TATUYA
ISHII CLASSICAL CONCERT 2003
「羽音」
2003.12.16 (火) 大阪 ザ・シンフォニーホール
- Vol.2-
■NOSTALGIA
■手紙
■アイシュウ
■古都
■MC
「NOSTALGIA」は、この曲特有の泣かせる旋律もバイオリン1本と二胡だけではやや弱い気がしました。
でも、今回のアンサンブル用に新たなアレンジがされていて、それがとても新鮮でした。
続けて、「手紙」。
カーテンには河童の映像。おじいさんと少年のシーンが映し出されます。
アジアンチックな曲調に二胡がよく合います。
チェン・ミンのソロに引き続いて聞き覚えのあるイントロ、──
「アイシュウ」です。
マリちゃんのマリンバが静かに曲をリード。そして、石井さんの歌は語りかけるようでした。
ここでこの大好きな曲を聞けるとは思わなくて、ただただ陶酔するのみでした。
そして、流れるようなハープソロに聞き入る。
それを受けてチェン・ミンの二胡が奏でるのは紛れもなくあの旋律、──
「古都」。
この曲には本当に弱い。こらえきれずに早くも熱いものが込み上げてくる。
再びマリンバが旋律をリードする。
すると、静かに石井さんが立ち上がり台に上ると、歌い始めるではありませんか。
♪いにしえの丘に立ち、遠くを見つけると……♪
曲にぴったりのすばらしい歌詞がつけられていました。
MC。さっきの曲は……と曲が誕生した経緯の説明。
──
あるコンサートでチェン・ミンがこの曲いい曲ですね。ぜひアルバムに入れさせてください。
ということでアルバムに入れていただいたんですが、今回は初めて詩をつけてみました。
……いい曲ですね。
自分で作ってるとわからないんですよ。人から言われてはじめてよさに気づくことってありますね。
だから作るほうと聞くほうでは圧倒的に聞くほうが有利なんだと思いますよ。
自分では分からないんですよね……、どんなに自分がカッコいいかってことが。(爆)ヘヘヘ。
(会場)笑い
「こういうコンサートやってるとホントに緊張して、最初はもう歌うだけで精一杯だったんですけど、
ようやく落ち着いて来て、みんなの表情なんかもこうやって(と上手二階席と目を合わせる。
ごまはんのいるあたりか……?)見れるようになって……、ね?」
同意を求める言い方がかわいらしくて思わず会場から笑いが。
「最近見た映画で、戦場のピアニストという映画があって、これがすごくよかったんですが、
あとNHKで90歳のユダヤ人老婆が、自分の歩んだ人生を紐解く番組がありまして、
一番最後の言葉がとても印象に残りました。」
彼は真面目なことを言うときは子供のようなボソボソ声になるようです。
それが素の感じで、とても新鮮です。
「彼女はアウシュビッツ収容所で生き残ったんですが、最後にそこを訪れるんです。
彼女にとってはとても残酷な場所でしかないんですが、そこで彼女が言った言葉が
『人間たちよ間考えてください』
という言葉だったんですね。
彼女は、そこで自分の人生と向き合うことで解き放たれたと思うんですよ。
絶対にいきたくないく辛い思いをしたその場所へ行ってみて解き放たれた。。
気持ちが原点に戻ったんじゃないのかな。
その老婆が言った言葉
『人間よ考えてください』
という言葉はこのコンサートにピッタリで
ぜひ紹介したかったんです。
つまり考えることがどれだけ大切なことか。たとえば、平和についてだって、
『自分に何ができるんだ。何もできないよ』
って思うじゃないですか。
でも、考えることはできるんですよ。人は考えないと始まんないじゃないですか。
だから、考えることはとっても大事な行動なんだと思いましたね。
さて、次は僕の大好きな映画音楽をこれぞ"究極"だという主題歌を"9曲"集めてみました(笑)。
題して、"究極のシネマティックメドレー"です。では聴いてください。」
石井さんステージからはける。
■究極のシネマティック・メドレー
ニュー・シネマ・パラダイス/パピヨン/シンドラーのリスト/ラストエンペラー/ラスト・オブ・モヒカン/
ディア・ハンター/ロミオとジュリエット/エデンの東/太陽がいっぱい
■MC
究極のシネマティック・メドレーは映画好きの石井さんならではコーナーですが、
映画ファンでなくても聴き応えありでした。
それぞれのパートに見せ場があって、ソロではカーテンに演奏者の名前が映し出される。
メンバー紹介的なコーナーでもありました。
女性中心のアンサンブルということですが、私には"優しさ"というよりは、女性がか細い身体で健気に背筋を伸ばして生きている……、そんな風情を感じさせる音でした。
オーケストラではないので溶け合うというより、個々の楽器がそれぞれしっかりと自分を主張している感じ。
それが"音"としてはいいのか悪いのか……ちょっと判断しかねました。
本当はオーケストラにしたかったのかも知れませんが。
さて、メドレーが終わって登場した石井さん、「みんな(全部)知ってまったでちょーか?」
と、うまく口が回らず会場から笑いが^^
「日本は意外と音楽にお金を投入しないんです。最近はようやく若手の監督が出てきて、
音楽に力を入れるようになってきましたが、日本もミュージシャンとかもっと映画に
進出した方がいいんじゃないかと思いますね。
さて、僕は今横浜でグランド・エンジェルという催しをやってまして……、」
とグランドエンジェルの説明をし、
さらに戦場カメラマン広河隆一さんとの対談でのアフガニスタンの少女の話を披露。
話が進むにつれて会場は水を打ったように静まり返り、
