になったという。
今回もそのコクーンでの演出を踏襲していました。

団七は義平次(笹野 高史)に追いついた。
琴浦を返してくれるように頼む団七に対して、義平次はさんざんに悪態をつく。
笹野さん演じる義平次は業つくじじいそのもの。(笑)
凛と声が通るでもなく、歌舞伎っぽい派手な動きもないのだけど、すごく自然な感じだった。
団七は石ころを小判に見立てて強欲な義平次の気を引いたり、いろいろと手を尽くして頼むが、まったくとりつく島もない。
げたで眉間を割られてしまう団七。
それでもグッと堪えて、ひたすら琴浦を返すように繰り返す。
義平次は脇差を抜いて団七を脅す。親に手をかけたら死罪だということを承知でやりたい放題の義父である。
「お父さん、危ないから、そんなもん仕舞ってくださいよ。」
団七が脇差を取り上げようとして手をかけたその時、──はずみで義平次に一太刀浴びせてしまったのだった。

そしてもみ合いに。
髻(もとどり)が切られてざんばら頭になった団七。諸肌(もろはだ)脱いだその背から腕には鮮やかな刺青が描かれている。
ろうそくの炎に浮かび上がるその姿は美しくもあり凄みがある。
そして何度も見得を切りながら、殺しの様式美をみせていく。

ステージには堀が作られてそこに本物の泥が入れられていた。
団七は義平次をその堀に落とす。這い上がろうとする義平次を押さえつけては刀を振り下ろす。
二人とも身体中泥だらけだ。
前の席には泥はかかったのだろうか。少なくとも舞台の上は泥浸しになっている。
そして、長い悶絶の末に義平次はこと切れた。

傍らには井戸がある。
団七はそこで水を汲み、体についた泥と血を流していく。
これがまた、本物の水だ!
何度も頭から水をかぶる勘九郎。これが11月の終わりだっていうんだから、気迫に圧倒させられる。

そして、次の瞬間、
「おおーーーーーーっ!!」

演劇見てこんなに声を上げたのは初めてだったと思う。

一瞬目を疑った。
舞台が突然、屋外になっちまったではないの!
舞台の背後にあった黒い幕が、瞬時に取り払われると、そこには太陽の光が燦燦と降り注いでいる。
外には友情出演の福島天満宮地社講社中の面々が賑やかにだんじり囃子を演奏し、勘九郎さんも外へ出て祭りの波に揉まれていた。
客席にいながら、屋外の扇町公園の芝生が見えるという不思議。
公園には見物の人たちが遠巻きにして見守っている。しかもこっちは無料だ(笑)。
客席は総立ちとなって祭り囃子に手拍子をしている。
こんな歌舞伎は見たことない!

ひとしきり大騒ぎの後、水でびしょ濡れになったまま勘九郎さんが花道を帰っていった。
彼が歩いたあとは水の足型がくっきりと。
役者の身体を張っての熱演の跡が、興奮の後の心温まる余韻となって残ったようだった。

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激写、、、勘九郎さんが花道に残した足跡(笑)



ふんどし

行くぞの声で出てくる橋と勘九郎