トライアスロンのレース進行に伴う心理状態の推移に関する研究
(2001/11/21、日本スポーツ心理学会第28回大会研究発表、慶應義塾大学)

keyword:トライアスロン,得意種目,不得意種目,オールラウンド型

目 的

 トライアスロンは、スイム・バイク・ランの3種目を、同一選手がこの順序で連続して行う競技である。3種目の複合競技であるため、得意種目・不得意種目が選手個人内に少なからず存在する。また連続して競技を行うことから、種目間の得意・不得意は、それぞれの種目のパフォーマンスに密接に関係し、トライアスロン競技の総合的なパフォーマンスに大きく影響するものと思われる。
 現在トライアスロン界では、3種目すべてにおいて強くなければ、優秀な成績を収めることは困難になってきていることが示唆されている。トライアスロン競技中の心理状態の推移については、これまでのところ明らかにされていない。3種目とも強い選手、総合成績が優れている選手や、さまざまなレーススタイルの選手の心理状態の推移を知ることは、今後のトライアスロンの競技力向上において大切であると思われる。
 本研究では、世界のトライアスロンレースの85%を占めるショートディスタンス。トライアスロンに焦点を当て、トライアスリートの心理的な特性を明らかにする。

方 法

1)被験者
 被験者は19歳から56歳までのトライアスロンを完走した男性53名、女性36名の計89名の選手(平均年齢28.5歳)であり、競技レベルはまちまちである。
2)調査方法
 任意のレース終了後に、独自に作成した質問紙を配布し、1週間以内に回答してもらった。対象レースは6レース設定し、選手1人につき1〜3レースにおいて調査を行った。
3)分析方法
 7段階評定尺度で回答してもらったスイム・バイク・ランそれぞれの主観的な得意度から、被験者を以下の7つのレーススタイルに分類した。
 (1)スイム勝負型(14%)
 (2)スイム見切り型(24%)
 (3)バイク勝負型(9%)
 (4)バイク見切り型(10%)
 (5)ラン勝負型(14%)
 (6)ラン見切り型(12%)
 (7)オールラウンド型(17%)
 質問紙は、(1)積極性、(2)目標達成への自信、(3)レース意欲、(4)精神の安定・集中、(5)心理的活発性、(6)身体的活発性、の6つの要因について、時間経過を基準にした12のレースシーンにおいて、7段階評定尺度での回答および自由記述による回答から成っている。
 分析は、各レーススタイル別に6つの要因について、12のレースシーンにおいて平均値を算出し、分散分析により比較検討することで、各レーススタイルの心理的特徴および望ましいレーススタイルの考察を行った。
 また、どのレーススタイルが実際によい成績を残せているか、レース結果から導き出した。

結 果

 レース結果が全体参加者の上位10%以内であった選手は、全被験者の16%であった。そのうち5%分が「オールラウンド型」であり、「オールラウンド型」がもっともいい結果を残していることが分かった。「オールラウンド型」の被験者の29%が、総合成績上位10%以内であった。また「バイク見切り型」も30%が総合成績上位10%以内であり、以上より、「バイク見切り型」「オールラウンド型」の2つのレーススタイルが、良い成績を残すことができており、レースにおいて有利であることが分かった。
 「オールラウンド型」以外の得意・不得意があるレーススタイルは、心理面での競技力について不得意種目中に大きな低下が見られた。「オールラウンド型」は、ほとんどの要因で3種目とも前半で低下し、後半で回復する推移であった。心理面での競技力が途切れても立ち直せる力を持っており、競技時間が2時間を超すトライアスロンにおいて、心理面での競技力が後半で回復すると言うことは、非常に望ましいと思われる。自由回答より、さまざまな条件に対する対応力や回復力が、心理面での競技力に現れていることが分かった。「バイク見切り型」は、バイクにおいては「精神の安定・集中」の要因以外のすべての要因について低いレベルであり、バイクにおける心理面での競技力は非常に低いものであった。
 また「ラン勝負型」が、ランにおいて各要因でずば抜けた値を示し、大きな心理的アドバンテージを得ていることがわかった。
 以上より、心理面においては、「オールラウンド型」が理想であり、さらにランに自信を持てば非常に望ましい状態になることが明らかとなった。総合成績においても「オールラウンド型」は優れており、実際のパフォーマンス同様、心理面においても「オールラウンド型」がトライアスリートの目指すべき最終型であると思われる。

結 論

・トライアスロンでは、3種目に得意不得意のムラのない「オールラウンド型」が、目指すべき理想のレーススタイルである。
・トライアスロンにおける心理面での競技力とは、環境条件や心理的ストレスに対する対応力と回復力である。

表1 「オールラウンド型」と総合成績との関係
表2 各レーススタイル別の総合成績との関係
図1 「オールラウンド型」の心理面での競技力
図2 バイクにおける「バイク見切り型」の心理面での競技力
図3 ランにおける「ラン勝負型」の心理面での競技力


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