やがてあちこちからすすり泣きが聞こえてきました。
「これはね、あまりにも悲惨な話なんですけども
──
アメリカの劣化ウラン兵器によって白血病になった少女がいたんです。
彼女は病院に収容されているんですけど、唯一の楽しみはオルゴールを聞くことだったんですね。
ある日彼女は、久しぶりに体調が良かったんでしょう。ベットから起き出してベランダへと歩いて行きました。
そこで大好きなオルゴールを開いて耳に当てたんです。
するとその瞬間、少女の頭を一発の銃弾が撃ち抜いたんです。
流れ弾であるはずはありません、明らかにどこかで狙撃兵が狙って撃ったんです。
広河さんは言いました。
『今自衛隊が戦地へ行こうとしてますけど……、
石井さん、兵隊はね戦場へ行ったらもう人が人でなくなってしまうんです。』
後日、日本で写真展を開催したとき、広河さんは少女が持っていたオルゴールを
彼女の写真の傍に置いておきました。
するとある女性が、『それを見てこのオルゴールはどうしたんですか?』と聞くので、
それはこうこうで……、と広川さんが説明すると、女性は目を真っ赤にして出て行ってしまったんですって。
で、後になってその女性から手紙が来たそうです。
『あのオルゴールは私がデザインしものです。私はおもちゃのデザイナーでした。
自分の子供に贈るオルゴールを作りたくてデザインしたものです。
それがこんな悲惨なことの象徴になるなんて……。
今度は是非世界中の子供に喜びをもたらせるような
そんなオルゴールをデザインしようと思います。』と、書かれてあったそうです。
……小さな少女の頭を打ち抜く狙撃兵。どうやったらそんな感覚になれるのか。
今世界はどんどん悪い方向へ行こうとしています。
次の世代を担う子供を簡単に殺してしまう、この状況、そんな状況を作る国と国。
僕らはどんどんその渦に巻き込まれようとしているんです。
……こんな状況……いい訳がないですよ。
……世界中のどこから見ても月の形は同じだし、太陽は平等に降り注ぐんです。
なのに……なぜこんな残酷なことが起こるのか……。
僕らはしっかりと騙されないように、自分の目で耳でしっかり感じて、
自分の頭で考えていかないといけないと思います。
世界中の人々が美しい月を見ることができるように、願いを込めてこの曲を歌いたいと思います。
聴いてください、『MOON RIVER』 」
■MOON RIVER
■THE WIND OF DREAMS
「MOON RIVER」、張り詰めた心をほぐすような歌い方。
歌う石井さんが、"月"並みな表現だけど、まるで天から降りてきたもののように見えました。
最後の熱唱も素晴らしかったです。
そして、アルバムでも最後を飾っていた「THE WIND
OF DREAMS」。
この曲を映画のエンドロールを見ているような気分で聴いていました。
実際、全編が映画のようなそんなコンサートでした。
♪Fly〜♪という時、広げた両手を空へと、何かを解き放つような仕草。
希望の光を感じさせるような、そして薄い衣でそっと包み込むような歌い方。
ただただ石井さんの歌と一緒に漂うのみ……。
(アンコール)
■愛してる
■カーテンコール
感動さめやらぬ雰囲気でしっかりと力強く拍手が続く。
手拍子ではなく、ひたすらの拍手でした。
メンバーとそして石井さん登場。サングラスを取っている。
「実はこの間、ニューヨークのグランドゼロに行ってきました。
その場所を通る人はみんな目を伏せたり、十字を切ったり、痛々しい雰囲気でした。
そんな中で奇跡的に残った教会があるんです。
そこの一人の少年から毎日手紙が届くんだそうです。
そこには「パパ早く帰ってきて」と書いてあるんです。
多分少年の母親は、お父さんが亡くなったことを言えなくて、
『あの教会にお父さんはいるのよ』、って言ってるのでしょう。
アメリカは確かに勝ちました。でもその勝った国にこういう子がいる……、
これで勝ったと言えるんでしょうか?
こんなことして、何にも残んないですよ。
偉そうな大義名分並べて、戦争で人を殺して言い訳がない……。
俺たちは少し贅沢しすぎたのかなぁ。誰かが自分で手に入る以上のものを望めば、
どこからか他人のものを奪わなければなりません。
そうやって人は争い合うんでしょう。……悲しいことですね。
世界が憎しみで満たされたら目も当てられませんよ。
愛で満たされるように、最後にこの曲をプレゼントします。──
『愛してる』 」
これも本当に優しい歌い方でした。
ありったけの気持ちを込めて、ひとりひとりを見ながら語りかけるよう。
想いの深さは客席の私たちにもひしひしと伝わってくる。
ステージから客席へ……、言葉ではないものが通い合ってるようでした。
最後にメンバーが一列になって深々と礼。
会場のあちこちで自然と人々が立ち上がっていく。
素直で心からのスタンディングオベーションという気がしてとっても嬉しかったです。
客席の反応を目にして、石井さん少し嬉しげに微笑み、
「ここにいる皆さんにとって良い年が訪れますように(だったかな)、どうもありがとうございました。」
もう一度深々と礼。
下手へ立ち去りかけて、くるりと振り向き……、ちょっと恥ずかしそうに、「愛してます。」
最後の言葉に、ずーーんとした気持ちが少しほぐれました。(笑)
このコンサートで受けた感動はちょっと言葉では言い表せません。
アーティストというよりも、歌手というよりも、一人の真剣に世界を憂いた人間がそこにいました。
さながら純粋な魂そのものといった感じの石井さんでした。