トライアスロンのレース進行に伴う心理状態の推移に関する研究
(2001年 鹿屋体育大学大学院修士論文)

緒 言

 トライアスロンの3種目を通しての心理状態の推移に関しての研究は、今日までくわしい研究はなされておらず、スイム・バイク・ランにおいてどのような心理的要素がどのように変化していくのか、明らかにされていない。
 川崎(2000)は、スイムにおいて選手が抱く不安について、「実戦面での不安」「タイムの不安」「距離への不安」の3つが主なものであるとしており、中島(1999)は、強い選手は調子が悪いときの見極めがうまいという。村上(1997)は、オープンウォータースイムとプールでのスイムを比較し、オープンウォーターにおいてどのような不安が生じるかを述べている。
 本研究では、世界のトライアスロン大会の85%を占めるショートディスタンスのトライアスロンに主に焦点をあて、レース前日からスタート前、スイム・バイク・ラン、ゴール後、ゴール翌日の心理状態の推移を調査し、結果に考察を加えることにより、トライアスリートの心理状態の推移を明らかにする。

研究方法

 トライアスリートの不安要素を抽出するために、インタビュー形式および質問紙形式でさまざまな質問を試みた(調査1・2)。この結果をもとにできあがった質問紙を、ショートディスタンスのレースを中心に89人に実施し、レースにおける心理状態の推移を、任意の一つのレースについて回答してもらった(調査3)。結果に考察を加えたのち一部の被験者にフィードバックし、レースにおいて有用なものであったかどうかを確認した(調査4)。

結果および考察

 調査1・2より、トライアスロンの心理面での競技力因子として、「積極性」「レース意欲」「目標達成への自信」「精神の安定・集中」「心理的活発性」「身体的活発性」の6つを抽出し、「スイム勝負型」「スイム見切り型」「バイク勝負型」「バイク見切り型」「ラン勝負型」「ラン見切り型」「オールマイティ型」の7つのレースタイプに分けて調査3を行った。
 その結果、環境条件や心理的ストレスに対する対応力と回復力がレースにおける心理面の競技力となっていることが明らかとなった。レースタイプ別においては、3種目すべてにおいて得意不得意のムラのない「オールマイティ型」がもっとも優れており、レースの結果も良好であった。得意不得意のある選手は、不得意種目競技中に大きな心理的落ち込みが見られ、得意種目競技中との間に大きな差が見られた。各レースタイプにおいて落ち込んだ因子が明らかとなり、これからの課題は、「オールマイティ型」に近づけていくための不得意種目においての心理的な対策であると思われた。「オールマイティ型」は、心理面だけでなく総合成績も上位となっている割合が高く、理想のレースタイプといえる。心技体すべての面において、「オールマイティ型」を目指すべきであると思われた。
 調査4において有用性を探った結果、良好な回答が得られた。本研究によって始めて心理状態や思考を意識したことが分かり、研究結果を選手にフィードバックすることは有用であると思われた。

今後の課題

 本研究では、各レースタイプ別の心理面での特徴を明らかにした。今後、この内容を踏まえた具体的な心理面でのトレーニング法の考察が不可欠であり、そこで初めて心理面での競技力向上が図られると思われる。


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