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11代目市川海老蔵襲名披露
七月大歌舞伎
(関西歌舞伎を愛する会)
─ 昼の部 ─
2004年7月10日 大阪松竹座
<演目>
松の羽衣
俊寛
口上
与話情浮名横櫛
今回は、ひとつひとつ順を追ってレポートせずに、思いついたままに書いてみようと思います。
襲名披露公演の醍醐味はやっぱり
「口上」 でしょう。(昼の部
3演目目にあたります)
役者さんがずらりと並んで、挨拶をするだけ、というばそうなんですが、
口上の改まった雰囲気が大好きなのです。
口上の前の幕間(まくあい)では、式幕(緞帳)が襲名披露用の式幕に取り替えられます。
父親の團十郎さんが自ら描いた海老の図柄をあしらったものでした。
デジカメを持ってきていなかったので、携帯のカメラで一生懸命撮りました。
偶然にも左右うまくつながるように撮れました^^
まさに今から頭角を現そうとしている海老さんですね^^
式幕が引かれると、舞台には役者さんがずらりと並んで頭をさげています。
割れんばかりの拍手と掛け声。ここでいつも鳥肌が立ちます^^
襲名する海老蔵さんが舞台の中心。
裃、袴を身に付け、髷(まげ)は鋭い刃のように立たせています。
客席から向かって右手に雀右衛門、仁左衛門、時蔵と並んでいき、一番右側に人間国宝中村雁治郎。
左手には我當、菊之助と続き、一番左には尾上菊五郎。
口上の席は、やっぱりお父さんの團十郎さんがいないことが、穴があいたように寂しかったです。
でも、後見役の中村雀右衛門さんをはじめみんなの盛り立てようという思いがにじみ出たものでした。
まずは、後見役の中村雀右衛門さんが襲名のいたる経緯などを説明。
その中で、"市川海老蔵の名跡を11代目として襲名いたす運びとあいなりましてございます。"
という言い方をしてました(海老蔵さん本人も同じ言い方)。伝統の重みを感じます。
硬いだけの口上でななく、ちょっとした笑いもそこかしこにあります。
雀右衛門さんの口上のあと、その右横にいた仁左衛門さんが
「あれ? 次、僕?」
とでも言うように、頭を下げたまま雀右衛門に合図を送ったので、
早速に会場から笑いが起こりました。
大いに沸いたのは、尾上菊五郎さんの時。
「これからも幾久しく、阪神タイガース同様に
お引き立ての程よろしくお願い申し上げ奉ります。」
という挨拶に会場からは拍手と笑いが巻き起こってました。
菊五郎さんてトラファンなのかしら?
今回の口上の要は、市川家に代々伝わる"にらみ"です。
毎年お正月の公演で、にらんで見せ悪鬼を鎮め災いを払うというご利益あるものです。
今回は海老蔵襲名のご祝儀として特別に披露してくれました。
海老蔵の前に赤い毛氈が敷かれ三方が置かれ用意が整うと、
一歩前へ進み出た海老蔵さん、深深と一礼し、
「形ばかりでお恥ずかしゅうございまするが、ひとつにらんでご覧に入れます。」
裃を取り、黒の着物の片袖を抜くと、その下から目にも鮮やかな真っ赤な襦袢がのぞく。
三方を左手に持ち、バタン、バタン、、とつけ打ちに合わせて右手を大きく回していく。
そして、内側から力を振り絞るように、眼を見開く。その眼力のすごいこと。
目が赤く血走っているようで感動しました。
にらみのポーズのまま、さっと式幕が引かれると、余韻に浸る客席から大きな
拍手が起こりました。
「松の羽衣」 と 「俊寛」
は舞台装置の転換が面白かったです。
「松の羽衣」 は羽衣を松の枝に置き忘れた天女が、拾った漁師に返してくれと頼むという筋書きの舞踊。
最後に羽衣を返してもらい、喜んで天女が松の枝に登っていくと、
松の絵柄がパタンとひっくり返って雲の絵柄に。
たちまち天に昇っていく様をスピーディーに表現するすばらしい仕掛けでした。
天女を踊る時蔵さんは、特に扇子を持った踊りがとてもきれいでした。
手の動きの滑らかなこと、そして扇の先までも神経が行き届いて美しかったです。
「俊寛」
のラストシーンで、辺りが一気に海に変わるセット転換も大変見ごたえがありました。
自分ひとり島に残ることになり、赦免の船を見送る俊寛(仁左衛門)。
花道にいっきに波布が敷かれていく。そこは海へと早変わり。
沖へ遠ざかっていく船を追いかけて、俊寛は思わず海へ(花道へ)飛び込む。
そして、七三に設けられたせりへドボンと落ち込む。
そこで立ち泳ぎをしながら仲間が乗る船を懸命に見送る。
俊寛はしばらく海の中から懸命に見送っていたけれど、
すぐに海から這い出し(せりの穴から出て本舞台へ戻り)、一際小高い岩場へ、
少しでも船がよく見える場所へ上っていこうとする。
すると、俊寛の乗っていた岩場がゆっくりと反転していき、本舞台には波布が広がっていく。
水が舞台に迫っていくような感じです。
そして、舞台は海にそそり立った絶壁の孤島に変わっていきます。
今までは島の上にあったカメラが、ぐーーーと引いて海からの映像になった。
というところでしょうか?
まあ、本当に……よくもこんな演出を考えつくものです。
息を飲むような転換でした。
この「俊寛」は仁左衛門さんの当たり役のひとつで、初めて観ることができました。
仁左衛門の持つ品格がこの役によく合っています。
物語は鬼界ヶ島へ流罪となった俊寛の悲劇で、
赦免の船に乗れるかどうかで二転三転し、さまざま葛藤に苦しんだ後、
最後は若い娘を庇って自ら島に残ることを選択するのです。
「鬼界ヶ島に鬼はなく、(都にこそ鬼が住んでいる)」(
)内は浄瑠璃
島の娘
千鳥に言わせた台詞がこの芝居のポイントのような気がします。
都に戻ることを生きがいにしてきた俊寛でしたが、そこに住む妻は清盛の命で殺されいた。
権謀渦巻く都はもはや俊寛にとって、帰るべき場所とはなり得なくなったのです。
岸から離れていく船に惜別の思いが一気に込み上げて、
必死で仲間の船を見送る俊寛の演技に思わず涙が。
仁左衛門は思いつめたような必死の顔なのですが、幕切れの瞬間に
すーっと穏やかな表情になっていくのが大変印象深かったです。
この表情で見ている方の気持ちが救済され浄化されたように思いました。
(つづく)